平凡なデュエリストです、この作品は「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」の後日談(正確にはエンディング直後)となっております。

それでは、お楽しみください。


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「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」エンディング後の話。
基本的には闇遊戯と海馬がブラマジデッキと青眼デッキでデュエルする内容ですが、映画を見た後の方がより楽しめると思います。

では!


第1話

 ──音が聞こえる。これは砂の舞う音、そしてそれを引き起こす風の音か──

「……ここが奴の──アテムのいる所か」

 見渡す限り砂に包まれ、灼熱の太陽が天に登っているこの風景はまさしく海馬のライバルであるあの男の故郷であろうところのエジプトだろう、目を凝らし見渡すと幽かに何らかの建物が見える。

「ふん……やつは、あの場所にいるか」

 朧気に見える建物を睨み、海馬はその方向へと歩みを始める。しかし──

「距離が縮まる様子は無い、それどころか遠ざかっている……?」

 そう、歩みを進めていたはずなのにも関わらず、アテムのいる神殿には一歩たりとも近づいてはいなかった。何故ならここは高次元、通常の次元と違い物理的な距離の概念は無いからである。もしも海馬の様に歩いて到着させたいのならば本人の記憶領域を反映、つまり()()()()事が必要になる訳だがこの時代に生まれていない海馬は──セトとしての記憶を千年アイテムで刺激させる等すればその限りでは無いが──その道筋を知るはずが無い。そもそも海馬としての記憶領域に古代エジプトのマップデータは存在していない為、その可能性に気がついた所で千年アイテムを持たない海馬一人の力ではアテムのいる神殿にたどり着けはしないのだが。

 しかしこの方法を使わずとも、アテムのいる場所ならば向かう方法が一つある。そしてその方法に《カードの貴公子》にして海馬コーポレーション社長の海馬は流石の推理力を見せ、たどり着く。

「ふん、確かに俺は招かれざる客なのだろうが、まさかこの次元自体が俺の敵をするとはな……だがこの程度の障害、この俺の前ではものの数にも入らぬわ。俺を惑わす幻影よ、消え去るがいい!」

 瞬間、海馬を中心に風が巻き起こる。その風は砂漠の風景をかき消し、別の場所へと書き換えてゆく──地面は砂から砂岩へ、そして場所は屋外から屋内へと。

 そう、これこそがアテムの元へとたどり着くもう一つの方法である。地面伝いでアテムのいる神殿へと歩くのでは無く、直接アテムの現在地へと自分のいる座標を書き換える。アテムの座標を参照するため現在地に関係無く行えるが、自らの座標を強引に書き換える為強い意思力が必要となり、常人の7倍もの自我を誇るプラナを除くならばかの決闘王(アテム)の器程度しかいないだろう。しかし今の海馬には新型デュエルディスクへ更に手を加えた次元決闘盤(ディメンション・デュエルディスク)が装着されている。

 新型決闘盤と同様これにも自我増幅──実際には他人からの()()()()()、という認識を利用するのだが──機能が搭載されており、それにより本来不可能であるはずの位置情報の書き換えを可能としている。

 吹き荒れる風が収まった時、無限に広がっていた砂漠は砂岩に囲まれた神殿へと様変わりしていた。立っているのは廊下の様な所であり、目線の先には広間が見える。

「──思っていたより次元移動の消耗が激しいか、残り時間は一時間……いや、四十五分と言ったところだな」

 しかしそう呟く海馬に焦りの色は感じられない。寧ろ四十五分もあれば充分、そう言いたげですらある。旅立つ前海馬は弟のモクバに対して「後は任せた」と言っていたが、それはあくまで《万が一何かが起こり海馬瀬人が社長業を続けられなくなった場合》の話であり海馬自身、基本的には帰るつもりであり最終的にはローリスクでの行き来を可能にする事も目指している。

 海馬は広間へと向かいおもむろに歩き始める。全てはあの雪辱を晴らし新たな道へと進むこと、そしてデュエルの()の為──廊下を抜け、広間へと出た。

 広間は《王の間》とでも言うべき様相で、中心の玉座の周りには兵士が配置されこちらへと怪訝そうな目を向ける。

「おい、貴様……この場所はごく僅かな者を除き全ての立ち入りを禁止している場所である。その神聖なる場にその穢れた身体で入り込むと言う事は命が惜しくは無いとい──」

 広間の奥、その真ん中に彼は居た。

「……遊戯」

 兵士の言葉も聞こえずに声を出す。

「この時を……待ちわびていたぞ……」

 一歩一歩を踏みしめ中央の玉座へ向かう。その玉座には海馬の永遠の好敵手にして決闘王、遊戯のもう一つの人格である《アテム》が座っている。

 更に遊戯へと近づこうと無意識に一、二歩進む──突如海馬の全身が硬直する。動かせないのでは無く意図的に阻害されている様な感覚。そして海馬の前には朧気な人の姿が見える。

