F組勇者と騎士団一行の前に現れた1組の男女、ゲルブとセレーネは、呆然とする一行を見渡した。
その中でも、F組勇者の面々は特に注目されていた。
「(コイツ等が、異世界から召喚された勇者か……………グラディス様が仰有った通り、若いな…………見た感じ、17~18歳ってトコか。まあ、1人だけ大人も混じってるようだが)」
内心そう呟くゲルブに、1人の男が近づいた。
騎士団長のフランクだった。
「何の用だ?我々は王都に帰還する途中なのだから、邪魔をしないでもらいたいのだが…………」
警戒心を含ませた眼差しでゲルブとセレーネを睨みながら、フランクはそう言った。
「あらあら、それは失礼」
2人の間に割り込む形で、セレーネが口を挟む。
突然現れた絶世の美女に、フランクは一瞬頬を赤く染め、たじろいだ。
「でも私達、勇者様方に言いたい事があるのよ。だから、ちょっと通してくれない?」
誘惑するかのようにフランクにすり寄り、彼の胸に指を這わせながら、セレーネはそう言った。
「い、いや。しかし…………」
見ず知らずの者に気安く近づけさせる訳にはいかないため、断ろうとしたフランクだが、突然、その目が光を失う。
「ね?お願い」
ここぞとばかりに、セレーネは上目遣いで言う。
「……………分かった」
感情の籠っていない声で、フランクは返事を返す。
「ありがとう。素直な人は好きよ?」
そう言って、セレーネはフランクにウインクしてからF組勇者達へと歩みを進めた。
「(やれやれ、催眠魔法で操っときながらよく言うぜ)」
そんなセレーネに、ゲルブは、内心呆れ返っていた。
そう。実はセレーネは、フランクの胸に指を這わせた際に催眠魔法を掛けたのだ。
それにより、フランクは今、一時的に自由意思を剥奪され、彼女の思うがままに動かされていると言う訳だ。
「(まあ、1つ目の目的を達成するためには、こうするしかねぇんだけどな…………悪いな、騎士団員さんよ)」
苦笑を浮かべながら、ゲルブはフランクに心の中で謝った。
それからセレーネに続くように歩き出した彼は、鑑定の能力を使って、フランクや他の騎士、そして、F組勇者達のステータスを順に見ていった。
「(成る程。やはり全員、かなりのステータスを持ってるみたいだな。だが……………全員揃いも揃って魅了や催淫への耐性が無いとかどういう事だよ?コレ、もしセレーネが催淫系の魔法使ったら、コイツ等1発で終わっちまうんじゃねぇかな…………)」
勇者と騎士団一行の心配をするゲルブを他所に、F組の面々へと歩みを進めるセレーネ。
胸元が大きく開き、ボディラインがハッキリ分かる服に身を包んだ妖艶な美女が近づいてくると言う状況に、殆んどの男子が、頬が赤く染まるのを止められなかった。
女子生徒の何人かも、彼女の醸し出す雰囲気に当てられて頬を染めている。
そんな彼等の事は意に介さず、セレーネはF組の面々に話し掛けた。
「ねえ、貴方達の代表って誰?」
その問いに困惑するF組の面々だが、其所へF組担任であるシロナが歩み出てきた。
「代表、と言えるような者でもないけど…………私は、この子達の教師をしているわ」
「あら、それならちょうど良いわね」
そう言って、セレーネはシロナに顔を近づけた。
「ねえ、貴方達。この世界について何れだけ知ってる?」
「……………え?」
突拍子も無い質問に、シロナはどう答えれば良いのか分からず、困惑する。
「え、えっと……その…………」
中々答えを出せずにいると、セレーネは再び口を開いた。
「では、質問を変えましょう………………魔人族について、どう思う?」
『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』
その質問に、シロナは体を強張らせ、騎士団のメンバーは剣を構えてセレーネを睨み、F組生徒達も、其々が持つ武器を構えて臨戦態勢を取った。
「あら、皆どうしたの?そんな恐い顔しちゃって………」
そう言って、セレーネは自分に武器を向ける面々を一通り見回した。
「私、何か変な事言った?」
