翌日、目が覚めた俺達は朝食を終え、受付で部屋の鍵を返して宿を後にした後、再び城へと向かっていた。
「そう言えば、報酬の受け渡しって何処でするんだっけ?」
城への道中、隣を歩くラリーがそう言った。
「あ~、そういや聞いてなかったな………まあ、多分だが城の前辺りじゃね?それか、謁見の間みたいな所に行って、其所で渡されるとか」
テンプレでは、其所で王様に会ったりするものだが、この世界ではどうなるのやら………
そうして歩いていると、昨日の城が見えてきた。
城門の前には、槍を持った兵士が4人居る。
町の入り口と同様、やはり警備は厳重だな。
「ねえ、相棒。あれ」
そう言って、ラリーが城門の方を指差した。
その先には、兵士4人に加えて女性が1人立っている。
フィオラさんだった。
彼女は此方に気づくと、手を振ってくる。
俺も手を振って、フィオラさんに歩み寄った。
「おはようございます、ガルムの皆さん」
フィオラさんはそう言って、頭を下げた。
「ええ、おはようございます。フィオラさん」
俺も彼女と同様に、挨拶を返す。
「ちょうど宿に向かおうとしていたのですが………まさか、そちらから来てくれるとは………」
「態々出向く手間が省けた………みたいな?」
「い、いえ!別にそう言う訳では……!」
悪戯っぽく笑いながら言ってみると、フィオラさんはワタワタしながら言った。
まさか、こんなにも本気にするとは思わなかったぜ。
「………すんません、冗談です」
そう言うと、フィオラさんはホッと溜め息をついた。
「……ミカゲ殿も人が悪いです」
膨れっ面してそう言うフィオラさんは、見た目に反して可愛かったと言っておこう。
「それで、報酬の件なのですが………」
フィオラさんが調子を取り戻すのを待ってから、俺達は城の一室へと通された。どうやら、其所で報酬の受け渡しが行われるようだ。
「此方が、此度の報酬となります」
フィオラさんがそう言うと、もう1人の騎士が袋を乗せたトレイを持って来た。
「白金貨20枚と、金貨と銀貨が其々15枚です」
「…………」
袋の中身を言われた俺は、その場で絶句した。
「(……報酬、多すぎじゃね?)」
内心そう呟いた俺だが、その心情を察したのか、フィオラさんが報酬の内容について説明してきた。
先ず第一に、魔物の群れを全滅させ、姫様に被害が出なかった事。
第二に、負傷者達をラリーが全員回復させた事。
そして第三に、王都まで無事に送り届けた事だそうだ。
「成る程、そう言う事でしたら、ありがたく頂戴します」
そう言って、俺は袋を受け取った。
その時点で、袋はジャラジャラと音を立てる。
「(こりゃ、逆に使い道に困るだろうな………)」
「いきなり大金持ちになっちゃったね、僕等」
そんな事を考えていると、ラリーが苦笑混じりにそう言った。
「そうだな……コレを資金に、何処か適当な所に活動拠点を持つって言うのも良いかもしれねぇな」
そう話していると、フィオラさんがおずおず話し掛けてきた。
「あの、良いでしょうか………?」
「「はい?」」
俺とラリーが同時に返事をする。エメル達3人も、フィオラさんの方を向いた。
「今回の事について、女王陛下がお話ししたいとの事なのですが………謁見の間まで、来ていただけますか?」
「…………」
おいおい、マジかよ。まさかの女王様直々の呼び出しが来ちゃいましたよ。
てか、国王じゃなくて女王ですか。
《相棒、一先ず行こう》
不意に、ラリーが僚機念話でそう言った。
《相手が何をしてくるかは分からないけど、此方はお姫様を助けたんだから、少なくとも変な真似はしてこないと思う》
《成る程な………エメル、ゾーイ、アドリア。お前等はどうだ?》
俺はエメル達3人にも意見を求めた。
沈黙している俺達に、フィオラさんが首を傾げているが、取り敢えず放置だ。
《私は構わないわ》
《ミカゲ様が行くのでしたら、私もお供します》
《私もです。流石に相手も、恩を仇で返すような事はしないでしょう》
3人共、賛成のようだ。
《了解。それじゃあ行く事にするか》
そう言って僚機念話を終え、俺はフィオラさんに向き直った。
「分かりました、謁見の間まで行きましょう」
「ありがとうございます。では、此方へ」
そう言って歩き出したフィオラさんに、俺達は続いた。
「此方が、謁見の間となります」
そうして辿り着いたのは、矢鱈と背の高い扉の前だった。
見張りの兵士がいそいそと扉を開け、俺達は謁見の間へと足を踏み入れる。
無駄に広い謁見の間の奥には、贅沢に宝石が散りばめられたドレスに身を包み、若干ウェーブした桃色の髪を持つ妙齢の美女が玉座に腰掛けており、その隣には、同じ桃色にサイドアップの髪の、サファイアのような蒼い瞳を持ち、如何にも国の姫様を思わせるような水色のドレスに身を包んだ女の子が立っていた。
その女の子は俺を見ると、何故かパアッと表情を明るくした。
はて、何処かで会ったっけ?