「ファラオの御前で無礼な事を──」

「我ら神官団の前でこれ以上ファラオを脅かせはしない──」

「このまま動きを縛り、砂漠の彼方にでも送ってくれよう!」

 その声と共に六人の神官が正体を現す。アテムの様な明確な存在感は無く、身体も透き通ってこそいるが、その力は確かに健在であり侵入者である海馬の動きを縛り、その体の存在すら削ってゆく。このままでは何も出来ずに再び砂漠の彼方へと戻され、そのまま時間切れとなってしまうのは明白だ。しかし──

「……くく」

 海馬の顔には焦り、苦しみ等の負の感情は全くうつってはいない──笑っているのだ。この状況で笑う事が出来る者などそうそういないだろう。呆気にとられつつも神官団はその笑みを苦し紛れの笑いだと判断した。

「ふ──私達を油断させようとでもしたいようだが、その程度の策に引っ掛かりなどはしない!」

 神官の内、千年リングを付けた男が広間全体に声を響かせる様に叫ぶ。確かに神官団には油断は無いようである。しかし海馬はそもそも前提が間違っている、と吠えた。

「油断させる……どうしてそんな事をする必要がある。元より俺は貴様ら等の拘束など気にしてもいない──かろうじて幻影が残る程度の亡霊が、俺を邪魔できるとでも思うな!」

 再び海馬の周りに風が吹き荒れ、海馬を縛っていた不可視の拘束は消し散らされる。神官団にもその衝撃が襲い、玉座の左右まで吹き飛ばされる。

「遊戯……お前がもしこの程度の連中相手にぬるま湯に浸かっている様なデュエルをしていたならば、貴様の魂ごとその誇りを消し飛ばしてやろう。さぁ──貴様の決闘者(デュエリスト)としてのプライドを全て賭け……この俺とデュエルしろ!」

「──それはどうかな」

 それがここでの遊戯/アテムの最初の言葉だった。

「この俺にプライドを全て賭けさせる様なデュエルをさせたいのならば、お前もそれに値する物を賭けてもらおうか。ここまで来たのならば魂の一つや二つ、消し飛ばす覚悟はあるんだろうな……悪いがここは互いの意志力がかなり影響する場所だ、俺のデッキも当然強化されている。言い直すぜ──

    ──お前のプライドを全て賭け、この俺に挑む勇気はあるか?」

「ほざけ────」

 遊戯の挑発する様な言葉に対し、海馬も真っ向から迎え撃つ。

「──貴様を倒し新たな次元へと進む為ならばこの魂、何度でも消し飛ばそう。だがこの俺の誇りだけはいかなる物でもかき消せはしない。いいだろう、この誇り(プライド)……全て賭け貴様と闘おう」

「互いにオールイン、という訳か。それでこそこの宿命のデュエルに相応しい。ならば俺も、このデュエルに相応しい舞台を用意させてもらうぜ!」

 遊戯の首に吊るされた千年パズルが音叉の様な音を響かせ光の波を作るその波に遊戯が触れると纏っていたファラオの服装から黒を基調としたシャツと学ラン──童実野町の頃の服装、海馬の見ていた遊戯へと変わっていく。そして周囲も砂岩で作られた神殿から海馬スタジアムへと変化する。

「おお、あれが……」

「現世でのファラオの御姿……」

 この姿は初めてみるのだろう、遊戯の取り巻きがざわめく。

「面白い……あくまでこちらの土俵で闘おうと言うわけか。いいだろう、互いの持ちし力を全て使う宿命のデュエル。いくぞ──」

「「決闘(デュエル)!」」

 

 遊戯 LP 8000

 海馬 LP 8000

 

 デュエルディスクのコイントスにより先攻を取ったのは遊戯である。

「俺のターン──手札より《黒の魔導陣》! それによりデッキから3枚捲り──《黒・爆・裂・破・魔・導》を手札に加える」

「ブラック・マジシャンとマジシャンガールのいる時のみ発動出来る魔法か……見たところ引きは良くない様だな」

 発動条件の難易度もだが、捲った三枚の中にはそもそも魔導陣で手札に加えられるカードはその一枚しか無かった。そういう意味では確かに引きは良くないだろう。

「まだだ、俺は《マジシャンズ・ロッド》を召喚──その杖の導きによりデッキより《マジシャンズ・ナビゲート》を手札に加える!」

「マジシャンズ・ナビゲート……手札のブラック・マジシャンを特殊召喚しつつデッキからも魔法使いを呼ぶことの出来るカード。なるほど、これで発動条件を満たそうと言うわけか」

