航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第101話~セレーネの報復!淫靡の霧に伏す勇者!~

「(なんでだ………なんで、こんな事になるんだよ!?僕の………僕の力を見せるチャンスだったのに………僕が、活躍する筈だったのに!)」

 

地面に倒れ伏すその少年--中宮慎也--は、内心そう毒づいた。

 

今、彼の視界に映っているのは、うっすらとしたピンク色の霧と、その霧の中で倒れ込んでいるF組勇者の面々や騎士団に加えて、王宮から駆けつけた増援の騎士や魔術師団。

そして、自分達を取り囲んでいる魔物と、数メートル上から見下ろしている、2人の魔人族だ。

 

「やれやれ、ヒューマン族の希望である勇者ともあろう者が……………この国の騎士達共々情けないわね。まさか、全員行動不能になるなんて」

 

上から聞こえてくるのは、先程、自分が追い詰めた女魔人族、セレーネの声だ。

自分達を勧誘しようとした時のような色気を含んだ声ではなく、蔑みの色を含んだ声色だった。

 

「ねえねえ、守るべき人々の前で…………それも、敵が見ている状態で発情させられるのって、どんな気分かしら?」

 

そう言って、倒れ伏す自分達を嘲笑うセレーネ。

 

そう。彼等が倒れ込んでいるのは、魔物やセレーネ達との戦闘による疲労も無くはないが、それは、ホンの一部に過ぎない。

彼等は今、自分達を包み込むこの霧によって、発情状態になっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このような状態になった経緯を語るには、王都上空を通過した神影達ガルム隊が、ルージュに到着した辺りにまで遡らなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

「………"聖斬"!」

 

"詠唱破棄"の特殊能力を持つ正義が、聖剣に光のオーラを纏わせて振るうと、白い光の弧が刀身から弾き出されるかのように飛び出し、数体のサイクロプスやオーガの上半身と下半身を分かれさせた。

 

その周囲では、航が鶏と蛇が合わさったような姿を持つバジリスクを殴り飛ばしたり、富永一味がミノタウロスに集団攻撃を仕掛けている。

 

他の男子生徒や騎士団メンバー、そして、接近戦に長けた天職を持つ奏や、他数名の女子生徒も、何十もの魔物相手に大立ち回りを披露している。

 

 

「我が身に流れし聖なる気よ。此処に降り注ぎ、邪なるものを消し去れ……………"光雨"!」

 

"聖女"の天職を出る桜花が詠唱すると、上空から光の粒が雨霰と降り注ぎ、死人のような姿をしたグールの群れを跡形も無く消し去る。

沙那は桜花よりさらに後ろに回り、負傷した仲間の治療をしていた。

 

『『求むは煉獄。我が意に答え、彼の者を土へと還せ…………"地獄炎(ヘル・フレイム)"!』』

 

涼子、沙紀、春菜の3人が発動させた巨大な炎が上空へと上がっていき、新たに召喚されたワイバーンや、ハーピーを焼き払い、一瞬にして灰にする。

神影と手合わせ(ガチバトル)をしていた時にラリーが無詠唱で使ったものより幾分か劣っているものの、威力はかなりのものだった。

 

「(行ける、行けるぞ…………このまま押し切れば、俺達の勝ちだ!)」

 

1体のミノタウロスが振るった巨大な斧を聖剣で受け止めながら、仲間の様子をチラリと視界の隅に捉えた正義は、自分達の勝利を確信した。

 

そんな時、数人の騎士が魔物に指示を出しているゲルブに突撃していった。

今なら殺れる───そんな思いで向かっていった彼等は……………爆発音と共に吹っ飛ばされた。

 

「……………ん?」

 

騎士達の突撃には気づいており、振り向き様に殴り飛ばしてやろうと思っていたゲルブは、その音の主へと振り返る。

 

「………………」

 

其所には、右手を突き出したセレーネが立っていた。

 

「おっ、セレーネ!無事だったか!」

 

飛んできた魔力弾を腕で薙ぎ払いながら声を掛けるゲルブだが、それに答えない相方に、内心首を傾げる。

 

「…………セレーネ?」

 

再び声を掛けると、セレーネはゆっくりと顔を上げた。

 

「ねえ、ゲルブ。もう下手に出る必要は無いわよね?」

「……………は?」

 

セレーネの言葉に、ゲルブは、その巨体に似合わない間抜けな声を発する。

 

