「それにしてもラリー。お前随分と派手にやったよなぁ~………」
ブルーム達を放り込んだ土の檻を王宮に落としたラリーが戻ると開口一番、神影は苦笑を浮かべながらそう言った。
2人が立っている平野は、ラリーの蹂躙劇によって所々が焦げたり、掘り返されたりしている。
「当然だろ?何せ彼奴等は、重傷を負いながらも必死に戦った君に、あんな失礼な事をしようとしてたんだからね」
全く悪びれた様子を見せず、ラリーはそう返した。
「騎士何人か殺しちまってるけど…………?」
「そんなの、僕の知った事じゃないね。あんな奴等、その辺の魔物程度の価値しか無いよ…………………いや、最早それすら無い。魔物未満の何かだね」
そう言ったラリーに、神影は乾いた笑みを浮かべた。
自分の死がこんなにも人を変えている事に、神影は内心驚いていた。
「(マジで、"彼奴"の言った通りだな…………)」
神影は内心そう呟いた。
「そんな事より相棒」
「ん?何だ?」
ラリーの顔が間近にあった事に内心軽く驚きつつ、神影は訊ねた。
「どうやって復活したのか、聞かせてもらえるかい?ついでに、女になった理由も」
「ああ、説明しても良いが……………取り敢えず離れようぜ?流石に近すぎだ」
「ッ!?ご、ゴメン!」
ラリーは頬を赤く染め、大急ぎで離れる。
「おいおい、今の俺の体は女になってるけど、精神は男なんだぜ?そんな反応すんなって」
「で、でも…………」
ケラケラ笑い、余裕そうに言う神影だが、ラリーはそうでもないらしい。
「やれやれ…………」
そんなラリーに呆れつつ、神影は話を始めた。
それは、今から1時間程前に遡る。
「…………此処、何処だ?」
その時、肉体を失った事によって人魂となった神影は、辺り一面真っ白な空間にプカプカと浮かんでいた。
「何か、ネット小説で見る神様転生みたいな感じの空間だな…………」
その空間を見回しながらそう呟いた時、突然、背後から声を掛けてくる者が居た。
「へぇ~、お前の世界にはそんなのがあるのか」
「うおっ!?」
急に声を掛けられた神影は、驚きのあまりに飛び上がり、そのまま勢い良く振り向く。
「おいおい、この俺の
其所には、正に復活後の神影と同じ姿の美女が、苦笑を浮かべながら立っていた。
「えっと……………どちら様で?」
「お前、それマジで言ってんのか?」
おずおずと訊ねる神影に、その女性は呆れた様子で言った。
「"ウスティオ空軍第6航空師団第66飛行隊"……………コレだけ言えば、流石に分かるよな?」
「………………サイファー?」
女性が言うと、神影はそう答えた。
「そう。ガルム隊1番機、
「嘘ぉ!?」
その女性が言うと、神影は声を張り上げた。
彼の中では、"サイファー"と言う人物は"男"として認識されていたのだから無理もない話だが、彼女からすればそうでもなかったらしく………
「おいおい、驚きすぎだろ」
神影が絶賛パニック状態であるのに対して、彼女は平然としていた。
「いやいやいや、普通驚くだろ!寧ろ驚かない方がおかしいよ!"彼"って言われてるんだから、男だと考えるのが普通だろうが!?」
そう言う神影に、彼女は指を振って言った。
「"彼"と言われてるからって、ソイツが本当に男だとは限らねぇだろ?」
「限るわ!!」
その時、神影が盛大にツッコミを入れたのは言うまでもない。
「…………な、何か漫才みたいなやり取りだね」
何とも言えないような表情を浮かべて、ラリーはそう言った。
「まあな。俺だって、まさか死後の世界であんなやり取りする事になるとは思わなかったよ」
そう言って、神影は苦笑を浮かべた。
「それで、その人とはどんな話をしたの?」
「"どんな話"、ねぇ………………まあ、強いて言えば…………………」
そう言いかけてから一旦口を閉ざし、少しの間を空けてから、神影は再び口を開いた。
「………………褒められたし、叱られたよ」
「……………さて、いきなりだが神影。俺はお前に言いたい事が2つある」
唐突に、サイファーはそう言い出した。
「"言いたい事"?」
「ああ」
サイファーは頷いて、次に柔らかな笑みを浮かべてこう言った。
「先ず最初に………………よく頑張ったな」
「…………………?」
急に褒められた神影は、その意味が分からず首を傾げた。
「お前は、お前の仲間や、見ず知らずの連中のために戦った。勇敢に、己の身を厭わず、傷を負いながらも立ち向かった…………………あの時のお前は、正に"英雄"と呼ぶに相応しい」
「ど、どうも…………」
神影がそう言うと、サイファーは急に厳しい表情になった。
「だが、同時にお前は、1つ大きな過ちを犯した」
「"過ち"?」
「そうだ」
サイファーは頷いて、真っ直ぐな視線を向けた。
「それはな…………………お前を愛する者達を置いて死んだ事だ」
「ッ!?」
そう言われた神影は、目を見開いた。
サイファーは続ける。
「仲間のために戦うのは良い。少なくとも、傷つきながらも戦ったお前は立派だし、その辺りについては素直に尊敬してる。だがお前は、それ以前にもっと自分の体の状態を考えるべきだ。敵を倒せても、その重傷を負った状態につけ込まれて殺されたら、元も子もねぇんだぞ」