「ふ……お前にこの布陣を突破出来るか? これで──ターンエンドだ」

 カードを四枚伏せ、遊戯はターンを終える。フィールドのモンスター自体は攻撃力1600程度のが一体だけだが、伏せの内二枚は恐らくサーチしたカード。不用意に攻めれば逆にカウンターを決められるだろう。と、並の決闘者ならば考え込んでしまうだろうがそこは海馬、速やかに自ターンの動きへの影響率を考え、優先順位を確定させた。

「その伏せカードで俺を阻むつもりだろうが、そんな薄い壁で俺を止められると思うなよ──俺のターン、ドロー!」

 ドローカードは緑、魔法カード。海馬はそのままそのカードをデュエルディスクへ叩きつける。

「魔法カード、《天声の服従》。俺が服従するのは……《オシリスの天空竜》!」

 

 海馬 LP 8000→6000

 

 高らかに神の名を宣言する。もし遊戯のデッキ内にその名を持つカードが存在しているのならば、神は海馬の元へと移ってしまう。しかし──

「残念だな、海馬。このデッキにオシリスは入っていないぜ」

「……ふぅん、お前がオシリスをデッキに入れていないと言うのならば、その証拠を見せてもらおうか」

 遊戯はデュエルディスクからデッキを取り出し、海馬に見える様広げる。確かにデッキの中は橙、緑、紫に肌色が3枚とオシリスの天空竜のカード色である赤色は無い。

「ふん、確かにお前のデッキに神のカードは無い為天声の服従は不発に終わる……しかし、この瞬間に貴様の伏せカード二枚に意味が無い事も証明されたのだ!」

「オシリスをわざわざ選んだのが気になったが……この為だったという事とはな……」

 確実性のあるブラック・マジシャンを選ぶ手もあったはずなのに敢えてオシリスの天空竜を選んだ理由、それは遊戯のデッキにブラック・マジシャンがいるかどうかを確認する為だった。勿論オシリスをデッキに入れられていた場合はその目論見も失敗に終わるがあの動きを見る限りオシリスはいないだろうと海馬は確信を持っていた。果たして遊戯のデッキにオシリスは無く、デッキの中にブラック・マジシャンが三枚入っている事も確認出来た。これによりナビゲートと爆裂破魔導の伏せはブラフとなり、海馬はこのまま攻めるという選択肢を取りやすくなる。

「これで心置きなく攻められる……フィールド魔法《光の霊堂》! 更に《青き眼の乙女》を召喚する!」

 危険が無いと確信してか、豪快に二枚のカードを発動、召喚させる海馬、そこに遊戯が「慌てるのは早い」とでも言いたげに言葉を発する。その右手はデュエルディスクへと向かっている──

「──待てよ海馬。《光の霊堂》発動時に魔法使いの魂を糧に《イリュージョン・マジック》、そして乙女召喚時に《マジシャンズ・ナビゲート》を発動させてもらうぜ」

「何……マジシャンズ・ナビゲートの発動条件はブラック・マジシャンを手札にある事、貴様が手札にブラック・マジシャンを加える合間等無かったはず──」

「それはどうかな? 俺は光の霊堂発動時に《イリュージョン・マジック》を発動させていた、と言った筈だぜ──そしてイリュージョン・マジックは手札にブラック・マジシャンを2体まで手札に加える速攻魔法! これにより青き眼の乙女召喚時にはマジシャンズ・ナビゲートの発動条件は満たしているのさ!」  

「くっ……二枚にばかり気を取られ、残りの一枚を警戒し忘れていたか」

 悔しげに吐き捨てる海馬に向かい、遊戯は得意気に言う。

「お前が俺の一手先を行くと言うのなら──俺は二手先を行くぜ、海馬! さあ俺の最大にして最高の(しもべ)よ、魔導陣に導かれ弟子と共に姿現せ──来い、《ブラック・マジシャン》、そして《ブラック・マジシャン・ガール》!」

 

 ブラック・マジシャン

 ATK 2500

 ブラック・マジシャン・ガール

 ATK 2000

 

 新たに配置された魔導陣の内部がぼやけ、水面の様に揺らぐ──のが見てた直後、その水面が盛り上がり二人の魔法使いが姿を現す。その内の男、遥か昔王を守りし神官だった彼が、存在していた魔導陣に杖を向ける。

「黒の魔導陣の効果を発動、強い魔力に反応し、相手モンスター一体を除外する。対象は《青き眼の乙女》!」

「──随分と好き勝手やろうとしている様だが、タダで通すと思うなよ……《青き眼の乙女》の効果を発動、自らが危険に陥りし時、青き眼を持つ龍をフィールドに呼び起こす。貴様のマジシャンの相手はこのカードこそが相応しい……現れよ、我が強靭にして無敵、最強の(しもべ)青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》!」

