さてさて、そんなこんなで俺達は、王都の外へとやって来た。
『ガルム隊トップの2人が模擬戦をする』と言う話は瞬く間に王都中に広がり、ギャラリーが押し寄せていた。
王都を囲む壁付近に急ピッチで設置された、玉座っぽい椅子に女王陛下が腰掛け、他のお偉いさん達が近くに立っている。
その周りに王都の住人が立ち、俺とラリーの模擬戦を見ると言う形になった。
ゾーイ達女性メンバーは、俺とラリーが模擬戦やってる間のナンパ防止言う名目で、上空に待機させている。
「では、2人共。所定の位置に」
「「は~い…………って、何処だよ!?」」
ウィーンさんの言葉に、俺とラリーは同時にツッコミを入れる。
「おっと、失礼」
そう言って、ウィーンさんは笑った。見た目に似合わず、人をからかうのが好きなのか?
「では改めて、今回のルールを説明します」
そうして、ウィーンさんが説明を始めた。
先ず、俺とラリーが模擬戦する際には、流れ弾が住人達の方に飛んでいったりしないようにするため、国の魔術師団が結界を張ってくれるらしい。
その範囲を教えてもらったところ、俺の世界で言う、学校のグラウンド程度だった。
それから、相手を殺したり体を欠損させたりしない事や、結界を壊さない事(結界が壊れたら強制終了)に気をつければ、基本的にどんな戦い方をしても良いらしい。
ルール説明を聞いた俺達は、ギャラリーからある程度の距離を取る。
すると、ウィーンさんの説明通りに現れた魔術師団の面々が魔法を使い、俺とラリーの周りに結界を張った。
紫色の巨大な結界が、俺とラリーの周りに被さる。
「それでは両者、そちらの準備が出来次第、始めてくだされ」
ウィーンさんがそう言った。
「…………どうする?」
「どうもこうも…………ねぇ?」
『分かってるだろ?』と言わんばかりの表情で、ラリーがそう返してきた。
「仕方ねぇな…………やるか」
「うん」
そうして、俺とラリーは10メートル程の間隔を空けて向かい合う。
《取り敢えず、最初から本気出すのは止めて、先ずは2割程度から始めようぜ。ウォーミングアップも兼ねて》
《それが良いね。後それから、この結界の強度も知っておきたいし》
僚機念話で、ある程度の打ち合わせをしてから構えを取る。
「「……………」」
『『『『『『『『……………』』』』』』』』
辺りに沈黙が流れる。
未だ模擬戦は始まってないのに、ギャラリー達が固唾を呑んで見守っている。
「「………………ッ!」」
それから何の掛け声も無く、俺とラリーは同時に飛び出した。
「な、何なの………あれは…………!?」
私、ナターシャ・シェーンブルグの目の前では、ミカゲ殿とラリー殿が戦っている。
決して喧嘩とか、ましてや殺し合いとかではない。ただの模擬戦だ。
でも、彼等の模擬戦は、私達の中での"模擬戦"の認識を大きく覆していた。
彼等は、洗練された騎士達でも出来ないような速さで動き回り、拳や蹴りをぶつけ合っている。
時折、ラリー殿が魔法を放つ。それは、無詠唱魔法だった。
ラリー殿の背後に現れた幾つもの魔法陣から、夥しい数の魔力弾が放たれる。
それらがミカゲ殿に直撃して爆発すると、大臣や貴族、はたまた住人達は悲鳴を上げ、両手で顔を覆う者も居た。
私も、その1人だ。
でも次の瞬間には、何事も無かったかのように無傷のミカゲ殿が黒煙の中から現れ、ラリー殿を殴り飛ばす。
此処までで、彼等の雄叫びは殆んど聞こえてこなかった。
「(まさか、あの2人は未だ本気を出していないんじゃ…………?)」
頭の中にそんな事が思い浮かぶが、私は頭を振って、それを真っ向から否定する。
幾ら腕利きの冒険者でも、あんな戦い方をすれば雄叫びの1つや2つは上げる筈。
きっと、彼等の雄叫びは、音に掻き消されて聞こえていないだけなんだと、自分を無理矢理納得させようとする。
でも、次の彼等のやり取りで、私の考えは崩れ去る。
「良し、ラリー!2割から4割までアップだ!」
「オッケー、相棒!」
…………え?
