「いやぁ~、まさか女になって帰ってくるとは思わなかったぜ!それも、こんなスタイル良い美人になっちまってさ!」
「ああ、全くだ」
「と言うかミカゲ、物凄い勢いで迫ってきたでしょ?あれ本気でビックリしたんだからね?『何あの速さ!?そんな速さどっから出てくるのよ!』って思ったわ」
「そんでもってお前の姿を改めて見た時、『えっ、何この美女?』って思っちまったからな?いや、マジで」
「あ、あははは…………」
ゾーイ達との感動の再会を果たした俺は、ルージュの人達に囲まれている。
さっきの感想を次々に言うルージュの人達に、俺は対応が追い付かず、ただ苦笑を浮かべて一言二言返すぐらいしか出来なかった。
「まあ、でもよく帰ってきたね!ホラ、コレ食べな!」
そう言って、俺が時折寄っていた果物の出店のおばちゃんが梨をくれる。
「おお、あざっす!」
そう言って受け取り、一口。
「……………美味なり」
相変わらずの美味さに、俺はそう呟く。
「ホラ、お前もコレ食ってみろよ」
そう言って、俺はラリーに梨を差し出す。
「…………………」
「……………あれ?」
だが、ラリーは受け取らず、その梨と俺を交互に見ている。
「コレを…………食べるの?」
「当たり前だろ」
つーか、コレの他に何があるってんだ?てか、さっきから気になってたんだが、反応おかしくね?
何があったんだ?
「……………なあ、ラリーよ。お前さっきから変だぜ?矢鱈と赤くなるし……………一体どうしたってんだよ?」
「そ、それは…………」
俺が顔を近づけて疑問をぶつけてやると、ラリーは頬を染めて口ごもった。
「き、君が………」
「ん?」
ポツリポツリと口を開いたラリーに、俺は聞き返した。
「君が、女の子になってるのに……………何時もと、全く変わらず接してくるから………その………意識、しちゃうんだよ…………」
ラリーはそう言った。
「?……………あ~、成る程。そう言う事か」
最初は何を言ってるのか分からなかった俺だが、今の自分の姿を改めて見ると、ラリーが言った事の意味を理解した。
ラリーの言う通り、俺は今、女になっている。
なのに俺は、男だった時と変わらず接する………………つまり、女の状態で肩を組んだり、食べかけの梨を差し出したりするから、それで意識してるって事か。
「……………さっきも言ったが、体は女でも心は男なんだ、そんな気にするような事でもないと思うぜ?」
「き、君はそうかもしれないけど………でも…………」
そう言って、ラリーはそのまま口を閉ざしてしまった。
このままだと埒が明かなくなるので、この話は取り止めにする事になった。
「それじゃあ直ぐ用意すっから、適当に時間潰して待っときな!」
さて、あれから少ししてギルドに向かい、アリさんやエスリア達の前で依頼達成の報告を済ませた俺達ガルム隊は、ギルドから放り出されてしまった。
その理由は簡単。
オッチャン達が、ガルム隊の依頼達成と、俺の復活を祝う宴会を開いてくれると言うのだ。
んで、その準備をする間、俺達は外で待たなければならないらしい。
「相棒。今回の宴会は、今までのよりも凄いものになると思うよ?」
俺の隣に立っているラリーがそう言った。
「ああ、オレもそう思うぜ。何せ、依頼の内容が"勇者の救出"で、それをミカゲが、見事に達成したんだからな!」
ギャノンさんも言葉を続け、俺と肩を組んでくる。
「まあ、その際に依頼人の娘のお仲間さんが、ミカゲ君を殺したんだけどね…………」
グランさんがそう言った。
「クソ勇者め…………王都のゴミ共と一緒にブッ殺してやりますぅ…………」
「ちょ、リーア!?お前めっちゃ恐くなってるんですけど!?」
あのオドオドして庇護欲を掻き立てる、あの頃のリーアは何処へ行ってしまったんだ…………………?
