さて、着替えを終えたソブリナさんに呼ばれ、峡谷の広間へと戻ってきた俺だが、ラリーが持ってきた服に着替えた女性陣を見た瞬間に絶句した。
"服"と言っても、俺は上下纏めて服として認識していたのだが、彼女等が着ているのは"上"だけ……………つまり、"下"が無いのだ。
「おい、ラリー。お前ズボンとか持ってこなかったのか?」
俺がジト目を向けて言うと、ラリーは肩を竦めて返してきた。
「仕方無いじゃないか。上は人数分あったけど、下は20着も無かったんだよ………」
「成る程ね………」
そう言う事なら仕方無いが……やっぱり目に毒だな、この光景は。
ラリーも同じ考えのようで、彼女等を視界に入れないように明後日の方向を向いている。
「まあ、取り敢えずだ」
そう言うと、ラリーが此方を向く。
「腹減ったから夕飯にしようぜ。日も傾いてるからな」
「そ、そうだね」
意見が一致した俺達は、一先ず残りの洞穴を全て調べ、その内の1つにあった食料を持ってきた。
食料を全て運び出すと、かなりの量になっていた。
「黒雲の連中、こんなに食い物パクってったんだな」
「この人数に量………一体、幾つの村を襲ったんだろうね」
食料の山と、連れてこられた女性陣を交互に見ながら、俺とラリーはそう呟いた。
夕飯を終えてから、俺達は、これからどうするかについて話し合った。
女性陣の話を聞いた結果、20人中、シスターのエレインさんに加えて、一般人が16人、冒険者がアルディアの3人と言う事が分かった。
そのため、今日は此処で一夜を明かし、明日、彼女等を其々の村に送り届ける事に決まった。
「さてと………んじゃ、明日の予定も決まったし、今日はもう寝よう。俺が見張りやっとくから」
俺がそう言うと、女性陣は俺に気を遣ったのか、交代でやれば良いと言ってくれたが、俺より彼女等の方が精神的に参ってる筈だからと説き伏せた。
残りの洞穴を調べ、布団の代わりになるものを探し、"宴会"をする際の予備なのであろうゴザを引っ張り出して元々女性陣が閉じ込められていた牢屋がある洞穴に敷いて、彼女等を其所に寝かせた。
掛け布団になるものは残念ながら見つからなかったため、ラリーに炎系の魔法で火を起こしてもらい、何とか場を凌いでいる。
煙が充満してはいけないので、ラリーは洞穴の中に残って、数十分おきに風魔法で換気している。
「ふう………」
洞穴の外で見張りをしている俺は、後頭部で手を組んで壁に凭れ掛かっていた。
「それにしても、この短期間で色々あったなぁ……」
俺はそう呟いて、この1ヶ月にも満たない期間での出来事を思い返していた。
異世界召喚されて、ラリーに会って、富永一味からのリンチを受けて、クラスを飛び出して、ルビーンの町でラリーと再会して、冒険者登録をしたその日に盗賊を瞬殺して、レベルが一気に上がって………
「ミカゲ…………」
「ん?」
不意に声を掛けられ、俺は考えるのを中断して振り向く。
「おっ、ソブリナか」
其所に居たのはソブリナだった。
彼女を呼び捨てにしている理由だが、夕飯を食べている時にアルディアのメンバーと話をした際に、俺と彼女が同い年である事が分かり、『それなら"さん"は付けなくて良い』と言われたからだ。
因みに、エリスやニコルも、同様の理由で呼び捨てにする事になった。
「寝なくて良いのか?」
「ええ、ちょっと寝付けなくてね………傍に居ても良い?」
「お好きなように」
そう言うと、ソブリナは俺の隣に立つ。
そのまま両者の間で沈黙が流れるのだが、不意に、ソブリナが寄り掛かってきた。
「ん?」
右半身の感触に、俺はソブリナの方を向く。
「………ごめんなさい。でも、ちょっとの間………このままで居させて……」
今にも消え入りそうな声で、ソブリナは言った。
話をした時から、結構しっかりした人だと思っていたのだが…………やっぱり、捕まってる間は怖かったんだろうな。
「……………」
俺は何も言わず、ソブリナの頭に手を置いた。
「ッ!?」
一瞬ピクリとして体を強張らせるソブリナだったが、そのまま頭を撫でてやると、フッと力を抜いた。
「………何も言わないのね」
「こう言うのは、何も言わずにするモンだって親に言われたからな」
嘘だけど………
「そう………ありがとう」
小さく礼を言うソブリナの頭を、俺は暫く撫で続けていた。
「もう十分よ」
「そうか」
暫く撫で続けていると、不意にそう言われ、俺はソブリナの頭から手を離す。
「それにしても貴方達、Fランクなのに凄いわね。空を飛べる魔道具を持っているなんて………ラリーなんて、洞穴の中で質問攻めされていたわよ?」
「そ、そうッスか………」
ソブリナの言葉に、俺は曖昧な返事を返す。
因みに彼女等には、俺等が使った戦闘機については『ちょっと特殊な魔道具だ』と嘘を言っておいたのだ。
『自分は異世界人で、魔道具は、俺が元々居た世界で使われていた兵器がちょっと姿を変えたものだ』と、無理に事実を言う必要も無いだろうからな。
「さて、お前はもう寝とけ。明日から皆を村に送り返すんだ、朝早いし、何より睡眠不足はお肌に良くないぜ?お前等みたいな美人さんなら、特にな」
「ッ!び、美人………」
ソブリナが突然、顔を真っ赤に染め上げる。
もしかして、自覚無かったのか?
