「…………………」
7割方消滅した山と、さっきの大爆発の余波を受けていないかの如く無傷で立っているラリーを、俺は呆然と眺める。
ラリーの魔力の膨大さは、出撃前に見せてもらったステータスからして、一般の魔術師とは全然違うものだと分かっていたつもりだが、こうも格の違いを見せつけられると、言葉を失ってしまうと言うものだ。
「う、ううっ………」
「す、凄い爆発だったわね………」
「頭…………ガンガン、する………」
「こ、こんな魔法を見たのは………初めてです………」
俺と同じように伏せていたアルディアの3人とエレインさんも漸く起き上がる。
「おう、皆。大丈夫か?」
俺がそう聞くと、4人は頷く。特に誰も、怪我はしていないようだ。
「それで、ミカゲ………あの後、どうなったの………?」
傍に寄ってきたニコルが、そう訊ねてくる。他の3人も此方を向いて、俺の返答を待つ。
俺は答える代わりに、後ろを見てみろとばかりに指差した。
そして、4人は俺の後ろに広がる光景を目の当たりにして…………
「「「「……………え?」」」」
…………揃いも揃って、間の抜けた声を漏らした。
「ね、ねぇエリス?此処って更地だったかしら?」
「い、いいえ………確か、此処は山岳地帯になっていた、筈よ……?」
「でも、その山……殆んど、消えてる………」
「……………」
唖然とした表情でそんな会話を交わすアルディアの3人。
そしてエレインさんは、やはりと言うか何と言うか、口をポカンと開けて絶句していた。
「いやぁ~、久々に魔法撃ってスカッとしたよ!」
其処へ、満足げな表情を浮かべたラリーが戻ってきた。
あんな超強力な魔法を使ったばかりなのに、全く疲れた様子も見せずに悠々と歩いてくる。
そしてラリーは、唖然とする俺等を見て目を丸くした。
「………あ、あれ?皆、どうしちゃったの?なんで、そんな化け物を見るような目で僕を見てるの?」
「胸に手を当てて考えてみやがれ!」
「あべしっ!?」
全く自覚していないラリーに、俺のツッコミ&拳骨が炸裂したのは言うまでもないだろう。
まあ、そんなこんながあって、俺達はアルディアの3人とエレインさんを馬車に乗せ、黒雲アジト(があった場所)を出発して、ルージュの町へと向かっていた。
俺とラリーは戦闘機を展開した状態で馬車を動かしているため、出発してから2時間程経った今でも、大して疲れていない。
「ミカゲ、そろそろ1回目の休憩にしたらどうかな?」
不意に、後ろから馬車を押しているラリーがそんな提案をしてきた。
「どうした、疲れたのか?」
「ううん、僕は大丈夫なんだけど…………流石に、こんな狭い馬車の中でルージュに着くまでぶっ通し揺られ続けるなんて、彼女等には辛いんじゃないかな?」
言われてみれば、確かにその通りだ。俺とラリーは平気でも、密閉された車内に居る4人の事も考えなければならない。
「そうだな………良し!それじゃあ1回、休憩するか!」
「うん!」
そうして、俺とラリーは馬車を停める。
それから馬車のドアを開け、中に居る4人に小休止を取る事を伝える。
すると、4人はゾロゾロと馬車から降りてきて、大きく伸びをしている。
「う~~んッ!久々の外の空気ね!」
真っ先に馬車から降りたソブリナが、体を軽く動かしながら言った。
「ほらね?冒険者とは言え、流石にぶっ通しはキツいんだよ」
「そうみたいだな………以後、気を付けるよ」
俺はそう言って、外の空気を吸っている4人を見ていた。
「さて、やっと着いたぞ」
あれから出発した俺達は、1時間移動したら小休止を取ると言うサイクルを繰り返していた。
遂に、ルージュの町に到着した。
ルージュの町の門には門番が居るため、俺とラリーは、門番に見つからない内に戦闘機を解除する。
すると、今まで軽かった馬車が重くなった。
まあ(勇者じゃない上にクラス最弱とは言え)、俺やラリーはステータスが一般人のステータスよりも遥かに高いので、戦闘機を解除した瞬間に動けなくなる、なんて事にはならなかった。
そのまま馬車を門まで持っていく。
「其所の者達、止まれ」
門番に指示され、俺とラリーは馬車を止める。
「町に入る前に、ステータスプレートかギルドカードを見せてくれ」
そう言われ、俺とラリーはギルドカードを見せる。
「ふむ、お前等冒険者なのか…………若いのにやるな」
「まあ、最近なったばかりの新米ですけどね」
感心したような表情で言う門番に、俺はそう言った。
「そうだったのか……まあ何はともあれ、冒険者なら、通行料は要らん。ただ……」
そう言うと、門番が馬車の方に目を向けた。
「その馬車に乗ってる奴等も下ろしてもらいたいんだが」
「あ~、それなんですけど、下ろすのはちょっと……」
「どうした、何か不味いのか?」
「それがですねぇ、この馬車に乗せてる人達は、盗賊に捕まって連れていかれそうだった人達なんですよ」
「それで僕等が助けたんですけど、服を剥ぎ取られたらしくてね、今はロクなものを着ていないんですよ。プレート類だってありませんしね」
怪訝そうな表情で訊ねてくる門番に、俺とラリーはそんな嘘を言った。
小休止の時は、俺達だけで他に人が居なかったから良かったが、流石に、上だけ着て"下"が無い状態の彼女等を人前に出す訳にはいかない。
「そ、そうだったのか、それなら仕方無いな……………なら、人数分の通行料を払ってもらう事になるが、良いか?」
「はい、それで構いません」
そう答えると、俺とラリーで金を出し合って4人分の通行料を払い、町に入った。
ギルドを目指して、静まり返った夜の町を練り歩く。
こんな真夜中だから、ギルドが開いているかどうか不安だ。
まあ、開いていたら万々歳だが、もし閉まっていたら、一先ずギルドの真ん前で開くまで待ち、開いたら直ぐ様入るって感じかな。
理由は…………まあ、言うまでもないだろう。
「………っと、そうこうしてる内に着いたな」
ギルドの前で馬車を止め、俺はそう言う。
ギルドを見ると、ドアと地面の隙間から光が出ている。未だ開いているようだ。
「よっしゃ、ラリー。開いてるみたいだから早く皆を中に入れて………ん?」
そう言いながらラリーの方を向く俺だが、何故かラリーは、怪訝そうな表情でギルドを見ている。
「どうしたんだ?」
「………ギルドは本来、この時間帯は閉まってるんだよ」
「え、そうなのか?」
ラリーから返された答えに、俺はそう聞き返す。
昼間のような喧騒は聞こえてこないが、明かりが点いていると言う事は、開いてると見て間違いないだろう。
だが、本来なら、この時間帯は閉まっている………どういう事なんだ?
