さてさて、ソブリナ達アルディアの3人にからかわれながらも、デートを始めた俺達は、王都を歩き回っていた。
辺りを見回すと、やはり賑わっている。
出店が幾つも開かれており、その店の店主さん達が、行き交う人々に声を掛けている。
飲食店や服屋、図書館、はたまた武器の専門店等もあり、それらの店に、人が絶えず出入りしている。
「…………あ、そう言えば」
王都の町並みを見渡しながら歩いていると、俺の頭にある事が浮かび、足を止める。
「ミカゲ、どうしたの?」
俺の右腕に抱きついているソブリナが訊ねてきた。
左腕に抱きついているエリスや、前を歩いているニコルも俺の方を向いている。
「あ、ああ………ちょっと、な…………」
何とも曖昧な返事を返すと、俺は辺りを見回し、特に建物の壁を凝視する。
ある程度見ると、俺は安堵の溜め息をついた。
「どうやら、もう貼ってないみたいだな………良かった良かった」
『『………………?』』
俺の独り言に、3人は揃って首を傾げた。
因みに俺が探していたのは、尋ね人の貼り紙だ。
何故そんなものを探すのかと言うと、少し前に遡る。
以前、未だ俺がゾーイやアドリアから嫌われていた頃、気分転換のためにラリーと一緒に王都に来た時は、俺に関する貼り紙があちこちの店の壁に貼られており、その時は、"尋ね人"と言うより、"お尋ね者"になったような気分を味わったものだ。
それを思い出し、そんな感じの貼り紙が未だ貼られていないかと警戒していたのだが………………どうやら無いようなので、安心した。
そうして歩いていると、俺達は王宮へ入るための門の前に来ていた。
足を止め、皆で王宮を眺める。
「ミカゲ達の異世界生活は、此処から始まったのね………」
そう呟くソブリナに頷き、俺は、この世界に召喚されてからの事を思い出していた。
ステータス値がクラスで最弱だった上に、称号が勇者じゃなかったために、宰相やF組男子、他の貴族からもぞんざいな扱いを受けた。
そして極めつけには、富永一味からのリンチ攻撃だ。
あのリンチのせいで、俺は眼鏡を失った。
まあ、別に無いと困るって訳でもないのだが…………
「(彼奴のせいで無くしたってのが、癪なんだよなぁ………)」
取り敢えず彼奴等には、再会したら7.7㎜や20㎜弾をしこたま脚に撃ち込んだ後、眼鏡代を請求してやる事を改めて決意する。
銃弾ぶちこんだ後の彼奴等の治療は…………知らね。国の騎士団にでもやらせりゃ良いだろ。
なんて考えていた、その時だった。
「………んっ」
「…………?」
突然、ニコルが正面から抱きついてきた。
突拍子も無いニコルの行動に、俺達は戸惑う。
この時ばかりは、ニコルの体型に似合わない豊満な胸が俺の腹の辺りに押し付けられているのを感じている暇は無かった。
「お、おいニコル。どうしたんだ?」
そう訊ねると、ニコルは顔を上げて俺を見つめた。
「ミカゲ………難しい顔、してた…………」
「ッ!」
そう言われ、俺はハッとした。どうやら、表情に出ていたようだ。
「ミカゲ……貴方…………」
「もしかして、城で生活していた時の事を考えてた…………とか?」
そう聞いてくるソブリナとエリスに、俺は頷いた。
「ミカゲ………城に、戻りたい………?」
相変わらず俺に抱きついているニコルが、そう聞いてくる。
「いや、そう言う訳じゃない。ちょっと、色々思い出してただけなんだ」
俺はそう答えた。
俺の最終的な目標は"元の世界に帰る事"だが、そのためにF組の連中と群れるのかと聞かれたら、答えは"NO"だ。
女子だけなら未だしも、男子も居るとなれば、面倒な事になるのは火を見るより明らかだからな。
まあ、だからと言って、元の世界に帰れるようになった時、F組の連中を置き去りにしようとは考えていない。
その際は、ちゃんと伝えに行くつもりだ。
男子が言う事を聞いてくれるかが、大きな問題だけどな。
「まあ、そんな事は置いとこうぜ。今はデート中なんだからな」
そう言うと、アルディアの3人は頷いた。
「さて…………それじゃあ何処行こうか?」
王都に何があるかと言えば図書館ぐらいしか覚えてないのに、俺はそんな事を言ってみる。
すると、ソブリナがおずおずと手を上げた。
「ねえ、ミカゲ。行きたい所があるんだけど…………」
…………んで、俺達はソブリナの提案で服屋にやって来たのだが…………
「なんで俺、着せ替え人形みたいになってるんですかね?」
キラキラと目を輝かせている3人の前で、黒の半袖Tシャツにネルシャツ、そして黒ジーンズに着替えさせられた俺はそう呟いた。
「ミカゲって何時も同じ服着てるでしょう?それも、冒険者の格好」