「……………………」
サイファーの言葉が、神影に重くのし掛かる。
「そして何よりも…………………お前は、あんな所で死んで良い人間じゃねぇんだ」
サイファーはそう言った。
「お前だって、大切な人達残してあんな奴等に殺されるなんて、納得いかねぇだろ?」
「…………ああ」
頷く神影に、サイファーは続けて問う。
「お前には恋人が居て、相棒が居て、お前を家族として見てくれる人が大勢居る筈だが…………どうだ?連中に会いたいか?」
「んなモン……………会いたいに決まってるだろ!」
そう叫ぶ神影に、サイファーは言った。
「なら、やる事は決まってるよな?」
「……ああ、当然だ…………」
そう返事を返し、神影は少しの間を空けてから、再び口を開いた。
「俺は……………俺は、彼奴等の元に戻る!彼奴等ともっと騒ぎたい!ガルム隊の奴等と、もっとあちこち飛び回りたい!そして何よりも、ソブリナ達を……………俺の恋人達を、愛し足りねぇんだッ!」
「そうだ、よく言った!」
そんな神影に、サイファーは満足そうな笑みを浮かべた。
「あっ、でも…………」
「ん?急にどうした?」
突然、先程までの勢いを失う神影に、サイファーは首を傾げた。
「戻れてたところで俺、体無いんだよな…………多分墓の中だろうし、ズタボロになったままだろうし…………」
そう言う神影だが、サイファーは違った。
「何だ、そんな事か……………それなら問題ねぇよ」
「……………?どういう意味だ?」
そう聞き返した神影に、サイファーは変わらず笑みを浮かべて言った。
「体が無いなら、俺のを使えば良い。特別に貸してやる。男に汚されないってんなら、ある程度好きにして良いぜ。何なら、どっかで別嬪さんでも抱けや」
そう言うと、サイファーは神影の返事も聞かずに近づくと、人魂である彼の両縁に手を触れて自分の胸へと引き寄せる。
「えっ、ちょ……………?」
戸惑う神影に、サイファーは語り掛けた。
「まあ、精々頑張ってこいや。ズタボロになった体は、お前の頼れる相棒に修理してもらえば良いんだからよ」
そうして、神影の視界は目映い光に包まれた。
「…………………とまあ、そう言う訳で、気づいたらこの姿になって、スゲー勢いで落下してたって訳なのさ」
「………な、何と言うか………………凄い体験をしたんだね。と言うか、そうやって易々と体を貸すのにもビックリだよ」
神影が話を終えると、ラリーは苦笑しながらそう言った。
「ああ。あの体験のお陰で、女になっても全く戸惑わなくなっちまったんだよな……………まあ、それはそれとしてラリー、俺の体の修理を頼みてぇんだが……………出来るか?」
「い、いきなりだね……………まあ、出来なくはないよ?
ラリーはそう言った。
「でも、結構時間掛かるよ?何せ、この技を人に使った事は無いし、この前みたいに、荒らした土地や壊れたものを修理したり、回復魔法使ったりするのとは訳が違うんだからね」
「ああ、分かってる。その辺りについて急かしたりはしねぇよ。お前のペースで、無理しない程度にやってくれたら良いさ」
神影はそう言った。
「ところでラリー、さっきから気になってたんだが…………」
「ん?どうかしたのk……………ッ!?」
不意に神影がラリーの手を取り、その手の甲をまじまじと眺めると、その視線をラリーの首や顔に移動させる。
まじまじと見られている事に、ラリーは頬を染めた。
目の前で彼をまじまじと見ているのは女性…………それも美女だ。
それが、長い間共に戦い、苦難を乗り越えてきた相棒で、元々が男だったとしても、かなり意識してしまうようだ。
「ど、どうしたんだよ相棒?そんな、まじまじと…………」
「いや、お前の顔とか手とかの模様が気になってさ……………それ、何?」
それ故に歯切れの悪いラリーとは反対に、普段のペースを崩す事無く疑問を投げ掛ける神影。
「……………………」
神影からの質問を受けたラリーは、言葉を詰まらせる。
「(相棒の事だから、僕がヒューマン族じゃなくても受け入れてくれるとは思うけど、その種族が種族だからなぁ…………)」
そう、ラリーの種族は
コレが普通の魔人族なら話は別だっただろうが、彼の場合は魔神。強さの格が違う。
遠く離れた魔族大陸で暮らす魔王グラディスでさえ、解放された力の波動を感じ取り、恐れる程の存在なのだ。
「(流石に、こんなの………言いにくいよ…………)」
「…………………?まあ、言いたくねぇってんなら、無理にとは言わねぇけどさ」
そんなラリーを見て、彼が言うのを嫌がっていると思ったのか、神影はそう言った。
「それよか、早く町に入ろうぜ。皆に挨拶しないといけねぇからな」
あの体験で、何でもかんでもスパッと割り切ってしまうようになったらしく、神影はそう言って、さっさとルージュの門へ向けて歩き出した。
「あっ…………」
ラリーが小さく声を発するものの神影には聞こえず、そのまま門へと近づいていく。
「……………ゴメンね、相棒」
そう呟くと、ラリーも立ち上がって神影を追うのであった。