さて、F組女性陣からの集団謝罪の後、話題は白銀が持ち掛けてきた依頼の請求へとシフトしていた。
「"報酬"、かぁ…………」
「まあ、依頼したんだから、払わなきゃ駄目だよね………」
「そうだね………金銭面では結構苦しいけど………」
「依頼したら報酬を払わないといけないって決まりだから、仕方無いよね」
白銀の言葉を受けた女子達がそう言った。
「それで白銀さん、報酬は幾らなの?」
「そ、それは………」
セミロングの黒髪にヘアピンをつけた女子生徒、相生暁葉に訊ねられ、白銀は言葉を詰まらせた。
報酬の内容は、今のコイツ等には若干ハードルが高いからな。言うのも憚られるだろう。
「……………………」
暫く黙っていた白銀だが、やがて、ポツリポツリと口を開いた。
「金貨800枚と、高位ポーション36個……………コレを、3週間以内よ」
「………………え?」
白銀が内容を言うと、相生が目を丸くして、間の抜けた声を発した。
クラスの連中も、唖然とした様子で白銀を見ている。
「えっと…………ゴメン、白銀さん。もう1度言ってくれない?私、耳おかしくなったかもしれない」
「3週間以内に、金貨800枚と高位ポーション36個を支払う事が、報酬の内容よ」
白銀は即答した。
「ちょちょちょっ、ちょっと待って!?3週間以内に金貨800枚とポーション36個なんて無理よ!?」
相生が声を張り上げる。
「そ、そうだよ!幾ら何でも期間が短すぎるよ!」
「私達、この前王都復興の義援金でお金出したばっかりなのよ!?」
「つーか、なんでそんな金額払わないといけねぇんだよ!」
「散々俺等の事を邪魔者扱いしといて、金巻き上げるとかふざけてんのか!?」
クラスの連中が口々に叫ぶが、何処吹く風と言った様子で歩み出たアリさんが言葉を続けた。
「一応言っておくけど、コレは決定事項だ。ビタ一文まけないし、期間の延長も認めない。もし払えなかったら、君達勇者は全員、ガルムの奴隷に落とすのでそのつもりで」
『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』
アリさんの言葉を受け、クラスの連中は目を見開いた。
「待ってください、支部長さん!"払えなかったら奴隷"なんて話、聞いてませんよ!」
白銀がアリさんに詰め寄った。
「ああ、それについては失礼したね、カナデちゃん。でも、そう言う決まりなんだよ。コレは報酬に限った話じゃなく、何かの罪を犯して、その罰金を払えない者や、借金を返済出来ない者は、大抵こうなるのさ」
「そ、そんな…………」
白銀が、その場に崩れ落ちた。
「ふざけんなよ…………なんで俺等が、古代なんかの奴隷にならないといけねぇんだよ」
其処で、男子が呟くのが聞こえた。
「あのね………さっきも言ったけど、コレはあくまでも、君達が報酬を払えなかったらの話だ。奴隷になりたくないなら、期限内に報酬を耳揃えて用意して、ルージュに持ってきたら良いだけの話だ。簡単だろ?」
アリさんはそう言うが、男子は止まらない。
「ふざけんな!たった3週間で金貨800枚だの高位ポーション36個だの、用意出来る訳ねぇだろうが!!」
「そもそも金貨800枚って高過ぎるだろうが!なんでそんな額になるんだよ!?」
「そうだ!古代は戦闘機使えるんだから、大抵の魔物は倒せて当たり前だろうが!どうせぼったくるつもりなんだろ!」
男子が叫ぶと、アリさんは溜め息をついた。
「やれやれ、命を救われておきながら何たる言い草……………こんなのが勇者とは世も末だね…………」
そう呟くと、アリさんは再び口を開いた。
「金貨800枚と言うのはね………先ず800枚中500枚は、依頼の報酬金だ」
アリさんはそう言った。
「確かにミー君達のレベルや能力からすると、魔物の駆逐や魔人族の撃退はそれ程難しくはない。でも、仮にも勇者や国の騎士団が束になってやられるなら、かなり難易度の高い依頼として認識されるのは当然の事だ。依頼を受ける者のレベルや能力を問わずね」
まあ、確かにそうなるわな。
てか、レベルが高ければ依頼をこなすのも簡単になるから報酬金も安くなるってんなら、俺もう依頼受けねぇわ。
この国のあらゆる迷宮荒らしてアイテム乱獲しまくって、それで得た金だけで過ごしてやる。
「そして残りの300枚。コレは……………」
そう言うと、アリさんは俺の方を指差して言った。
「ミー君を殺した事への賠償金さ」
『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』
その言葉に、F組の連中や住人達は目を見開いた。
「ば、"賠償金"………?」
「ああ、そうだ」
おずおずと聞き返した1人の男子…………確か、遠堂 功太(えんどう こうた)だっけ?ソイツに、アリさんは頷いた。
「当然だろう?命の恩人を殺すなんて無礼極まりない事をして、お咎め無しで済むとでも思ったかい?」
アリさんはそう言うが、遠堂は食い下がった。
「でも、だからって300枚も払わせるなんて……………」
「それだけ、ミー君が凄い人って事さ」
アリさんが言った。
「安い方だと思うよ?私としては、彼を殺した事への賠償金として、金貨1000枚請求しても良いんじゃないかと思ってるぐらいだからね」
おいおい、賠償金が報酬金の2倍になってるんですけど?