「いや、だって冒険者だし」
ついでに言うと航空傭兵だしな、俺…………
そう言う俺だが、それで女性陣が納得してくれる訳が無く…………
「それじゃ駄目よ!この歳の子は、男女問わずもっとオシャレしなきゃ駄目なの!」
そう力説するソブリナに、エリスとニコルは、ウンウンと相槌を打っている。
「そんなモンかねぇ…………?」
ファッションには全く興味が無い俺にとっては、オシャレとかは正直どうでも良い。
何処にでもあるような普通の服さえ着ていれば、それで良かったからな。
家ではジャージ姿で過ごす事もあったし。
「ミカゲ………デートなんだから………服装、もう少し考えるべき…………」
「うぐっ………言われてみれば、確かに…………」
ニコルにそう言われた俺は、今日までの服装を改めて考える。
エスリアさんとのデートでは冒険者の服装だったし、ゾーイとアドリアとのデートでは学ランだった。
少なくとも、何れもデートで着るような服装ではないだろう。
そんなこんなで上手くやり込められた俺は、アルディアの3人が次々と選んで持ってくる服を着まくる事になった。
そうして試着を続けたのだが、何れもコレも、いまいちパッとしなかった。
「う~ん………色々試したけど、中々見つからないわね。ミカゲが気に入りそうな服…………」
ソブリナが残念そうに言った。
あれから何十着も試着させられたのだが、前述の通り、何れもコレもパッとしなかったのだ。
服なんて、母さんに連れられて服屋に行って、適当に決めたものばかり着てたからな。
因みに、俺が試着した服の中には、ド○ゴ○○ールの孫○空が着ているような胴着や、執事服まであったのだが、ニコルは執事服が気に入ったらしく、矢鱈と勧めてきたものだ。
「やっぱり、執事服…………駄目?」
「うん、駄目ですね」
ニコルの提案を、俺は一蹴した。
てか、お前未だ持ってたのかよ…………
「……しょぼ~ん………」
わ~お。『しょぼ~ん』なんて口で言う奴初めて見たよ。
「そもそも、ミカゲはどんな服が好みなの?」
落ち込んでいるニコルを見ていると、エリスが口を開いた。
「好みの服、ねぇ…………」
そう言いながら試着室から出た俺は、店内を歩き回る。
ソブリナ達も、俺に追従する。
「まあ、今まで適当に選んでた俺にとっちゃ、服なんて何れも同じに見え………ん?」
そう呟きながら歩き回っていた俺だが、ある服が目に留まり、足を止める。
「ミカゲ?」
「………………」
急に足を止めた俺を不思議に思ったのか、ソブリナが声を掛けてくるのだが、俺は返事を返さなかった。
「(マジかよ…………まさか、この世界で出会えるとはな…………!)」
俺は内心でそう呟いた。
ハンガーに掛けられているその服は、"見覚えがある"程度の表現では足りない。
すかさずハンガーを手に取り、前後左右、360度全て眺める。
さっきまでの退屈そうな表情から一転した俺に、アルディアの3人が何事かと戸惑っているが、そんな3人をガン無視して、俺はその服を眺める。
そして、ある程度眺めると、俺は3人の方へと振り向いた。
「コレに決めた」
そして、淡々とそう言う。
「…………コレ?」
「そう」
怪訝そうな表情で聞いてくるソブリナに、俺は間髪入れずに頷いた。
『『………………』』
何とも言えないとでも言いたげな表情で、俺が持っている服を見る3人。
まあ、3人がこうなるのも無理はない。
何せ、俺が持っているこの服は、少なくともデートで着るようなものではないからな。
何処かの傭兵が着ていそうな服だ。
…………え?『何か色々言ってるけど、結局どんな服なのか』って?
う~ん、口では上手く説明出来ないんだが…………
まあ、一言で言えば………………『エスコンファンなら、誰しも1度は着てみたいと思うような服』………とでも言おうか。
エースコンバットzeroをプレイした人なら分かると思うが、冒頭とエンディングで、ラリー・フォルクが着ていた、義勇軍兵士の服だ。
残念ながらパイロットスーツではないが、エースコンバットの名シーンで使われていた服となれば、着てみたいと思う人が居る…………筈だ。
「(この服、ガルム隊のユニフォームに良いかもな…………ガルム隊のエンブレム作って、肩辺りに縫い付けて…………)」
そう思うと、自然と頬が緩む。
「ミカゲ………嬉しそう………」
「と言うより………何かニヤけてない?」
傍でニコルとエリスがそう言っているが、取り敢えず無視。
直ぐ様会計の方へと持っていき、カウンターに叩きつける勢いで置く。
「コレください!今直ぐ!!」
「は、はい!」
そのせいで店員さんを怖がらせてしまったが…………まあ、良いよね?
