さて、エメルに斬りかかろうとしていた
話によると、連中はユリシアを討伐しに来たようだ。
俺が尋問した騎士の1人曰く、ユリシアはエリージュ王国の騎士団や上層部でもそこそこ話題になる存在だったのだが、エリージュ王国を飛び出したため、居場所が分からず、今まで手を焼いていたらしい。
それで、何処から情報が漏れたのか、ユリシアがユダの町の北にある山岳地帯(実は、此処もエリージュ王国との国境になっているらしい)の洞穴に住んでいると言う情報を得たため、種族間戦争において、相手を殺す事への躊躇いを無くさせるのも兼ねて、ユリシアを討伐しに来たんだと。
つまり、コイツ等にとってユリシアは、種族間戦争においての練習台でしかないと言う事なのだ。
「クズ共が……ふざけやがって…………!」
連中の言い分に、俺の怒りは噴火寸前だ。
ユリシアとは昨日の夜にちょっと見ただけだから親しい訳ではないが、流石にこんな理不尽極まりない話を聞かされると頭に来るぜ。
怒りのままに騎士を殴り飛ばそうとすると、それを制するかのように、俺の肩に手が置かれた。
「……ラリー?」
俺の肩に手を置いたのはラリーだった。
「…………」
ラリーは何も言わずに首を横に振り、そのまま俺の前に出て騎士と対峙する。
「え……えっと…………?」
今度はラリーと向かい合う事になった騎士は、状況を呑み込めずにオロオロしている。
「それで?」
「え?」
ラリーの言葉に、騎士が間の抜けた声で聞き返した。
「いや、『それで?』と言われても、もう自分が知ってる事は全て話したし…………」
騎士はそう言った。
「ああ、コレは僕の聞き方が悪かったね」
そう言って、ラリーは1つ咳払いしてから言い直した。
「それで、君は反対しなかったのかい?彼女を殺す事に」
ラリーはそう言った。
「いや、反対するも何も、ソイツはヒューマン族じゃないんだから………其処らの魔物と一緒だと………」
騎士は、まるで言い訳をするかのように言う。
「ふーん、そうなんだ…………ふざけた事ほざいてんじゃねぇぞゴミ野郎が」
そう言うと、ラリーは何の前触れも無く、その騎士の顔面に拳を叩き込んだ。
騎士は悲鳴を上げる間も無く吹っ飛ばされ、地面に体を強く打ち付けた後、そのまま数メートル程転がって動かなくなった。
死んではいないだろうが、当分目を覚まさないだろうな。
そしてラリーは、残りの騎士達を睨んで言った。
「テメェ等、ヒューマン族じゃなかったら誰でも殺して良いとか思ってんのか?『ヒューマン族じゃない』だの『危険』だの、勝手ばかりほざきやがってよぉ………」
…………ヤバい、ラリーがマジ切れしてる。
「逆に聞くが、彼女は1度でも国に危害を加えたのか?1度でもあるなら、さっきの言葉は取り消す…………どうだ、誰か答えられる奴は居ねぇのか?」
『『『『『………………』』』』』
ラリーの問いに答えられる者は、誰一人として居なかった。
「何だ、1人も居ねぇじゃねぇかよ」
そう言って、ラリーは鼻を鳴らした。
「ユリシアの知り合いだって人から話を聞いたが、彼女は元々住んでいた村を襲った魔物を殲滅したそうじゃねぇかよ。それって褒め称えるべき事じゃねぇのか?種族を問わず」
「だ、だが、相手はヒューマン族じゃなくて………」
「同じ事何回も言わせんじゃねぇよ雑魚が!黙ってろッ!!」
この期に及んで、未だ種族がどうこうと言おうとした騎士をラリーが怒鳴り付け、黙らせる。
それにしても、このままだと埒が明かないな。どうしたものか…………
「あの、お姉様。ユリシアが………って、ミカゲ様ではないですか。それに、ラリー様も………」
「「ん?」」
何処からか声が聞こえ、俺とラリーが同時に振り向く。
「おお、ゾーイか」
視線の先には、洞穴から出てきたゾーイの姿があった。
「お二方、どうして此処へ………?」
キョトンとした表情で、ゾーイが訊ねてくる。
「いや、その………ラリーがどうしても、ユリシアと話がしたいらしくてな。お前等が心配だったのもあるから、追ってきたんだよ」
俺はゾーイに、そう説明した。
因みに、俺とラリーが何故、ユリシアの名前を知っているのかを聞かれたが、普通に『イリナさんから聞いた』と答えておいた。
その際、ゾーイやエメルが驚いていたのを見る限り、3人はユリシアがイリナさんと知り合いだってのを知らないみたいだな。
ユリシアから聞いてないのだろうか?