「まあ、勇者や王都の連中がやった事は許せないけど…………………それよりミカゲ、未だやる事があるわよね?」
不意に、エメルがそう言った。
「"やる事"?」
「ええ」
エメルは頷き、再び言葉を切り出した。
「貴方が復活したって事を伝えなければならない人が、未だ居るでしょう?」
「………………ああ、そうだな」
俺は頷いた。
俺の復活を伝える相手は勿論、クルゼレイ皇国第1王女にして我が恋人の1人、エミリアだ。
「宴会の準備まで、未だ時間掛かるだろうし……………会いに行ってあげたらどう?」
「そうだな…………良し、ちょっくら行ってくる」
俺はそう答えた。
「あっ、それなら僕も行こうか?」
「いや、大丈夫だ。いざとなればステータス見せれば良いからな」
「そ、それはそうだけど…………」
そう言いつつ食い下がるラリー。其処までして、クルゼレイ皇国に行きたいのだろうか………………?
「まあ、ミカゲ君。連れていったらどうかな?」
其処へ、グランさんが口を挟んできた。
「確かにステータスを見せれば解決するだろうけど、万が一と言うのもあるから…………ね?」
「……………言われてみれば」
クルゼレイ皇国に入るだけなら何の問題も無いだろうが、城に入るとなれば話は別だからな。
「(…………………まあ、念のためって事で、ついてきてもらった方が良いだろうな………)」
内心そう呟き、俺はラリーの方を向いた。
「それじゃあラリー、一緒に来てくれるか?」
「…………ッ!ああ、勿論だよ!」
ぱぁっと笑みを浮かべて、ラリーはそう言った。
どうやら、余程クルゼレイ皇国に行きたかったようだ。
それから俺は、ラリーの転移魔法でクルゼレイ皇国へと向かった。
「はい、到着!」
クルゼレイ皇国王都に着くと、ラリーがそう言った。
「おっ、ラリーじゃないか!」
「いらっしゃい!」
ラリーを見つけた住人達が、続々と声を掛けてくる。
それに律儀に返事を返していくラリーを見ていると、住人の1人が俺に気づいた。
「そう言えばラリー、其所のお嬢さんは誰だ?」
「もしかして、お前のコレか?」
そう言って、他の住人がニヤニヤと笑みを浮かべて小指を立てる。
「ななな、何言ってるのさ!?そんな訳無いじゃないか!」
真っ向から否定するラリーだが、頬が赤く染まっているのを見破られて……………
「おっ?顔赤くなったぞ」
「こりゃ脈アリってヤツだな」
「おいおい、この国の宰相惚れさせて他の女に手ぇ出しちゃ駄目だろ」
「まあまあ、良いじゃないか。ホラ、"英雄色を好む"って言うだろ?」
ワラワラ集まってきた住人達にからかわれていた。
「ちょ、ちょっと相棒!黙ってないで何か言ってよぉ!」
終いには涙目になって、俺に助けを求めてきた。
そしてラリーの言葉に、住人達が気づく。
「ん?"相棒"?」
「ラリーがそう呼ぶのって、ミカゲだよな?」
「て事は……………え?その娘、まさかミカゲなのかい?」
「いやいや、それは無いだろ」
「ああ、その通りだ。だってミカゲは、この前エリージュ王国で勇者に殺されたんだぜ?女王陛下もそう言ってたじゃねぇか」
そして、瞬く間に戸惑いの渦が広がっていく。
「な、なあ。アンタ」
其処へ、1人の見慣れた魔人族の男が声を掛けてきた。
「…………ロイクじゃねぇか」
「ッ!?」
俺が名を呟いた魔人族の男──ロイク・アルバート──は、驚きのあまりに目を見開いた。
「………俺の、名前を…………知ってるのか……………?」
「まあな」
俺がそう答えると、ロイクは恐る恐る訊ねてきた。
「まさか………本当に、ミカゲ………なのか……………?」
