カーテンを閉めた部屋の中は薄暗く、隙間からかすかに漏れる陽の光がベッドに縞模様を作っている。わずかばかりの光がルイズの顔を照らす。美しい寝顔だった。やわらかな声で子守唄を口ずさんでいた才香は口を閉じ目を開く。
生徒たちの弾んだ声が廊下の向こうから聞こえてくる。まぶしい朝日が窓から差し込むのに目を細め、座っていた椅子から身を起こした。そして頭を下げる。
「……おはよう」
「おはようございます、ご主人様」
ルイズが最初に感じたのは、ひどく身体のひしぶしが痛むということだった。目を開けてしばらくすると、自室のベッドで寝ていることがわかる。
身を起こそうとすると痛みが走り、ルイズは胸に巻かれた包帯に手を這わせて軽く咳き込んだ。内臓が焼けるように熱い。吐き気がして指先が震えていた。
「左肩とあばら骨が三本折れて、それが肺に刺さって内臓も痛めていました。目が覚めても十日は安静にするようにと先生からの指示です」
才香の脳裏にはルイズが倒れる瞬間の姿が繰り返し浮かんでは消えていた。手にしたイペタムが繰り出した斬撃に左肩から右腰までを斬られて吹き飛ばされたルイズの姿。
呆気にとられた才香をよそに、シエスタの行動は早かった。意識不明のルイズを慎重かつ迅速に風メイジに医務室まで運ばせると、学院で一番腕の良い水メイジの先生を引っ張ってきて治療にあたらせた。
「く……」
ルイズは唇を噛み締める。高価な水の秘薬と水のメイジを動員してなんとか傷を塞ぎはしたものの痛んだ内臓が元に戻るには時間がかかる。一人では身を起こすこともできないくらい消耗している。
「後で消化のよい物をお持ちします。三日三晩も寝ていらしたのでお腹もお空きでしょう」
「……才香」
「はい」
それからなんとなく沈黙。しばらくして自分たちが見詰め合っていることに気付き、二人はどちらからともなく視線を外した。
「指輪……」
ぽつりとルイズが呟いた。いつも右手の薬指にはめていた指輪が外されている。学院では一度も外したことがなかった。
「世話に支障が出ると思い装飾は全て外させていただきました。クローゼットの引き出しの中に入れてあります」
「はあ……軽い変化の力が込められてある指輪なのよあれ」
ルイズは落ち込んだ。だいたいここにシエスタがいない時点で覚悟はしていた。きっとすでに事情は説明されているのだろう。だというのに才香は今までと変わらずに真っ直ぐにルイズを見ている。攻められているわけではないけれど、ルイズは後ろめたくなってくる。
「やっぱりおどろいたわよね」自嘲気味に笑ったルイズに才香の頭がこくりと揺れる。正体はすっかりばれていることに間違いはない。何度も包帯は取り替えられ、体も清められていたのだから当然だろう。
「シエスタさんにも約束しましたが他言するつもりはありません」
ルイズはほっと胸を撫で下ろした」
「やけにシエスタさんが部屋を別にするように勧めるわけです。まさかご主人様が……」
ルイズはめをぱちくりさせた。なんだか才香が戸惑っているように見えた。
「女装が好きなあまりに心まで女性に染まっていらして……」
「お願いだから詳しく説明させてちょうだい!」
最後まで言わせることなく割り込む。肺が痛んで喉の奥から血の匂いがしたけれどささいなことだった。
ルイズは女性と見間違うほどの容姿だ。髪は長くてさらさら。顔だちも女顔だし、立ち居振る舞いも女性らしい。誰が見ても性別は疑われない。男だろうと女の子にしか見えない。何だか出来すぎていてそこいらにいる女性よりも女の子らしい。
たしかにルイズは女の子にしか見えないが、それはルイズがそうなろうとしてなったわけではない。やわらかく手触りの良い長髪絶対に切ってはいけないと姉二人と母に言われてきたからそれに従ってきた。動作や振る舞いに粗野が無いのもヴァリエール家の者として恥ずかしくないようにと習わされてきた行儀作法のおかげである。言われるままにやってきたせいで、ルイズは七歳になるまで自分のことを女だと思っていた。
「なぜそんなことを?」
「あー……、うん。わたしの家、ヴァリエール公爵家の先祖様って王の庶子なの。つまりはトリステイン王家の血をひいていて、始祖の血を受け継ぐ一族だってこと」
「王位継承権をもっているわけですね」
「そーなのよ。それだけなら……それだけでも大事なんだけどね。さらに言えば崩御された前の王様と王妃様には男の世継ぎは生まれることは無く、現在は一人娘のアンリエッタ様が女王として王の座についている」
「ご主人様の王位継承権順位は……」
「四位」
「男だとばれた場合……」
「高い確率で騒乱の火種になる」
「なるほど」
「うん。そういうわけでわたしが男だと世間に知られれば必ず騒乱の火種になる。だからわたしの家族は生まれてすぐにわたしを女として育てると決断したらしいわ」
家族が心からルイズの身を案じて決めたことだったから。そんな家族に心配かけたくなかったから女として生きてきた。だけど、ある時、ルイズは自分が男であることをはっきりと自覚した。姉の病気の療養地だった村で一人の少女と出会ったから。黒髪をした可愛い少女に恋をしたから……
女として生きていくことは不安だったけど家族が支えてくれた。それ以上に少女がルイズを支えてくれた。変化の力が込められた指輪をこともあろうにエルフの知り合いに作ってもらったと言って持ってきた時にはヴァリエール家の全員を驚愕させたものだった。タルブのメイドになった少女がルイズに仕えると表明した時もヴァリエール家は騒然となったものだ。
「知っているのは家族とシエスタさんだけですか?」
「あとはアンリエッタ様とその側近、学院長に才香だけかしら」
「指輪の効果はいかほどでしょうか?」
「認識を阻害させて体の一部を女性にしか見えないようにさせる。つまり下半身に作用する」
「ああ、それでご主人様の着替えを手伝った時の違和感がわかりました。たまに妙な引っかかりがあり不思議に思っていたのです。形を変えるのではなく、変えているように見せかけるものでしたか」
さらりと言い放った才香にルイズは呆気に取られ、でもすぐに叫んだ。
「男は朝はそうなるから仕方がないのっ!」
まあバレバレでしたけどTSしてたルイズでした。TSしても名前は変えません。
最近スパロボやっているせいか、ゼロ魔のキャラに技能と精神コマンド付けるならどんなのかなーとか考えたりしますw