なんて思いながら謁見の間の中央へ歩みを進めると、其所でフィオラさんが足を止めたため、俺達も慌てて立ち止まる。
「貴殿方が、娘と護衛の騎士団を救ってくださった冒険者パーティー"ガルム"の方々ですね?」
唐突に、玉座に腰掛けた女性がそう言った。
「はい」
一先ず、そう答えた。すると、女性は微笑む。
「お初にお目にかかります。私は、クルゼレイ皇国女王、ナターシャ・シェーンブルグと申します。そして隣に居ますのが、私の娘、エミリア・シェーンブルグです」
女王陛下がそう言うと、姫様がスカートの裾を軽く摘まんで会釈した。
「この度は、娘と護衛騎士団の窮地をお救いくださり、誠にありがとうございました」
そう言って、女王陛下は玉座に座りながらも深々と頭を下げた。
姫様も続いて、頭を下げる。
てか女王様、一介の冒険者相手に物腰低すぎやしませんかね?
「ねえ、相棒」
すると、ラリーが小声で話し掛けてきた。
「ん?どうした?」
「いやいや、『どうした?』じゃないよ。相棒も自己紹介しないと」
「……あ、ああ。そうだったな」
そう言って、俺も自己紹介をする。
「お初にお目にかかります、女王陛下。自分は、冒険者パーティー"ガルム"のリーダーをしております、古代神影……失礼、ミカゲ・コダイと申します」
「ミカゲ・コダイ………?珍しいお名前ですね」
「よく言われます」
俺の名前を珍しがる女王陛下に、俺はそう返した。
「そして此方が、副官のラリー・トヴァルカインです」
俺が紹介すると、ラリーも軽く頭を下げる。
それから、エメルやゾーイ、アドリアを続けて紹介した。
「貴殿方の事は、フィオラからも聞いておりますし、噂でも耳にしております。何でも、パーティーを結成してから、たった1ヶ月でSランクに昇格したとか、エリージュ王国との国境にある山岳地帯を根城にしている盗賊団、黒雲を壊滅させたとか」
「え、ええ。まあ………」
どうやら、俺等の噂は隣国へも届いているらしい。
取り敢えず、フィオラさんに視線を送っておく。
視線に気づいたフィオラさんは、若干バツの悪そうな表情で苦笑した。
…………アンタ、変な事言ってねぇよな?
「さて、挨拶はこの辺りにして…………」
不意に女王陛下が話を始めたので、俺はそちらに向き直る。
「ガルムの皆様。何度も申しますが、この度は娘と護衛騎士団の窮地をお救いくださり、誠にありがとうございました。エミリアの母として、そしてクルゼレイ皇国女王として、お礼申し上げます」
「い、いえ。そんな………偶然見掛けたから助けただけで、大した事をした訳では………」
「そう謙遜なさらないでください。たとえ偶然でも、貴殿方が娘達をお救いくださったと言う事実は変わりませんから」
…………何かスッゲー称賛されてるんですけど、コレに裏がある、とかは無いよね?