「ああ、そうだ。姿こそ変わっちまったが、正真正銘、古代神影……………もとい、ミカゲ・コダイ本人だ」
そう言って、俺は右手にステータスの映像を浮かび上がらせた。
ロイクや他の住人達がズイッと近づいてきて、俺のステータスを凝視する。
「おいおい、マジかよ…………?」
「本物だぜ、コレ…………」
「てか、こんな美人がミカゲって……………」
そうして、住人達の視線が俺に突き刺さる。
そのまま暫く無言が続いた後…………………
『『『『『『『『『『えええぇぇぇええぇええええっ!!?』』』』』』』』』』』
この町が揺らぐ程の大声が響き渡った。
そんな彼等に、俺とラリーは苦笑するしかなかった。
それから彼等が落ち着きを取り戻すと、俺は復活までの経緯を語った。
全員、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべていたが、何より、俺が復活してから一番最初に会ったラリーの証言もあり、信じてもらえた。
それから、俺が生き返った事を改めて認識し、大喜びした住人達によって胴上げされ、その際、何故かラリーも胴上げされていたのは余談である。
「ふう、やっと着いた……スッゲー疲れたぜ…………」
「うん、そうだね……………」
さて、あれから暫く胴上げされていた俺達は今、城の敷地内に通じる門の前に居る。
「エミリア、どうしてるかな……………?」
「相棒が勇者に殺されたのを伝えた時、泣き崩れてたからね……………悲しみのあまりに自殺してなければ良いけど…………」
「ちょ、おい。そんな縁起でもない事言うなよ」
不吉な事を言い出すラリーに、俺はそう言った。
「まあ、取り敢えず中に入れてもらおうか」
そうして歩き出したラリーに、俺は続く。
「おお、ラリー殿!」
近づいてくる俺達に気づいた衛兵が、ラリーに声を掛けた。
「先程の騒ぎを聞いたのですが、其所の女性が生き返ったミカゲ殿だと言うのは本当ですか?」
若干興奮気味に、衛兵が訊ねてきた。
「はい、そうですよ」
そう言うと、ラリーは俺の方を向き、視線でステータスを表示するように促してくる。
俺は頷き、ステータスを見せた。
「うひょーっ!マジかよ!?こりゃ凄いぜ!」
「お帰りなさいませ、ミカゲ殿。また会えて光栄です」
「ああ、ありがとな。俺も、また会えて嬉しいよ」
そう返して、俺は2人と握手を交わした。
「こうしてお越しになったと言う事は……………やはり、エミリア様に?」
「ああ、こう言うのはちゃんと伝えないとな」
俺はそう言った。
「それは良い。エミリア様も、きっとお喜びn……「ミカゲ様!!」…………おやおや、噂をすれば何とやらですね」
衛兵の後ろから、聞き覚えのある声が響いてきた。
建物の直ぐ傍に居るため、小粒程度の大きさにしか見えないが、その人物が駆け寄ってくるため、段々と全貌が明らかになっていった。
サイドテールにした桃色の髪に加えてサファイアのような蒼い瞳。
豪華さを見せる水色のドレスに、その上からでも分かる豊満な胸…………
間違いなく、クルゼレイ皇国第1王女にして我が恋人の1人、エミリア・シェーンブルグだった。
両目に涙を浮かべて駆けてくるエミリアは、俺が女になっている事は既に知っているらしく、迷わず俺に飛び込んできた。
「ミカゲ様!ミカゲ様ぁ!」
胸に顔を擦り付け、ひたすら俺の名を叫ぶエミリア。
「ただいま…………エミリア………」
そう言って、俺もエミリアを抱き返す。
それから暫く、俺の胸の中で嗚咽を漏らしているエミリアだったが、俺は間違いなく、ある言葉を聞いた。
『お帰りなさい』と…………………