さて、リーアをペロペロしたがってた男性冒険者を、ボロ雑巾のような姿になるまでボコボコにしたラリーが、"非常に良い笑顔"を浮かべて帰って来てから暫くして、今は夜。
ギルド内では、俺達ガルム隊のSSSランク昇格祝いを兼ねた、お帰りなさいパーティーが開かれていた。
ギルドのメンバーが急ピッチで作ってくれた飾りつけがあちこちに飾られ、垂れ幕には、『ガルム、お帰りなさい!&SSSランク昇格、おめでとう!』と書かれている。
嬉しいような、面映ゆいような………不思議な感じだ。
Sランクに昇格した時も似たような事があったが、中々慣れないものだな、こう言うのって。
「よう相棒、楽しんでるか?」
テーブル席に座り、ドンチャン騒ぎしてる冒険者達を見ていると、ジュースが入ったコップを持ったラリーが話し掛けてきた。
「おう、結構楽しんでるよ」
「そうかい?なら良かったよ」
そう言って、ラリーは俺の向かい側の席に腰掛ける。
「エメル達はどうした?」
「ああ、他の冒険者達と話してるよ。リーアは……………ご覧の通りさ」
そう言って、ラリーは自分の後ろを親指で指す。
体を傾けてそちらを見ると、女性冒険者達に揉みくちゃにされているリーアの姿があった。
「彼奴も、大変だな………」
「『ヒューマン族じゃないけど、皆に受け入れてもらえるのか』についての問題は解決したけど、今度は別の問題が出来ちゃったって訳さ」
俺の呟きに、ラリーは苦笑混じりに返した。
「それにしても……」
不意に、ラリーが話を切り出す。
「何か、夢を見ているような気分だよ………こんな光景、王都に居た頃の僕からすれば、有り得なかったからね」
「だろうな……俺も同じ気分だぜ」
染々と言うラリーに、俺はそう返した。
王都に居た頃のラリーは、全盛期は腕利きの魔術師として国から期待され、その人間離れした能力目当ての同級生達に言い寄られる日々を過ごし、例の事件後は、手のひらを返したかのように蔑まれ、あの銀髪ナルシスト野郎や、今頃ブタ箱にぶちこまれているであろう豚野郎共からの嫌がらせを受けると言う地獄のような日々を過ごしていたんだからな。
俺の場合、この世界に召喚されてステータスがクラスで最弱だった頃は、ラリー程ではないにせよ、少なくとも良い思いはしなかったな。
男子からは日々嫌がらせを受けたり嫌みを言われたりしたし、挙げ句の果てには富永一味からのリンチだからな。
彼奴等の集中攻撃から逃げまくった時に眼鏡壊れちまったし………畜生、あのクソ野郎共め。
今度会ったら零戦の7.7㎜弾と20㎜弾をしこたま足に喰らわせてから眼鏡代請求してやる。
え?機銃で撃たれた彼奴等の治療費はどうするのかって?知らんな。
城の魔術師か、F組の回復師にでもやらせときゃ良いさ。
「相棒、今何か物騒な事考えなかったかい?」
「いや、別に」
相変わらず鋭いなコイツ………てか、前々から思ってたんだが、俺ってそんなに分かりやすい奴なのか?