「よ、4割…………?」
「か、彼等は何を言ってるんだ?」
「あれで、本気じゃなかったと言うの…………?」
「それに今、2割って…………つまり、最初は2割の力で戦っていたと言うの…………?」
私の傍で2人の模擬戦を見ている大臣や貴族達から、明らかに動揺した声が漏れる。
そして、4割の力を解放したらしく、2人の動きが一層早くなった。
攻撃も、一つ一つが先程より威力を増している。
彼等の攻撃がぶつかる度に地響きが聞こえ、地面が揺れる。
衝撃波すらも生み出しているのか、砂埃が上がっており、地面も何ヵ所か陥没している。
「………………」
先程、ミカゲ殿に突っ掛かった貴族、ディールも、口をあんぐり開けて驚いている。
「な、何なんだ、彼奴等は…………ただの冒険者では、なかったと言うのか………?」
彼の呟きが、地響きの音の中から小さく聞こえる。
駆け出そうとして力を入れれば足が地面にめり込み、殴り合い蹴り合いをすれば、手足の残像が見える。
ラリー殿が魔法を放てば、まるで複数の魔術師による魔力弾の一斉攻撃のように、夥しい数の魔力弾がミカゲ殿目掛けて飛んでいく。
ミカゲ殿は、それらをスイスイと避け、はたまた腕で弾き飛ばしている。
すると、ミカゲ殿が大きく拳を振りかぶってラリー殿に肉薄する。
それも、走って肉薄するのではない、たった1度、地面を蹴っただけで矢のように飛び出したのだ。
そのままミカゲ殿の拳が当たるかと思いきや、ラリー殿は左手を前に突き出して魔法陣を展開し、ミカゲ殿の動きを止める。
それに続けて、空いている右手に禍々しいオーラを纏わせ、ミカゲ殿に突き出した。
「…………ッ!」
それに気づいたミカゲ殿は瞬時に飛び上がり、ラリー殿の攻撃を避けた。
「やるねぇ、相棒…………じゃあ、コレはどうだい!?」
そう言うと、ラリー殿は両手をパンッ!と合わせる。
そして再び手を離すと、彼の両手の間を青白い稲妻が走っていた。
そして、その稲妻はラリー殿の両手の間で球状になる。
「
すると、轟音と共に稲妻の球が撃ち出され、地面を抉りながらミカゲ殿目掛けて飛んでいく。
「うおっ!?何だその技!?」
ミカゲ殿はそう言いながら、稲妻の球を紙一重で避ける。
目標を見失った球は、そのまま結界に突進していく。
そして衝突し、消えた。
「ふぅ………ラリー、お前また新しい技作ったのか?」
「いやいや、コレは君と会う前から使えた技だよ」
冷や汗を拭いながら問い掛けたミカゲ殿に、ラリー殿は涼しげな表情で答えた。
それにしても、"技を作る"か…………
失礼かもしれないが、ラリー殿のような逸材がただの冒険者とは、勿体無いと思ってしまう。
勿論、それはミカゲ殿にも言える事だが。
「それにしても、あのような強さを持っていたとは…………」
「今思ったのだが、先程の我々の対応は、マズかったのでは…………?」
「ああ。あれ程の実力者なら、陛下がお呼びになるのも当然だ」
「ど、どうすれば良いのだ?先程の一件もあったんだ、コレ以上下手な対応をして彼等の機嫌を損ねれば、同盟を断られかねんぞ」
大臣達が、慌てた様子でそんな会話を交わす。
密偵からの報告書を見てもあまり信用していなかっただけあって、かなり焦っているようですね。
まあ実を言うと、私も同じ気分です。
私が呼んだと言うのにも関わらず、ミカゲ殿達を見た時の大臣達の反応は、あまり良いものではありませんでした。
それに、ディールも矢鱈とミカゲ殿に突っ掛かっていましたし…………あの場面でミカゲ殿達が怒らなかった事は、奇跡なのではないかとすら思えてしまいます。
ですが、少なくとも不快な思いをさせたと言うのには変わりません。
何とかしなくては…………
さてさて、ラリーとの模擬戦を始めてから、もう何れ程経ったのかは分からなくなった。
