「良し、この辺りで良いだろ」
依頼も無事に達成(?)し、タロンの町を後にした俺達は、暫く歩いた所にある岩場で休んでいた。
椅子にちょうど良さそうな岩に腰掛けると、間髪入れずにファルケンとアドラー(本人達に決まった名前が無いみたいなので、こう呼ぶ事にした)が詰め寄ってきた。
「さて………それでは約束通り、あの取引について、詳しく聞かせていただきましょうか?」
相変わらずの高圧的な態度で、アドラーが訊ねてくる。
「『このまま自分のパーティーに加えたかった』みたいなふざけた事を言おうものなら、明日の朝日はおろか、今日の夜空すら見れないと思いなさい」
俺の行く手を塞ぐかの如く前に立った2人が、其々の機体を展開して機関砲を向けてくる。
「ファルケン!アドラー!貴女達いい加減に……ッ!」
「良いよ、エメル。止めとけ」
2人の態度に腹を立てたらしく、地面に座ってラリーと談笑していたエメルが立ち上がって、2人を責め立てようとするが、俺が制した。
「で、でも………」
「良いから良いから。此処は俺に任せて、ラリーと話してろよ」
そう言うと、エメルは渋々ラリーの元へと戻っていった。
「すまん、待たせたな」
軽く謝罪を入れておく。
「んで、さっき話した取引の目的なんだが………」
「「…………」」
そう言うと、2人が目付きを鋭くしつつ、俺の次の言葉を待った。
ラリーとエメルは、2人が俺に攻撃しようとした時に備えて、各自機体を展開して構えてくれている。
そんな2人に内心苦笑を浮かべながら、俺は2人に向き直った。
「俺があの取引を持ち掛けたのは、2人を守るためだったんだ」
「「………はあ?」」
俺の言葉に、2人はキョトンとした表情を浮かべ、間の抜けた声を発した。
「一体何を言い出すかと思えば………そんな出鱈目を易々信じると思いますか?」
呆れたとばかりに肩を竦めながら、ファルケンがそう言う。
「別に、信じようが信じまいが、2人の好きにすれば良いさ。だが、少なくとも俺が本気で言っていると言う事だけは分かってもらいたい」
「「………」」
そう言うと、2人は暫く沈黙する。だが、アドラーがその沈黙を破った。
「仮に貴方の言う事が本当だとして、どうやったら、あの取引が私達を守る事に繋がると言うのですか?」
そう言われた俺は、アドラーを真っ直ぐ見据えた。
「………分からねぇか?」
「ッ!?」
俺が言うと、アドラーが一瞬怯んだように見えた。
「お前等、この1週間の間、あの町でやった事言ってみろよ」
「……飛び回った事………でしょうか?」
ファルケンがそう答える。
「その通りだ。それも、"人が寝静まる真夜中に"だ」
そう言って、俺は尚も言葉を続ける。
「この世界の人々にとって、戦闘機ってのは、見た事も聞いた事も無いものだ。当然、ジェット音にも慣れてない。そんな中で、夜中にゴオゴオ言わせて空飛び回ってりゃどうなる?」
「「………」」
俺が言おうとする事が分かったのか、2人は顔を伏せる。
「当然、ちょっとした騒ぎになるわな。人によっちゃ、化け物の唸り声とかにも聞こえる訳だから尚更だ。んで、俺等ガルムに依頼が来たんだよ………まあ、俺等が戦闘機について理解のある存在だったから良かったが、無い奴等だったら怒り狂ってるぜ?『ただの女の子2人のために、態々こんな町にまで来たのか』ってな」
その光景が思い浮かんだのか、2人は段々と、顔を青ざめさせていく。
「そもそも町であんな騒ぎを起こしたんだから、普通なら罰則モンだ………なあ、ラリー!」
「ヴェッ!?」
俺が声を掛けると、ラリーがビクリと跳ね上がる。
「な、何?」
「1つ聞きたいんだけどさ、この2人みたいに騒ぎ起こした奴って、普通ならどうなるんだ?」
「え?……ああ、そうだね……」
そう言って、ラリーは暫く考えた後に口を開いた。
「流石に無罪放免って訳にもいかないだろうから、罰金は取られるだろうね。それに、もし払えなかった場合は………奴隷に落とされるとも言われてるよ」
「「ッ!?」」
ラリーの言葉に、2人は震え上がった。
「つまり、そう言う事だ」
俺がそう言うと、2人が此方を向いた。
「あの取引はな、2人がそうならないようにするための保険だったんだよ。同じように戦闘機の力を持つ者としてな」
「……なら、最初から私達を僕にするつもりは………」
「ああ、微塵も無かったよ。出来ればガルム隊に加わってほしいって気持ちがあったのは否定しねぇけどな…………まあ、その辺りについては、別に強制はしねぇよ」
おずおずと言うファルケンに、俺はそう返した。
