ルージュの町での一悶着も何とか解決し、報酬についての詳しい話を終わらせた俺は、ガルム隊メンバーと共に王都へと向かっていた。
その理由は、先ず何よりも、天野達4人は俺等ガルム隊メンバーではなく、王都に居る連中側だからだ。
そして2つ目に、報酬の話を他のF組生徒達に知らせる事が目的だ。
そんな訳で俺は、展開したブラックホークに天野達4人とアリさんを乗せ、ラリー達と共に王都に向かっていると言う訳なのだ。
「現在、高度3500フィート。進路、2-2-5。速度、240ノット……………」
「おっ、その台詞を聞くのは結構久し振りだね」
俺が数値を読み上げていると、ラリーが話し掛けてきた。
「まあ、最近はコレ言わなかったし、そもそも俺、ちょっと前まで死人だったからな」
「確かにそうだね」
そう言うと、ラリーは前方を睨み付けた。
「あのクソッタレ勇者共……………もし誰かが僕の呪い解いてたら、もっと強力な呪い掛けてやる」
「……………お前の魔法に対抗出来る奴なんて、そんなに居ないと思うけどな」
俺は苦笑混じりにそう言った。
「(それにしても他の皆、何か暇そうだな…………)」
内心そう呟き、俺は周囲を見渡した。
ガルム隊女性メンバーは、俺とラリーの周囲を退屈そうに飛び回っており、時折、先に進んでは戻ったり、右へ左へと行き来したりを繰り返している。
「皆、暇そうだね………」
ラリーが話し掛けてきた。
「まあ、基本的に超音速で飛び回ってたが、俺等が今使ってる機体では、そうも出来ないからな」
俺が纏っているブラックホークは、最高速度が時速295㎞。ラリーが纏っているアパッチは、時速293㎞だ。
因みに、エスコンシリーズの中でヘリコプターが使える
ロシア軍の戦闘ヘリ、Mi-24──NATOコードネーム"Hind(ハインド)"──や、ダウンロードコンテンツで追加される、同じくロシア軍の戦闘ヘリ、Ka-50──NATOコードネーム"Hokum(ホーカム)"──も使えるのだ。
因みに、この2機は最高速度が時速300㎞を超えており、ハインドで時速335㎞、ホーカムで315㎞だ。
まあ、だからと言って、仮にどちらかが機体を変更しても、ゾーイ達のような速度を出せない事は変わらないし、そもそも俺が機体を変えたら、コンテナの中に居る5人はどうなるんだって話になる。
「ゾーイ達には申し訳無いが、我慢してもらうしかなさそうだな………」
「ああ、そうだね……………」
そう言って、俺達は互いに苦笑を浮かべた。
「ところで相棒、話は変わるんだけど………」
「ん?何だ?」
いつになく真面目な表情で言うラリーに、俺は聞き返した。
「ゾーイの事……………あれからどう?」
「いや……………まあ、前みたいに避けられたりはしなくなったが、結局、悩みの内容は話してもらえてない」
「そうか………まあ、此方も同じなんだけどね」
ラリーは目を伏せた。
「はぁ……………全く、ゾーイは…………………何か悩んでいるなら、正直に打ち明けてしまえば良いのに」
「まあ、ゾーイも色々思う事があるんだろうよ」
そう言う俺だが、ラリーは首を横に振った。
「そうだとしても、あれじゃ問題は解決しない。ただ問題に蓋をするだけじゃ駄目だ。ゾーイも、1歩踏み出す勇気を持たなきゃ駄目なんだ」
ラリーはそう言った。
まあコイツも、今まで100%ヒューマン族だと思っていたのに、実は大昔に滅んだとされている魔族の頂点、魔神と、ヒューマン族とのハーフだったと言う事に葛藤してたからな。
それから勇気を出して、俺やルージュの住人達にそれを打ち明けた。
ゾーイの悩みの内容は分からないが、同じように葛藤を経験した者として、見過ごせないんだろう。
「ねえ、相棒」
なんて考えていると、ラリーが話し掛けてきた。
「もし、ゾーイが君に悩みを打ち明けようとしたら……………その時は、ちゃんと聞いてあげてね?」
「当たり前だ」
俺はそう言った。
「ミカゲさ~ん!ラリーさ~ん!」
すると、リーアが近づいてきた。
「前方に、王都が小さく見えてきました!」
「了解。報告ありがとね、リーア」
ラリーがそう言って微笑むと、リーアは顔を赤くした。
無意識の内に女を惚れさせている我が相棒に苦笑を浮かべながら、俺は王都を見据えるのだった。
神影達が向かっている頃、王都ではF組勇者やユミール、そして数人の騎士達による、沙那達4人の捜索が行われていた。
昨日から行われているこの作業だが、目撃情報も無い上に、近隣の村に行って情報を集めようにも、マトモに取り合ってくれない。
そのため、彼女等の失踪に関するロクな手懸かりも掴めていなかった。
「皆………一体、何処へ行ったんだ………?」
王都を歩き回りながら、正義はそう呟いた。
「此処から例の洞窟ってそこそこ距離あるけど、遅くても昨日の昼ぐらいには帰ってこれてるよな?」
彼の隣を歩く航が言う。
「ああ、ユミールもそう言っていたんだけど…………」
そう言って、正義があちこち見回し始めた時だった。
「居なくなったって言う4人の勇者って、未だ見つかってねぇのか?」
