Fate/SN GO【本編完結】   作:ひとりのリク

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六節 村田 仁鉄の鍛治場

 

 

『侍の刀はな、鞘に収めるもんじゃねぇ。テメェの魂に収めるもんだ。時代はもう侍を必要としてねえがよ、どんな時代だろうと人には忘れちゃならねえもんがあらあ。

新八、お妙。例え剣を捨てる時がきても、魂に収めたその真っ直ぐな剣だけは失くすな』

 

そう言い遺した父は目を見開いたまま死んでいった。

 

終わりなんて目もくれず、最期の瞬間まで侍だった。

 

あの目が今、真っ直ぐに僕を見つめている。

 

必死に、僕にに何かを叫び続けている。

 

死んだ父の幻を今更見るだなんて。

 

まだまだ修行が足りないかな。

 

もっと強くなって、江戸を。

 

皆んなを守るんだ…。

 

だから、銀さん。

 

早く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

江戸城本丸御殿の門を開け放つ。マシュと2人で押して入り、剣が迎撃に備えていたものの、中からの反応はない。それどころか、城内に広がるものは闇のように深い一本道のみ。想像していた木造りの玄関はどこにも見当たらなかった。

 

「────」

 

言葉を失った訳じゃない。

ひと目見てこの一本道の意味を理解したから、身震いしようになるのを堪えただけだ。

来殿者を出迎えるために趣向された場所を取り払った、寄り道を許さない仕様。僕たちを歓迎せず、振り返るか直ちに用事を済ませるかを迫るためのもの。

踏み入った瞬間に玄関を閉められて、正面から正鬼の拳を振るわれてみろ。僕たちは全滅だぞ。

 

「……………行こう」

 

恐怖心を押し殺せはしない。死地だと思ってはいけない。僕たちは新八を助けだして、特異点を解決するために来た。正鬼もそれを望んでいるはずだ、会って話をしたい。

 

剣が先頭を歩き、殿を土方に任せた。

空気の揺れも感じないここで出来る最大限の厳戒体制。真祖も死徒もおいでませ。そう意気込んで5分間、僕たちは歩き続けた。

緊張が張り詰める最中、少しだけ伍丸のことを思い出していた。彼に貰った城内の予測は思わぬ形で外れてしまった。残念に思うけど、礼装に伍丸の想いがしっかり刻まれていることを再認識する時間となったな。

 

暗い廊下が奥まで続くのに視界は良好だ。

そのさまは真夜中の川のように清らかで、灯籠が延々と道を照らしているとも勘違いできる。長居してはいけないと肌身に感じる。居心地の良さに足を止めたら最後、壁の向こうに引き込まれるだろう。江戸城に居る筈なのに、“銀の大地”がピッタリと背中に引っ付いているのを感じていた。

 

「皆んな」

「大丈夫です」

 

マシュの返事に背中を押されて歩調を維持した。

誰も怯んではいない。誰もが危険を理解している。

江戸城とは名ばかり、ここは正鬼の居城だ。思い返せば、光々は江戸城のことを“堀田正鬼の擬似心臓”と呼んでいた。外から来た僕たちは異物…バイ菌に等しい。前触れもなく殺菌されても可笑しくない。

向こうが即座に行動を起こさないのは、正鬼が準備にかかりきりなのか、こちらの動向を観察中か。

或いは、興味すらないか。

 

「剣は仁鉄と顔見知りだったんだね。

どんな人だったの?」

 

だったら僕たちの中でただ1人、銀の大地に物怖じしていない志村 剣に話題を振って出方を見る。

剣の過去の深掘りも出来てお得という寸法だ。

何よりも、仁鉄の立場が理解出来ていない。死徒なのに真祖と密接に関わっているのは、カルデアで聞いた情報と大きく異なっている。だから、関連するものがないか確認したかった。

 

「親父と喧嘩して家出した時に世話んなったんだ。

江戸一番の鍛冶屋の息子だったヤツぁ町でも変わり者って噂だった。話してみりゃ面白いヤツでな?