「さあ、こんなシケた話は終わりにして、さっさとルージュに帰ろうぜ!依頼達成の報告をしなきゃならんし、腹も減ったからな」
そう言って、俺がSu-33を展開すると、ラリーも続けて、F-15Cを展開した。
そして、残りの3人が其々の機体を展開すると、俺達はルージュ目指して飛び立った。
ルージュに到着すると、もう昼近くになっていた。
ギルド内のスペースでは、昼食を摂っている冒険者もチラホラ居る。
「こんにちは、エスリアさん」
ギルドに入ると、俺達は真っ先に受付カウンターへと向かってエスリアさんに声を掛けた。
「こんにちは、ミカゲさん」
相変わらず癒しオーラ全開の笑みを浮かべて、エスリアさんはそう返してくれる。
それから俺は、依頼達成の報告を済ませ、ギルドからの報酬を受け取った。
「ところでミカゲさん」
「はい?」
報酬を3人で山分けし、昼食を摂ろうと歩き出した俺達を、エスリアさんが呼び止める。
「そちらの可愛い女の子はどうしたんですか?」
そう言うと、エスリアさんはニヤニヤしながら、ファルケンとアドラーに目を向ける。
「ああ、2人はですね………」
此処で俺は、言葉を詰まらせた。
正直に話すとすれば、『タロンの町で騒ぎを起こした張本人』となるのだが、そんな馬鹿正直に答えて良いのだろうか?
「(いや、流石に無理だな。何か良さそうな案は………あっ)」
そう悩んでいると、ある案が浮かんだ。
「実はですねぇ…………2人共、其所に居るエメルの妹なんですよ」
そう言うと、俺はエメルを指差した。
「何か、昔のいざこざで生き別れてしまったらしくてね、タロンの町に行った時に再会したんですよ」
「ほえ~、そうだったんですか………」
俺の嘘を、エスリアさんはあっさり信じてしまった。
今思ったんだが、この人スッゲー騙されやすいな。こんなんじゃ何時か詐欺に遭うぞ。
それから昼食を摂り始めた俺達だが、さっさと食べ終えてしまったエメルが突然、向かいの席に座っているファルケンとアドラーに、こんな話を持ち掛けた。
「ねぇ、貴女達。冒険者登録をして、ガルム隊に入らない?」
何と、2人をガルム隊に勧誘し始めたのだ。
「「………?」」
突然話を振られたファルケンとアドラーが、首を傾げる。
「私がガルム隊に入る前に、ミカゲやラリーから話を聞いたんだけど、この世界における貴女達の同類は、私とラリー、そしてミカゲの3人だけ。つまり、この世界の人間全員の中で戦闘機の力を持っているのは、現段階で5人しか居ないの。それに、貴女達の持つ武装も、恐らく強力なものでしょうから、何れ何処かの国にバレて、目をつけられてしまうわ」
「「…………」」
真剣な面持ちで言うエメルの話を、2人は黙って聞いている。
「だから、此処は同じ力を持つ者同士、力を合わせるべきだと思うの。ミカゲやラリーの機体は、私達のと比べるとスペックは劣るけど、2人の腕は確かよ。いざと言う時、きっと助けてくれるわ」
『どう?』と付け加えて、エメルは2人を見つめる。
「「…………」」
2人は互いに顔を見合わせた後、俺とラリーに視線を向ける。
「………」
2人に視線を向けられた俺達は、どう反応すれば良いのか分からない。
取り敢えず、見つめ返す事にした。
そんな状態で、暫くの間、俺達が座っているテーブル席を沈黙が支配した。
「…………お姉様のお話は分かりました」
不意に、ファルケンが口を開いた。
「私もアドラーも、ガルム隊に入隊させていただきたいと存じます」
パアッと表情を明るくするエメル。
「ですが」
其処へ、今度はアドラーが口を開く。
首を傾げるエメルを他所に、2人は俺の方に顔を向けた。
「もし、その男が1番機に相応しくないと判断した時には……………」
そう言って、アドラーは少しの間を空けてから言った。
「僚機と言えど撃墜しますので、そのつもりで」
恐っ!?
「わ、分かったよ………」
つくづく2人から嫌われてるなぁ、俺………
まあ、そんなこんなで2人のガルム隊入隊が決まり、俺達は昼食を終えると再び受付カウンターへと赴き、2人の冒険者登録とパーティー再編成の申請を済ませるのであった。
それから、其々のコールサインは、ファルケンが"ガルム4"、アドラーが"ガルム5"になった。
TACネームは、一先ず其々のコードネームで呼ぶ事が決まり、また今度、ちゃんとしたTACネームを決める事になった。
それにしても、何か2人、エースコンバットの永瀬ケイみたいな奴等だなぁ…………
やれやれ、この先どうなるのやら…………