どうもどうも。ガルム隊1番機、TACネーム"サイファー"こと、古代神影です。
さてさて、クルゼレイ皇国から帰ってきてから始まった、俺の恋人追加を祝うパーティー。
其処でラリーが姫さんを連れてきたり、何か知らんが置かれてあったフラメンコギターで、俺がエスコンの"ZERO"を演奏したり、ラリーが魔法で一発芸を披露したり、何故か俺とラリーで模擬戦やる事になって、ルージュ付近の平野を荒れ地にしたりと、兎に角大盛り上がりを見せたパーティーだが、やはり1日中こうして騒ぎまくる訳にはいかず、今は後片付けの真っ最中だ。
「えへへ…………今日のパーティー凄かったですね、ミカゲ様!」
「ああ、そうだな」
壁に掛けられた横断幕を外しながら、俺と姫さんはそんな会話を交わす。
このやり取りで多くの方が察してくれたと思うが、この後片付けには姫さんも参加している。
俺達が片付け始めると、『私も手伝います!』とか言って乱入してきたのだ。
俺やラリーは勿論、普段は誰でも平等に接するルージュの人達も、流石にコレには難色を示していたが、姫さんの強い要望に押し切られ、参加を許している。
「だが姫さんよ、本当に良いのか?」
「はい。こう言うのは皆でやるのが楽しいんですから!」
ニパッと笑みを浮かべて、姫さんはそう言った。
「パーティーの本番は勿論楽しいですけど、こうして皆さんと後片付けをするのも、また違った楽しさがあるんです!」
外して畳んだ横断幕を抱えて、姫さんは続けた。
「…………そうか」
そう返し、俺はギルド内を見渡す。
このパーティーに参加した人達が忙しなく歩き回り、床を掃除したり、テーブルの上にある食器を運んだりしている。
ゾーイやアドリア達ガルム隊女性メンバーやアルディアの3人、はたまたエスリアも、装飾を外したり、床を掃除したりしている。
「ねえ、エミリアちゃん!ちょっと手伝ってくれない!?」
「あっ、はい!今行きます!」
そう言って姫さんは、声を掛けてきた女性冒険者の方へと走っていった。
「姫さん、楽しそうだね」
其処へ、隣にやって来たラリーが声を掛けてきた。
「そうだな…………それにしても、まさか後片付けまで一緒にやりたがるとは思わなかったぜ」
そう言って、俺は女性冒険者とゴミ袋を運んでいる姫さんに視線を向ける。
ヨタヨタ歩く姫さんだが、本当に楽しそうだ。
「まあ、こんなドンチャン騒ぎや後片付けは、普通の上流階級の人間は先ずしないからね。姫さんにとっては、貴重な経験なんだよ」
ラリーの言葉に、俺は頷いた。
ずっと城で暮らしていた姫さんにとって、今回のは何れもコレも、"新しい経験"だったのだ。
「姫さん、城に帰ったら女王陛下達に自慢すると思うよ?」
「だろうな。少なくともこんなドンチャン騒ぎ、貴族とか王族とかの連中は先ず体験出来ねぇだろうし」
「おーい、其所の2人!サボってないで此方手伝ってくれ!」
ラリーと話していると、オッチャンからのお呼びが掛かった。
「んじゃ、行くか」
「うん」
そうして俺達は、オッチャンの方へと歩き出すのだった。
さて、そんなこんなで後片付けが終わる頃には、もう日が傾き始めていた。
時計を見ると、針は午後5時を指している。
「ところで姫さん、今日はどうするんだ?せっかく来たんだから、泊まっていくか?」
そう訊ねると、姫さんは首を横に振った。
「いいえ、このまま帰ります」
そう答えた姫さんに、俺は目を丸くした。
今まで、兎に角俺に甘えたがった姫さんだから、てっきり泊まりたがると思ってたんだが…………
「実は、姫さんを連れ出す許可を女王陛下に貰った時に、『泊まるのは駄目』って条件を付けられてるんだよ」
ラリーが答えた。
恐らくコレは、姫さんを心配しての条件だろう。
何だかんだ言っても、彼女はクルゼレイ皇国の王女。次期女王になるんだから、女王陛下としても、色々思うところがあったんだろう。
「まあ、そんな訳で、ちょっと姫さんを送り届けてくるよ」
そう言って、ラリーは姫さんを手招きした。
「またね、エミリアちゃん!」
「また何時でも来いよ!一緒に騒ごうぜ!」
「……………はいっ!」
ルージュの人達に返事を返し、姫さんはラリーに近寄る……………かと思いきや、素通りして俺の方へとやって来た。
「ミカゲ様…………」
潤んだ瞳で、姫さんは俺を見上げる。
彼女が何を求めているのかは、この時点で分かっている。
「あいよ、姫さん」
そう言って、俺は姫さんにキスを贈る。
「「んっ………ちゅ……んんっ、んふ……ぷぁっ」」
長くも短くも感じられたキスを終えて、俺達は唇を離す。
「それじゃあ姫さん。また1週間後に、城で会おう」
俺はそう言うが、姫さんからの返事は返されない。
「むぅ…………」
それどころか頬を膨らませて、何やら不機嫌なご様子。
アルェー?なんでさ?俺、何か気に障るような事でも言ったか…………?
