「はぁ………」
ソブリナ達とのデートから一夜明けた日の早朝、何時もより早く目が覚めた俺は、宿の外で溜め息をついていた。
ルーンやザントの言い分にムカついたとは言え、盛大にやってしまった。
コレが日本だったら、暴行罪&逮捕待ったなしだろう。
まあ、ルーンやザントをぶちのめした事についての後悔は無い。
あんな連中、GAU-8の掃射攻撃を喰らわせてやっても良かったとすら思ってる。
問題は、ソブリナ達の目の前で2人をぶちのめした事だ。
最低な奴等だったが、あんな公開処刑を見せられて、流石に良い気分にはならないだろう。
「それにしても、俺でも予想外だな。あんなに怒るなんて………」
そう呟いた時だった。
「へぇ~。デートの最中に、何か気に入らない事でもあったのかい?」
「ッ!?」
不意に背後から声を掛けられ、俺は振り向く。其所にはラリーが居た。
「何だ、ラリーか…………お前も早く目が覚めたのか?」
「まあね、最近よくあるんだよ…………君がエスリアさん達とデートを始めた日からは、特にね」
そう言って、ラリーは俺の隣に歩み寄ってきた。
「それで?昨日のデートで何があったんだい?君が怒るんだから、君に何か失礼な事をするような奴とでも出会したんじゃないのかい?」
「………何故、分かった?」
「長い間君と一緒に居たんだから、そんなの直ぐに分かるさ」
ラリーはそう言った。
「で、聞かせてくれないかな?昨日のデートで何があったのか」
「…………ああ」
そうして俺は、昨日の出来事について話した。
王都でソブリナ達が、ルーンとザントに勧誘された事や、ルーンとザントが俺に言った事。2人と勝負する事になり、その時に2人が言っていた事。そして、ルーンが言った事に俺がぶちギレてルーンを完膚なきまでに叩きのめし、デートどころじゃなくなってしまい、王都から戻ってきた事を。
「………とまあ、大体こんな感じかな」
「………………」
俺が話を終えると、ラリーは神妙な表情を浮かべていた。
「世の中には、トンでもない
そう言うラリーに、俺は苦笑混じりに頷いた。
「それもそうだけど…………ソブリナ達とのデートは、近い内にやり直さないとね。途中で台無しになっちゃったんだから」
「ああ、分かってる」
ラリーの言葉に、俺は相槌を打った。
あんな終わり方じゃ、ソブリナ達も納得していないだろうし、俺だって納得出来ない。
今度こそは、誰にも邪魔されず、ちゃんとしたデートをしたい。
「………………フフッ」
そんな俺を暫く見ていたラリーだが、不意に微笑を浮かべた。
「な、何だよ?」
いきなり笑われた事に戸惑いつつ、俺は訊ねる。
「ああ、ゴメンゴメン。前までの相棒からは考えられなかったから、ちょっとね」
「………成る程な」
何故か納得出来てしまった俺は、そう返した。
「もうそろそろ、君にも彼女等への恋心が芽生えたんじゃないのかい?あんなに君の事を想ってくれているんだ、愛しさだって湧いてくるだろう?」
ラリーにそう言われ、俺は頷いた。
あの時…………6人から一斉に告白された日から、俺は矢鱈と彼女等を意識している。
エスリアさんの場合は、何時ものニパッとした笑顔にも反応してしまうようになっている。
見慣れた笑顔の筈なのに、告白されてから、あの笑顔を改めて見せられると、今までには無かった特別な何かを感じた。
デートした時だって、『空を飛ぶ』と言う夢が叶って喜んでいた時の笑顔は、今でも鮮明に覚えている。
ゾーイやアドリアの場合は、普段ならビックリしつつも適当に反応していた過激なスキンシップに反応してしまうようになっていた。
滝を見に行った際、襦袢を着て滝に打たれた後の2人の姿を想像したり、海に行った際には、2人の過激な水着姿に目を奪われたりした。
ソブリナ達アルディアの3人は、エスリアさんやゾーイ、アドリアとは少し違っている。