 

 青眼の白龍

 ATK 3000

 

 魔導陣に囚われ異次元へと転送されそうになっている乙女が、手を合わせ天へと祈りを捧げる──途端天空よりその乙女へと光が降りる。その光と共に舞い降りたのは、途方も無く美しい白き龍。乙女が除外されると同時にその龍は強く吠え、フィールドを震わせる。

「ブルーアイズ……この神にも劣らぬ威圧感、俺のブラック・マジシャンと共に、この宿命のデュエルを盛り上げるには相応しいカード。そしてそれをこの状況であっさりと召喚してみせるそのタクティクス、俺の相手として申し分ないぜ!」

 かの決闘王に申し分ない賞賛を浴びた海馬は、何故か喜んだ様な顔をせず、逆に苛立ちを感じられる顔を見せる。

「ふぅん……これで終わりだと思っているのならば──貴様の腕は落ちたと言わざるを得ないな。」

「なに……それはどういう事だ海馬!」

 思わぬ物言いに思わず遊戯も声を荒らげるが、それを聞き余計に苛立った海馬は更に声を張り上げる。

「そのままの意味だ……今の貴様に俺の相手など成り立たないと言う事だ! 《太古の白石》召喚、そして俺はレベル8、《ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン》にレベル1、《太古の白石》を──()()()()()()!」

「チューニング……だと?」

 耳慣れない言葉を聞き遊戯から怪訝な声が漏れる。その言葉海馬は耳も傾けず口上を続ける。

「見ろ、遊戯……俺はこのデュエルを以て新たな境地へと飛び立つ。その高みを貴様はそこで指を咥えて見ているがいい! 純白の龍よ、古代より復元せし輝石と同調し……限りなく素体へと近づきし姿で降臨せよ──シンクロ召喚! 《青眼(ブルーアイズ・)の精霊龍(スピリット・ドラゴン)》よ、その力奮い立たせ、刃向かう敵を殲滅せよ!」

 

 青眼の精霊龍

 ATK 2500

 

「美しい……これこそがブルーアイズの真の姿、俺の求める()()()だ!」

 ブルーアイズに見蕩れるような表情を見せ、震えた声を響かせる。僅かに霞むその姿は確かに人を魅了し虜にするだろう。しかしその時海馬と相対する遊戯は美しさと同時に、圧倒的な威圧感も感じていた。

 これが海馬の編み出したブルーアイズの新たな境地……モンスターと言うよりは精霊(カー)と言うべきその姿は、儚げではあるが決して貧弱そうではない。寧ろその儚げな印象は決して目に見える物ではないが確かに存在する物、それこそ神に近いものを植え付けてくる。

 そのプレッシャーに遊戯は確かに畏れ、同時に一つ大きなプレイングミスを誘発させた。

「くっ……リバースカードオープン──《黒・爆・裂・破・(ブラック・バーニング・)魔・導(マジック)》! 師弟よ──その絆で編み出しし魔術を以て、全てを吹き飛ばせ!」

 師匠と弟子、受け継がせし力と受け継がれし力が重なり、強い輝きがフィールドを包む──その光の奔流に飲み込まれた精霊龍は姿をかき消され、破壊される。折角立てた切り札を一手で消滅させられた海馬の表情はさぞ悔しげに──とはなっていない。

「──まさか貴様がその程度のミスを冒すとはな、やはり今の貴様は俺の相手とは足り得ないか……失望したぞ、遊戯。その程度の実力、魂、そして誇り(プライド)、この神殿ごと吹き飛ばしてくれようか! 光の霊堂を除外し《滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)》を手札に。そしてそれを捨て《ドラゴン族、目覚めの旋律》! ドラゴンよ──我がもとに集うがいい! 来い、《青眼の白龍》……そして《青眼(ブルーアイズ・)の亜(オルタナティブ・)白龍(ホワイト・ドラゴン)》!」

 

 青眼の亜白龍

 ATK 3000

 

「ブルーアイズ……オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン……ここで来たか」

 遊戯がブルーアイズ特有の覇気を目の当たりにして僅かに怯む。

「ふん、本来このタイミングで爆裂破魔導を使用していればこの状況を打開できたはずだろう。その過ち、後悔するがいい! か弱き魔術師風情、粉砕してくれる──やれ、亜白龍(オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン)! ──滅びのバーン・ストリーム!」

 僅かに青味を加えた白き龍がその(あぎと)より破壊をもたらさんとするレーザーが放たれる。そのレーザーは魔法使いの弟子へと向かい、命中する──かしないか、その刹那。カードを発動するならばここしかないと言うドンピシャのタイミングで遊戯の右手がディスクを叩き、残った1枚の伏せを発動させる。

