さて、ギルドでの騒ぎもどうにか収まり、俺は今、クルゼレイ皇国での出来事を聞かせていた。
「…………って事があって、暫くその城で暮らしてたって訳だ」
話を終えると、冒険者達から感嘆の息が漏れていた。
一応、今のところは城に戻ろうとしていた際に魔物の群れに襲われていた姫様と、その護衛騎士団を助け、その恩返しとして、向こう側の厚意で城に住まわせてもらっていたと言うところまで話している。
「なあ、坊主。ちょっと聞きてぇんだが………」
すると、オッチャンが手を上げてそう言った。
「何ですか?」
「クルゼレイ皇国には、魔人族や他の亜人種が居るって聞いたんだが……それって、本当なのか?」
「…………」
そんな質問に、俺は返答に困った。
ルージュはエリージュ王国にあり、その国は人間主義を掲げている。
エメルやゾーイ、アドリアがヒューマン族ではない事が分かっても彼女等を受け入れてくれた彼等だが、それは、3人がヒューマン族の姿をしているからだ。
完全な人外が住んでいるとなれば、どんな反応をするのだろう………?
「ミカゲ」
返答に困っていると、傍に居たソブリナが話し掛けてきた。
「大丈夫よ。皆、興味があるだけなの。それに、仮に本当でも、それで貴方の見方が変わる訳ではないわ」
ソブリナはそう言った。
エリスやニコル、エスリアさんも頷いている。
「………ありがとな」
俺は笑みを浮かべ、4人に向かって礼を言った。
4人共顔を赤くしていたが、一先ず置いておこう。
「………坊主?」
一向に話さない俺を不思議に思ったのか、オッチャンが声を掛けてくる。
「ああ、失礼。ちょっと、ボーッとしてました」
そう言って誤魔化し、咳払いを1つ。
「さっきの質問への答えですが………」
『『『『『『『……………』』』』』』』
そう言うと、ギルド内に緊張が走る。
少し間を置いているだけなのに、空気が一気に重くなった。
まあ、そうなるのも無理はない。
この人達全員、または殆んどがエリージュ王国の人間だ。なら、少なくとも人間主義の考えや、『魔族や他の亜人種は敵だ』的な考えが植え付けられている筈だ。
そうなれば、この話は軽い気持ちで聞けるようなものではなくなるのだろう。
「…………本当です」
そして、俺は質問への答えを言った。
「ま、マジでか………」
普段は陽気なオッチャンが、何時ものような勢いを失っている。
「ち、因にだが………」
今度は、若い別の冒険者が手を上げた。
「魔人族って………どんな、奴等だったんだ…………?」
その冒険者は、恐る恐る聞いてくる。
他の面々も、神妙な面持ちで俺の返答を待つ。
う~ん、言うべきかどうか悩むが…………まあ、クルゼレイ皇国に魔人族や他の亜人種が居るってのは話したんだし……もう、コレも言っちゃって良いか。
「…………スッゲー友好的で、あれが敵対してる種族だとは、全く思えませんでしたね」
『『『『『『『………………えっ?』』』』』』』
俺が答えると、ガルム隊以外の全員から、間の抜けた声が漏れ出した。
「それって………他の、亜人種でもか?」
「はい、そうですよ?」
『『『『『『『……………』』』』』』』
再び、ギルド内を沈黙が支配する。
「え~っと………それ、マジで?」
「当然」
そう答えて、俺は魔人族の友達が出来た事と、ソイツに誘われて、一緒に外食した事を話した。
「おいおい、マジかよ………」
「何か、国のお偉いさんから聞かされたのとは全く違うわね………」
「魔人族とか他の亜人種からの侵攻が無いからおかしいと思ったら……」
「と言う事は………国のお偉いさんは、嘘をついてるって事になるのか………?」
「でも、どうして……?」
ギルド内にどよめきが広がり、冒険者達は色々と話している。
アルディアの3人も、流石にコレには驚いているようだ。
「てか、それなら勇者召喚が行われたのは何故なんだ?」
不意に、1人がそんな事を言い出した。
「魔人族や亜人種と戦争になってるから、異世界から勇者を召喚したって聞いたんだけど、もしミカゲの話が本当なら、勇者召喚した意味が無くなっちまうんじゃないのか?」
