「そうだ、TACネームを決めよう!」
エメラリアのガルム隊加入が決まってから、俺はそんな事を提案していた。
「た、タックネーム?何それ?」
俺が提案すると、エメラリアがTACネームの意味を訊ねてきた。
「俺が居た世界では、空軍と言って、戦闘機を使う軍隊があってな。TACネームってのは、戦闘機の操縦士個人が持つ非公式名称だよ」
「う~ん……………つまり、チームの中でのあだ名みたいなヤツ?」
「まあ、大体そんな感じだ」
戸惑いながらも的を射た事を言うエメラリアに、俺は頷いた。
ラリーは"航空傭兵"の天職をコピーした時に知識の1つとして叩き込まれたらしく、エメラリアのような反応は見せていない。
「TACネームか…………うん、良いんじゃないかな?職務上の名前なら、昔からの知り合いが相手じゃない限り、本名を知られずに済むからね」
俺の意見に、ラリーが賛成した。
さて、此処からが本題だ。
「実はな、俺とラリーのTACネームは既に考えてるんだ」
「へぇ~、どんなの?」
俺がそう言うと、ラリーが興味津々な様子で聞いてくる。
「俺が"Cipher(サイファー)"で、お前が"Pixy(ピクシー)"だ」
「"ピクシー"?」
「そうだ、"妖精"を意味する単語だ」
俺がそう言うと、エメラリアは弱冠難しそうな表情を浮かべた。
「"妖精"………少なくとも男のラリーには合わなさそうね」
「まあ、そう言うなよ。それにこのTACネームには、それなりの意味があるんだぜ?」
そう言って、俺は"ピクシー"と言うTACネームに込められた意味を話した。
因みに、知ってる人は知ってると思うが、"サイファー"も"ピクシー"も、エースコンバットシリーズの1つである、『エースコンバットZERO THE BELKAN WAR』における主人公と、その僚機を務めるラリー・フォルクのTACネームだ。
そして、ラリー・フォルクの二つ名は"
任務中に右主翼を失いながらも、脱出せずに任務を完了し、帰還した事から付けられたものだ。
そして、F-15cの右主翼が赤く塗装されているのも、それを誇るかのようだ。
「………そんな奴の機体を使えるなんて、光栄だとは思わんかね?」
少しばかりドヤ顔をして言ってみる。
別に俺が考えた訳じゃないが、やはり、エースコンバットシリーズでも"超"が付く程有名なキャラ仕様の機体を使えるのは嬉しいものだ。
現に、俺だってラリーのF-15cのカラーは羨ましいと思っている。
まあ、かくいう俺も、"
「成る程………そう言われてみると、確かに嬉しいね」
「そうだろ?」
納得したような表情で言うラリーに、俺はそう返した。
エメラリアも納得したらしく、モルガンのカラーがピクシー仕様な事に嬉しそうな表情を浮かべている。
「じゃあ、ミカゲが"サイファー"、僕が"ピクシー"で決まりだね!」
満面の笑みを浮かべたラリーがそう言った。
さて、俺とラリーのTACネームが決まったところで…………
「残りはエメラリアだな」
俺がそう言うと、ラリーもエメラリアに視線を向ける。
「なあ、エメラリア。何か名乗りたいTACネームって無いか?」
そう聞くと、エメラリアは暫く考えるような仕草を見せた後、肩を竦めながら言った。
「別に、これと言って名乗りたいものは無いわね」
「そうか………」
一応、TACネームの候補が無い訳じゃない。だが………
「(結構凶悪なヤツばかりなんだよなぁ………)」
俺が考えたTACネーム候補は、"ブロード"、"スローター"、"イェーガー"等だ。
其々の意味を述べると、ブロードは"血"、スローターは"殺戮"、イェーガーは"狩人"だ。
うん、見るからに凶悪なTACネームですね。
F組で男子達から受けた嫌がらせで、知らず知らずの内に心が病んでたのかな………
「で、でも………」
「ん?」
そう思っていると、エメラリアが口を開いた。
「ミカゲや、ラリーのも、決まったんだから………私も、TACネーム……欲しい、わね………」
かなり歯切れ悪く、エメラリアは言った。
顔は何故か、ほんのり赤く染まっており、ラリーをチラチラと見ている。
あっ、もしかして……
「(エメラリアの奴、ラリーにTACネームを付けてほしいのか……?)」
俺は、そんな仮説を立てた。
もし、この仮説が当たっているなら………ラリーの奴、相当好かれてるな。
俺はそう思いながら、事の成り行きを見守っていた。
「まあ、僕とミカゲだけ決まって、エメラリアだけ決まってないのも、何か仲間はずれみたいだしね………」
そう言って、少し考えるような仕草を見せた後、ラリーは何かを閃いたらしく、右手を左手にポンと打ち付けた。