ただ、本気を出せない模擬戦に退屈さを覚えていた。
今のところ、力は4割からさらに上げて、6割にしている。
お陰で、この結界の中にあるグラウンド程度の広さの土地は、全て荒れ地になってしまった。
ラリーの攻撃魔法で地面が抉られたり、俺とラリーの殴り合い蹴り合いでクレーターが出来たりしたため、其処ら中ボコボコだ。
おまけに魔術師団が張ってくれた結界も、そろそろ壊れようとしている。
「何か、今にも壊れそうだよね。この結界」
不意に、ラリーが上を指差してそう言った。
「そりゃそうだろ。お前が放つ魔法を避けたり弾き飛ばしたりしてたら、流れ弾が当たりまくって結界をボロボロにしちまったんだし」
「まあ、そうなるよね…………ホイ」
そう言って、ラリーは自身程の大きさの魔力弾を瞬時に作り出し、不意打ちとばかりに放ってきた。
「それ、バレバレだよ」
そう言いながら避けると、魔力弾は俺をスルーして結界にぶつかり、遂に結界を壊してしまった。
バリンッ!と、まるで野球ボールが民家の窓ガラスを割った時みたいな音を其処ら中に響かせ、結界が砕け散った。
「「あ~あ、終わっちゃった…………つまんねぇの……」」
『『『『『『『『いやいや!今のはどう考えてもお前等が終わらせたんじゃねぇか!!』』』』』』』
俺とラリーの溜め息混じりの呟きに、ウィーンさん達大臣や貴族、はたまた女王陛下を含めたギャラリー達からの盛大なツッコミが飛んできたのは言うまでもない。
さて、そんなこんなで模擬戦を終えた俺達は、上空で待機させているガルム隊女性メンバーを呼び戻し、城の中へと戻っていた。
だが、今は謁見の間ではなく、客室に居る。
それも、俺と女王陛下の2人きりだ。
どうやら、女王陛下が個人的に、俺と話がしたいらしいのだ。
因みに、俺以外のガルム隊メンバーは別室に居る。
客室に入ると、先に女王陛下がソファーに腰掛け、彼女に勧められる形で、俺も向かい側のソファーに腰掛けた。
「さて……………先ずはミカゲ殿。先程のラリー殿との模擬戦、本当にお見事でした」
「い、いえ。お褒めに預かり、光栄です」
女王陛下から称賛の言葉を掛けられ、俺は面映ゆさを感じながら返事を返した。
「先程の模擬戦で貴殿方の見方は随分と変わっています。大臣達も、貴殿方の実力を認めていましたよ。それに、あの時の態度もマズかったのではないかと慌ててもいました」
「それはそれは…………まあ、慌ててたとかは兎も角、認めていただけたようで、此方としても嬉しいです」
そう言うと、女王陛下はクスッと笑う。
「まあ、貴殿方は本気を出してはいなかったようですけどね」
「あ~、あははは…………バレてました?」
「ええ。模擬戦が終わった後、貴方とラリー殿は大して疲れていないようでしたし、何より、貴殿方のやり取りも聞こえていましたからね。そう、例えば…………力を2割から4割に上げる、とか」
あちゃ~、そんな事まで聞かれてたか…………
「恐らく、貴殿方が最初から本気を出せば、あの結界は彼処まで保てなかったでしょうね……………」
染々とした様子で、女王陛下がそう言った。
「さて、それでは世間話も此処までにして、本題に入りましょう」
「…………同盟の話、でしたよね?」
俺が聞き返すと、女王陛下は頷いた。
「先程も言いましたが、エリージュ王国は他種族撲滅の足掛かりとして、我が国を狙っています。そして、その際には必ず、貴方のお友達の方々が、戦力として投入される筈です。そうなったら、我々に勝ち目は無いでしょう。何せ相手は、異世界より召喚された勇者なのですから」
「………………」
コレばかりは否定出来ないな。
ラリーに軽々ボコられるとは言え、彼奴等も一応チート能力を持っている。
現地人の兵士ぐらいなら普通に潰せるだろう。
………………って、ちょっと待てよ?