「なっ!?き、金貨1000枚って………」
アリさんにそう言われた遠堂が狼狽えた。
「まあ、そう言う訳で」
まるで話が終盤に差し掛かったかのように、アリさんは両手をパンパンと打ち鳴らして注意を引いた。
「先日の依頼の報酬として、ミー君を殺した事への賠償金を含めて、金貨800枚と、君達勇者に使った高位ポーション36個を、3週間以内に耳を揃えて払いなさい。それが出来なければ、君達は報酬を払い終えるまでガルムの奴隷とする。以上」
そう言って、アリさんは話を終えた。
「さて、それじゃあ帰ろうか。カナデちゃん達を送り届けて、ミー君が復活した事の報告や請求の話も済ませたんだから、もう此処には用無しだ」
アリさんがそう言うと、俺達は機体を展開する。
そして、俺が展開したブラックホークのコンテナのドアを開け、アリさんが乗り込もうとした時だった。
「待ってください、支部長さん。勝手に話を終わらせないでください」
ズカズカと近づいてきた御劔が、アリさんに言った。
「何かな?報酬の件で質問でも?」
コンテナに踏み入れていた足を下ろし、アリさんが御劔に向き直った。
「先程から黙っていれば勝手な事をペラペラと……………支部長さん、先程の言葉は、今の王都がどのような状態にあるのかを知っての発言ですか?」
「ああ、勿論知ってるよ。先日の魔人族との戦いで町の建物が殆んど吹っ飛んで、今は復興作業中なんだろう?」
平然とした様子で、アリさんは答えた。
「……………それを分かっているなら、どうして王都への援助をしてくれないのですか!?苦しんでいる王都の住人を助けようとは思わないのですか!?敵の攻撃で王都が壊滅状態になったなら、この国にある他の町や村で一丸となって助け合うべきでしょう!?」
「……………………」
そう叫ぶ御劔だが、アリさんは素知らぬ顔。
すると、今度は俺に矛先を向けてきた。
「他人事のような態度を取っているが、そもそもこんなに建物が壊れたのはお前達の戦闘によるものなんだぞ!町で散々被害を出しておいて、生き返って戻ってきたかと思ったら依頼の請求だと!?人々が苦しんでいる中で、よくそんな事が出来るな!お前には、人間としての心も無いのか!?」
御劔が叫ぶと、それに続くかのように男子達から声が上がった。
「そうだそうだ!偉そうにしてんじゃねぇぞ古代!!」
「さっき其所の支部長さんは"賠償金"とか言ってたが、お前生きてるんだから賠償金なんか要らねぇだろ!」
「報酬なんか気にしてる暇あんなら、他の町行って援助するように声掛けろや!人気者なら言う事聞いてくれるんだろ!?」
「大体、町壊した張本人が金出さねぇ上に手伝いもしねぇってどういう事だよ!」
「つーか、そもそも戦闘機なんて強力な武器使えるのに、仲間である俺等に協力しないなんて、頭おかしいんじゃねぇのか!?」
「それよか、先ず其所の金髪野郎が富永達を再起不能にした事について何とかしろよ!」
「ああ、全くだ!報酬なんてくだらねぇ事で一々来て請求してんじゃねぇっての!」
「……………………」
どうしよう、コイツ等めっちゃウザい。
つか、さっき"仲間"なんて単語聞こえたけど、男子、この世界に来る前から散々俺の事邪魔者扱いしといて、それ言う?
コレこそ、さっき女子が言ってた"都合の良い時だけ頼ってる"って事じゃねぇのかよ?
いや、"頼る"と言うより"利用してる"じゃねぇかよ。頭おかしすぎるだろ。
おまけに"頭おかしい"とか言ってる奴が居たが……………少なくとも、お前がそれを言うなよ。思いっきり特大ブーメラン突き刺さったぞ。
それに富永達って、俺を殺しやがった連中だよな?