正に、その冒険者の言う通りだ。
「坊主、その辺りについて、何か知らねぇか?」
オッチャンが聞いてくる。
一応、ある程度の予想は立てているが、それをこの場で言うべきではないだろう。
たとえ、誰にも言わないと約束させても、その情報は何処からか漏れて、何時かは国中に広がる。
そうなれば、当然ながら混乱は起きるだろうし、宰相が何をするか分からない。
情報の発信源ともなり得る彼等を、口封じのために殺そうとするかもしれない。
何時かは話すにしても…………今は、止めといた方が良いかな。
俺は、首を横に振った。
「そうか………」
オッチャンはそう言った。
「ところで、話は変わるんだけど………」
不意に、1人の女性冒険者が手を上げた。
「其所に居る白髪の女の子って………ガルムの新しいメンバー、なのよね…………?」
彼女がそう言うと、冒険者達の視線が一斉にリーアの方を向く。
「ふえっ!?」
一斉に見られ、リーアは震え上がる。
どうやら、人に注目される事には慣れていないようだ。
まあ、俺等と会う前は、洞穴の中でひっそり暮らしてたんだし、それより前は村の孤児院で暮らしてたから、どちらにせよ人に注目される機会は無かっただろうから、無理もないか。
「はい、そうです………ホラ、リーア。自己紹介」
「ひゃいっ!」
上ずった声で答えると、リーアが恐る恐る、前に出てくる。
「え、えっと……その……」
落ち着かないのか、胸の前で手をわちゃわちゃさせながら視線をさ迷わせるリーア。
「ゆ、ユリシア・フェリアーネ、です……ちょっと、前に……ガルムに……入り、ました…………よ、よろしく……お願い、します………」
緊張のあまりに途切れ途切れになりながら、リーアは自己紹介を終えた。
ペコリと頭を下げるリーアだが、何の反応も返されない。
「(はて、何かマズかったのか………?)」
一向に反応を返さない冒険者達を疑問に思っていた時だった。
「き…………」
ん?『き』?
『『『『『『『キャーーーーーッ!!』』』』』』
『『『『『『『うぉぉぉおおおおおっ!!』』』』』』』
五月蝿ぇッ!?
いきなりギルド内の冒険者達が叫びやがった!!
男性陣なんて雄叫び上げてやがるし!
ちょっ、マジで何!?一体全体NA・NI・GO・TO!?
「あの可愛さ何なの!?反則じゃない!」
「ちっこい、白髪ロリ………ブハァ!」
「あの顔赤くしながら、手をわちゃわちゃすると言う仕草……………堪らん!」
「お持ち帰りしたい可愛さよ!」
「恥ずかしがり屋な白髪ロリ、キターーーーーッ!!」
「私の妹になってぇぇぇえええええ!!」
「いや、是非とも俺の妹に!」
男女問わずに飛び交うリーアの称賛の嵐。
良かったなリーア、お前モテモテだぞ。
なんて思っていると、トンでもない事を言い出す者が現れた。
「いや、此処は間を取って俺の嫁に!お持ち帰りしてペロペロを…………!」
いやいや、何が"間を取って"だよ?意味分かんねぇよ………
つか、"ペロペロ"って…………正直、キモい。
「何が"間を取って"じゃボケェ!うちの可愛い妹分に変な真似はさせんぞコラァ!」
うおっ!?何かラリーがキレやがった!
あっ、そういやラリーの奴、ここ暫くリーアに懐かれまくってたから、"お兄ちゃんスイッチ"みたいなのが出来ちまったのか!
見ろよ、キモい事言った男性冒険者が震え始めてるし!
「おおっ!ラリー兄貴がキレたぞ!」
「おい、さっきの奴!頑張って逃げろよ~!」
オッチャン達が囃し立てると、その男性冒険者は一目散に逃げ出す。
だが、キレたラリーはそれを許さない。
「コラァ!待ちやがれぇ!」
そう怒鳴ると、ラリーは普段のコイツなら有り得ない行動に出た。
何と、それなりに高いギルドの天井に届くようなジャンプで、何人もの冒険者の頭上を飛び越えたのだ。
そして、ギルドのドアを蹴り開けて、男性冒険者を追い始める。
その際、ラリーの足が一瞬、地面にめり込んでいたように見えたが、気のせいだろうか…………?