「お前のこのターンの戦術は確かに俺の上を行ったのかもしれない。だがお前は一つだけ見落としていた事があるぜ、海馬。──《黒魔導(マジック・)強化(エクスパンド)》」

 

 ブラック・マジシャン・ガール

 ATK 2000→3000

 

 魔法使いの弟子の周囲に多数の魔導陣が展開される。その魔導陣が仄かに光ると共に弟子の手に持つ杖も又魔力の純度の高さを表し輝く。魔術師は持ちし魔力を魔導陣を経由する事により攻撃力へと変換することが可能であり、この時も黒魔術師の弟子はその魔力を攻撃力へと変換していたのだ。可憐なる魔術師が一声発し放たれた魔導弾は正面からレーザーへ衝突し、しかし消滅すること無くその軌道を空間へと留めた。

 数秒の拮抗の後に二つのエネルギーは爆散する──と同時に女魔術師の周囲に展開された魔導陣から多数の魔弾、そして蒼白の龍の顎から再びのレーザーが放たれた。その魔弾とレーザーは互いに衝突すること無く飛び。魔力を源とする弾幕は龍の翼を撃ち抜きそして龍の一撃は魔術師の身体を貫く。──僅かな静寂の後龍と魔術師はその身を爆散させ共に破壊された。

「俺のブルーアイズが魔術師風情に相打ちされるだと……この屈辱十倍、いや百倍にして返してくれよう」

「海馬、お前が魔術師風情と侮り策もなく攻撃した──その事実を認め反省しない限り、同じ過ちを繰り返すだけだぜ!」

「ぬぅ……黙れ──墓地の太古の白石の効果を発動、穢れなき魂よ、龍へと身を宿し純白の姿見せよ。《白き霊龍》」

 

 白き霊龍

 ATK 2500

 

 ブルーアイズを越える純度、それ故に儚い白さを持つ龍が舞い降りる──と共にフィールドの魔導陣が光に溶けたかの如く消え去る。

「ふん……白き霊龍の威光の前には、闇を帯びし魔導陣など耐えられるはずも無かろう」

「……これでフィールドにはブラック・マジシャンと白き霊龍のみ。そして手札は同じ。しかしその手札の一枚はブルーアイズと分かっている──この勝負、この段階での戦況はほぼ互角。だがお前は、互角で終わるようなデュエリストでは無いだろ、海馬」

 その言葉に海馬が当たり前だ、と言いたげに笑う。確かに遊戯の手札が二枚、更にその内一枚は未確定のカードなのに対し海馬の手札は一枚、その上手札は既にブルーアイズと確定している。カード一枚の差とはいえ海馬の方が不利である。

 しかし遊戯はその有利に驕る事なく海馬が反撃をするであろう事を想定、いや楽しみにしてすらいる。当然逆もまた然り、この二人が永遠の宿敵と言われる理由はここにあるのだろう。

「ふ、言われるまでも無い……貴様の全力、見せてみろ。そして俺はその遥か上を行ってやろう!」

「そいつは楽しみだな、精々俺を楽しませてみな! 俺のターン──来い、《ガガガマジシャン》!」

 

 ガガガマジシャン

 ATK 1500

 

「ガガガマジシャンよ、その稀なる力を持ってして、持ちし位を操作せよ──ガガガマジシャンのレベルを七に変更する!」

 

 ガガガマジシャン

 星 4→7

 

「レベルを変える……まさか俺を真似てシンクロでもするつもりか?」

「それは違うぜ海馬。お前がシンクロと言う()を見せるならば、俺はまた別の()を見せてやる、という事だ。

 ガガガマジシャン、そしてブラック・マジシャンの2体で()()()()()()!」

「オーバー……レイ……?」

「二人の魔術師よ、その力重ね──現実をも超越する幻想となりて具現せよ! エクシーズ召喚……ランク7、《幻想の黒魔導師》!」

 

 幻想の黒魔導師

 ATK 2500

 

 黒き魔術師と若き魔術師、それぞれが実体を失い魂となり地面に起こる渦へと飛び込む。そしてその渦の中より黒き闇が広がり遊戯と海馬を飲み込む──直前暗闇が元々無かったかの如く消え去り、広がっていた闇の中心には一人の魔導師が立っていた。