おどけたような態度で聞くセレーネに、聖剣を構えた正義が声を上げた。
「先程からの口振りからすると……………お前達、まさか魔人族ではないだろうな!?」
「あら、もうバレちゃったのね……………そう。私も、其所に居るゲルブも魔人族よ。それも、幹部のね」
「なっ!?」
取り乱すどころか、アッサリと認めた上に自分達の身分すら平然と暴露するセレーネに、一瞬ながら、驚きに目を見開く正義だったが、直ぐに表情をキッと引き締めてセレーネを睨んだ。
「あらあら、そんな恐い顔しないでよ。話は未だ終わってないんだから」
「………………?」
セレーネの言葉に、正義は勿論、他の面子も首を傾げる。
「ねえ、貴方達。特に勇者達だけど……………私達の所に来る気は無い?」
『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』
まさかの勧誘に、一同は目を見開いた。
「それはつまり………ヒューマン族を裏切り、お前達魔族側につけと言うのか!?」
怒鳴る正義に、今度はゲルブが答えた。
「別に俺等は、そんな事を言ってるんじゃない。ただ、お前等に魔人族や他の亜人種がどんな連中なのかを正しく理解してもらいたいだけなのさ………………まあ所謂、社会見学ツアーへのお誘いってヤツだな。一応言っておくが、
「馬鹿にしているのか!?」
「してねぇよ」
友好的に話すゲルブに怒鳴る正義。
それを見たゲルブは、内心で溜め息をついていた。
「(おいおい、勇者ってこんなに沸点低いのかよ?別に挑発した訳でもないのに勝手に怒りやがって………)」
ゲルブは額に右手を当て、内心そう呟いた。
「まあ取り敢えず、俺等が言いたいのはコレだけだ…………どうだ?一緒に来ねぇか?」
「断る!」
正義は即答した。
「お前達魔人族が、この世界の人々に何れだけ酷い事をしたのかは知っているんだ!それで『自分達の事を知ってもらいたい』だと?ふざけるのもいい加減にしろ!!」
そう叫ぶ正義だが、ゲルブやセレーネの心情は、『先に戦争吹っ掛けてきたのはそっちなのに何言っているんだ』と言ったところである。
「(あの馬鹿、何て事してくれてるのよ…………ッ!)」
正義が叫んでいる中、奏は顔をしかめていた。
神影やラリーと再会した日、神影達に魔人族の友人が居ると言う話を覚えていた彼女は、この機会を利用してゲルブ達から情報を得ようと思っていたのだ。
だが、結果はこの通り。宰相の話を真に受けている正義が、勝手に敵対行動を取ってしまっているのだ。
彼女の計画は、始まる前から既に台無しになっていたのだ。
「(正義、こう言う時ぐらい冷静になりなさいよ。コレだと戦闘になるわよ……………ッ!)」
奏が内心そう叫んだ時、事態は次の段階へとシフトした。
「……………つまり、お前等は俺達の所に来るのはおろか、話を聞くつもりも無い……………と言う認識で良いんだな?」
「当たり前だ!俺は…………俺達は勇者だ!お前達魔人族を倒し、呪いを掛けられている国王を救う使命がある!」
「…………ああ、そうかよ」
これ以上会話しても無駄だと悟ったのか、ゲルブは達観したような表情でそう言うと、セレーネに顔を向けた。
それは、次の段階へシフトする合図だった。
「(了解よ、ゲルブ)」
彼とアイコンタクトを交わしたセレーネは、態とらしく溜め息をついてから口を開いた。
「残念ねぇ…………話せば分かる子達だと期待していたのだけど…………どうやら、そうではなかったみたいね」
セレーネも残念そうに言うと、顔を俯ける。
そして、まるで戦闘マシンのように無機質な表情を浮かべると、勇者一行を睨んだ。
「交渉決裂ね」
そう言った途端、セレーネは徐に右手を突き出し、禍々しい色の魔力弾を放った。
「(ホラ言わんこっちゃない!)」
奏が内心毒づきながら飛び退いたのを皮切りに、他の面子も魔力弾を避けようと行動する。
セレーネが放った魔力弾は先頭の馬車へと吸い込まれていき、馬車は馬もろとも消し飛んだ。
「ゲルブ。もう下手に出る必要は無いわよ」
「あいよ」
