航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第153話~王女からの話と、ラリーの怒りの暴走~

「さて………………それでは、貴女の話を聞かせていただきましょうか?エリージュ王国第1王女、ユミール・フォン・エルダント殿下」

 

さて、天野達F組勇者からの話が終わり、今度はこの国の王女さんが話をする番になった。

アリさんが視線で促すと、王女さんはコクりと頷く。

 

《ラリー、念のために言っておくが、此処で変な真似はするなよ?》

 

王女さんの話次第ではラリーがぶちギレて暴れかねないため、俺は僚機念話で念を押しておく。

 

《ああ、分かってるよ相棒……………さっき、ギムレーに叱られたばかりだからね》

 

そう答えるラリーだが、僚機念話で聞こえてくる声からは、王女さんへの怒りを隠しているのが感じられた。

チラッとラリーの方に目を向けると、努めて表情に出さないようにしているのが見える。

 

一先ずラリーが踏み留まっているのを確認した俺は、まるで様子を窺うかのように此方を見ていた王女さんに視線を移し、話を始めるように促す。

それに頷き、王女さんは今度こそ、話を始めた。

「単刀直入に申しますと…………………」

 

そう言いかけた王女さんは、少しの間を空けてから再び口を開いた。

 

「………我々王都の方に、そちらの食料を提供していただきたいのです」

「食料…………ですか?」

 

そう聞き返したアリさんに、王女さんは頷いた。

 

「………………………」

 

ラリーは、彼女が自分達にちょっかいを出しに来たと思っていたのか、王女さんの言葉に目を丸くしていた。

さっきまでの怒りや警戒心は抜けきって口を小さく開けており、何処と無く間の抜けた表情を浮かべている。

かく言う俺も、どのように反応すれば良いのか分からず、ただ呆然としていた。

 

そんな俺とラリーを置いて、アリさんと王女さんの話は続く。

「一応聞きますが、それはどのような理由で?」

「それが…………」

 

王女さんは、何やら気まずそうに話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その内容はこうだ。

 

以前の魔人族の一件で、他の町や村からの信用が失墜した王都は、何処からも支援を得る事が出来ず、ずっと城に保管していた非常食を住人達に配給してきたのだが、それらが貴族や勇者達の方に優先的に回されており、そうしている内に、残りの非常食が少なくなってしまったと言うのだ。

無事だった畑を利用して、野菜や果物の栽培を始めたようだが、普通に考えて、それで間に合う訳が無い。

このまま放置しておけば、何時かは貯蔵庫の非常食が底を突き、収穫前に飢えで倒れたり、栄養失調を起こしたりする者が現れるのは火を見るより明らか…………いや、既に何人かはそうなっているらしい。

だから王女さんは、せめて食料だけでも提供してもらうために直談判しようと思い付き、こうしてF組女性陣と共にルージュにやって来たと言う訳だ。

 

「成る程、王都ではそんな事に…………」

 

そう言って、アリさんは胸の前で腕を組み、背凭れに凭れ掛かった。

………………何と言うか、少なくとも同情してるようには見えないな。

 

「虫の良い話だとは分かっています。ですが、やはり飢えで苦しむ住人達を放っておく事は出来ません。ですから…………」

 

そう言いかけると、王女さんはアリさんの方に体を向けて、土下座でもするのかとばかりに深々と頭を下げた。

 

「お願いします……………どうか私達に、力をお貸しください」

「ゆ、ユミール!?」

 

そんな彼女に天野が声を上げ、他の3人も目を見開いた。

ギルド支部長と言うのが何れ程偉いのかは分からんが…………相手が何であれ、一国の王女が土下座する勢いで頭下げてるんだから、そりゃ驚くわな。

アリさんだって、多少驚いたり…………

 

「…………………」

 

………………あれ?この人表情1つ変えてねぇぞ。全然驚いてないんですけど。

 

《ね、ねえ相棒。さっきから支部長さん黙ってるけど、なんで?》

《いやいや、俺に聞かないでくれよ。分かる訳ねぇだろ》

 

僚機念話で話し掛けてきたラリーに、俺はそう返した。

全く返されない返答に、王女さんも恐る恐る頭を上げて、アリさんの様子を窺っている。

それから何とも気まずい時間が数分過ぎ、アリさんは漸く口を開いた。

 

「彼女はこのように言っているけど……………ミー君にラリー君、2人はどう思う?」

「「…………ファッ?」」

 

急に話を振られた俺とラリーは、揃って間抜けな声を発してしまう。

 

「彼女の話を聞いて、2人はどう思ったんだい?」

「どうって……………まあ僕としては、王都の奴等が死に絶えようが興味ありませんけど………」

「ッ!?そ、そんな………どうして………!」

 

改めて聞き直してきたアリさんにラリーが答えると、王女さんは信じられないと言わんばかりの表情を浮かべた。

そして、身を乗り出してテーブルを叩き、ラリーに詰め寄った。

 

「どうして、そのような事を仰有るのですか!?昔の貴方は、この国の事を誰よりも真剣に思っていた筈です!」

「……………………」

 

そう叫ぶ王女さんだが、ラリーは胸の前で腕を組んだまま喋らない。

 

「この国でも、貴方やミカゲ殿の噂は聞いています!黒雲の討伐や魔物騒動の解決、その他数々の依頼をこなし、史上最短でSSSランクに上り詰めたと!それに先日は、魔人族の襲撃から王都を守った上に、サナ達を救ってくださいました!貴殿方は誰よりもこの国に貢献したのに、どうしてそのような事を!」

 

その時、俺はこう思った。

 

──王女さんは、俺達の事を何も分かってない──

 