「それでゾーイ。ユリシアは今、何処に居るんだ?」
俺はそう訊ねる。
「彼女なら、この奥でアドリアと一緒に居ます」
ゾーイはそう答えた。
騎士団の方をチラッと振り返ると、連中はF組の奴等と一緒に、ラリーに殴り飛ばされた騎士の介抱で忙しいようだ。
てか、たった1人に其処までの人数が要るのか?
なんて思いながら、俺はラリーの方を向いて頷く。
俺の意図を察したのか、ラリーも頷き返し、ゾーイに向き直った。
「ユリシアと話がしたいんだけど、出来そう?」
「ええ。ちょうど、ユリシアも同様の事を言っていたので」
ラリーの質問に頷くゾーイ。
「そっか、それなら………おい、ラリー」
ゾーイの返答を聞いた俺は、ラリーに声を掛ける。
「ん?どうしたの?」
ラリーが俺の方を向く。
「お前、ユリシアを連れて先にユダに帰れ。後の始末は俺がやっとく」
「………良いのかい?僕、怒り任せに後始末が結構面倒になるような事をしたんだよ?」
「確かにそうだが、此処でガルム全員が居たってどうにもならん。なら、先にお前とユリシアの用事だけでも済ませとけ。それに…………」
そう言いかけて、俺はある方向に目を向ける。
「俺も、此処でやるべき事が出来ちまったからな」
「え?君のやるべき事って…………ああ、成る程。そう言う事か」
怪訝そうに首を傾げるラリーだが、俺が向いている方を向くと、納得したように頷いた。
「それじゃあ…………頼めるかな?」
「ああ、任せな」
そう言って、俺はゾーイの方を向く。
「おい、ゾーイ」
「はい」
俺が声を掛けると、ゾーイが近寄ってくる。
「悪いが、ユリシアを連れてきてくれ」
「了解しました」
そう答えて、ゾーイは洞穴の奥へと消えていき、大して間を空けず、ユリシアを伴って出てきた。
その後ろから、アドリアも続いて出てくる。
「…………ッ!」
ラリーを視界に捉えたユリシアは、エメルの影に隠れてしまう。
「こら、ユリシア。お話しする相手に、そんな態度取らないの」
そんなユリシアを、エメルが諌める。まるで姉か、母親のようだ。
そして、3人は機体を展開した。
「それじゃあ、相棒………」
「ああ、任せときな。上手くやっとくよ。そっちも上手くやれよ?」
「うん…………ありがとう」
そうして、ラリー達3人は、先に飛び立っていった。
「さて…………」
ユダへ向けて飛んでいくラリー達を見送った俺は、視線を戻す。
俺の目の前には、騎士団と一緒に行動していたF組の面々が居た。
そのメンバーは、夢弓先生を筆頭に、外にカールした紺色セミロングの髪をした女子生徒ーー赤崎 涼子(あかざき りょうこ)ーーと他の女子が2人。そして、少し距離を置いた所に、黒縁眼鏡を掛けた中宮や、F組の不良である元浜。その他男子2人が居た。
「古代君………」
そんな中で、夢弓先生がヨロヨロと歩みを進めながら、俺の名を口にする。
「あ~、その…………ご無沙汰してます、夢弓先生」
そんな先生を見ていると、何と無く気まずくなり、俺はポリポリと頬を掻きながらそう言った。
「ッ!古代君!」
「うおっと!?」
感極まったように俺の名を叫び、夢弓先生が抱きついてきた。
「良かった………本当に、良かった…………ッ!」
俺の胸に顔を埋め、肩を震わせて泣く夢弓先生。
「ちょっ、先生………」
そんな先生にどうすれば良いのか分からず、俺は、ついワタワタしてしまう。
「夢弓先生、ずっとアンタの事を気にしてたのよ」
そう言いながら、赤崎が近寄ってきた。
「久し振りね、古代」
「………ああ、赤崎。久し振り」
気まずさを感じながら、俺は返事を返した。
「色々言いたい事はあるけど…………先ずは、無事で良かったわ」
「…………心配、してくれてたのか?」
試しにそう聞いてみる。
「当たり前でしょ?あの時のアンタのステータスからすれば、尚更よ」
「まあ、確かにな」
そう返してきた赤崎に、俺は苦笑混じりに言った。
「噂には聞いていたけど………アンタ、本当に冒険者やってたのね」
「ああ、中々に充実した生活を送ってるよ」
「F組の美少女2人と美人教師を悲しませといて、お気楽なものね………その図太い神経が羨ましいわ」
赤崎は呆れたようにそう言った。
それから、F組の図書委員である花岡 沙紀(はなおか さき)や、相川 春菜(あいかわ はるな)も寄ってきて、俺に色々と声を掛けてくれた。
男子勢?相変わらず睨んできてますが何か?