「取り敢えず、俺が行ってみるよ。ラリーは此処で、4人を頼む」
「了解」
ラリーに言って、俺はギルドのドアに触れて、軽く押してみる。
ドアは、軋むような音を立てながら開いた。
「おっ、開いてる………何だよ、この時間帯はやってないんじゃなかったのか?」
疑問は深まるばかりだが、此処で考えていても仕方無い。開いてるなら開いてるで、中に入ってみようじゃないか。
俺はドアを開けて、中に入っていった。
「失礼しま~…………あれ?」
中に入った俺は唖然とした。
ギルド内はがらんとしており、酒場で酒を飲んだり、以来の掲示板の前に立っている冒険者は勿論、受付嬢の姿も見当たらないのだ。
「誰も居ないなんて、不用心だなぁ………」
そう小さく呟き、俺は受付カウンターの前に立つ。
「すんませーん!」
試しに一声掛けてみるが、返事は返されない。
………誰も居ないのだろうか?
「う~ん、どうしたもんかねぇ………」
此処で返事が返されたら話は違ってくるのだろうが、返ってこないんじゃなぁ………
取り敢えず外に出ようと、踵を返そうとした、その時だった。
「はーい!」
奥の方から、誰かの声がしたのだ。
この可愛らしい声は、間違いなく…………
「す、すみませ~ん!もうギルドは閉まってる時間なので…………って、えっ?」
パタパタ走ってきた、茶髪ショートボブでおっとりした雰囲気を醸し出している女性………エスリアさんだ。
「あ、貴方は確か………」
「ああ、ミカゲです。ミカゲ・コダイ」
「う、嘘ッ!?」
俺が名乗ると、エスリアさんは口を両手で覆って驚く。
「ほ、本当に……?」
「ええ。正真正銘、ミカゲ・コダイ本人ですよ」
「……ッ!よ、良かった…………」
そう言って、エスリアさんはヘナヘナと座り込んでしまう。
「シルヴィアさんから……貴方達が、彼女からの依頼を受けたって、聞いたんです……無茶だから、止めようと、したのですが………もう、出発していて………」
徐々に俯き、言葉を詰まらせていくエスリアさん。
肩がヒクヒク動いている辺り、泣いているようだ。
「…………すみません、心配掛けました」
そう謝ると、彼女は首を横に振る。
そして顔を上げると、泣きながらも笑みを浮かべて言った。
「無事で……本当に、良かったです………!」
「……」
そう言われた俺は、少しの間エスリアを見ていた。
そして、両足を揃えて敬礼した。
「Fランク冒険者、ミカゲ・コダイ。ただいま帰還しました!」
「………ッ!はい!」
そう言って、エスリアさんも俺を真似て敬礼したのだが………………
エスリアさん、敬礼する手が左右逆ですよ。
その後、俺は外に出てラリーに言うと、アルディアの3人とエレインさんを連れてギルドに入り、今後について話し合った。
先ず、アルディアの3人やエレインさんが持っていたギルドカードは再発行する事が決まり、其々金貨1枚ずつ支払わなければならないのだが、身ぐるみ剥がされた4人がお金を持っている訳が無いので、一旦ギルドの方で仮のカードを発行し、後々返済していくと言う事になった。
問題は彼女等の服や下着類なのだが、それについては俺が、報酬の中から払う事にした。
4人は『其処までしなくて良い』と言っていたのだが、金が無い状態で服を買える訳が無いだろと説き伏せておいた。
そんなこんなで話は纏まり、報酬の受け取りや、エレインさんとシルヴィアさん(ずっと奥の部屋で祈ってたらしい)の顔合わせを明日にする事で話は纏まり、俺達は、ギルドにある別室で休む事になった。
残念ながらベッドではなくソファーだったが、まあ休めるんだから、文句は言うまい。
次はサイドストーリーです。