「ところで………」
再び、女王陛下が口を開く。
「貴殿方は、飛行能力に加えて攻撃能力をもった、特殊な魔道具をお持ちだと聞いたのですが、本当ですか?」
そう言われ、俺はフィオラさんに視線を向ける。
フィオラさんは、またしてもバツの悪そうな笑みを浮かべながら目を逸らした。
…………アンタ喋りやがったな!?後で覚えとけよ!?
「え、ええ。そうですが………」
一先ず視線を女王陛下に戻し、そう答える。
「それを、此処で見せてもらう事は出来ますか?」
女王陛下は、トンでもない事を言い出した。
あれを、此処で展開しろってのか?
「えっと…………"此処で"、ですか?」
「ええ。是非」
俺が聞き返すと、女王陛下が頷く。
隣に居る姫様も、目を輝かせて俺を見ている。
俺の隣に居るラリーや、1歩後ろに控えているエメル達3人に視線を送るが、全員頷いている。
…………どうやら、『断る』と言う選択肢は無さそうだ。
「………分かりました」
俺がそう言うと、ラリー達は俺から離れる。
「(そういや、展開するって言っても何れを展開すりゃ良いんだ?)」
航空兵器のリストは、『戦闘機』と『攻撃機』、『多用途戦闘機』、『レシプロ機』、そして『攻撃ヘリ』の5つだし、其々のリストに、幾つもの航空機がある。
《なあ、ラリー。何れにすれば良い?》
《別に何でも良いと思うよ?》
ラリーは即答で返してきた。
「それじゃ………Terminator!」
そうして、俺はロシアの戦闘機、『Su-37 (黄色の13仕様)』を展開する。
すると、先ず最初に『013』と数字が書かれている装甲が、腕に装着された。
航空機関砲であるGsh-30-1が右腕に装着され、背中に主翼が生え、カナード翼が、イヤーレシーバーのように両耳に付けられる。
膝から下もブーツ状の装甲に覆われており、脛の部分には、ノズルと垂直尾翼、水平尾翼が一体化した状態で付けられている。
ノズルが長いのか、ノズルと水平尾翼は、地面に対して平行になる……つまり、ノズルが後ろを向いた状態になっていた。
そして垂直尾翼には、アクィラ隊のエンブレムが描かれていた。
「まあ、コレは………」
「す、凄い…………………」
「………………」
女王陛下は口を両手で覆って驚き、姫様は一層目を輝かせている。
フィオラさんは、既にA-10やアパッチを見ているにも関わらず、口をあんぐり開けて驚いていた。
「えっと…………もう、良いですかね?」
取り敢えず、機体を解除しても良いかを訊ねる。
「え、ええ。ありがとうございました」
女王陛下がそう言ったため、俺は機体を解除した。
「それでは、自分達はこの辺りで」
そう言って軽く一礼してから、俺達は踵を返して、謁見の間を出ようと…………
「あっ、お待ちください」
…………したのだが、女王陛下に呼び止められた。
「………?何でしょう?」
「貴殿方は、これからどうするのですか?」
不意に、女王陛下はそんな事を訊ねてきた。
「取り敢えず、暫くこの国に滞在する予定ですが………」
「その間、何処に寝泊まりを?」
「…………昨日泊まった宿ですが?」
続けざまに聞いてくる女王陛下に、俺はそう答える。
つか、この人はなんで其処まで聞くんだ?
「あの、もし良かったら……………この国に滞在する間、此処に泊まっては如何でしょう?」
「"此処に"…………と言うと、この城にですか?」
そう聞き返すと、女王陛下は頷いた。
「ええ。ちょうど、城の客室が幾つか余っているんです」
「はあ…………でも、本当に良いんですか?此処に泊めてもらっても」
「ええ、構いません。娘達をお救いくださった事への報酬とは、また別のお礼と言う事で………」
女王陛下はそう言った。
俺は他の面々の方を向いて、どうするかを訊ねる。
「良いんじゃないかな?向こうがそう言ってくれるなら、断る理由は無いよ」
「私もラリーと同じ意見よ」
ラリーとエメルがそう答え、ゾーイとアドリアも頷いている。
「そっか…………了解」
そう言って、俺は女王陛下に向き直った。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
「はい」
そう言って女王陛下は微笑み、姫さんも嬉しそうな表情を浮かべた。
こうして、俺達ガルム隊の、クルゼレイ城での生活が始まった。