『刀を完璧に鍛つのは当然、問題はこの刀を誰が握るか。半端な侍じゃ許さねぇ、斬り捨ててやる』なんざ、子供の頃から吐かしやがる。俺は俺で面白い視点だったもんで気に入っちまってよ、それからはヤツのとこに通い詰める日々よ」

「子供の頃から刀を!?

凄い腕前だったんだ。流石、江戸一番の鍛治屋!」

「いや? 最初に会った時に鍛ってた刀の刃はボっロボロ、重心はデタラメ、置けば錆びちまうくらい下手っぴ。言うこと成すこと反対の凄まじい馬鹿だ」

「なにそれ? よくもそんな大口を叩けたわね」

「ヤツの刀を握るのは俺くらいなもんだった。振ってはダメ出し、握っては折れて喧嘩して……。

それが俺と仁鉄の青春なんだよ」

 

言い終えるや前に向き直る。

友を思い遣る人間の言葉であり、思い出を恐れる少年の声音だ。

 

「あんな錆び塗れの刀をひけらかしやがって。挙句、倅の身体を使って……何してんだかなぁ」

 

その背中は哀愁が漂う。

愛する息子を利用する姿は、人類の枠組みから逸脱した存在でなかろうとも、人はそれを鬼や悪魔と後ろ指を指す。友がそう成ることを望む人はいないし、止められるのならそうする。彼が見せた背中は、そういった事を出来なかった後悔の片鱗だ。

 

仁鉄の話を掘り下げればこうなるのは仕方ない。承知の上だったけど、次に振る機会を失ってしまった。

哀しげな背中に掛ける言葉を探していると、遠慮無くと言わんばかりに土方が割って入ってくれる。

 

「俺からも聞きたい、志村 剣。息子の身体から仁鉄を引き剥がす方法はあるのか」

 

伍丸の報告によって、2人を引き剥がすことは不可能だと結論が出ている。ここに来たはいいが、僕たちもその方法は見つけられていない。然し、城門前で土方は言った。

『あぁ、メガネの身体から仁鉄は引き剥がせる』

仁鉄が新八へと乗り移ることを憑依と呼んだ。知識に乏しいからソレがどういった状態を指すかは分からないが、引き剥がせると断言している。

 

「ちょっと待って。さっき仁鉄を引き剥がせるって言ってましたよね。何か手段が…さっきの憑依批判?を使うってことじゃないんですか?」

「あの弾はキッカケ作りに過ぎない。接着剤を剥がすための熱風だ。メガネの魂に癒着している仁鉄を剥がすには、自分自身で仁鉄を蹴り出すか、誰かがあの身体を殺さなきゃならねぇ」

「新八が起きなかったら?」

「それを聞いてるんだ」

 

神楽はチッと舌打ちをして黙る。

弾を打ち込まれる前は、新八らしき意識は全くなかった。ないなら最悪の手段を取る必要に迫られる。

剣は引き剥がす手段があるんだろうか。

 

「呼び戻す。名前呼んで寝坊助を起こして、仁鉄を外に叩き出させるんだ」

「………藤丸立香」

「は、はい!」

 

剣の精神論を聞いた土方は、剣ではなくこちらに声を掛けた。振り向かずに背筋を伸ばしたのは、土方歳三を思い出させる決意を感じたからだ。

 

「特異点で生きている人間が死んだ時、修復後に生き返るのか?」

「いや…死んだままです。何かしらの理由を付けられて、死んだことになります」

 

既に知っていた風の土方は、布を擦る音を雑に立てた直後、キンと甲高い音を1つ響かせてシュッと人を選ぶ音を無遠慮に鳴らす。いつ取り出したのか、紙に火が移る音を聞いて、変えられない事実に答えを求めるように息を吐いて、カルデアでは馴染みのない臭いが微かに漂う。

 