「あの、女王陛下。俺が勇者の1人だって事、話しましたっけ?」
そう聞くと、女王陛下は首を横に振った。
「コレも、密偵からの報告書に書いていた事なんです」
「そ、そうッスか…………」
つか、ドンだけ俺等の事調べてんだよ密偵さん?
「それで、話を戻しますが…………恐らく貴方と違って、勇者達はエリージュ王国側の考え方…………つまり、人間主義の思考を叩き込まれているでしょう」
「『恐らく』と言うより、もう既に叩き込まれてますよ」
俺は苦笑混じりにそう言って、リーアの一件について話した。
「…………と言った感じで、男子達には、かなりのアンチ他種族的思考が植え付けられてるようなんですよ」
「成る程、そうですか……………」
そう言って、女王陛下は複雑そうな表情を浮かべた。
「ところで、"男子達"と言う事は、女子の場合は…………?」
「未だ、話は聞いてくれそうですね。それなりに仲は良かったんで」
俺はそう答えた。
「この前、再会した時にクルゼレイ皇国に来ないかと誘ってみたんですけど、邪魔が入りましてね。失敗しました」
そう続けて、俺は頭を軽く掻いた。
「ところで女王陛下、同盟の事なんですけど………」
「はい」
あの時の話を持ち出すと、女王陛下はまた、真面目な表情を浮かべた。
「その同盟の話、一先ず保留にしていただけませんか?」
「"保留"…………ですか?」
そう聞き返してくる女王陛下に、俺は頷く。
「仮にも俺は、ガルム隊のリーダーをやっています。俺を除いた7人のメンバーを背負っている以上、その話を簡単に引き受ける事は出来ません」
「では、同盟は結べないと…………?」
「そうではなく、話が急すぎると言いたいんです。せめて、考える期間をいただきたいのです」
俺はそう言った。
コレだと、ただ問題を先延ばしにしているだけかもしれないが、何も考えずにホイホイ決めるよりかはマシだろう。
「…………………」
女王陛下は、暫くを俺を見てから、小さく頷いた。
「分かりました。では、1週間後に返事をいただく………と言う形でよろしいですか?」
「はい」
俺は頷いた。
設けられた期間は1週間。この間にガルム隊メンバーとしっかり話し合い、答えを出さなきゃな。
「では、俺達はこれで」
そう言って立ち上がろうとした俺だが、女王陛下が不思議そうな表情で俺を見ていた。
「もう、お帰りになるのですか?」
「それは、まあ…………未だルージュへの里帰り期間中でしたので、早めに帰ろうかな、と」
「で、ですが…………」
何やら俺等を引き留めようとしている様子の女王陛下。
はて、何があるのやら…………?
「ひ、姫様!今はなりません!」
「…………ん?」
何やら外が騒がしい。
「ああ………とうとう嗅ぎ付けましたか」
「…………?あの、それはどういう意味で…………?」
そう言いかけた時、客室のドアが勢い良く開け放たれる。
何事かと思って振り向くと、其所には桃色の髪をサイドテールにして、水色のドレスに身を包んだ女の子が居た。
その後ろでは、1人の女性が『遅かった』とばかりに顔に手を当てている。
「………あ~、成る程ね…………はぁ」
その女の子を見た俺は、全てを悟って溜め息をついた。
そんな俺の気持ちを他所に、女の子はパアッと明るい笑みを浮かべて駆け出し、飛び付いてきた。
「ミカゲ様!」
俺に抱きついた女の子は、嬉しそうに俺の名前を呼び、甘えるように頬擦りをする。
だが今の俺には、美少女に頬擦りされてる事も、その美少女が抱きついてきている事によって腹部に感じる柔らかい感触も気にならない。
ただ、考えている事は1つだ。
今日中にルージュに帰るのは、無理そうだな…………