「んっ……ん~……」
ある日、俺は魘されていた。
腹………正確には下腹部に感じる重みに加え、横から何かに抱きつかれているような感覚が、俺を締め付ける。
「ぐえぇぇ……なぁにコレぇ~、重い~…………」
潰れた蛙みたいな声で言いながら、その苦しみから逃れようとするものの、全く身動きが取れない。
起き上がる事は勿論だが、寝返りを打つ事も、足をバタつかせる事も出来ない。
兎に角、この拘束から逃れようともがいていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「女性に対して『重い』と言うのは、あまり良いものではありませんよ?」
「(その声………アドリアか?)」
俺は、そのように予想を立てる。
恐る恐る目を開けると…………
「おはようございます、ミカゲ様」
やはり、アドリアが居た。
居たのだが…………
「(な、何つー格好してんだよ!?)」
辛うじて動かせる右手で口を押さえつつ、俺は内心で、盛大なツッコミを入れる。
何故なら、アドラーの格好があまりにも扇情的だからだ。
何と、ネグリジェ姿で来やがったのだ。
おまけに透けてるらしく、下着もネグリジェ越しに見えている。
…………って、何呑気に現状報告してんだ俺は!?
「ちょっ、アドリア!お前そのかっk……!?」
言い終えるより先に、アドリアに口を塞がれてしまった。
「シーッ……」
右手の人差し指を口に当て、静かにするように促してくるアドリアは、空いている左手で俺の左隣を指差す。
「んぅっ……みぃ……ミカゲ………様ぁ………」
其所では、アドリアと同じくスケスケのピンクのネグリジェに身を包んだゾーイが、俺の左半身に抱きついて眠っていた。
ちょっ!?コイツ等揃いも揃って何つー格好を!?
「……はぁ~…………」
俺は小さく溜め息をつき、ゾーイを起こさないように注意して、小声でアドリアに話し掛けた。
「なあ、アドリア?コレは一体何の真似なんだ?」
「はい?」
そう言って、可愛らしく首を傾げるアドリアだが、此処でその手には乗らない。乗ったら負けなのだ。
「いや、『はい?』じゃなくてだな…………まあ、百歩譲ってベッドに潜り込むのは良いとしよう。だが、その格好は何だ?もっと普通の寝間着があるだろ?」
そう言ってみる。
「そうでした。ですが、それを着る訳にもいかない事情があったのです」
「スケスケのネグリジェ着て俺に跨がる事に、どんな事情があるってんだよ………」
そう呟く俺を無視して、アドリアは語り始めた。
「以前、ガルム隊のメンバーで王都を散策していた時、サキュバス達の娼館を見つけました」
「おう、そんな事もあったな」
あれは確か、俺がラリーに冗談を言って、ゾーイとアドラーに頬を引っ張られた時の事だな。
あの時は、ラリーもエメルにやられてたっけ…………
「それを見た時、ミカゲ様はラリー様に、『娼館へ行ってみないか』と仰有いました」
「………ああ、言ったには言ったが、あれは冗談だって事で解決した筈だろ?お前等だって、それで納得したじゃねぇか」
「はい。確かにあれは、ミカゲ様の冗談と言う事で終わりました。ですが、それを聞いた私達からすれば、堪ったものではなかったのです」
「…………?」
アドリアの言っている事がいまいち分からん。
コイツは結局、何が言いたいんだ?