「ねえ、グラディス様に言われた事……………何か覚えてる?」

「何って、そりゃ……………先ず"勇者達を殺さない事"…………だろ?それと、確か……「それだけで良いわ」……………?」

 

ゲルブの言葉を遮って、セレーネは言う。

 

「それって、つまり……………殺さなければ、多少痛めつけたり、屈辱を味わわせてやっても良いって事よね?」

「…………?まあ、そう言う事になるだろうし、そもそも攻撃すらしちゃ駄目なら、威力偵察の意味が無いからな」

 

ゲルブはそう答えた。

 

「……………って、ちょっと待て。お前、まさか……………!?」

「ええ、ちょっとばかり怒っちゃったかもしれないわ」

 

それからセレーネは、先程の出来事についてゲルブに話した。

 

「…………ソイツ、本当に勇者なのか?」

「称号だけは、勇者みたいね。心は極悪人のそれだけど」

 

そう返し、セレーネは王都の住人達へと視線を向けた。

 

「頑張って、勇者様!騎士様!」

「もう俺等には、勇者様方しか居ねぇんだ!」

「早くソイツ等を蹴散らしてくれ!」

 

王都の住人達が、勇者や騎士団を必死に応援している。

 

其処で、土術師である慎也が作り出した泥の槍が、コボルトの群れを串刺しにする。

 

「おおっ、スゲェ!」

「コレなら行ける!行けるぞ!」

 

勇者や騎士団が魔物の息の根を止める度に、歓声を上げる民衆。

 

「(馬鹿な連中。あんな所で騒ぐ暇があるなら、さっさと逃げれば良いのに…………此処で私が攻撃したらどうするつもりなのかしら?)」

 

冷ややかな目で見ながら内心そう呟くと、セレーネは右手に魔力弾を作り出して民衆へと撃ち出す。

 

「っ!?おい、あの女此方に撃ってきやがったぞ!」

 

それに気づいた王都住人の1人が叫ぶと、他は悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 

セレーネは、彼女が放った何十発もの魔力弾を操り、逃げ惑う住人に直撃せず、だからと言って無傷では済まさないと言う、何とも絶妙な位置に着弾させた。

砂埃が舞い上がり、着弾の衝撃で住人達は吹っ飛ばされる。

 

「ギャーギャー五月蝿いのよ。後それから、そんな所に何時までも屯してると……………うっかり消しちゃうかもしれないわよ?」

 

セレーネはそう言った。

 

「おい、お前!力の無い人達に攻撃するとはどういうつもりだ!」

 

其処で、正義が声を張り上げる。

 

「どうもこうも、ただ威嚇しただけじゃない。"何時までも屯してると死ぬぞ"と言う警告をしただけよ」

 

全く悪びれた様子を見せないセレーネに、正義の怒りが沸き上がる。

 

「やはり魔人族は、人を殺しても何とも思わない極悪非道な連中だったんだな……………!」

「事の発端も知らない癖に、よく言えたものね」

 

肩を竦めながら言うセレーネに、正義は飛び上がって肉薄した。

それを見たセレーネは、彼女が使役する魔物の内、キメラを2体、オーガとサイクロプスを1体ずつ差し向けるものの、全員が正義の聖剣の一振りで両断され、血や臓物を其処ら中に撒き散らしながら地面にドシャリと倒れ伏した。

そして気づけば、現段階で2人が召喚している魔物は全て倒されていた。

 

「まあ、そこそこの人数居たから、大体こんな感じかしらね………力的には、ミカゲ・コダイやラリー・トヴァルカインには及ばないけど………」

 

セレーネはそのような評価を下した。

 

「おい、セレーネ。戦力評価してるところ悪いが、俺等囲まれちまったぞ?」

 

何時の間にか隣に来ていたゲルブに言われ、セレーネは勇者達に目を向ける。

其所には、F組勇者や騎士団が自分達を取り囲んでいた。

 

「残念だったな」

 

一行を代表するかのように1歩踏み出してきた正義がそう言った。

 

「お前達の手下である魔物も全滅した。もう、お前達の盾になるものなんて無いぞ!」

 

勝利を確信したような声色で正義が宣言すると、民衆から歓声が上がった。

勇者達が善戦している事を聞いて出てきたのか、何時の間にかギャラリーは増えていた。

 

「…………エリージュ王国も終わりでしょうね。こんな馬鹿を勇者として祭り上げてるなんて」

「何だと……………どういう意味だ!」

 