「じゃあさ、"エメル"なんてどうかな?」
唐突に、ラリーは自らの考えを提示する。
「"エメル"?」
「そう」
そう聞き返した俺に、ラリーは頷いた。
「"エメラリア"と"モルガン"を組み合わせての"エメル"なんだけど、コレならどうかな?エメラリアは女の子なんだから、それらしいものを考えてみたんだよ。TACネームとしては勿論、今後の愛称にも使えるしね」
ほほぉ~………ラリーの奴、そんな事まで考えてたのか、中々やるな。
今思ったんだが、こう言うのって、結構モテるんじゃね?顔もそれなりに整ってるし、気遣いも出来る………俺が女だったら、多分惚れてるぞコレ。
「………ッ!」
あっ、エメラリアが顔真っ赤にしてる。
つーか前々から思ってたんだが、ラリーが何か言った時のエメラリアの反応って、笑うか照れるかのどちらかなんだよな。
結構意識してるんだな、ラリーの事。
「それで、どうかな?もし気に入らなかったら、別のでも良いんだけど」
不安げにラリーが言うと、エメラリアは首を横に振った。
「エメルにするわ。せっかくラリーが考えてくれたんだもの………ありがとう」
そう言うと、エメラリアはラリーに顔を向けて微笑んだ。
「気に入ってもらえたようで、何よりだよ」
エメラリアにそう返して、ラリーも微笑んだ。
「それじゃあ今後、俺等はお前をエメルって呼べば良いのか?」
「ええ。TACネーム兼愛称として考えてくれたんだもの、そう呼んで」
「了解」
「改めてよろしくね、エメル」
「ええ!」
やはり、ラリーに話し掛けられた時の方が、嬉しそうに反応するな。
「(ラリー、おめでとう。エメルの事大事にしろよ?)」
心の中で冷やかし混じりのお祝いの言葉を投げ掛けてやる。
俺も何時か、こんな彼女が欲しいものだ。
「良し……それじゃあ行かないとね」
そう言うと、ラリーは突然立ち上がった。
「…………?行くって何処にだよ?」
俺はラリーの行動が理解出来ず、そう訊ねた。
「ルージュにある冒険者ギルドだよ。エメルが加わったんだから、パーティー再編成の申請をしないと」
「ああ、成る程な」
そう言うと、俺も立ち上がった。
「よっしゃ!それじゃあ早く申請済ませて、今日はエメルの歓迎会でもやろうぜ!」
「おっ、それは良いね!」
そう言いながら、俺達は玄関に向かう。先にドアの前に立った俺が、ドアを開けようとした、その時だった。
「………ッ!ミカゲ!ドアを開けちゃ駄目だ!!」
「ッ!?」
「ヴェッ!?」
突然後ろから叫ばれ、俺はドアノブに触れていた手を直ぐ様引っ込める。
「ど、どうしたんだよラリー?いきなり大声出して」
俺はそう言いながら、ラリーの方を振り返る。
ラリーは暫く肩で息をしていたが、やがて呼吸が整ったのか、口を開いた。
「大声出してゴメン。でも今は………出ては駄目だ」
「なんで?」
俺がそう言うと、ラリーは無言で窓の方へと歩いていき、俺の方を向いて手招きした。
俺とエメルは、顔を見合わせた後、ラリーに近づく。
「外を見てごらん」
そう言われ、俺とエメルは言われた通りに外を見る。
「………馬車?」
俺達の目線の先には、道のド真ん中に馬車の行列が出来ていた。
「それに、馬車の側面を見てごらん」
ラリーが指差した先には、馬車の扉に模様らしき何かが描かれていた。
「あれ、エリージュ王国の国旗だよ」
「マジで!?」
ラリーの言葉に、俺は目を見開く。
「ああ。それと魔力探知で探ってみたけど………強力な反応が幾つもあるんだよ。数にして……30以上。恐らくミカゲ、君の"お仲間達"だよ」
「嘘だろ………」
ラリーがそう言うと、俺は狼狽える。
まさか、
「あっ、何かゾロゾロ出てきたわよ」
馬車の扉が次々開き、見知った顔の奴等が続々降りてきた。
その中には、謹慎を受けた筈の冨永一味の姿もある。
つまり、F組全員がこの町にやって来たのだ。
降りてきたF組の面々は、何人かのグループに分かれて町を歩き始めた。
グループの中の1人は、何やら紙らしきものを持っている。
「多分、あの紙に描いてあるのって君じゃないかな?」
「分からんが………可能性は0とは言えねぇな」
もし、あの紙に描いてあるのが本当に俺なら、連中は俺を探して、あわよくば俺を、王都に連れ戻そうとしてるって事になる。
F組男子の事もあるから、戻りたくないんだがなぁ……
「(………Jesus Christ(勘弁してくれよ).)」
俺は、心の中でそう吐き捨てた。
そうしていると、ラリーが玄関に向かって歩き出した。
「ラリー?何処行くんだよ?」
呼び止めてそう言うと、ラリーは此方を向いた。
「外だよ。ちょっと見てくる。それと、もし彼等の目的が君なら、何とかして追い返せないか試してみるよ」
