これは、神影が王都を出た事がF組の女子生徒や、担任のシロナに知られた後日………時期的には、神影とラリーが黒雲を殲滅していた頃の出来事である。
天野沙那、雪倉桜花、白銀奏の3人は、神影の似顔絵が描かれた紙を持って、王都内を歩き回っていた。
神影捜索の日になるまで、各自で自主練する事になったF組だが、彼女等3人は、神影が未だ王都の何処かに居る可能性も否めないと言う事で、空いた時間に、こうして神影を探しているのだ。
「いや、すまんがこのような少年は見た事が無いのう………」
「そうですか………ありがとうございます」
道行く人々に神影の似顔絵を見せては、彼を見ていないかと訊ねる3人だが、結果は先程訊ねられた老人の反応の通り、全員答えは"NO"一択だ。
「やはり、誰も古代さんを見たと言う方は居ませんね……」
老人と別れた後、桜花が悲しげに似顔絵を見ながら言った。
「ええ。これだけ探したのに誰も見ていないと言うなら………古代君はもう、この町を出ていると思うわ」
奏がそう言うと、沙那は悲しげに目を伏せた。
王都を出たとなると、捜索の日になるまで待たなければならない。
その間は自主練に費やす事になるだろうが、このような状態で、練習に集中出来る訳が無いと言うのは言うまでもない事だろう。
「それに、こんな事を言うのもアレだけど………そもそも古代君が何処へ向かったかが分からなければ、探しに行っても無駄骨になるだけだけよ。手懸かりすら掴めなくなるわ」
奏が尤もな事を言った。
以前にも伝えたように、王都には東西南北に門がある。
神影がどの門から出たのか分からなければ、全く関係の無い所へ向かってしまう事になる。
「そうだね………」
「せめて、どの門から出たのか分かれば……」
沙那と桜花が、溜め息混じりにそう言った。
「それもそうだけど、そろそろ戻りましょう。流石に、一日中探し回る事は出来ないわ」
このまま神影を探し続けたい2人だったが、訓練を疎かにする訳にはいかない。
そのため、奏の言葉に頷くしかなかった。
「お帰りなさいませ」
王宮に戻ってきた3人を、神影の専属メイドだったセレーネが出迎えた。
神影が出ていったために仕えるべき主が居なくなった事により、彼女は他のメイド達の手伝いをする事になったのだ。
「ただいま、セレーネさん………」
「その様子では、今日もですか?」
そう訊ねるセレーネに、沙那は頷いた。
「王都内を探し回ったのですが、やはり見つからなくて………」
「そうですか…………あっ」
肩を落として言う桜花にそう返したセレーネだが、ふと、何かを思い出したような仕草を見せた。
「そう言えば、ラリー・トヴァルカインには会いましたか?」
「ラリー・トヴァルカイン?誰ですか?」
ラリーに会ったかを訊ねるセレーネに、沙那が聞き返した。
「今年度の王立騎士・魔術師士官学校の卒業生の1人です。金髪で緑色の目をした男なのですが………会っていませんか?」
そう言うセレーネに、3人は首を横に振った。
「恐らく彼なら、ミカゲ様について何か知っているかもしれません」
「ほ、本当ですか!?」
セレーネの言葉に、沙那が食いついた。隣に居る桜花も、見えてきた希望に目を輝かせている。
「そ、それで、ラリーって人は何処に居るんですか?」
「恐らく、ルビーンに居るかと思われます。彼はとある事情で、親衛隊や騎士団には入っていませんし、彼はルビーン出身ですので」
「ルビーン……確か、王都の北の門を出た先にある町ね」
奏が、取り出した地図を見ながらそう言った。
それから、3人は最初にルビーンの町に行く事を決め、訓練に戻っていった。
「あっ、天野さん達だ!」
「お帰り!」
訓練場にやって来た3人を、他の女子生徒達が出迎える。
「うん、ただいま」
「それで、どうだったの?」
「何か手懸かりは掴めた?」
沙那が答えると、3人は早速質問攻めにされる。
沙那は若干あたふたしながらも、セレーネから聞いた話を伝えた。
「だから、神影君を探す時、先ずルビーンって町に行こうと思うんだけど………」
「良いよ!」
「ラリーって言ったっけ?その人にも会ってみたいしね!」
「イケメンだったらどうしよう~!」
沙那の提案に、他の女子生徒はノリノリだ。
後から話に入ってきたシロナにも伝えると、彼女も賛成した。
神影について、何かしらの情報を持っていると思われる人物が居るなら、先ずその者に会おうと思うのは当然の事だ。
『『『『『『……………』』』』』』
F組の女性陣が盛り上がっている中、男子陣は全くもって逆の雰囲気を出していた。