セレーネにそう言われたゲルブは好戦的な表情を浮かべ、手をボキボキと鳴らした。
「んじゃ、ちょっと俺等に付き合ってもらうぜ、勇者共!」
ゲルブがそう言うと、幾つもの魔法陣が現れ、其所から夥しい数の魔物が現れた。
今此処に、F組勇者&騎士団VS魔人族による戦闘が始まった。
その頃、クルゼレイ皇国王都を発った神影達ガルム隊は、ルージュへと向かっていた。
「なあ、ラリー。お前、昨日クレアさんと何があったんだ?」
普段の彼からすれば珍しく、移動する時には大抵使っているサイファー仕様のF-15Cではなく、黄色の13仕様のSu-37を纏っている神影は、これまた珍しく、Mig-35を纏っているラリーに訊ねる。
「何がって…………どういう意味だい?」
「言葉通りの意味だよ。だってお前とクレアさん、矢鱈と急接近してるみたいじゃねぇか。さっきだってキスされてたろ?」
「あ、ああ………それがね………」
ラリーは気まずそうに頷き、昨夜の出来事を語った。
「……………と言う訳でね」
「ほぉ~う………」
ラリーが話を終えると、神影はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「な、何だよ?」
「いや、お前モテるんだな~って思っただけさ。スゲーじゃん。宰相から好かれるなんてさ」
「既に7人も恋人が居て、しかもその内の1人が王女である君が言うのかい?」
神影の言葉に、ラリーは苦笑混じりに返す。
「ねえ、ラリー」
不意に、エメルがラリーに近づいて話し掛ける。
「ん?」
「ラリーはどうするの?クレアさんの事」
エメルはそう訊ねた。
「それが問題なんだよなぁ~。僕、彼女の事よく知らないし、そもそも昨日会ったばかりだし…………」
ラリーはそう返した。
彼の言う通り、クレアとは昨日出会ったばかり。
それで告白されて直ぐにどうするかを決めるなど、出来る訳が無かった。
「(アルディアの3人の時みたいに、何か大きな出来事があったなら話は別だけど、クレアさんは『一目惚れ』って言ってたから、答えに困るんだよなぁ~…………)」
そう考えていた時、リーアが近寄った。
「……?リーア、どうかしたのかい?」
彼女に気づいたラリーが声を掛ける。
「え、えっと……その………」
話し掛けられたリーアは、両腕に搭載されている機関砲を引っ込めてモジモジさせながら口を開いた。
「ら、ラリーさんは………そ、その…………お、おっぱい大きい人が好きなんですか!?」
「ぶふぉあっ!?」
リーアからのトンでもない質問に、ラリーは思い切り吹き出した。
「ななな、何を言ってるんだい!?」
「だ、だってラリーさん…………クレアさんに、抱きつかれてた時に、その………で、デレデレしてたから………」
頬を赤く染めながら、リーアはそう言った。
「あ~、確かにそうよね~。クレアさん、胸大きいもんね~」
ラリーにジト目を向けながら、エメルが同調する。
「い、いやいやいや!そんな訳無いじゃないか!そもそも女の子の価値と言うのは胸とかで決まるんじゃなくて、此処だよ!」
そう言って、自分の胸をドンと叩くラリー。
「結局は胸じゃねぇかよ、このエロ魔術師」
白けた表情で言うギャノンだが、ラリーは首を横に振った。
「誰がエロ魔術師だよ!と言うか、僕が言いたいのは胸じゃなくて、心だよ!心!僕は体とかそう言うのは関係無く、ちゃんと心を通わせて、尚且つ心の底から愛せる人が良いの!」
「ラリー、お前めっちゃ恥ずかしい事言ってるぞ。ちょっと落ち着け」
顔を真っ赤にしながら必死に弁明するラリーに、神影がそう言った。
「ラリー君も、思春期だねぇ」
その後ろでは、グランが微笑ましそうに眺めていた。
「グランさん、面白そうに見てないで手伝ってくれませんかねぇ?」
そんなグランに、神影は溜め息をつきながらそう言い、話についていけないゾーイとアドリアは、ただオロオロしていた。
そのまま一行は王都上空を飛び越えていくのだが、自分達の下で戦闘が起こっている事に気づく者は、誰一人として居なかった。