まあ、それはそれとして…………
「なあ、ラリーよ。1つ聞きたい事があるんだが」
「ん?何だい?」
俺が話を持ち掛けると、さっきまでリーアの方を向いていたラリーが此方を向く。
「この町にさ……眼鏡屋って、あると思うか?」
「う~ん、あるとは思うけど………あっ、そう言えば相棒って、最初は眼鏡掛けてたよね?」
今思い出したとでも言うような表情で、ラリーはそう言った。
「ああ、そうだ。まあ、例のリンチ事件で壊れて、フレームとかも、跡形も無く消えちまったがな………この際だし、新しく買おうかなって思ってるんだよ」
俺がそう言うと、ラリーはキョトンとした表情で首を傾げた。
「相棒って、そんなに目が悪いのかい?」
「いや、別に悪いって訳じゃねぇんだ。この世界に来てからは、寧ろ良くなったような気もするんだがな………」
「じゃあ、別に無くても良いんじゃないかな?と言うか、眼鏡無い方が良いと思うよ?相棒、それなりに顔整ってるんだから、眼鏡掛けてるより、今の方が良いよ」
「そうかぁ?」
そう聞き返すと、ラリーは何処か自信ありげな様子で頷いた。
「そっか………それなら、このままでも良いかな」
小さく笑みを溢して、俺はそう言った。
「おーい、坊主!何ボケーッとしてんだ!主役なんだから、もっと騒ぎな!」
そうしていると、オッチャン達が呼び掛けてきた。
「お呼びみたいだね」
「ああ、そうみたいだな…………良し、行くか!」
そうして、俺達は席を立ち、ドンチャン騒ぎしてる冒険者達の方へと向かっていった。
「んふふっ……ミカゲぇ~」
「ミカゲぇ………好きぃ………」
「ミカゲぇ、結婚してぇ~」
「おい、ラリー。この状況何とかしろ」
「いや、無理だから」
さてさて、酒が入った事で盛り上がりまくった、このお帰りなさいパーティーだが、酔い潰れて次々とダウンしていき、そろそろ終わりの兆しを見せてきた頃、俺は3人の酔っ払いに絡まれていた。
俺を挟む形で座っているソブリナとエリスが俺の肩に凭れ掛かり、ニコルは俺の膝の上に座っている。
向かいの席に座っているラリーに助けを求めるものの、あっさり拒否された。
つーか、今思ったんだが、コイツ等俺と同い年ぐらいって言ってたよね?つまり未成年って事だよね?酒飲んで良いの?この世界の飲酒云々の決まりがいまいち分からん。
「気分が良いれすぅ~」
あっ、そうこうしてると呂律がいまいち回っていないエスリアさんがやって来た。
こうなったら、マジで面倒な事になる気がする。
「ミカゲしゃ~ん、飲んれましゅかぁ~?」
俺の背中にグデェ~と凭れ掛かるエスリアさん。
つーか、この人酒臭っ!ドンだけ飲んだんだよ!?
「い、いやぁ~、飲んでないッスねぇ~」
苦笑混じりにそう返す。だって俺、未成年だし。未だ飲めねぇし。そもそも飲んだ事ねぇし。
「にょみまひょ~よ~」
俺の前に、酒が少し入ったコップをちらつかせるエスリアさん。
「いや、その……俺、未成年なので………遠慮しときます」
取り敢えず、やんわりと断っておく。
「……ふえぇ」
「…………え?」
…………何か、スッゲー嫌な予感がする。
あまり振り向きたくはないが、一先ずエスリアさんの方へと顔を向ける。
「ふえぇ~…………」
この人泣いてるぅぅぅぅうううううっ!!?
「相棒がエスリアさん泣~かした~」
「ちょっ、テメェ!?」
コイツ思いっきり楽しんでやがるな?後で覚えてやがれ!
「んぅ………ラリー…………」
「…………へっ?」
「…………?」
何処からか聞き慣れた声が聞こえてくる。
「りゃりぃしゃあん………」
それに続いて、幼げな女の子の声も聞こえるのだが、もしかして……?