「具現、そして超越……シンクロが実体、血を受け継ぐならば召喚法ならばエクシーズは心、理念を受け継ぐ召喚法と言う訳か」

「ああ。例え魔術師としての系譜が途切れようとも、黒魔術の伝統が途切れる事は無いぜ!」

「……ふん、だがその魔術師の攻撃力も2500、霊龍を一方的に破壊するには至らない筈だ──」

「──それはどうかな。幻想の黒魔導師よ、その幻想をもってして最古の魔術師を呼び起こせ。呼応せよ、《ブラック・マジシャン》!」

 幻想の黒魔導師が杖を地面へと触れさせ、同時に周囲を漂っていた二つの物体の内、片方が魔導師に触れ弾ける。それをトリガーに杖を中心とした魔導陣が展開、その魔導陣より新たな黒き魔術師が現れる。

 

 ブラック・マジシャン

 ATK 2500

 

「行け、ブラック・マジシャン。幻想の黒魔導師の援護を受け、龍を──そして海馬を倒せ!」

 ブラック・マジシャンの攻撃行動に合わせ、幻想の黒魔導師が指を鳴らす。白き霊龍を二重三重の魔導陣が囲み、青き眼の乙女をそうした様に白き霊龍をも別の次元へと飛ばさんとする。しかし──

「白き霊龍よ、その魂を昇華させ完全無欠の龍となれ!」

 白き霊龍から光が発され魔導陣がかき消される。それと共に遊戯の視界をも数秒奪い世界を光で包みこむ。遊戯の視界に色が戻った時、海馬のフィールドには美しき白き龍が舞い降りていた。

 

 青眼の白龍

 ATK 3000

 

「やはり俺の前に立ちふさがるのはこの龍だと思っていた──ターンエンド!」

 手札を一枚伏せ──ターンエンドを宣言する。それを聞き海馬が自ターン開始の宣言を意気揚々と叫ぶ。

「俺のターン! 来い、《青き眼の祭司》。……そしてその祭司へ《ワンダー・ワンド》を装備。装備カードと共に祭司を墓地に送り、二枚ドローさせてもらうぞ……」

 残り手札を使い切りワンダー・ワンドによるドローを使用した海馬を遊戯が煽るように言葉を発する。

「へぇ、手札交換カードか。良いカードは引けたか?」

 ドローカードを見た海馬はニヤリと笑いそれに答える。

「お陰様でな──墓地の太古の白石を除外し、墓地に眠りし亜白龍を手札に加える。そしてブルーアイズをお前に見せ……現れよ、青眼の亜白龍!」

 

 青眼の亜白龍

 ATK 3000

 

 再び青白の龍が海馬のフィールドに立ちはだかる。ブルーアイズに加え大型の龍が二体も並ぶ光景は大迫力の一言に尽きるが遊戯も海馬もこの光景は見慣れているのか、反応はありこそすれ驚きはしない。海馬に至っては更に展開せしめんとカードをデュエルディスクへ叩きつける。

「まだだ、手札より《復活の福音》! 蘇れ──」

 だが、その発動に対し遊戯は墓地より一枚のカードを取り出し海馬へ見せる。

「──させはしない、墓地のマジシャンズ・ナビゲートを除外し、復活の福音を無効化する!」

「ぬぅぅ……──だが、亜白龍の効果を発動し幻想の黒魔導師を破壊する!」

 亜白龍が羽ばたきその風が幻想の黒魔導師を襲う。その風に触れた黒魔導師は見えない刃に切り裂かれたかの様に断ち切られ、破壊される。

「……わざわざ攻撃権限を失ってまで破壊させた──墓地に送られた祭司に何かあるのか?」

「そのとおりだ、祭司よ……その身を還し、龍を転生させよ!再び舞え、《白き霊龍》!」

 

 青眼の亜白龍

 ↓

 白き霊龍

 ATK 2500

 

「行くぞ、ブルーアイズでブラック・マジシャンを攻撃。消え去るがいい──滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)!」

 全てを殲滅し、粉砕するであろうエネルギーの奔流がブラック・マジシャンを襲う。魔力を攻撃力へと変換出来る魔術師といえども変換の為の媒体である魔導陣が無ければ本来の火力は出せない。黒魔術師は抵抗する間も無くそのブレスへ飲み込まれ、引きちぎられる。

 

 遊戯 8000→7500

 

「くっ……許せ、ブラック・マジシャン──」

「──まだだ、白き霊龍で直接攻撃!」

 白き霊龍に攻撃宣言が発せられる──白き翼を羽ばたかせ、鋭い刃となった風で遊戯を襲う。その衝撃に耐えられずに遊戯の体は大きく吹き飛ばされた。

 

 遊戯 7500→5000

 