「精神論は大いに結構だ。俺たちもソレで数えきれないほどの窮地を越えてきた。

それでも戻れなかったヤツは、この手で斬った。

息子を斬る覚悟があるか。無いなら俺が斬る」

 

頷けば容赦を捨てんと、たばこの火種が剣を凝視する。

 

「そん時は俺を斬れ」

「け、剣!?」

「半端な覚悟で来ちゃいねェよ。バカ仁鉄の責任も一緒だ、人じゃなくなった分は俺が償う。

それに、倅が俺の教えを忘れずにいりゃあ、自ずと目ェ覚ます!引き剥がすのは俺に任せろ」

「教え?」

「あぁ。『例え剣を捨てる時がきても、魂に収めたその真っ直ぐな剣だけは失くすな』ってな」

「………出来るのか」

「ちと時間が要るが、なんとかしてみせる」

 

助けると断言した剣の言葉は、父の使命を芯に入れた覚悟だと分かり内心で胸を撫で下ろす。

土方は短く返事をして、綻びた口元から煙を天井に吐いたっきり口を閉じた。

 

他に何かあるかと返されて、紅桜の成体のことも聞いたけど知らないと首を横に振る。

成体については本人に聞くとして、次は剣自身のことを聞こう。

 

「僕を正鬼から助けてくれた時は子供だったよね。勢巌に斬られたあとは成人手前まで歳を取った」

 

変身の類いだと最初は思ったけど、一向に縮む様子はない。成長しただけ強くなって窮地を切り抜けたものの、霊気が無事な理由を無視し続けるのはダメだ。

人智を越えた仕組みには、大きな代償が付きものなのだから。

 

「鉄患いって病、聞いたことあるか」

 

剣から問われた病名に聞き馴染みはない。現実に存在しない病いだと直ぐに分かったのは、伍丸から聞いていた可笑しな病いとして印象深かったからだ。

 

「あっ、それ伍丸から聞いたよ」

「えっ、本当か」

 

機械(からくり)に魂を移植する研究を始めた頃に訪ねてきて、こう言った。

“剣聖を見たい。そのために鍛冶屋になった”

その時、一本の刀を差し出してきた。写真のものだ』

 

伍丸と仁鉄が1度だけ対面した時の話し合いを剣に伝える。仁鉄が人前に出ることを珍しがっていた剣が思案する横で、ふと写真の錆びた刀を思い出す。礼装に保存していた画像を引き出して確認すると、仁鉄が振るっていたものと非常に似ている。

 

「あれ、あの写真の錆びた刀、もしかして!?」

「確かに…! 異様な気配の刀と似ています!」

「ん〜、こりゃ別モンだな」

 

マシュと2人して早とちり。

この写真の錆びた刀は勢巌が持っていたものなのだろう。

話の腰を折ったことを詫びて、鉄患いの話しに戻ってもらう。

 

「傷付かないんだ。切り傷は付いた瞬間に治るし、風邪も引かない。転けて膝を擦りむいても、立ち上がれば元通り」

「えっ……と。火傷とか、虫歯も?」

「病気の類いは直ぐに治る」

「凄い便利ですね?」

「…いんや。変わりに火花が出る。バイキンを吐き出すみてェに、ブワッて火花が散るんだ」

「火花って、あの火花ですよね。人体から火花が出るのは想像が難しいです」

「散ったと思ってたら歳取ってんの。付いた傷の深さだけ老いる。ガキから成人手前まで成長したのは、変身でも進化でもない……病が進行した証拠だ」

「────────それが」

 

勢巌の絶技…即死の傷から生還したカラクリ。

不死であって不老ではない歪な病い、鉄患い。

 

「では……剣さんは正鬼から逃げ切ったのではなく」

「殺された。退去したと思って見落としたのさ」

「あの化け物相手によくまあ逃げられたと思ったら、そーゆう仕組み!でもそれ、寿命で死なない?」

「……まあなぁ。

鍛錬のし過ぎは死に急ぐのと同じだ」

 