いや、まさかな。考えすぎだろう。
「ちょっ、エメル!?それにリーアも!」
あっ………どうやら的中したようだ。
顔を真っ赤にしたエメルとリーアが、何処から来たのか、ラリーにしがみついている。
てか、エメルもそうだが、リーアに酒飲ませたの誰だよ?未だ12歳だぞリーアは。
そうしている内に、ラリーはエメルとリーアに挟まれてしまった。
「あ、相棒!見てないで助けてよぉ!」
「ラリー、取り敢えず一言言ってやる…………マジざまぁ!プギャー!」
「テメェふざけんなよこの野郎!」
先にからかいまくっておいて何をほざくか。大人しく揉みくちゃにされやがれ。
「ミカゲしゃ~ん……ヒック………えぐっ………にょみま、ひょうよ~」
あっ、この人への対応忘れてた。
つーかエスリアさん、泣きながら俺に酒勧めようとしてるし。
「いや、ね?俺、酒飲めないんですよ」
そう言ってみるのだが…………
「ふえぇ~、ミカゲしゃんにきりゃわりぇたぁ~!」
…………こうなるんですよねぇ~。
「………むぅ~」
そうしていると、今度はソブリナが絡んでくる。
「ミカゲぇ、わらし等の方がしゃきに言ってりゅにょに、えしゅりあに構ってぶぁっかじゃにゃい」
ベロベロ状態で絡んでくるソブリナ。呂律も上手く回っていない。
無理なのは承知だが、取り敢えずソブリナを何とかしてもらうため、ニコルやエリスの方を向いてみるものの…………
「んぅ……すぅ……」
「……くかぁ~………」
…………コイツ等、スッゲー気持ち良さそうに寝てやがる。
「ねぇ、ミカゲぇ~………おしゃきぇにょみにゃしゃいよぉ」
「ううぅ~………ミカゲしゃ~ん。きりゃわにゃいでぇ~………」
め、面倒臭ぇ!酔っ払いの相手がこんなに面倒だとは思わなかった!
「ちょ、2人共………エリスとニコル寝てるから………な?」
取り敢えず落ち着くように言うのだが…………
「しょんにゃの知りゃにゃいわよぉ」
「そぉでぇ~しゅ。知りましぇ~ん」
こう返してきた。
つーかソブリナ、この2人お前のパーティーのメンバーだろうが。『知らない』じゃねぇよ『知らない』じゃ。
「むぅ~………こうにゃったりゃあ」
すると、ソブリナはエスリアさんからコップを奪い取る。
「ふえぇ~!コップ返してぇ~!」
手を伸ばして泣き喚くエスリアさんをガン無視してコップの中に残っていた酒を一気に口に流し込む。
そして此方を向き、睨んでくる。
うわっ、何かスッゲー嫌な予感がするんですけど…………
「ちょ、おい、ソブリナ…………お前、まさかとは思うが………」
「にょめぇ~!」
「むぐっ!?」
俺の後頭部に腕を回して、そのまま唇を押し付けてきた。
…………そう、"口移し"である。
「ああぁぁぁあ~~!」
耳元で喚きまくるエスリアさんだが、今はそんな事気にしていられない。
「ん~っ!ん~~っ!」
耳元で喚くエスリアさんは一先ず置いといて、兎に角ソブリナを押し退けようとするのだが……………コイツ、力強すぎだろ!
どっからそんな馬鹿力が沸いてくるんだよ!?
頭の中でそんなツッコミが浮かび上がるのだが、最早手遅れ。
ソブリナが無理矢理流し込んできた酒を……………飲んでしまったのだ。
「~~~ッ!?ゴホッゴホッ!何ッッじゃコリャ!?」
味めっちゃキツい!超苦っ!コレが異世界の酒かよ!?
「むふふぅ~」
咳き込む俺とは逆に、ソブリナは満足そうだ。
「むぅ~…………わらひもぉ!」
「んぅ!?」
一体何に対抗心を燃やしたのか、エスリアさんがそのまま唇を押し付けてきた。
口移しでもない、マジでの"キス"だ。
「(……もう、駄目だ。ついていけねぇ…………取り敢えず、酒は20になるまで、絶対飲まねぇ…………)」
今後、絶対に酒は飲まないと誓いながら、俺は意識を手放す。
視界がブラックアウトする中で最後に見たのは、ソブリナと同じように満足げな表情を浮かべているエスリアさんだった。
え?ゾーイとアドリアはどうなったんだって?
さあ、知らんけど…………多分、どっかで寝てるんじゃね?
神影とラリーが勝てないもの=酔っ払った人(笑)