そう言うと、ラリーは何も言わずに家を出ていった。
俺とエメルは、通行人のふりをして町を歩くラリーを、窓から呆然と眺める事しか出来なかった。
「やはり、エリージュ王国のか………コレが見間違いだったら良かったのにな………」
ミカゲとエメルを家に残して出てきた僕は馬車に近づき、扉に描かれているエリージュ王国の国旗を睨みながらそう呟いた。
「(クソッ……………彼奴等、一体何処で僕等の居場所を知ったんだ………?取り敢えず、連中が此処を出るまで、家の中に居た方が良さそうだな………ミカゲが連中に見つからないようにするためにも)」
心の中でそう吐き捨て、僕は散策を続けようと歩き出す。
「あ、あのっ!」
すると、不意に後ろから声を掛けられた。
恐らくミカゲのクラスメイトなのだろうが、此処で逃げると後が面倒なので、仕方無く振り向く。
其所には、黒髪の女の子が2人、そして銀髪の女の子が1人立っていた。
「ら、ラリー・トヴァルカインさんですよね?」
「………?ああ、そうだけど」
黒髪の娘の1人に、僕はそう言う。
と言うか、なんでこの娘は僕の名前知ってるんだ?少なくとも、こんな娘には1度も会ってない筈なんだけど………
「私達は今、古代神影と言う男の子を探してるの。黒髪で金色の目をした男の子よ」
「それで、貴方が彼と親しげだったと言うのをセレーネさんと言うメイドさんから聞いたので、何かご存じなのではないかと思って、此処に来たのですが…………」
セレーネさん………ああ、僕がミカゲに会いに行った日に居たメイドさんか……………つまり、此処がバレたのは彼女のせいって訳か。
全く、何て事してくれてるんだよ?
「………残念だけど、僕は何も知らないよ」
取り敢えず、嘘を言っておく。
「で、でもっ!神影君と親しかったんですよね!?なら、何か聞いたりしなかったんですか!?」
「お願いします、何でも良いので教えてください!私達、どうしても彼を連れ戻したいんです!」
黒髪の娘2人が、尚も聞いてくる。
「(やはり、連中の目的はミカゲみたいだね………)」
そうとなれば、追い返した方が良さそうだ。
あまり気は乗らないけど、此処は冷たく突き放すしかないだろうな。
「はぁ………だから知らないってば。それに、仮に知っていたとしても教える気は無いよ」
「ッ!?」
「ど、どうしてですか!?」
黒髪の娘2人が詰め寄ってくる。銀髪の娘も、目を見開いて驚いているようだった。
「セレーネさんから聞いたんだけど、ミカゲって、君達のクラスの男子達から酷く嫌われてるんだってね?僕が、彼に最後にあった日の前日に、"稽古"の名目で彼に複数で寄って集って魔法をぶつけた男子達が居ると聞いたよ。神影の魔力や魔耐が、極端に低いのを知っていたのにも関わらず、ね」
「そ、それは………」
僕が言うと、2人は狼狽えて後退りする。
「君達がミカゲにどんな想いを抱いているのかは知らないけど、そんな酷い奴等が居るような集団に戻させる訳にはいかない。君達がやろうとしている事は、ミカゲが以前よりもっと酷い目に遭わされる可能性を上げているだけなんだよ……」
そう言うと、2人は目を伏せる。かなり効いているようだ。
止めとばかりに、僕は言葉を続けた。
「彼には、ちょっとした恩があるのでね、恩人の情報を、そう簡単に話す事は出来ない」
「そんな…………」
そう言って、2人はヘナヘナと地面に座り込んでしまった。
流石にやり過ぎたかもしれないが、こうでもしないと諦めてはくれないだろう。
僕は、そんな3人を置いて、不自然に思われないようにするため、町の奥へと歩き出した。
その後、やはり幾つものグループに捕まって、ミカゲについて何か知っていないかと質問攻めにされたが、全部『知らない』の一点張りで押し通した。
男子にも会ったが、あれは最悪だったね。
勝手に僕がミカゲに関する有力な情報を持ってると思い込んでる。
おまけに、こんな事を言う男子が居たのだ。
ーーテメェ、あの無能に関する情報を女子に言ってみろ、テメェをブッ殺した後、テメェの女を犯してやるからなーー
考えられるかい?あんな事を言う奴が居たんだよ?
と言うか、どうして僕の女にまで手を出そうとするのさ?
いや、別に彼女は居ないから手の出しようも無いんだけどさ…………
それにしたって、言い方と言うものがあるだろうに…………大体、ミカゲが元々居たクラスの男子の連中、クラスメイトの事をそんなに悪く言うなんて………本気で考えられないね。
まあ、そんな彼等については、適当にあしらっておいたから良いんだけどね…………
さてと、用事は済んだし、さっさと帰ってミカゲに報告しなきゃね。