『The Journey Home』…………それは、『エースコンバット5~The Unsung War~』の挿入歌で、エンディング曲でもある。
エースコンバット・シリーズでの名曲の1つと言っても過言ではない。
エースコンバットのファンなら誰もが知っており、この曲を聞いた多くのファンが、涙を流しただろう。
俺も、その1人だ。
初めてプレイした時、男性達が歌い始めて少しした辺りで何故か泣いてしまい、ちょうど、部屋干しにしていた着替えを取りに来た妹が驚いていたのを今でも覚えている。
その後、曲を聞いて泣いていた事が妹を通じて親にバレて、家族全員に笑われたものだ。
……それにしても、家族か……………
「(父さん達……元気にしてるかな…………?)」
歌いながら、俺はそんな事を考える。
今思えば、家を出る前にバレンタイン云々で父さんにからかわれたのが、家族と交わした最後の会話だった。
果たして俺は、何時か、元の世界に帰って家族と再会する事が出来るのか?
それとも帰る事は出来ず、あの時の会話が、家族との最後のやり取りになってしまうのか………?
それは、今の俺には皆目検討もつかない。
「♪~………」
そんな事を考えている内に、俺は歌い終えてしまった。
そうしてソブリナの方を向くと、彼女は目尻に溜まった涙を拭っていた。
「ソブリナ、お前………」
「あ、ごめんなさい………でも、涙が……止まらなくて…………」
そう言いながら、溢れ出る涙を拭い続けるソブリナ。
そんな彼女を見ていた俺だが、ふと、頬を何かがつうっと伝っていくのを感じる。
頬に軽く触れてみると、指が少し湿っていた。
どうやら、俺も無意識の内に涙を流していたようだ。
それから暫くの間、俺達はただ、溢れ出る涙を拭い続けていた。
「まさか、2人共泣いちゃうなんてね………」
「ああ……」
あれから少しして、漸く涙が止まった。
頬を赤らめながら言うソブリナに、俺は頷く。
「それにしても、本当に良い歌だったわ。何を言ってるのか分からないけど………心が、温まるような感じがしたわ」
そう言って、ソブリナは胸に手を当てた。
「さっきの歌、貴方が住んでた世界の歌なのよね?」
「まあな」
「そう………」
そう言って、ソブリナは夜空を見上げる。
「満天の星空の下で、こんなにも良い歌を………それも、異世界の歌を聞けるなんて………私は、運が良いわね。朝になったら、エリスやニコルに自慢してやろうかしら」
「そんな事したら、2人が俺に『歌ってくれ』とせがみそうだな」
そう言ってやると、ソブリナはクスッと笑った。
「その時はお願いね?2人共、きっと気に入るわ」
「はいはい」
からかうような笑みを浮かべて言うソブリナに、俺はそう返す。
「それにしても、本当に良い経験が出来たわ。今の私、もしかしたら其処らの貴族や勇者よりも良い思いをしているかもしれないわね」
「だろうな」
言い忘れていたが、この世界は元の世界より空気が澄んでいるため、星が綺麗に見える。
まあ、この世界には車やバイクと言った排気ガスを出すものが無いからな。
それに、土地の開発がされまくってる訳でもなく、自然も豊かとなれば、空気だって綺麗になるだろう。
そんな中で、あの歌を聞けると言うのなら…………こんなにも贅沢な話は無いだろう。
まあ、今となっては、俺達ガルム隊が戦闘機の力を使って飛び回ってるから、かなりの排気ガスが出されてる筈なんだが、それがどうなるのかは…………まあ、それは置いておこう。
多分、6人ぐらいなら大丈夫なんだよ。
うん、そう言う事にしておこう。
そうしていると、不意にソブリナが話し掛けてきた。
「ところでミカゲ、聞きたい事があるんだけど」
「おう、何だ?」
そう言うと、ソブリナはいつになく神妙な表情を浮かべた。
「貴方達………この町には何れぐらい居るつもりなの?」
「あ~、そうだなぁ……… 」
そう聞かれ、俺は返答に困った。
「(そう言えば、何時まで此処に居るのかは、未だ決めてなかったな。どうしようか………?)」
俺は内心でそう呟いた。
出来るなら、元の世界に帰る日が来るまでこの町に居たい。
だが、クルゼレイ皇国の女王陛下や姫さんには、『ちょっと里帰りするだけで、暫くしたら戻る』と約束したからな。
その辺りの事も考えると…………
「精々、1~2週間ぐらいかな」
「そう、そんな直ぐに行ってしまうのね………残念だわ。ずっと、此処に居たら良いのに」
俺が答えると、ソブリナは寂しそうな表情を浮かべてそう言った。
「まあ、俺としてもそうしたいが………
俺はそう言った。
「確かに、その通りね」
そう言って、ソブリナは頷いた。
「さて、そろそろ戻るか。あまり長居すると、風邪引いちまうからな」
立ち上がりながらそう言うと、俺は旅館に向けて、ゆっくりと歩き出す。
「………あ、待って」
すると、ソブリナが呼び止めてくる。
「どうした?」
振り向いて聞き返すと、其所には頬を赤らめているソブリナの姿があった。
「1つだけ…………ワガママ、言っても良い?」
「"ワガママ"?」
俺は首を傾げた。