この3人とは、黒雲に捕まっていたところを助けてルージュに送り届け、宿で一夜を明かしてから別れて以来、俺等がルージュに帰ってくるまで、彼女等とは1度も会わなかった。
エスリアさんやゾーイ、アドリアと比べると、一緒に過ごした時間は非常に短い。
だが、たとえ短い時間でも、彼女等と一緒に居るのは楽しかった。
昨日のデートが途中で打ちきりになってしまったのは本当に残念だとも思っている。
『もっと彼奴等と、あちこち歩き回ったりしたかった』、『もっと話したかった』と、そんな思いが湧いてくる。
それに、ルーンとザントが3人を勧誘した目的が、3人を自分達のハーレムに加える事だったと知った時には、自分でも予想外な程に腹を立てていた。
…………どうやら俺は、本気で6人に恋をしちまったようだ。
「エースコンバットや戦闘機に夢中だった頃の俺からすれば、こんな事になるなんて考えもしなかっただろうな…………好きな人が出来るなんてさ」
俺はそう呟いた。
「まあ、こう言うのも良いんじゃない?エースコンバットや戦闘機に夢中になるのも人生だし、誰かを好きになるのも、また人生だよ」
ラリーがそう言い、俺も頷く。
そんな時だった。
「ミカゲ………」
不意に、後ろから声を掛けられる。
振り向くと、其所にはアルディアの3人が居た。
「やあ、ソブリナ。エリスとニコルも、おはよう」
3人に気づいたラリーが言った。
「ええ」
「おはよう、ラリー」
「…………」
ソブリナとエリスが返事を返し、ニコルも軽く頭を下げて会釈した。
「少し、神影を借りたいんだけど………良いかしら?」
「ああ、良いよ…………それじゃあ相棒、上手くやれよ?」
ソブリナの問い掛けに即答したラリーは、擦れ違い様に囁き、宿へと入っていった。
『『……………』』
残された俺とアルディアの3人の間で、気まずい雰囲気が流れる。
まあ、昨日俺がぶちギレて、ルーンを彼女等の目の前で叩きのめしたからな。
日本なら暴行罪&逮捕待ったなしになるような方向で。
「あ~、その………昨日は…………」
何とか話を切り出そうとする俺だが、どう言えば良いのか分からない。
「良いのよ、何も言わないで」
すると、ソブリナが口を開いた。
「昨日の事、考えていたんでしょう?」
「………ああ」
ソブリナにそう言われ、俺は頷いた。
すると、エリスが口を開く。
「言っておくけど、私達は貴方が恐いなんて思わないわよ?」
エリスが言うと、彼女の言葉に続ける形で、ニコルも相槌を打つ。
「怒り狂ってるのには驚いたけど………あれ、私達のために怒ってくれたんでしょう?」
どうやら、その辺りについてもお見通しのようだ。
此処で誤魔化そうとしても意味は無いので、素直に頷く。
「そう……やっぱりね………」
そう言うソブリナだが…………何か、顔赤くね?なんで?
俺、また何かやらかしたか?
ソブリナの反応に首を捻っていると、ニコルが歩み寄ってきた。
「もしかして、ミカゲ………覚えて、ない…………?」
「何を?」
そう聞き返すと、エリスが呆れたように溜め息をついた。
「はぁ………コレは、完全に覚えてないわね」
「いや、だから何を?」
ニコルやエリスが言っている事の意味が、いまいち分からない。
俺、昨日ルーンとザントを叩きのめした以外に何したっけ?
「貴方、ルーンに怒った時に何を言ったのか覚えてないの?」
「…………あっ」
エリスに指摘され、俺はルーンにキレた時に言った事を思い出す。
『人に恩を売って自分達の好きにしようと考えてるようなクソ野郎に、あの3人をやれるか!!』
あの時叫んだ言葉が、頭の中に響き渡る。
今思えば、俺トンでもなく恥ずかしい事叫んでたな…………
"ちゅ"で始まって"う"で終わる病気の患者でも、あんな事は言わんだろう。
ヤバい、思い出したら本気で恥ずかしくなってきた。
飛び込むための穴でも掘ろうかな…………?