「ああ、そうらしいぜ。昨日は皆して1日中探してたし、今日だって、朝から勇者も騎士も…………おまけに王女様も、4人を探し回ってるって話だよ」
瓦礫の山に腰掛けた、住人と思わしき3人の男が、世間話をしていた。
「もしかしてその4人、作業が嫌で逃げたんじゃねぇのか?」
「ああ、それ有り得る」
「ったく…………あんなので逃げるとか、ドンだけ根性無しなんだよ」
好き放題喋っている住人達に、正義は鋭い目を向けた。
「ッ!おい、お前等!勝手に何でもかんでも決めつけるな!未だ沙那達が逃げたって決まった訳じゃないだろ!!」
ズカズカと足音を立てて、住人達に詰め寄る正義。
「な、何だよ?彼奴等、1日以上経っても戻ってこないんだぜ?」
「そうそう。勇者だから、少なくとも盗賊程度には勝てるだろうし」
「なら答えは、『作業が嫌だから逃げる』以外に何も無いじゃないか」
「~~~~ッ!こ、コイツ等……………ッ!」
「お、おい正義……………」
怒りで我を忘れ、住人達に殴り掛かろうとした正義を、航が必死に止めようとする。
そんな時だった。
「………………ん?何だこの音は?」
航が、遠くから近づいてくる音に耳を傾ける。
それに気づいた正義も、何事かと辺りを見回し始めた。
「おい、何か音が聞こえないか?」
「ああ、何だろうな?」
呑気に話す住人2人だが、残りの1人は目を見開いていた。
「この音、まさか…………いや、絶対そうだ!」
そう言って、その男は突然走り出した。
「ちょ、おい!何処行くんだよ!?」
「おい!待てっての!」
残された2人も、その男を追い始める。
「「…………………」」
その場に残された正義と航は、互いに見合ってから、3人が向かった方向へと走り出す。
そして彼等は、気づけば王宮に来ていた。
あの音を聞き付けたのは彼等だけではないらしく、他の住人やF組生徒達が集まっていた。
「うわぁ~、めっちゃ集まってるじゃねぇか」
その人だかりを見た航がそう呟いた。
「皆、あの音が気になって来たのかな……………?」
正義がそう呟いた時、轟音と共に何かが彼等の頭上を通り過ぎていった。
しかも、それは1つだけではなく、6つだ。
「(まさか、あの時とはまた別の敵か来たのか………………?)」
正義は何時でも迎え撃てるように構えるが、それらは降りてくる気配を見せない。
その代わりに、バリバリと爆音を轟かせている2つの影が、彼等の頭上に現れた。
その2つは、ゆっくりと地面に近づいてくる。
「やっぱり……………あれはガルムの奴等だ!」
先程、真っ先に駆け出した男が叫んだ。
それに驚いた住人達が、降りてくる2つに目を向ける。
「ガルムが………?」
「でも、なんで今になって来たの?」
「まさかとは思うけど…………………今になって、あのガルムのリーダーが殺された報復をしに来たとか………………?」
住人達が怯える中、その2つは地面に降り立った。
「ねえ、あの大きなコンテナ背負ってる女の人って…………」
「うん、この前別の女の人と来てたよね」
「まさか、ガルムの新しいメンバーだったなんて………」
女子生徒達がそんな言葉を交わしている間に、2人が纏っているヘリのメインローターやテールローターの動きが止まる。
「さて……………着きましたよ!」
F組生徒や住人達からの視線が突き刺さる中、その女性はコンテナの中に向けて呼び掛けるのであった。
「ふぅ…………」
無事に王都に到着し、着陸してエンジンを切ってからアリさん達に呼び掛けた俺は、フッと溜め息をついた。
「お疲れ、相棒」
アパッチを解除したラリーがそう言った。
「それにしても、此処に来るのは久し振りだね」
「ああ。魔人族の連中と戦って以来だ」
そんな会話を交わしていると、コンテナのドアが開き、パタパタと足音が聞こえる。
そして、天野達が俺の前に駆け出してきた。
「皆、ただいま!」
F組の連中に、天野がそう言った。
それに続いて、雪倉や白銀、そして先生が出てくると、F組の連中が住人達を押し退けて、天野達を囲んだ。
それから連中は、今まで何をしていたのかと、天野達を質問攻めにする。
「お疲れ様、ミー君。君には毎回、世話を掛けるね」
それを見ていると、ゆっくり歩み寄ってきたアリさんがそう言った。
「いやいや、お気になさらず」
俺は手をヒラヒラ振りながらそう返した。
それから僚機念話を使い、上空を旋回しているゾーイ達に、降りてくるよう指示を出す。
「さて……………今は彼女等との再会を喜んでるみたいだけど、それが終わってからは……………」
「ええ、分かってますよ。アリさん」
「僕も、それぐらいは予想してますから」
アリさんの言葉を途中で遮り、俺とラリーはそう言った。
あの喜びムードが終わって連中が俺等に気づき、報酬の話をすれば、間違いなく一悶着起こるだろう。
それに、その時に俺が、古代神影である事がバレる可能性が高い…………いや、今回の一件で、ほぼ確実にバレるだろう。
「(まあ、それを承知の上で此処に来たんだからな……………………やる気なら、何時でも来やがれってんだ)」
ゾーイ達が次々に着陸していく音をBGMに、再会を喜ぶ天野達を見ながら、俺は内心そう呟くのだった。