神楽の指摘に剣は渋い返事をする。

窮地を救ってくれた奇跡は、その身が死んだことによるもの。2度、剣は死んだ。

 

「えっそれ…」

「還暦にもなれば発症しなくなる。ジジイになって治る病いたぁ変わってるだろ!」

 

本人は笑い話として笑っているが、とんでもない。一度の死で10年ないくらいは歳をとっている。あと4回で発症しなくなり、つまりは退去ということだ。

死徒仁鉄、真祖正鬼、そして坂田銀時。この先に控える怪物たちとの戦いで、剣は使い切ろうなんて考えをしているのではないか。

 

「……剣」

「待て。前に出るなは無し」

「息子のためなら、やっちゃいそうで…」

「仁鉄の強さは勢巌に匹敵する。俺の知らない仁鉄で、倅の顔でやられるとたまったもんじゃない。

親殺しを望むような子じゃねぇんだ、新八は。絶対に俺も、お前らも殺させはしないさ」

 

確認するまでもなかった。鉄患いを囮に、なんて戦法は皆んな望まない。志村新八だって同じ気持ちの筈だ。家族を愛している彼ならきっと、父親の言葉で目を覚ましてくれる。

 

「俺と会わなくなってからも、鉄患いを見ていたか。そうか、仁鉄……」

 

青年期の思い出を振り返っているのだろう、少しばかり空へと視線を向けてぽつり呟いた。

相変わらず景色の変わらない、らせんを歩いているような錯覚に陥る廊下。暗がりの向こうに懐かしむ後ろ姿は、望まない戦いが待ち受けていることに肩を落としているようで。それだけ仁鉄との仲が良かったのだと読み取れた。

 

剣と仁鉄の間柄、剣の成長の理由、そして仁鉄と対峙した時の方針は分かった。

あとは仁鉄が剣聖に拘る理由、新八に協力関係を持ちかけた理由、真祖と協力できる矛盾を知る必要がありそうだ。

 

「仁鉄が剣聖に固執している理由が?」

「そうらしい。こんなもん何の役にも立たなかった。無駄に歳食うだけの厄病…」

「とんでもない」

 

呆れ果てる否定が響く。

それは廊下の奥、暗がりを押し除けて現れた。

 

「傷を癒す負傷の呪い。侍が欲する研鑽の祝福だ。

世に広めずに死んだのがお前の過ちだ、剣」

「────────仁鉄」

 

五月雨に映る夜に飛び出した家出少年に見えた。揚々調子に似合わない暗さだと誰もが気づいた時、死徒仁鉄の心情ではなく情景に異変が起きたことを知る。

 

(廊下じゃない!? いつ移動した…)

(分からなかった。立っている場所を切り替えられたとしか思えません…!)

 

線状降水帯を見上げたように支配された天井模様、一滴も濡れはしない工房跡地、外界の音を一切遮断する木造りの壁面。一様が見渡せる長方形の床面積は、ざっと中学高校の体育館ほどある。

固くザラつきのある床も知らない此処は、誰も知らない江戸城の本性ということだ。

 

(濃い殺意だ。存在自体が俺達と相容れない)

 

場面転換の仕掛け人は、中心から10メートル離れた立香たちの真反対の位置に現れた。

志村 新八の身体に憑依して、数多の英霊をその手で鍛った刀匠、村田 仁鉄。憑依先の特徴であるメガネを中指で整えながら、どこからともなく錆びた刀を取り出す。

草臥れて目蓋も上がらない老刀は、少し振るだけで皮膚が剥がれ落ちそうだ。とうに引退するはずの老ぼれを最前線に引きずり出す男は、文句を受け付けない人外魔窟の主人。

 

「最も重要な話を伏せてはダメだ。病弱な者にとっては歳を食う最悪の病だろうが、お前は健康体だろ」

「最も重要な話?」

「あぁ…そうさ。老いた分だけ鍛錬も積む。舞い散る火花は志村剣に幾千という戦闘経験を焼き付ける。

飯も食わず、睡眠も要らず、呼吸を忘れて、ひたすらに剣の頂きを目指す病いだ。……その筈だった」

 