「私達のために、あんなに怒ってくれて…………凄く、嬉しかったのよ」
なんて考えていると、エリスが言った。
「正直に言うと………私達、ミカゲにどう思われてるんだろうって、凄く不安だったの…………デートしてる時も、ミカゲは何時もと全く変わってなくて、意識してるような素振りも見せないから……」
そう言って、エリスは溜め息をついた。
意識は一応してたんだが、それを表に出さなかっただけなんだけどな。
「でも………」
すると、何時の間にか復活していたソブリナが話に入ってきた。
「ああやって怒ってくれたのを見た時、嬉しかったし、同時に、安心したのよ………ミカゲは、あんなにも私達の事を想ってくれているんだって…………」
ソブリナがそう言うと、エリスやニコルも頷いた。
そして、ニコルが前に出てくる。
「ミカゲ…………私の事、好き?」
「ああ」
「………ソブリナとエリスも、好き?」
「おう。お前等3人も、ゾーイやアドリア、エスリアさんも…………皆、大好きだ」
ニコルからの問いに頷くと、ニコルは嬉しそうな表情を浮かべた。
「………私も、ミカゲ………好き…………!」
そう言ってニコルが抱きついてくると、ソブリナとエリスも抱きついてきた。
それから暫く抱き合った後、今度、デートのリベンジをする約束を取り付けた。
それから、ソブリナ達は宿の中へ戻ろうとしたのだが、不意に立ち止まって振り向いた。
アルディアの3人は皆、神妙な表情を浮かべている。
「ねえ、ミカゲ。分かっているとは思うけど…………」
そう言って、ソブリナが口を閉ざした。
彼女の言いたい事は分かってる。
4日前の夜に受けた、6人からの告白の返事を返すのが、今夜なのだ。
俺は頷いた。
「ああ、分かってるよソブリナ。ちゃんと、答えを出すから」
「ええ………待っているわ」
そう言うと、ソブリナは俺に近づいてきた。
「最後に、言わせてほしい事があるの……………聞いてくれる?」
その問いに、俺は頷く。
すると、ソブリナは胸の前で手を組み、俺を真っ直ぐ見据えた。
「たとえ貴方からの返事がどうであれ………私達は、貴方の事が好きよ。受け入れられなくても、何処までも追い掛ける。絶対に、諦めないから」
そう言うと、ソブリナは踵を返し、2人と共に、今度こそ宿へと入っていった。
「…………俺も、覚悟を決めねぇとな」
彼女等の背中を見送った俺の呟きは、喧騒の中に掻き消されてしまった。
「ふう………」
神影と別れたアルディアの3人は、彼女等が泊まっている部屋へと戻ってきた。
真っ先にベッドに腰掛けたソブリナが、息をついた。
「今思えば、ミカゲから『好き』って言われるなんて初めてよね………」
「ええ、そうね」
「……………」
ソブリナの呟きにエリスが返事を返し、ニコルも頷いた。
「ミカゲ………私達の事、意識してた………嬉しい…………」
頬を染めながら呟いたニコルは、その小柄な体に似合わぬ豊満な胸に手を添えた。
「あのニコルが、こんなにも口数多く喋るなんて…………人って、恋をすれば変わるものなのね…………」
「それは貴女も同じでしょう?エリス」
染々と言った様子で呟いたエリスに、ソブリナが返す。
「2人共。分かっているとは思うけど、ミカゲからの返事が返されるのは今夜よ。それまでに、心の準備はしておきましょう」
ソブリナが言うと、エリスとニコルは頷いた。
それは、ゾーイやアドリア、そしてエスリアも同じであり、神影の場合も、また然り。
7人の恋模様がどうなるのかは、今夜、決まる。
次回、神影と6人が遂に…………!