「失礼、少し良いですかな?」
俺に抱きついて泣いていた夢弓先生が漸く落ち着き、少し話している時、騎士団の1人と思わしき男性が近づいてきた。
「ミカゲ・コダイ殿でしたよね?私は、ユリシア・フェリアーネ討伐隊の副隊長をしております、ゴルト・ホランドと申します」
「は、はあ……」
エリージュ王国の奴にしては、かなり物腰柔らかな人物の登場に、俺は若干気が狂うような気分がした。
「単刀直入に聞きますが………」
そう言うと、ゴルトは俺が纏っているハリアーに視線を落とした。
「貴方が今纏っている、その鎧らしきもの………貴方はヒューマン族でありますが故、それは魔道具の類いとお見受けしますが、そのようなものは見た事がありません。それに、ラリー・トヴァルカインが使った、あの剣………ブルーム様がお持ちだった剣を容易く破壊してしまうとなれば、かなりの代物だと思います。そのようなものを、一体何処で手に入れたのですか?」
ゴルトはそう訊ねてきた。
「そ、そうだよ古代!なんでお前なんかが、銃や刀なんて持ってんだよ!?」
此処で、中宮が俺を指差して叫ぶ。
「それに古代。アンタが纏ってるそれって…………もしかして、戦闘機じゃないの?」
ちょっ!?赤崎、余計な事を!
「………?ナカミヤ殿にアカザキ殿、彼が纏っているものについて知っているのですか?」
ホラ見た事か、ゴルトが食いついちまった。
赤崎、これ以上余計な事は言わないでくれよ?頼むから。
「そりゃ知ってるよ。コレ、僕達が元々居た世界で使われてる武器だし」
「それに戦闘機となれば、"武器"なんて言葉じゃ済まされないわ。そうねぇ………"殺戮兵器"とでも言っておこうかしら?」
赤崎ィィィィィイイイイイイッ!!?
畜生!そう言えばコイツって結構お喋りな奴だったの忘れてた!
「ほう、そのようなものを……」
あ、ゴルトが此方向いた。クソッ、コレじゃ言い逃れは出来ねぇ。
それに、この後の台詞は容易に予想出来る。
「コダイ殿、単刀直入に言いますが………その、セントーキとやらの情報を、我がエリージュ王国に提供してはいただけませんかな?」
ホラ来やがった。
大方、種族間戦争に利用する気なのだろう。
当然、その要求への答えは"NO"一択だ。
「やなこった。なんでお前等に情報を渡さなきゃならんのさ?大方、種族間戦争に利用する気なんだろう?絶対嫌だね、諦めろ」
俺はそう言い放ってやる。
「ですが、貴殿方の持つそれは、一個人が持つにはあまりにも強力すぎるものです。それを使えば、来る魔族や亜人獣との戦争での我々の勝利は約束されたものとなるのです。貴方のお友達や、先生の助けにもなるのですよ?それを理解しているのですか?」
「ああ、確かにそうなるだろうな………だが、F組の助け云々以前に、
そう言うと、ゴルトは眉をひくつかせた。
「ま、まあ良いでしょう。今回は引き下がります」
内心腸が煮えくり返っているだろうが、それをこの場で表に出すのは悪手だと理解しているらしく、ゴルトは、思いの外素直に引き下がった。
その後、俺はゾーイとアドリアを連れてユダの町に帰る事にした。
女子達は、一緒に城に戻らないかと誘いを掛けてくれたのだが、丁重にお断りしておいた。
だって、戻ったら戻ったで色々面倒な事になるのは火を見るより明らかだし、俺の力が利用されるの確定だし。
そして別れ際に、俺は先生と、赤崎達女性陣を集めた。
男子や騎士共は、『少し行った所で待ってる』とだけ言うと、先に行ってしまった。
「古代、どうしたの?私達だけ集めて」
赤崎が怪訝そうな表情を浮かべて聞いてくる。
「ああ。この事は、お前等女子の間だけでの秘密にしておいてほしい事なんだがな……………」
そうして、俺は最近の旅で知った事を話した。
元々、ヒューマン族と他の種族は共存関係にあった事。
そして、この種族間戦争が起こった原因は、はっきりとは不明だが、一先ずエリージュ王国にある可能性が高いと言う事を…………
「それとだが、宰相の奴も怪しい。今のエリージュ王国を動かしてるのは彼奴だから、何か企んでやがるかもしれん。取り敢えず気を付けろ。俺からは以上だ」
それだけ言うと、俺はハリアーを展開して、さっさとユダの町へと戻るのであった。
クラスメイト達との再会…………こんなモンかな?