そんなこんなで無事に購入。やったね!
まあ、それで終われば解決なのだが、そうは問屋が卸さない。
アルディアの3人から、『デート用に、ちゃんとした服を買うべきだ』と迫られたので、黒い半袖のTシャツと、緑色でファスナー部分が赤くなっている、ロングコート風で袖無しの上着、そして紫のズボンを新たに購入し、それを着る事になった。
そんなこんなで服屋を後にした俺達は、再び王都を歩き回っているのだが…………
「う~ん、やっぱり慣れねぇなぁ………俺らしくないと言うか…………」
新しく買った服を見ながら、俺はそう呟いた。
初めて着た服と言うのもあるが、やはり元の世界では地味な服ばかり着ていたし、此方の世界では、ずっと冒険者の服を着ていた俺にとっては、この服装には違和感を覚える。
だが、アルディアの3人からは好評なようで…………
「何言ってるのよ?そっちの方が良いわ!」
「何時までも冒険者の服ばかり着てたら、流石にやってられないわよ」
「ミカゲ………カッコいい…………」
ソブリナ、エリス、ニコルの順に称賛してくる。
褒められて悪い気はしないのだが、冒険者の服もそれなりに気に入ってただけに、何だか複雑な気分だなぁ…………
それから昼食を摂り、王都の散策を再開する。
俺の前を歩き、キャッキャとはしゃいでいる3人を眺めながら、俺は、ある事を考えていた。
それは、『俺達ガルム隊がクルゼレイ皇国に戻る時、ゾーイとアドリアを除く4人をどうすれば良いのか』と言う事である。
態々語らずとも分かっているとは思うが、俺達ガルム隊は、"航空傭兵"の
そして、戦闘機の力を使えるのは、ガルム隊のメンバーだけ。
つまり、エスリアさんやアルディアの3人は、当然ながら、戦闘機の力を使えない。
ならば与えれば良いのかもしれないが、
今まで躊躇無く使ってきたが、この世界にとって、戦闘機と言うのは、その気になれば単独でも国を壊滅出来かねないチート兵器だ。
音速を超える速度で空を飛び、ミサイルや爆弾やロケット弾、機銃掃射で、地上に居る敵も空の敵も、軽々薙ぎ払う。
そんな力を持っているのが俺達ガルム隊だけだから良いかもしれないが、エスリアさんやアルディアの3人はどうだろう?
そう考えると、4人に戦闘機の力を与える訳にはいかなくなる。
だが、そうともなれば、たとえ彼女等からの告白を受け入れても、この4人をエリージュ王国に残して、クルゼレイ皇国に戻る事になる。
それも、通信手段無しの状態で…………
「(そうなるのは嫌だな。もし告白を受け入れるとすれば、エスリアさんやアルディアの3人と連絡を取る手段をどうするかが問題だな。さて、どうすべきか………)」
そう考えていた時、ふと顔を上げると、3人の姿が無かった。
「…………………あれ?」
辺りをキョロキョロ見回すが、3人は見当たらない。
後ろを向くと、漸く見つけた。ソブリナが、此方に手を振っている。
どうやら、考え事に熱中するあまり、3人とは別の方向に進んでしまっていたようだ。
「やれやれ、デート中に何してんだよ俺は………」
自分自身に呆れながら、俺は来た道を戻る。
ソブリナ達も俺に駆け寄ろうとするが、男性2人、女性3人で構成された冒険者パーティーらしき集団が、彼女等の行く手を阻んだ。
「……………知り合いかな?」
そんな事を呟きつつ、俺はアルディアの3人に合流するため、足を動かす。
近づくにつれて、声も聞こえるようになってきた。
聞こえてきた話からして、知り合いと言う訳ではないらしい。
何やら3人が迷惑そうにしているので、取り敢えず3人をこの場から引き離すとしよう。
「よお、待たせてゴメンな」
俺が声を掛けると、3人は此方を向く。
「ミカゲ!」
そうしてソブリナが走り出したのを皮切りに、エリスとニコルも駆け寄ってくる。
てかニコル、あまり走らない方が良いと思うぞ?何処がとは言わんが、揺れてるから。ユッサユッサと。
「遅いじゃない。何処行ってたのよ?」
「ああ、すまん。ちょっと考え事してたら変な方向に歩いてたみたいでさ」
エリスにそう答えると、ニコルがまた、正面から抱きついてきた。
「今……私達と、デートの時間………だから、私達の事だけ………考えていれば、良い………」
「ああ、そうだなニコル」