確かに俺達は、冒険者登録をして早々、エリージュ王国やクルゼレイ皇国にとって目の上のたん瘤だった黒雲を殲滅した。

それに数々の依頼をこなして、Fランクから短期間でSSSランクへと上り詰めた。

そして先日は、白銀からの依頼を受けて魔人族相手に苦戦してた勇者や騎士共を助けたし、盗賊に捕まった白銀達を救出した。

だが、それらは別に、連中のためにやった訳ではない。

俺達が冒険者だから……………………俺達の仕事だからやっただけに過ぎないのだ。

それを王女さんは、"国のため"と言う都合の良い解釈をしてしまっているようだ。

 

口では何だかんだ言っても、最終的には自分達を助けてくれると…………そんな事を思っているようだ。

 

「(何をどうすれば、そんな考えが浮かんでくるんだか…………)」

 

俺は内心そう呟いた。

 

王女さんとラリーにどんな事があったのかは知らんが、ラリーがいきなり殺気を撒き散らすとしたら相当なものだろうし、俺だって、エリージュ王国の上層部に対して何の恨みも無いと言ったら嘘になる。

 

騎士団長のフランクさんは別としても、ラリーの同期と思わしき騎士は、少なくとも俺に良い目は向けていなかった。

宰相や他の重鎮も、明らかに俺を邪魔者扱いしていた。

それに王女さんや王妃さんも、基本的に勇者の方に興味を向けており、称号が無かった俺の事など歯牙にも掛けていないように見えたからな。

「(それで、今になって手のひら返しってヤツか、マジで虫の良い話だな…………ラリーがマジ切れしても不思議じゃねぇぞ)」

 

そんな俺の予想は、完全にドンピシャだった。

 

「…………テメェいい加減にしろよ、ピーチクパーチク勝手ばかり喚きやがって、このアマ!」

「いっ………あぐっ!?」

 

俺の隣から、低い声が放たれると共に乾いた音が響いた。

それにハッとなった次の瞬間には、苦悶の表情を浮かべて両手で腹を押さえた王女さんが、反対側のソファーに押し返されていた。

ソファーの背凭れに背を打ち付けた王女さんは、腹を押さえた状態で蹲る。

 

視界の隅に、引っ込められていくラリーの足が見える。

どうやらラリーは、詰め寄ってくる王女さんをウザがって、肩を掴んでいた手を強めに払い除けた上に蹴り飛ばしたようだ。

 

それにしても、下手に強すぎず、かと言って弱すぎず……………コイツはまた、絶妙な力加減をしたようだな。

 

「ッ!?ちょ、ちょっと貴方!何をするのよ!」

「乱暴は止めてください!」

 

白銀や雪倉が、非難の声を上げる。

 

「五月蝿ぇ!何も知らない外野は黙ってろッ!!」

 

だが、2人の非難は、その一言で封殺された。

 

そうして立ち上がったラリーは、天野の魔法で痛みを和らげてもらっている王女さんを冷ややかな目で見下ろした。

 

「言っておいてやるよ……………俺は、お前や王国の連中の事なんて、大嫌いだ」

その一言は、この支部長室の雰囲気をさらに重いものにした。

 

「お前も王妃も、俺に『期待してる』とか『信じてる』とかの言葉を並べ立てて、いざ事故を起こした時には宰相が流した噂をあっさり信じて、それについて俺が何れだけ弁明しようとしても聞こうとしなかったよな…………話を聞いてくれるよう懇願しても聞き入れてくれず、挙げ句の果てには魔法ぶつけて吹き飛ばした上に、衛兵何人も差し向けて袋叩きにしてくれやがったよなぁッ!!アアッ!?」

 

そう言って、ラリーは振り上げた足をテーブルに叩きつけた。

すると、物凄い音と共にテーブルは木っ端微塵になり、さらに床を突き破って1階へと落ち、これまた物凄い音を響かせた。

 

「…………ん?」

 

其処で俺は、一端思考をストップさせる。

 

「(ちょっと待て。ラリーは今…………何やった?)」

 

内心そう呟き、俺は恐る恐る視線を下に向ける。

俺の視線の先には、木製の床にデカデカと開いた大穴があり、その穴から、何事かとパニックになっている冒険者達の姿が見えた。

 

…………って!コイツ支部長室の床をテーブルごとぶち抜きやがった!?

 

「ちょ、おいラリー!もうその辺で止めとけ!これ以上やるのは流石にマズい!」

 

立ち上がった俺は、何時の間に作り出したのか、禍々しい色の巨大な槍を構え、今にも突き出そうとしているラリーを羽交い締めにした。

 

「ッ!?離せよ相棒!このクソアマ、さっきから聞いてりゃ舐め腐った事ほざきやがって!その忌々しい顔面串刺しにしてやらねぇと気が済まねぇ!」

 

だが、こればっかりはラリーも言う事を聞いてくれず、逃れようと抵抗する。

 

クソッ、俺と同じ人外ステータスな上に魔神とのハーフであるだけあって、力めっちゃ強いなコイツは…………!

 

「離せって言ってんだろ相棒!これ以上邪魔するなら、お前が相手でも容赦しn───ッ!?」

 

強引に俺を振り払って睨み付けてきたラリーは、最後まで言い終えずに倒れた。

 

「ふぅ……………さっき叱ったばかりだってのに、コイツはまたやりやがったのか………」

 

呆れたようにそう言ったのは、ギムレーだった。

 

「神影、取り敢えずソイツを宿の部屋に連れていけ。んで、起きたら壊した床修理するように言っといてくれ」

「あ、ああ。分かった」

 

俺は頷くと、アリさんに床を壊した事を謝って1階に降り、他の冒険者や、待機していたF組女性陣やガルム隊メンバーに怪我人が無い事を確認すると、騒がせた事を謝ってから宿へと向かうのだった。


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