「も、もう寝るわ!お、おやすみ!」
「ほーい」
洞穴へと走っていくソブリナを見送り、俺は空を仰ぐ。
「もしかして俺…………やっちゃった?」
その問いに答えてくれるのは、誰も居なかった。
「さて、到着………はい、此処で降りる人~」
翌日、朝食を終えた俺達は、洞穴の1つにあった馬車を2台引っ張り出してくると、車内に女性達を乗せて、俺とラリーで分担して村々を廻っていた。
昨日あれだけ大騒ぎしたのに、馬は洞穴の中で大人しくしていたので驚いたのは秘密だ。
流石に、1度に全員乗せるのは無理なので、何回かに分けている。
今のところ、20人中9人を送り届けている。
村に到着して女性を下ろし、波のように押し寄せてきた村人に囲まれて、お礼の嵐を受ける。
『何かお礼がしたいから来てくれ』と村人達は言ってくれるのだが、『他にも送り届けなければならない人が居るから』と丁重にお断りして別の村に移動する、この繰り返しだ。
そして今着いた村で、1回目は最後だ。
「さてと………それじゃあ、俺はこの辺で。もう盗賊に襲われたりしないでくださいね」
「は、はい!」
「また何時でも来てくだせぇ!」
「何時だって歓迎します!」
「ああ!アンタは俺達の英雄だ!」
「んな大袈裟な………」
村人達からの言葉をいただいて、俺は例の山岳地帯へと戻っていった。
「さて、やっと着いた……」
道中、俺は、戦闘機を展開した状態で馬車を持ち上げたらどうなるかを試したのだが、展開していない時と比べて桁違いの力を得ている事が分かり、馬車一台程度なら余裕で担げたため、馬を野に放ち、馬車だけ担いで舞い戻った。
「お帰り、ミカゲ。お疲れ様」
「おう、ラリーもお疲れさん」
既に戻っていたラリーと、労いの言葉を交わす。
「それで、残りは………」
「うん。アルディアの3人とエレインさん、この4人だね」
俺達の視線の先には、ラリーが言った4人が居る。
「全員、行き先はルージュの町か……」
「どうやら、そうらしいね…………まぁ、ちょうど良いんじゃないかな?僕等もルージュに戻る訳だし」
「確かに、その通りだな」
俺はそう言って、空を見上げる。
朝早くから、女性達を其々の村に送り届けていたら、もう日も沈みかけている。
「どうすっかなぁ………このままルージュに向かうか、それとも一旦夜を明かしてからにするか」
そう呟いて、俺は4人の方を向いた。
「皆はどうしたい?」
「私は、今から出発したいわ」
俺の問いに、ソブリナが最初に答える。
「ええ。私もソブリナと同意見よ」
「………そろそろ、ちゃんとした服………着たい」
「わ、私も……早くシルヴィアに、顔を見せてあげたいので………」
どうやら、4人は満場一致で今から出発したいようだ。
「そっか……それなら行くか。ラリーも良いよな?」
そう聞くと、ラリーはコクりと頷く。
「良し、それじゃあ馬車に乗ってくれ。馬は野に放っちまったんで、俺とラリーで押すから」
そう言って馬車の前に立った俺だが、女性陣が不思議そうな表情で俺を見ている。
「ミカゲ………あの宝箱、置いていくの……?」
そう言って、ニコルが広間の真ん中に置いてある宝箱を指差した。
この箱は、黒雲の連中に殺された人の遺品とかが無いかと洞穴をくまなく調査していた時、隠し扉らしきものの奥にあったものだ。
恐らく冒険者のものなのだろうが、此処にあると言う事は、その冒険者は既に殺されているか、逃げた可能性が高いため、そのまま貰ってしまっても構わないとの事だ。
「いや、別に置いていく訳じゃないんだが…………俺が貰って、良いのか?」
そう聞くと、4人は一斉に頷いた。
「勿論よ」
「ええ、貴方が手にするべきだわ」
「……助けて、もらったから………欲しいなんて、言えない」