そう言って頭を撫でてやると、ニコルは気持ち良さそうに目を細め、頬を擦り付ける。
「それじゃあ、ミカゲが私達の事以外は考えられないようにしてあげなきゃね」
「ええ」
そうして、ソブリナは俺の右腕に、エリスは左腕に抱きついてきた。
それを見たニコルも、俺の背中に回り込んで飛び付いてくる。
今の俺は、ソブリナとエリスに両腕を抱かれ、ニコルをおんぶしている状態だ。
「さて………それじゃあ行こうか」
3人が頷き、俺達は歩き出す。
だが、世の中そう上手くはいかないもので、ソブリナ達に絡んでた連中が回り込んできた。
その5人………特に男2人が物凄い形相で俺を睨んでいる。
「…………あの、退いてくれませんかね?」
トラブルを避けるべく、一先ず丁重に頼んでみる。
「君は、彼女等の何なのかな?」
男2人の内、爽やか系イケメンの男性が聞いてくる。
う~ん、どう答えたものか…………別にパーティー組んでる訳でもないからなぁ…………
「彼は、私達の恋人よ」
返答に困っていると、ソブリナが言い放った。
てか、"恋人"と言うより、"恋人(仮)"と言った方が正しいんだけどな…………
「私達は、彼とデートの途中なの。邪魔しないでくれる?」
ソブリナに続く形でエリスが言い、ニコルも、抱きつく力を強くした。
「「………………」」
エリスにそう言われた男2人は、俺に視線を向ける。
そして、爽やか系イケメンの相方と思わしき大柄な熱血系イケメンが、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「そんな奴に、君等の彼氏が務まるとは思えねぇんだがな………」
熱血系イケメンがそう言うと、ソブリナ達が彼等を睨むのだが、それを知ってか知らずか、爽やか系イケメンが俺にこんな事を言った。
「君は、彼女等の彼氏には相応しくない。今直ぐ、この場を去りたまえ」
…………何言ってんだコイツ?普通、初対面の相手にそんな事言うか?
ある意味凄いよ、マジで。
俺が怒りを通り越して呆れていると、 爽やか系イケメンはソブリナ達の方を向いた。
「そして君達。この僕、ルーン・ウォノがリーダーをしているAランク冒険者パーティー、"ラミー"に入りたまえ!君達のようなお嬢さん達なら大歓迎だ!」
大袈裟に腕を広げて、アルディアの3人を勧誘する、ルーンと言う男。
マジどんな神経してんだコイツ?いきなり『相応しくない』だの『立ち去れ』だのほざく上に3人を勧誘してるし………
『『………………』』
呆れているのはアルディアの3人も同じようで、付き合いきれないと言わんばかりの表情を浮かべている。
「…………とか言ってるけど、どうする?」
試しに、アルディアの3人に聞いてみる。
「決まってるでしょう?行く訳が無いわ」
ソブリナが即答した。
エリスとニコルも、同意だとばかりに頷いている。
「え~っと、この3人は満場一致で貴殿方にはついていきたくないみたいなんですが…………」
そう言ってみるものの、相手も中々往生際が悪い。
あ~もう、面倒臭いなぁ…………
「……それなら………」
不意に、ニコルが口を開いた。
「ミカゲと、勝負………する……」
ニコルはそう言いながら、男2人と俺を交互に指差す。
「勝負?」
「そう」
聞き返してきたルーンに、ニコルは頷く。
「ミカゲが、勝ったら………消えろ」
恐っ!今ニコルの奴、『消えろ』って言いましたよ!?『消えろ』って、ハッキリと!
「…………フッ」
だが、相手は余裕そうな表情を浮かべている。
「良いだろう。その勝負、受けてたつ」
あっさり受けやがった。
コイツ、もしかして俺がガルム隊の隊長だって事に気づいてないのか?
そこそこ有名になったと思ってたが…………やっぱ、知らない奴も居るって事か。
「ガルムだか何だか知らないが、ちょっと有名になった程度で調子に乗ってる奴に、この僕達が負けるものか」
…………あ、どうやら俺の事を知ってたらしい。
てか、別に調子に乗ってる訳じゃないんだけどなぁ…………
なんて考えている間にも、トントン拍子で話は進み、俺はルーンと、もう1人の男性メンバーである熱血系イケメン、ザント・グレンと勝負する事になってしまうのであった。
ああ、神様。次に誰かとデートする時は、誰にも邪魔されず、平和なデートが出来ますように…………