馬鹿呼ばわりされた事に苛立ち、正義が叫ぶ。

 

「言葉通りの意味よ」

 

そう言って、セレーネは勇者達に冷ややかな目を向けながら言葉を続けた。

 

「"盾になるものが無い"?ええ、そうね。今のところ、私達は丸腰だわ。でもね、それなら早く斬ってしまえば良いじゃない。あまりカッコつけてると」

 

そう言うと、セレーネは軽く拳を構え……………

 

「こんな事になるわよ?」

 

……………姿を消した。

 

「あぐっ!?」

「ッ!?沙那さ…………!?」

 

そう思ったのも束の間。

突然現れたセレーネは、沙那の横腹に拳を突き立てて殴り飛ばし、さらに勢いを利用して回転し、遠心力と、自らに魔力を纏わせる事によって威力を増した回し蹴りを、桜花の右腕に叩きつけたのだ。

 

「あがぁあっ!!」

 

右腕から走る強烈な痛みに、桜花は右腕を押さえて悲鳴を上げる。

 

「あらあら。幾ら勇者と言えど、やはりヒューマン族。魔人族からの攻撃は痛いみたいね」

 

セレーネが嘲笑うようにそう言った。

魔人族や他の亜人族は、基本的な身体能力はヒューマン族より高い。

それが幹部クラスの魔人族で、しかも魔力を纏わせて攻撃してくるとなれば、勇者でもダメージは免れない。

 

「お前ぇぇぇえええええっ!!」

 

セレーネの振る舞いに怒りを爆発させた正義が、セレーネに斬り掛かる。

 

「おっと、ボウズ。お前の相手は此方だぜ?」

 

だが、聖剣を振るおうとした腕は、ゲルブに掴まれる。

 

「なっ!?」

 

いきなり現れたゲルブに怯んだ正義は、ゲルブが拳を構える程度の隙を見せてしまう。

そのままゲルブの拳が正義に叩き込まれるのかと思われた時だった。

 

「テメェ!正義から離れやがれぇ!」

「んがっ!?」

 

横から飛び出してきた航が、ゲルブを殴り飛ばした。

そのままゲルブは横向きに吹っ飛び、それを見ていた騎士団が追い討ちを掛けようとして向かっていく。

解放された正義は、航の方を向いた。

 

「すまない、航。助かった!」

 

礼を言う正義に、航は親指をピッと立てて返した。

 

 

 

 

 

 

一方、殴り飛ばされたゲルブは、空中で体勢を立て直して着地し、向かってくる騎士団を見据えていた。

 

「早速、選手の強制変更ってヤツか?まあ良いけどさ」

 

そう小さく呟くと、何人もの騎士が立て続けに飛び掛かってきた。

 

「くたばれ、魔人族め!」

「この場にノコノコやって来たのが運の尽きだったな!」

「お前を殺した後、勇者様があの女をお前の所に送ってくれるだろうよ!」

 

口々に言いながら向かってくる若い騎士達。

それを避けようとした時、彼の脳内で警報が鳴り響き、反射的に転移魔法を使って、騎士達から数メートル離れた場所に着地する。

すると、先程まで自分が居た場所を何発もの魔力弾が通り過ぎるのが見えた。

さらに目を凝らすと、視線の先には何十人もの魔術師が隊列を組んでいるのが見えた。

 

「(あれは、王都の魔術師団…………成る程、増援ってヤツか。おまけに騎士まで増えてやがる…………コレ、まさか王都の軍隊全部投入してるんじゃねぇよな?まあ、取り敢えず…………)」

 

内心そう呟きながら、ゲルブは体内の魔力を増幅させた。

 

「この俺を……………甘く見るなぁ!!」

 

そう言って、増幅させた魔力を一気に解放するゲルブ。

それは大きな衝撃波となり、向かってきていた騎士達を1人残らず薙ぎ払った。

 

「さて、俺も勇者共との戦いに……………ん?」

 

騎士達を薙ぎ払い、勇者一行の所に戻ろうとしたゲルブだが、其所で動きを止めた。

 

《ゲルブ、聞こえる?》

 

セレーネが念話で話し掛けてきたのだ。

 

《ああ、聞こえるよ…………どうした?》

《今すぐその場を離れなさい。コイツ等に屈辱を与えてやるわ》

 

セレーネの言葉に、ゲルブは彼女が何をしようとしているのかを悟った。

 

《…………了解》

 

未だ勇者と戦いたかったのか、ゲルブは何処と無く残念そうな雰囲気を纏って答え、宙に浮き上がった。

 