「ミカゲ様。"姫さん"じゃなくて、ちゃんと"エミリア"って呼んでください。せっかく恋人になったのに、何か他人行儀みたいで嫌です」
「……………ああ、そう言う事か」
どうやら姫さんは、俺の呼び方が気に入らなかったようだ。
「じゃあ、改めて…………ゴホンッ!」
咳払いを1つしてから、姫さんに向き直る。
「また城でな……………エミリア」
「はいっ!」
満足そうに言うと、姫さん改めエミリアはラリーの方へと戻り、ルージュの人達に向き直った。
「それでは皆様、本日は貴重な体験をさせていただき、誠にありがとうございました」
そう言って深々と頭を下げるエミリア。
単純な動きなのに、普段のお転婆な雰囲気は引っ込み、王女としての貫禄が感じられた。
「また機会があれば、我が国にお越しください。一同で歓迎致します。それでは、ごきげんよう」
エミリアがそう言うと、タイミングを合わせたかのようにラリーが転移魔法を使い、2人の姿が消えた。
「………行っちゃったわね」
先程まで2人が立っていた所を見つめていると、ソブリナが話し掛けてきた。
「ああ、そうだな………」
俺はそう答え、天井を見上げた。
「エミリア、パーティーの最中はずっと大はしゃぎしてたわよね……………何時も、あんな感じなの?」
「"何時も"と言うか、何と言うか……………俺と居る時は、大抵あんな感じだな」
「成る程ね…………」
そう言って、ソブリナは意味深な笑みを向けてきた。
「な、何だよ?」
「いえ、別に。ミカゲが本当にモテる男なんだと言う事を改めて実感しただけよ」
「何だそりゃ?」
クスクス笑いながら言うソブリナに、俺はそう言った。
「エミリア、今頃何してるのかしらね?」
「女王陛下にパーティーの事を話してるんじゃねぇのな?」
俺はそう言った。
ついでに言うと、その際にラリーがクレアさんに絡まれてそうだな。
あの人はラリーに好意を抱いてるから、彼奴を見つけたら直ぐにアプローチを掛けているだろう。
「ねえ、ミカゲ」
なんて考えていると、ソブリナが俺の頬に手を添えて振り向かせる。
そして、目を瞑って唇を近づけてきた。
「何だソブリナ、エミリアに嫉妬でもしたのか?」
からかうようにそう言うと、ソブリナが目を開けてジト目を向けてきた。
「だって、貴方の恋人はエミリアだけじゃないのよ?こう言うのは恋人全員、平等に与えられるべきなの……………貴方も分かってるでしょう?」
「ああ、勿論だ」
そう言ってソブリナとキスを交わすと、残りの5人も呼び寄せてキスを交わした。
その際ルージュの人達や、クルゼレイ皇国から戻ってきたラリーに見られ、盛大に冷やかされたのは言うまでもない。
「はあっ……はあっ…………や、やっと、着いた………!」
その頃、ルージュの門の前には1人の少女が居た。
美しい銀髪に透き通った紫色の瞳。そして、其処らのグラビアアイドル顔負けのプロポーションを誇る美少女、白銀奏だった。
「この、町に………古代君が…………!」
荒い呼吸によって、その豊満な胸がユサユサと揺れるのも気にせず、奏はそう呟いた。
魔人族の襲撃によって窮地に追い込まれた、勇者と騎士団一行。
その状況を打破するため、神影達ガルム隊に救援要請をする事に踏み切り、彼等が居ると言うルージュを目指して走ること数時間、漸く、彼女は町に到着したのだ。
「急が、ないと………皆が…………ゴホッゴホッ!」
無休で走ってきたために、体の内部に多大な負荷を掛けていたのか、盛大に咳き込む彼女は血を吐く。
だが、此処で立ち止まっている事は出来ない。
彼女の任務は、未だ果たされていないのだ。
ボロボロの体に鞭を打ち、ヨロヨロと歩き出した彼女は、門を潜ろうとする。
「ん?………おい、其所の者。止まれ」
すると、彼女に気づいた門番が、持っていた槍で彼女の行く手を塞いだ。
「通る前に、ステータスプレートを見せ…………?おい、大丈夫か?」
ステータスプレートの開示を要求しようとした門番だが、奏の様子が、普通の通行人にしてはおかしい事に気づく。
「……こ、だ………に………せて……」
「…………?すまん、何て言った?」
聞き取れなかった門番が聞き返す。
「…………!ゲホッ!ゴホッ!」
「ッ!?お、おい!」
それに答えようとするものの、再び咳き込んで血を吐く奏に、その門番は目を見開いた。
「おい、しっかりしろ!直ぐ回復師を呼んできてやるから!」
「……ッ!ま、待って!」
今にも倒れそうな奏を支えながらそう言うと、門番は回復師を探しに行こうとするが、奏は、彼の腕を掴んで止め、嗄れた声で叫んだ。
「回復師は要らない!それより古代君の所に連れていって!早く!!」
「…………わ、分かった」
"古代君"と言う人物が、あの黒髪に金色の瞳を持つ男だと悟った門番は、彼女の肩を支えながら、彼が居るであろうギルドに向かって歩き出した。
「(待っててね、皆……………もう少し、もう少しだから…………だからお願い、今は耐えて……どうか………死なないで……!)」
門番に支えられながら、奏は王都前に残してきたクラスメイトの事を思うのであった。