神影が出ていった日、沙那や桜花に拒絶染みた言葉をぶつけられた上に、クラスの女性陣からの信用も下がってしまった彼等だが、性懲りも無く、神影が居ない今なら、未だチャンスはあると考えていたのだ。
それが戻ってくるかもしれないとなったのだから、そんな彼等からすれば、神影の捜索は気分が乗らない話なのだ。
「チッ!どいつもコイツも古代古代言いやがって………そんなにあの無能が良いのかよ」
支給された短剣で素振りをしながら、秋彦はそう言った。
横に居る慎也も、不快そうな目で女性陣を見ている。
「(全く………天野さんも雪倉さんも、なんであんな奴に構おうとするんだよ…………僕の方に来たら、両方共受け入れてやると言うのに……)」
先日、沙那が神影を好く理由や、神影以外の男子達が気に入らなかった理由を叫んだのにも関わらず、慎也はそんな事を考えていた。
彼や他の男子達が、沙那や桜花、奏に好意を寄せる理由は簡単。
彼女等3人が、揃いも揃って美少女だからだ。
そんな3人の内の1人と交際すると言う事になれば、学校では騒ぎになるだろうし、自慢も出来る。
それに加えて、3人揃って非常にスタイルが良く、特に奏においては、グラビアアイドル顔負けのプロポーションを誇る。
"そっち方面"について思う者も多々居るのだ。
だが、沙那と桜花は神影に好意を寄せており、奏も、好意とまではならずとも、少なくとも神影を信用している。
そんな彼に嫉妬して、男子達は神影を排除しようとした。
神影の魔力や魔耐が極端に低い事を知っていて、複数で寄って集って攻撃した冨永功や他の4人は、その過激派とも呼べるだろう。
因みに、彼等は既に謹慎を解かれており、訓練に復帰している。
神影が王都を出た事を伝えられた5人は、シロナや女子生徒達の前では、驚いたり、後悔するような反応を見せていたが、男子だけになると、すっかり何時もの調子を取り戻していた。
「………」
慎也達同様、功達は不快そうな表情で女子生徒達の話を聞いていた。
謹慎を解かれて訓練に戻った時、女子生徒達から彼等に向けられたのは軽蔑の視線だった。
特に沙那達3人の場合はさらに酷く、沙那が功に掴み掛かるのを奏が羽交い締めにして止めるような事態が起こったりした。
それからは、沙那達は功に話し掛けられた際、奏は嫌々ながら答えるものの、沙那と桜花は真っ向から拒絶するような状態になっていた。
「(チッ!なんであの程度でこんなに怒られなきゃならねぇんだよ。ちょっと教育してやろうとしただけだってのによぉ………)」
全く反省していない功は、内心そんな事を呟いていた。
これでは、神影が出ていっても、沙那達に何も手出し出来ない。
それに沙那達は、神影を探し出して、自分達の元に連れ戻そうと躍起になっている。
これで神影が見つかり、王宮に戻ってくるような事になれば、沙那達を手に入れられる(と勝手に思っている)可能性が0になる。
「(取り敢えず、ラリーとか言う奴が居たら、あのキモオタの事は何も喋らないように脅しとくか……それで、もしキモオタと鉢合わせなんて事になったら…………)」
心の中にドス黒い感情を渦巻かせ、功は黒い笑みを浮かべた。
「…………」
ワイワイとはしゃいでいる女子生徒達の中から、そんな功を視界に捉える者が居た。
奏だった。
日頃から、ボディーガードも兼ねて沙那達の傍に居た奏。
彼女等に何度もアプローチを掛けてくる男子達を見ている間に、彼等の魂胆を直ぐ読み取れるようになっていた。
「(冨永君、あの様子だと全然反省していないわね………それに、何か良からぬ事も考えてる……警戒する必要がありそうね………)」
「……?白銀さん、どうしたの?そんな難しい顔して」
無意識の内に表情が険しくなっていたらしく、それを疑問に思った女子生徒の1人が声を掛けてくる。
「ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていただけよ」
そう言って誤魔化した奏は、何時の間にか他の女子生徒達に囲まれて冷やかされている沙那と桜花に目を向けた。
「(こうしている間は元気だけど、やはり、彼が居なかったら………古代君、沙那と桜花をこんなにしておいて、貴方は今、何処で何をしているの………?)」
彼女の心の内とは逆に清々しさを見せている青空を仰ぎ、奏は神影の事を思っていた。
そして2、3日が経った日ーーちょうど、ラリーとエメラリアによる空中模擬戦が行われた日ーーの早朝、ルビーンの町を目指して、F組の生徒達とシロナを乗せた馬車が動き出した。