「なので、ある方に相談したところ、このように言われたのです」
ーー取られたくないなら、自分達に夢中にしてしまえば良いーー
「…………と」
「は、はあ………」
微妙な返事を返し、俺は言葉を続ける。
「つまり………あれか?お前等は、俺が娼館に行くのが嫌だって事か?」
そう訊ねると、アドリアは頷いた。
まあ、あれはホンの冗談で言っただけであって、別に本気で行くつもりじゃなかったんだが…………こうもあっさり頷かれたら仕方無い。
そうして俺は、サキュバス達の娼館には絶対に行かない事を約束した。
それに頷いたアドリアは非常に嬉しそうな表情を浮かべており、相変わらず俺に抱きついて眠っているゾーイも、何処と無く嬉しそうな表情を浮かべていた。
まあ、そんなこんながありつつ、ラリーが起き、女性陣の部屋に1人取り残されたエメルが合流するのを待ってから、俺達は何時ものように朝食を終えた。
普段着に着替えて城を出て、声を掛けてくれる王都の住民達に挨拶を返しつつ、今日はどうしようかと話している時だった。
「あっ!ガルムの皆さん、良いところに!」
その声の主の方へと振り向くと、水色の髪をショートカットにした1人の女の子が、パタパタと駆け寄ってきた。
彼女はイリナさん、王都冒険者ギルドの受付嬢だ。
「おはようございます、イリナさん」
駆け寄ってきたイリナさんに、俺は声を掛ける。やはり、挨拶は大事だからな。
「はい。おはようございます、ミカゲさん。そして、ガルムの皆さん」
イリナさんがそう言うと、ラリーやエメル達も挨拶を返す。
ギルドに行けば、大抵このやり取りから始まるのだ。
「ところで、俺達に何か用ですか?」
此処で俺は、そう訊ねる。
受付嬢が態々出向いてくるんだ、何か問題でも起こったのだろう。
「はい、実はですね…………」
『『『指名依頼?』』』
「はい、そうなんです」
ギルドに案内された俺達は、受付の奥にある部屋で話の内容を聞いていた。
どうやら俺達ガルム隊に、指名依頼が入っているらしいのだ。
「それで、此方が依頼の内容です」
そう言って、イリナさんは依頼書をテーブルの上に置いた。
依頼の内容は、ゾーイやアドリアのと同じようなものだった。
このクルゼレイ皇国の北には、 俺が居た世界で言うアルプス山脈のような山脈があるのだが、其所へ向かって、轟音と共に飛んでいく謎の影が度々目撃されているらしい。
調査隊を派遣しようにも、その山脈には強い魔物が多い上に標高も高いため、並大抵の冒険者では到底行けない。
そのため、パーティーランクがSSである俺達ガルム隊に、白羽の矢が立ったと言う訳だ。
「何と言うか………ゾーイとアドリアの時みたいね、コレ」
依頼書を眺めながら、エメルがそう言った。
確かにエメルの言う通り、ゾーイやアドリアの時も、こんな感じの依頼内容だった。
「コレによる被害は?」
「今のところは無いですね。ですが、何時か被害が出るのではないかと言う話もあります」
俺の質問に、イリナさんはそう答えた。
それから、轟音の主のシルエットは分からないか聞いてみたところ、幾つかの三角形を組み合わせたような、不思議な形をしていると言う事が分かった。
「(コレがエメル達みたいな存在だとすると、どの機体が当てはまるんだ………?)」
俺は様々な予想を立てるが、はっきり言うと、エースコンバットのオリジナル機体は、大概が不思議な形をしている。
そのため、どれか1つに絞るのは無理そうだ。
「あの………ミカゲさん?」
すると、イリナさんが話し掛けてきた。
「はい、何ですか?」
「取り敢えず、この依頼を受けていただけるかどうかを教えてもらえますか?」
「受けます」
依頼を受けるか否かを聞いてきたイリナさんに、俺は即答する。
それから、俺達は城に戻って女王陛下や姫様に、指名依頼を受けるので暫く出払う事を伝えると、またギルドに戻って場所を確認し、例の山脈へとかっ飛んでいった。
「………取り敢えず、此処が山脈に一番近い町みたいだな………」
クルゼレイ皇国王都から北へ180㎞。"ユダ"と言う町に降り立ち、俺はそう呟いた。
「おおっ、あれが例の山脈だね?大きいなぁ~………」
町の向こうに聳える山脈を眺めて、ラリーが言う。
「感動するのは良いが、俺達はハイキングに来てるんじゃないんだ。それは忘れるなよ?」
「分かってるよ、相棒」
念を押すように言うと、ラリーは軽く笑い、手をヒラヒラ振りながら言った。
それから俺達は、住人達に聞き込みをした。
王都でイリナさんから聞いたように、その轟音の主による被害は、今のところはゼロ。
シルエットは、幾つかの三角形を組み合わせたような、不思議な形。
そして新たに、青い炎のような筋を3つ靡かせて飛んでいくと言うのが分かった。
「つまり、その轟音の主は、ノズルが3つある戦闘機と言う事だな」
適当に入った飲食店で昼食を摂りながら、俺はそう言った。
「ノズルが3つか………想像もつかないなぁ」
隣に座っているラリーが呟いた。
ノズルが3つの戦闘機となれば、機種は限られてくる。
エースコンバットのオリジナル機体は、殆んどが不思議な形をしているものの、大概はノズルが2つだ。
3つの戦闘機なんて、そうそう無い。あるとすれば…………
「ねえ、相棒。何か分かった?」
「ああ」
訊ねてきたラリーにそう返し、俺は、その機種の名前を言った。
「