「ぐ……っはぁ……はぁ……」

 白き霊龍の攻撃をもろに受けた遊戯が呼吸を乱しつつも再び立ち上がる──その目に映る闘志は微塵も曇ってはいない。

「ふん、ここでブルーアイズを出し更に攻めるという手もあるが……ライフを全て散らすには至らないようだな、ここはターンを終了する」

 先程とは一転して盤面を支配した海馬が余裕気にターン終了を宣言する。対して遊戯は息を荒げ体をふらふらと揺らす──が目を見開くと共に再び体に芯が一本通ったかの様に静止する。

「──俺の……ターン!」

 そして力強くデッキトップのカードを引き抜く──ドローカードに一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにそれが微笑へと変わる。

「リバースカード発動、《黒魔術のヴェール》! 俺のライフを糧とし、墓地より黒魔術師を蘇生させる。舞い戻れ──ブラック・マジシャン!」

 

 遊戯 5000→4000

 

「ふん……再び黒魔術師を呼び出した所で、せいぜい白き霊龍と同士討ちするのが関の山よ。更に──俺の手札にはブルーアイズがいる、お前に突破手段など無い!」

「──それはどうかな」

「何?」

 余裕綽々とした海馬の言葉に、遊戯がお馴染みのセリフで返す。単なる負け惜しみでは無いのは、力強い目からも読み取る事が出来る。

「行くぜ、これがその答えだ──来い、名も無き龍。《ティマイオスの眼》」

 遊戯がカードを発動すると共に、ブラック・マジシャンの背後から龍が現れる。その瞳は雄々しく光っており、ブルーアイズとは別方向の美しさを持っている。

「ブラック・マジシャンよ、名も無き龍の力を纏い龍破壊の剣士へと転生せよ! あの時以来だな、頼むぜ──《超魔導剣士-ブラック・パラディン》」

 

 超魔導剣士-ブラック・パラディン

 ATK 2900

 

 バトルシティ準決勝、遊戯対海馬。神の激突から始まり黒魔術師と白き龍の激闘の末、究極竜を破り遊戯を決勝戦へ導いたカードこそがこのブラック・パラディンである。そして海馬にとっては敗北を喫する事となった原因とも言えるカードであり、黒き聖騎士を見た海馬は眉を寄せる。

「ブラック・パラディン……あの時俺を敗北へと誘った憎きカードと再び戦う事となろうとはな。良いだろう、今度こそブルーアイズの手で叩き潰してくれる!」

 そう言った海馬に驚きや怒りといったその目に見るものを濁らせる枷は無く純粋に相手を喰らおうとする貪欲さだけが映っている。そして遊戯もそれに応えるが如く声を張る。

「ブラック・パラディンの血はドラゴンの気配により活性化する。墓地とフィールドにドラゴンは五体、よって攻撃力は2500アップ!」

 

 超魔導剣士ブラック・パラディン

 ATK 2900→5400

 

「行け、ブラック・パラディン──超魔導無影斬!」

 黒聖騎士の剣に魔力が込められる、その魔力はソリッドビジョンとは思えない程の圧を放っており、触れでもすれば恐らく跡も残らないだろう。足を踏み込みブルーアイズへと切りかかる聖騎士、流石の青き龍といえども敵いようの無い差だが──

「ブルーアイズを破壊などさせぬわ! 墓地の復活の福音を除外しその効果を発動、戦闘破壊を無効とする。龍を守りし音よ、鳴り響くがいい!」

 言葉として表現するのが不可能な程に滑らかな音が響く。その音がブルーアイズを守るが如くブラック・パラディンの剣を包み、抑え込む。

「だが……ダメージは通るぜ!」

 抑え込まれた剣を力のまま振り抜いた──と剣の周囲が突如爆発し、その爆風が海馬を襲う。

「ぐっ……がはっ!」

 

 海馬 6000→3600

 

 海馬の優勢だったライフを逆転する一撃、2400ものダメージを受けた海馬は大きく吹き飛ぶ──転倒こそしなかったものの着地の際に衝撃を流しきれずに膝を曲げつつ大きく後ろへ滑る。

「俺はこれでターンエンド――さあ、お前の反撃を見せてもらうぜ!」

「……ふん、言われる迄も無い。このターンで再び逆転してくれる、ドロー!」

 膝をつき後ろへ動かさんとするベクトルが0になると共にデッキトップを躊躇いなく引く。そしてカード名を見ることなく声を響かせる。

「白き霊龍の効果により自身を昇華させその魂を蒼き龍へ成す、そして──フィールドのブルーアイズ2体を融合させる! 殲滅せよ……《青眼の双爆裂龍(ブルーアイズ・ツイン・バースト・ドラゴン)》!」

 

 青眼の双爆裂龍

 ATK 3000

 

 超魔導剣士ブラック・パラディン

 ATK 5400→6400

 

 手札のブルーアイズ、更に双爆裂龍を展開した事によりブラック・パラディンの攻撃力は上昇し、それと対峙する双龍の2倍もの数値となった。しかし海馬はそのまま双龍へ攻撃を命ずる。