「私もです。逆にお荷物になってしまうだけでしょうから」
「そっか……じゃあ、ラリーは?」
そう聞くが、ラリーはただ、首を横に振るだけだった。
「それじゃあ………俺が貰うよ」
そう言って、俺は宝箱を収納腕輪にしまう。
これで、黒雲アジトに残るものは、何一つなくなった。
まあ、あるとすれば、俺が壊した格子や、砦の破片程度だ。
そうして、改めて俺は、4人に馬車に乗るように言おうとしたのだが………
「ああ、そうだ。ミカゲ、出発する前に良いかな?」
「ん?」
ラリーが待ったを掛けてきたのだ。
「どうした?何か忘れ物でもしたのか?」
「いや、そう言う訳じゃないんだけど………」
そう言いかけて、ラリーは広間を見渡す。
「もう、此処には用は無いんだよね?」
「…………?まあ、そうだな。この4人以外は皆送り届けたし」
ラリーの問いに、俺は頷いた。
「じゃあさ、ちょっとやりたい事があるんだけど、良いかな?直ぐ終わるから」
「ああ、別に良いぜ」
俺がそう言うと、4人も同調した。
「ありがとう。それじゃあ、危ないから全員下がってて」
「………?ああ、分かったよ」
そう言うと、俺はその場にラリーを残して馬車を担ぎ、4人を連れて広間から出る。
「うん、その辺りで良いよ!」
そう言われて立ち止まり、俺達はラリーの方を向く。
目視で、大体20メートル程離れている。
「こんなに離れさせて、何をするつもりなのかしら?」
ラリーがやろうとしている事が全く理解出来ず、エリスが首を傾げている。
そんな俺達を余所に、ラリーは広間の方を向いて両手を前に出している。
「…………ッ」
すると、何故かニコルが顔を強張らせている。
「ラリー、魔法使おうとしてる………」
「魔法?此処で?」
俺が聞き返すと、ニコルは頷いた。
「それも、普通の魔法じゃない………凄く、強力な魔法……」
「"凄く"って言われても…………具体的に、何れぐらいなのよ?」
そう聞くエリスに、ニコルは顔を向ける。
強張った顔からは冷や汗が流れ出ている。
「多分だけど………ヒューマン族の比じゃ、ない…………もしかしたら、魔人族クラス、かもしれない…………」
「な、何ですって!?」
「う、嘘っ!?」
「そ、そんな事って………!?」
ニコルの言葉を聞いた3人が戦く。
俺の場合は、既にラリーから聞いているから大して驚かないが、初めて聞いた3人からすれば、トンでもない話なのだろう。
そうしていると、向こうの様子に変化が出始めた。
山の上に、今まで見てきた中でも最大とも言える程大きな魔法陣が現れたのだ。
「な、何なの!?あの巨大な魔法陣は!?」
「す、凄い…………」
「あんなの………私でも、無理………」
「…………」
軽くパニック状態に陥っているアルディアの3人。因みにエレインさんは、口をポカンと開けて絶句していた。
つーかラリーよ、お前こんな魔法使えるのに"没落魔術師"とか呼ばれてたのかよ…………
そう思っていると、遂にラリーの魔法が放たれた。
「"
ラリーがそう言うと、魔法陣が強い光を放ち、次の瞬間には、まるで目の前で核爆弾が炸裂したような、物凄い爆発が起こる。
爆風が吹き荒れ、目映い光が視界を、轟音が聴力を奪い去る。
俺は吹き飛ばされないように地面に伏せると、固く目を瞑り、両手で耳をキツく押さえていた。
暫くして爆風や音が止み、俺はその場に座ると、目を2、3回程擦ってから恐る恐る開ける。
そして、俺の目に飛び込んできたのは……………
…………爆発で7割方消滅した山と、無傷で立っているラリーの姿だった。
つーかラリーよ、お前そんなんじゃ航空傭兵の天職無くても十分やっていけるんじゃねぇのかと思った俺は悪くない………筈だ。
初めてルビ使った!