ソブリナは頷き、右手を差し出してきた。
「りょ、旅館まで………手、繋いでくれる………?」
ソブリナはそう言った。
「ああ、別に良いぜ」
そう言って、俺はソブリナの手を優しく握る。
「あっ………」
ソブリナの頬が赤みを増し、小さく声を上げる。
恥ずかしそうにしながらも、何処か嬉しそうだ。
そうして、俺はソブリナの手を引いて旅館へと向かった。
「ありがとう、楽しかったわ」
旅館に着き、部屋の前に来ると、ソブリナがそう言った。
「そうか?それなら何より」
そう返して、ソブリナの手を離す。
「そんじゃ、おやすみ」
そう言って、部屋のドアノブを握った時だった。
「ミカゲ」
不意に呼び止められ、俺はソブリナの方を向く。
「明日のこの時間、空いてる?」
「ああ、寝てなければな」
「そう………なら、明日も少し、付き合ってもらえる?話したい事があるの」
「………まあ、良いけど」
そう答えると、ソブリナは笑みを浮かべた。
「ありがとう…………おやすみ、ミカゲ」
そう言って、ソブリナは部屋へと入っていった。
「"話したい事"、ねぇ………一体、何の話をするのやら」
俺は小さく呟き、部屋に入った。
部屋に入ると、ゾーイとアドリアが寝息を立てている。
今のところ、2人は俺が部屋を出た事には気づいていないようだ。
俺は、2人を起こさないように気を付けながら、空いているベッドへと歩みを進める。
そして、そのベッドに倒れ込み、目を瞑った。
数時間が経ち、俺達は何時もと変わらぬ朝を迎えた。
俺が起きると、既にゾーイとアドリアが起きており、俺が別のベッドで寝ていた理由について問い詰められた。
流石に、『ソブリナと2人で散歩してた』なんて馬鹿正直に答える訳にはいかないので、『寝惚けてたから覚えてない』と答えて誤魔化しておいた。
それから部屋を出ると、ソブリナ達アルディアの3人やラリー達と合流して食堂に行き、朝食を済ませる。
そして部屋に戻り、暫くリラックスした後、依頼を受けようと思ってギルドへ向かう。
「この町のギルドで依頼を受けるなんて、久し振りだなぁ………」
隣を歩くラリーが、大きく伸びをしながらそう言った。
「まあ、この町に帰ってくるまではクルゼレイ皇国の王都で依頼を受けてたからな」
そんな会話を交わしている内に、俺達はギルドにやって来た。
扉を開けて中に入ると、既に他の冒険者達がギルドに居た。
「よぉ、坊主!」
そして、相変わらず酒を飲んでるオッチャンが、一番に声を掛けてくれる。
「はよ~ッス」
今となっては、こんな砕けた口調で話せるようになっている。
オッチャンに続く形で声を掛けてくれる他の冒険者達に返事を返しつつ、俺達は受付カウンターへと向かう。
其所には、何時ものように、エスリアさんが立っていた。
「おはようございます、ガルムの皆さん」
そう言って笑みを浮かべるエスリアさん。やはり癒されるわ~………
そう思いながらも挨拶を返し、何か良さそうな依頼が無いかを聞こうとした時だった。
「あの………ミカゲ様………」
不意に、ゾーイが話し掛けてきた。
その傍らには、他の女性冒険者が数人居る。
それから話を始めたゾーイ曰く、どうやらガルム隊女性陣に、他の女性冒険者達から買い物へのお誘いがあったらしく、それについていきたいとの事だ。
「まあ、良いぜ。楽しんでこいよ」
「はい。ありがとうございます」
ゾーイはそう言った。
そうして、ガルム隊女性陣とアルディアの3人は、他の女性冒険者達と共にギルドを出ていった。
「それでミカゲさん、今日はどうしました?依頼ですか?」
「あ~………いや、やっぱり何でもないです」
取り敢えず、依頼を受けるのは今度にしよう。
それから、俺とラリーは宿に戻り、俺の部屋で寛いでいた。
「ねえ、相棒。今日の夜って暇?」
不意に、ラリーがそんな事を訊ねてくる。
「ん?なんでだ?」
「いや、その…………もし暇なら、久し振りに2人だけで夜間飛行でもしようと思ってね。どうだい?」
そう言うラリーだが、生憎、既にソブリナとの予定が入っている。
俺は一言謝罪を入れて、昨晩の事を話した。
「成る程、ソブリナが君に話、ねぇ…………」
ラリーはそう言って、暫く俺を見ていたが、やがて、何かを悟ったような表情を浮かべた。
「…………?どうした?」
「いや、何でもない。ただ1つだけ言いたい事があるんだ」
「"言いたい事"?」
そう聞き返す俺に、ラリーは頷いた。
「今夜の彼女の話は、真剣に聞いてやってほしいんだ。恐らく、気楽に聞けるようなものじゃないだろうからね」
そう言うラリーの表情は、いつになく真剣だった。
「絶対に、何時ものように適当な返事を返したら駄目。ちゃんと考えた上で答えを出すように………………良いね?」
「お、おう」
ラリーの何とも言えない気迫に圧されつつ、俺は返事を返した。
「うん、よろしい」
ラリーは満足げに頷き、そう言った。
はてさて。ソブリナは今夜、俺に何を言うつもりなのだろうか?
次回、あの鈍感な神影が…………と言いたいところですが、サイドストーリーを投稿します(完全な焦らし)