なんでソイツ等助けなければならねぇんだよ?ふざけんなよ。
「はぁ……………」
俺は溜め息をつくと、ガンシップを展開して、右腕に構えた120㎜迫撃砲を建物の1つに向けると、迷わず引き金を引いた。
『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』
砲声が響き渡り、120㎜砲弾を喰らった建物が爆散すると、場は一気に静まり返った。
「あのさぁ、男子……………お前等って俺をどう思ってんの?さっきのお前等の発言聞いてたら、俺を都合良く利用しようとしてるとしか思えねぇんだけど?」
そう言って、俺は120㎜迫撃砲をバットのように担いで男子達を睨んだ。
「そもそも、あの時白銀が持ち掛けてきたのは"依頼"…………つまり、"仕事"なんだよ。俺等は、
「それに君達、噂で聞いたんだけど敵の前で発情した上に、男子は騎士団もろとも女性型の魔物で"初めて"を卒業したんだって?"ヒューマン族の希望"とか言われてる者が戦場で性に走るとは、この国の騎士団共々情けない……………特殊能力に"魅了・催淫無効化"とか"状態異常無効化"とかあるんだから、それぐらい手に入れとけよ。相棒が城を出てから何してたの?遊んでたの?」
ラリーが言葉を続けると、勇者全員が顔を真っ赤に染めた。
連中からすれば、思い出したくもない黒歴史なのだろう。
「それに相棒は、君達勇者の内の数人の馬鹿の尻拭いをしたんだよ?しかも、怪我してるのに、君達はそれを知っていながら向かわせた。それでこの言い草か……………さっきの謝罪もあったから、少なくとも女性陣は見直せるけど……………男子は完全に駄目だね。最早救いようがない」
「"馬鹿は死ななきゃ治らない"って言うが、コイツ等の場合は死んでも治らねぇだろうな」
ラリーに続けて、ギャノンさんも口を開いた。
「……………ッ!テメェ等好き放題言いやがって!」
俺等3人からの言葉攻めで我慢の限界になったのか、遠堂が飛び出してきた。
右手を構えているのを見る限り、どうやら右ストレートを繰り出そうとしているようだ。
ラリーやギャノンさんが前に出ようとしたが、俺は2人を制した。
「……………見せしめにはちょうど良い」
そう言ってガンシップを解除し、敢えて機体を使わず捩じ伏せる事にする。
こんな奴に戦闘機使うのは勿体無いからな。
「ぶちのめしてその辺の魔物に犯させて、俺等以上の屈辱を味わわせてやるよ!」
「(うわぁ~、恩人に対して何たる言い方……………少なくともコイツみてぇな奴隷は欲しくねぇわ)」
内心そう呟き、俺は走ってくる遠堂を見据える。
昔の俺だったら捉えられなかっただろうが、今の俺からすれば、遅すぎて話にならない。
俺は腕を組んで、その場に仁王立ちする。
そして、遠堂の右手が俺の頬に叩き込まれる瞬間、直ぐに遠堂の横に移動すると、手首を掴む。
「なっ!?」
どうやら避けられるとは思っていなかったらしく、遠堂が目を見開く。
「クソッ……………おらぁっ!」
今度は左手でパンチを喰らわせようとするが、俺は咄嗟に掴んでいた右手を離し、屈んでそれを避ける。
そして遠堂の両足を掴んで立ち上がると、その場で回転して遠堂を振り回し、ハンマー投げの要領で、さっき迫撃砲で木っ端微塵に吹っ飛ばした建物の瓦礫の山へとぶん投げる。
物凄い勢いで飛んでいった遠堂は、ものの見事に瓦礫の山に突っ込み、砂埃を巻き上げた。
こんな感じで相手を圧倒した時こそ、とあるゲームのボイスチャットみたいに『はい雑魚~!』って言葉を言うべきなんだろうが、敢えて言わない事にしよう。
『『『『『『『『『『…………………』』』』』』』』』』
F組の連中はポカンとしていた。
「…………まあ、取り敢えずだ」
そう言うと、俺はアリさんがやったみたいに両手を打ち鳴らし、連中の注意を引いた。
「おい御劔、お前の質問に答えると、俺はこんな町が潰れようが何の興味も無いし、お前等が仲間なんてこれっぽっちも思ってない。協力しろだの何だの言ってやがったが……………寝言は寝てから言えや、この偽善者が」
「………ッ!お前は…………!」
御劔が尚も言い募ろうとするが、喉仏を軽く殴り付けて地面に転がし、男子達の方に蹴っ飛ばしておいた。
コレで暫くは、あのクソ忌々しく耳障りな、彼奴の独善論を聞かなくて済むだろう。
「じゃあ、そう言う事で」
俺はそう言うと、ガルム隊の面々の方を向いて頷く。
その意図を察したラリー達は、次々に機体を展開する。
ラリー達を一先ず先に飛び立たせて上空で待機させ、俺もブラックホークを展開すると、アリさんを乗せる。
そしてエンジンを掛けると、出力を上げて離陸し、上空で待機させていたラリー達に合流してルージュへと向かうのだった。
次回予告!
神影達ガルム隊やアリステラから、報酬の話を突きつけられたF組勇者達。
F組女性陣は何とかして払おうと励まし合うが、男性陣は乗り気ではなく、性懲りも無く神影を蔑み、魔術師達によって回復した正義も、神影達を責め立てるばかり。
そんな男子達に、遂に奏達の我慢も限界を迎える!
そして、奏の心情に、ある変化が……………!?
次回、第139.5話~割れる勇者達と奏の気持ち~
お楽しみに!
沙那と桜花の告白を楽しみにしてる方が居ましたら、もう暫くお待ちください。
報酬を渡す時にやりますので!