純粋無垢な眼で友を見つめていた。それを受け止める剣を見てみれば、その眼は畏怖が混ざり、生前から仁鉄の心情を知っている様子だ。

 

「あと1度も死ねば鳳仙も敵じゃない。

2度の死で正鬼に傷を与えられるだろう。

剣、十界に入れ。供に魔術王を倒して人類を存続させよう」

 

特殊な病いによって齎された異次元の強さ。

一騎当千の強さに匹敵する侍は、病いを利用して正鬼と戦える域に達したらしい。

剣は薄々ではあるが、これからの青写真を仁鉄に見ている。仁鉄や正鬼と戦うことも困難な立香たちよりも、自らが剣聖となり、死徒の刀を振るうほうが勝算が高い。この世界が抱える問題は解決し、きっと相容れない存在にも別れを告げられるだろう。

 

「断る」

 

間髪なく、胸を張って返答した。

 

「それは立香たちの仕事だ。俺ぁ倅を助け出せばそれでいい。おら、大人しく返しやがれ」

「この星の命運よりも?」

「倅だ。父親が息子の味方して何が悪い」

 

即答に皆が目を見張る、過去から出張る者の線引き、友の後始末を請け負う宣言は、未来を行く者たちへの成し遂げてくれるという絶大な信頼の証だ。

 

立香も怖気まいと言葉を投げかける。

 

「目的は同じだよね。どうして僕たちと敵対する必要があるんだ」

「言った筈だ、魔術王の手先じゃないと証明出来ない以上は排除する。剣が肩を持とうが関係ない」

 

聞く耳を待ったうえでの否定。同じ世界の人類という枠組みでしか見てはくれない。同郷以外を排除する方針は、相手が魔術王という人類規模の敵だからこそ。

これまでの旅の記録を見せて、全てに目を通してもらえたとしても、仁鉄が首を縦に振るイメージが出来ずにいると、マシュが前に出た。

 

「待ってください!! 仁鉄さんも、人類のために魔術王と戦おうとしているんですよね!

私たちの旅の話を聞いてほしいんです。未来を望んでいる多くの英霊、多くの抗う人たちが大勢いることを知ってほしい。どうか……」

「精魂込めようとも、使う相手は選べない。1つの手違いで我々の命運が魔術王の手に落ちた時、後悔するのは君たちだ。この世界の現状を清算してから手を差し出せ」

 

申し出を断る言葉は悪人を斬り捨てる距離で。魔術王を倒してからでないと達成できない条件を突き出されて、マシュも唇を歪めた。協力する道を示したのに手が届かない、歯痒い方針を貫かれては動けない。

仁鉄の言葉を聞き終えて、剣はため息を吐く。

 

「心にも思ってないだろ」

「どうしてだ?」

「刀握るヤツ以外、興味ねーじゃん」

 

その指摘に今度は仁鉄がため息を吐く。

 

()()(なが)ら、侍が生き残るにはこれが最善だ。

侍無き世は耐え難い」

 

錆びた刀が僅かに震えた。静かな怒りが滲み出た証拠だ。

廃刀令による侍の冷遇、弱体化した江戸を去った幕府の薄情さ、まるで刀鍛治は死ねと言わんばかり。刀匠にとっては故郷が燃やされることに等しい。

立香とマシュは、ここを論点に話し合えばまだ…。と微かな望みを見出そうとしていた。

 

「見上げた根性だな。逃げおおせたバカ共に聞かせてやりたいくれぇだよ」

「お前ェ、正気か」

 

2人の横を通り過ぎて、燻る肺を吐き出した土方は、徒歩でゆっくりと仁鉄に近づいていく。

その手に明らかな敵意を握って。

 

「肩に担ぐ砲台はどうした。アレでないと死徒の身体を斬れると思うな?」

「そうだよ! 普通の武器じゃ通用しない!」

 