「おい、貴様!何処へ行く!?」

「さっさと降りてこい!未だ終わってないぞ!」

「それとも、俺等に怖じ気づいたのか!?魔人族幹部とか言っときながら、全く大した奴じゃないんだな!」

 

下から騎士達の声が聞こえるが、ゲルブは無視を決め込む。

その後、群がってくる勇者達を遠ざけたセレーネが、ゲルブの隣にやって来ると、胸の前に両手を持ってくる。

 

「さて…………貴方達は、コレに耐える事が出来るのかしらねぇ?」

 

そう言うと、セレーネは両手の間に出来たピンク色の球を勇者達目掛けて投げた。

避けようと身構える勇者達だが、セレーネは彼等に当てるつもりで投げた訳ではないため、そのピンク色の球は誰にも当たる事無く着弾する。

 

ただの虚仮脅しかと拍子抜けする一行だが、それが大きな間違いだった。

ピンク色の球が突然光を放ち、勇者や騎士団を閉じ込めるかのように、巨大なドーム状の結界を作り出したのだ。

そして着弾地点からは、何やらピンク色の煙が上がる。

 

「…………?何だこの煙は?」

 

訝しそうな表情を浮かべた航が、その煙に顔を近づける。

そして、その煙を少量吸い込んだ途端……………

 

「……………ッ!?」

 

体が燃え上がるような感覚に襲われ、航は踞る。

 

「ッ!?航!」

 

突然異常を来した航に、正義が駆け寄る。

 

「おい、航!しっかりしろ!」

 

必死に呼び掛ける正義だが、航は答えず、ただ苦しそうに喘ぐだけ。

 

「クソッ………一体、何が…………ぁっ!」

 

悪態をついた拍子に煙を吸い込み、正義も航と同様の感覚に襲われる。

横向きに倒れ込み、自分の体を抱き締める。

 

「うっ………ぐぅ……」

 

正義の体の内側から、少なくともこの場でさらけ出すようなものではない激情が沸き上がる。

自分の体に何が起こっているのかと、歯を食い縛りながら思考を巡らせていると、結界の中で広がる煙を吸い込んだ仲間達が次々に倒れていった。

全員が熱に浮かされたような顔をしており、息を荒くして身悶えている。

 

「あらあら、これは予想外ね。まさか全員倒れちゃうなんて」

 

結界越しに、セレーネがそう言った。

彼女も、まさか全員行動不能になるとは思っていなかったのか、目を丸くしている。

 

「お、俺達に……何を、した…………!?」

 

喘ぎ喘ぎに言いながら、正義が睨んだ。

 

「それは簡単。相手を性的に興奮させる催淫魔法、"淫靡の霧"を使ったのよ」

 

しれっとした表情で、セレーネは答えた。

 

「つまり、お前等はこの霧のせいで発情させられてるってこった」

 

ゲルブが言葉を続けると、一行は目を見開いた。

 

「さあ、全身をまさぐられるような感覚から立ち直る事は出来るのかしらねぇ?」

 

嗜虐的な笑みを浮かべて言うセレーネの瞳が、怪しく光った。

 

「(あ~あ、スイッチ入っちまったよコイツ…………こうなったら暫くは止まらないんだよなぁ…………)」

 

横目にセレーネを見ながら、ゲルブは内心そう呟いた。

 

「(取り敢えず、この状況をどう利用して、ガルムの奴等を此処に誘い出すかが問題…………!そうだ、この手があった)」

 

何かを思い付いたゲルブは、うっすらと笑みを浮かべた。

 

「(この作戦を実行に移すには、もう少し、勇者共には身悶えてもらうか………………その間、めっちゃ気まずい思いをするだろうけどな……………俺が)」

 

内心そう呟き、ゲルブは計画を実行する時が来るまで何もしない事にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ッ!」

「………?相棒、どうかしたのかい?」

「ああ、いや…………何か、王都が大変な事になってるような気がしてな」

「また?て言うか王都が?ああ、そんじゃ放っとけ放っとけ。あんなファッキンシティーなんて死ぬ程どうでも良いよ」

「お前本当に王都関連には無関心だよな……………まあ、俺もだけど」

「そんな事より、"ZERO"の続き聞かせてよ!」

「へいへい」

 

その頃、パーティーが開かれているルージュ冒険者ギルドにて、神影とラリーがそんな会話を交わしていたのは余談である。




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