まあ取り敢えず、男性冒険者が生きている事を願おう。
『『『『『『『………………』』』』』』』
ラリーがギルドを飛び出していくと、冒険者達は暫くの間、ドアを見ていた。
「な、何かラリーの奴………変に、強くなってないか………?」
「た、確かに………」
「あんなジャンプ、私でも出来ないわ………」
すると、冒険者達の視線が、何故か俺に向けられる。
「…………え、何?」
思わず、俺はそう訊ねる。
「ねえ、ミカゲ……思ったんだけど…………」
不意に、エリスが話し掛けてきた。
「貴方達………特に貴方とラリーって今…………」
あ、この質問はマズいかも………
「………レベル、幾つなの?」
「……………」
やっぱり来やがった。
この質問が投げ掛けられた瞬間、俺は固まってしまった。
エメル達も、何処と無く気まずそうな表情を浮かべている。
「……………?」
「ミカゲ、顔色悪い……大丈夫………?」
エリスが首を傾げている中、心配そうな表情を浮かべたニコルがテクテクと近づいてきて、俺の背中を擦ってくれる。
「お、おう………ありがとな、ニコル」
俺はそう言って、ニコルの頭を軽く撫でる。
「………どういたしまして」
気持ち良さそうに目を細めながらそう言うと、ニコルはエリスの傍に戻った。
今思えば、俺等ってレベル上がるのが嬉しくて、調子に乗って魔物を討伐しまくったんだった。
今になっては、何体殺ったのか覚えてない。
ゴブリン、オーク、ウルフ系の化け物、目が1つのサイクロプス、デカい熊みたいな化け物、ワイバーン、小~中のドラゴン等々………数もそうだが、討伐してきた魔物の種類だって、挙げていったらキリが無い。
弱いのもあれば強いのもある。それを何十、何百と倒していれば………
「(そりゃ、レベルも180超えるわなぁ………)」
内心そう呟いて、俺は小さく溜め息をついた。
「…………187」
そして、自分のレベルを小さく呟く。
「………?ごめんなさい、何て言ったの?」
聞こえなかったらしく、ソブリナに聞き直されてしまった。
「俺のレベル、187です」
『『『『『『『……………はい?』』』』』』』
俺が自分のレベルを言った瞬間、ギルド内に居たガルム隊以外の面々が間の抜けた声を出したのは言うまでもないだろう。
「ひゃ、187って………」
「ま、マジかよ…………コレ、何かの間違いとかじゃ、ねぇよな………?」
「こんなレベル、今まで見た事無いわ………」
自分のレベルを言った俺だが、一応ステータスプレートを見せてほしいと頼まれたため、仕方無しに見せた。
プレートを見た冒険者達は、腰を抜かしているようだ。
因みに、ラリーのレベルが185である事を伝えると、ギルド内の面々が呆然として、この際だからと残りの女性陣のレベルを教えた時、何人かがブッ倒れたのは余談である。
特に、リーアのレベルを言った時の反応と来たら凄いものだった。
皆、この建物が揺れるような声で驚いてたからな。
一通り見たのか、ステータスプレートが返され、俺はプレートを収納腕輪にしまった。
「しっかし驚いたな。坊主達のレベルには………」
椅子にどっかりと腰掛けたオッチャンがそう言った。
「じゃあさ、パーティーランクはどうなんだ?
男性冒険者の1人がそう言うと、再び視線が集中する。
もう、こうなったら自棄だ。暴露してやる。
「クルゼレイ皇国に行ってからSSになりましたが、それから直ぐに上げてSSSになりました」
『『『『『『『……………………』』』』』』』
俺がそう言うと、ギルド内は再び沈黙した。
念のため、俺はギルドカードをエスリアさんに見せる。
恐る恐る受け取ったエスリアさんは、そのギルドカードを見て固まった。
「ほ……本当に……SSSランク、です…………」
エスリアさんはそう言って、カードを返してきた。
「ぼ、坊主………」
すると、オッチャンが立ち上がってこう言った。
「お前とラリー…………もう、人間辞めてるんじゃねぇか?ステータス的にも、色々と」
「言うなぁ!それを言うんじゃなぁぁぁぁあああああいっ!!!!」
耳を塞いでそう叫んでしまった俺は、悪くない筈だ。
「………よしよし」
そして、ニコルの頭ナデナデは、凄くありがたかった。
余談だが、それから数分後にラリーが"非常に良い笑顔を浮かべて"帰って来た。
……………ラリーの魔法攻撃を喰らいまくったのか、ボロボロになった男性冒険者を引き摺って。