「青眼の双爆裂龍でブラック・パラディンを攻撃! そして双爆裂龍の鱗は攻撃を受け付けず、又そのブレスは鎧をも無力化するのだ──魔導剣士よ、朽ち果てるが良い!」

 

 海馬 3600→200

 

「そして双爆裂龍はその名の通りモンスターへの二回攻撃を可能とする。だがその標的となるモンスターがいないか、命拾いしたな……」

 二体分のブレスが魔導剣士を襲う。片方のブレスは弾き海馬の付近へと向かっていくが、その隙にもう片方のブレスが鎧ごとその体を貫く。魔導剣士の攻撃力差分のダメージは海馬に通り海馬の残りライフポイントは僅かになるが、魔導剣士を失い場を更地にされた遊戯も盤面的には不利である。

 

「手札は一枚、それも既に分かっているカード……この状況でも、いや寧ろこの状況だからこそ……お前は俺を愉しませてくれると信じているぞ、ターン終了」

 遊戯の手札は僅かにブラック・マジシャン一枚、伏せは無し。当然場にもモンスターは無い。だが遊戯は当然、海馬ですらもこの状況をひっくり返す事を望んでいる。そして遊戯は、その期待を一度たりとも裏切った事は無い。

「俺のターン──ドロー……! 手札のレベル7モンスター、《ブラック・マジシャン》を除外し、《七星の宝刀》を発動。ドロー。更に手札より《貪欲な壺》を発動、墓地のモンスター達をデッキに戻し、二枚ドロー。そして《黒の魔導陣》を発動、その効果により──」

 一枚のドローから繋がれていくカード、しかし黒の魔導陣でカードを捲った時、遊戯の動きが止まる。三枚のドローの内、手札に加える事のできるカードは無かったのだ。遊戯の顔がカードを引けなかった絶望を見せ──一つの決意を固めた表情に変わる。絶望の硬直が動きを図る思考の硬直となり、そして────

 

「──効果は不発か。《マジシャンズ・ローブ》を召喚。 そして……()()()()()()()()()()()()()()

 どうみても罠、手札を必要とするマジシャンズ・ローブを攻撃表示で出すというプレイングは、明らかに海馬の攻撃を誘ったものに見える。だがもしもその伏せカードがブラフだったのならば逆にとどめを刺すチャンスとも言える。それ故に海馬はドローを忘れその伏せカードに見入ってしまう。たった一枚の伏せカードで海馬の動きを釘付けたこれは、まさしくバトルシティでの一場面の意趣返しと言えた。

「俺のターン。────ドロー! ……遊戯、最終決戦だ」

 海馬の静かなる宣言、それは伏せをブラフと見たのか、それともそれすらも踏み抜いて勝ってみせるという意志なのか。

「ああ……このターン、立っていたものの勝ちだ。来い、海馬!」

「手札から《銀龍の轟砲》を発動。幾度となく蘇り勝利を俺にもたらせ──《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》! 行くぞ遊戯! 《青眼の双爆裂龍(ブルーアイズ・ツイン・バースト・ドラゴン)》で《マジシャンズ・ローブ》を攻撃!」

 双爆裂龍の放ったブレスが魔力の込められたローブへと迫る。当然当たればひとたまりもなく、同時に遊戯のライフもゼロとなるだろう。ブレスとローブが接触するその刹那、遊戯がデュエルディスクを叩き────

「──っ!!」

 まるで先程までのデュエルが嘘だったかの様な静かな空間、その真ん中に置かれたカプセルの中で海馬は目を覚ました。決着がついたであろうあのバトルフェイズの最中、次元移動のタイムリミットに引っかかってしまい、強制的に次元エレベーターへと戻ってきてしまったのだ。

「新たなデュエルへの道は見えた……。遊戯……この決着は預けておく、いずれ必ず……貴様と決着を付けてくれるわ!」

 別の次元、その彼方にいるであろう宿命のライバルへと吠えた海馬のデュエルディスクは未だデュエル中の状態でありそのカプセルの端には手札の最後の一枚である、龍自体が再戦を望むかの様に闘志を漲らせているイラストのカード、《龍の闘志》が落ちていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「──リバースカード!」

 遊戯は伏せていたカードを発動させる──が、海馬は忽然と消えてしまい、相手を見失ったデュエルディスクが自動的にソリッドビジョンを消滅させる。

「……海馬、お前との決着、次はつけさせてもらうぜ!」

 そう言い遊戯は伏せていたカード、《永遠の魂》をデッキへと戻した。




この作品で劇場版についてやりたい事、思った事はやりました書きました、後悔も反省もしていません!

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