仁鉄の嘲笑に、立香も声を張り上げる。

昨夜、仁鉄への攻撃は悉く効いていなかった。マシュの一撃は押し飛ばしただけ。鳳仙の破壊力を以ってして頬にかすり傷、それも直ぐに完治ときた。

結局、仁鉄への対抗策は剣の剣術、そして土方のロケラン頼りになる。肝心の土方が刀で前に出てしまっては意味がない。そう思って呼び止めた立香だったが、土方は止まらず。

剣よりも先んじて、仁鉄の前に出る形となった。

 

「私の鍛った、十界なり損ないの鈍刀(れいき)で試してみるといい」

 

仁鉄は驕っている。

刀匠の目で見ても名刀程度の代物だ、死徒の身体を斬れる道理がないと江戸1番の目利きが判断を下した。

腕を振り上げるだけで消し飛ばせる相手を、他人の身体を使って試し斬りの実験にしようという。傷つかないとしても、その魂胆に怒りを覚えた。

 

土方は立香とマシュほ2人に、説得を諦めろと言うように、刀を振り上げる。

聳える巌のように人智を逸脱した生命へと、報復の無謀な刃が振り下ろされて────

 

「恩人が世話んなった礼だ」

 

土方十四郎、怒りの一振りが仁鉄を袈裟斬った。

 

「〜〜〜ッ!?」

「斬っ、たあああああ!?」

 

反撃に割り込もうとしていた剣は瞬き、珍しく隙を晒す。そこに付け入る者は後退り、その姿を見て立香たちも呆気に囚われていた。死徒の超越した硬さを難なく突破した張本人は、地面スレスレまで降ろした刃を返し、追撃の一太刀を仁鉄に浴びせる。

 

「英霊の霊気を雑に扱き使っといて、侍のためだなんて言い分が通るかよ。

使い手を選べよ、ここで。俺には言い訳並べて責任逃れしてるようにしか見えねえ」

 

斬撃である筈の攻撃を受けた仁鉄は、ガギンと重低音を響かせながら吹き飛んでいった。

土方の握る刀を見れば僅かに揺れていた。あれは怯えからではない、重量物を叩いて跳ね返った時の武器の悲鳴だ。斬ったというよりも、叩いた反応に見える。

 

不可思議な光景は続く。

それは土方の前方に舞う無数の紅。

剣が首を断たれた時に見た追悼の花だ。

 

「火花が………まさかっ」

 

土方は飛び散る火花を払い除けながら「あぁ、人の身体を好き勝手してやがる」とタバコを吐き捨てる。

 

立香は昨夜の出来事を思い出す。

鳳仙が付けた傷が瞬くあとに治っていたアレは、鉄患いの発症だったのだ。

 

「チ…。死徒の鍛つ刀は死徒を斬れるわけか。英霊を再現した霊気だと侮った私の落ち度だ」

 

起き上がる仁鉄に傷はない。かといって剣のように歳をとった様子もない。そもそも、どうして鉄患い…病いを仁鉄が再現したのか。彼は刀鍛治だ、自分が成るには効率が悪いと誰もが考えた。

正確には志村 新八の身体ではあるが…。土方や神楽は知っている。彼は魔術王に勝てる器じゃない。志村剣を仕立て上げる以上の成果はない、と。

 

故に、村田 仁鉄の思惑が読めずに困惑する。

 

「………倅が望んだのか?」

「なにを?」

「鉄患いが欲しいつったか聞いてんだ」

 

試しておいてよかった、などと言って笑っている仁鉄は、ついに剣の表情に青筋を入れるに至った。

 

「これが鉄患い。

 

鍛錬の最奥、剣聖へと至る道。

 

───ようこそ、私の鍛冶場に」

 

まだ、誰も気づいていない。

 

本来、死徒に抱くべき感情を。

 

気づけば、村田 仁鉄の狙いも分かるというのに。

 

誰も疑問に抱かないまま、死徒仁鉄との戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

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