Fate/SN GO【本編完結】   作:ひとりのリク

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六節 鉄火場

前に飛び出した剣と、錆びた刀を携える仁鉄が刀を振り出して、侍と死徒の頂上決戦は幕を開けた。

最も、2人が衝突するところを見届けたわけではない。射出された矢のように駆け抜ける剣と、その速度に難なく反撃を返す仁鉄を残影で感じただけ。立香が気づいた時には、2人は奥行き定まらない鍛治場で剣戟を描いていた。

 

「貴様に家族が殺せるものか、志村剣‼︎」

「斬るぞ、新八‼︎ 刀を抜け、新八‼︎」

 

旧友の怒号を投げつけ合い、その声に応じて衝撃が地面を揺らす。

近づけば風圧で身を切り裂かれる。人工のカマイタチと化した台風は、真祖特製の江戸城を壊す勢いだ。あれが近づけば無事では済まない。人々の生活に押し寄せる津波の如き理不尽が、両者ともに出力していくのだから笑えない。

 

数々の英霊たちの戦闘を目撃し、その真っ只中に飛び込んできた人類最後のマスター、藤丸立香が身震いする。散々人外同士の戦闘を間近で見て肝が座ってきたと自負していた立香は、毛色の違う戦いに冬木の頃の恐怖心を思い出す。

剣の動き、仁鉄の硬さ、どちらも英霊が叶う域にいるとは到底思えない。マシュでさえ、彼らと比較すれば人と戦車のような差があることを立香は察した。

 

「マスターとアンタはここにいろ」

「アンタ、あれに付いてくつもり?」

 

それでも前に出なければならない使命を背負う者、土方が踏み出した。神楽は呆れ声を投げつけつつ、あとに続いている。

 

「こういうのは居るだけでも違うんだよ」

「……うん、僕もそう思う」

 

結局はこれだ。

一同が無言で同意している。

果たせる役目は少なく、むしろ足を引っ張るかもしれない。

それでも付いてきたのは、志村剣が拒まなかったから。自力では少しだけ不足と思っていたのか定かでは無い。それを確かめるために皆んな付いてきた。

 

「おい、異世界のマスター、そのサーヴァント」

「「は、はい!」」

 

土方の声に振り返る。

 

「相手は死徒。怯えるなってのが無理な話だ。

一緒だ、俺も怖ぇよ」

「「……! はい!」」

 

重なる鬼の副長、その面影。

嘘偽りなき告白に、マシュと立香は励まされた。

次の瞬間、瞬く火花を目撃して、どちらから発生したものか知るために駆け出した。

 

立香の役目はハッキリとしている。

志村剣が志村新八を引き戻すのに手こずった時、その一押しを後押しすることだ。

巻き込まれないよう遠巻きに立香とマシュが駆け寄ると、火花の発生源で激闘を繰り広げる2人の優劣がハッキリと視認できた。

 

宙で開く花火のように、力強い抜刀は金属音を越えて爆撃の如く仁鉄を追い立てる。一瞬で花開いた煌めきに目蓋を閉じるも、抜刀の残光は尚も輝いていた。

絶え間なく、鼓動するように2人の剣筋が未来を主張し合う。ひと振りに志村剣の人生を込めて、返す刀を村田仁鉄の描く未来に例えながら。侍と鍛治屋、顔見知りでしか語れない言葉を使い、2人の世界に入り込んでいる。

 

「───────」

 

そこに割り込めるのは真祖正鬼か、夜王鳳仙くらいなものだろう。

土方、神楽はそう確信するほどに実力差を認め、然し一定の距離を保ちながら隙を窺っている。一分の隙を作られたとき、その真逆のとき、即座に手を打つために神経を尖らせている。

立ち入れば死を覚悟せねばならない。これまで戦ってきた英霊とは違い、相手は人類史に敵対する存在。英霊の天敵であり、人類を喰らう上位種なのだ。

真正面から立ち向かうには、志村 剣のように異次元の強さを誇らなければならない。

 

「ぐっ……!」

 

2人には力量差がある。何十と交わす刃を躱して、剣の太刀が仁鉄の身体を刻んで、剣戟の火花に仁鉄の火花…鉄患いが混ざり合っていく。その様子がなによりの証拠。

死徒どころか真祖の足元にも手をかけている剣だ、刀の扱いにおいて一歩先を行くのは当然のこと。

 

(剣が優勢だ、このままならいける)

 

人智を超越し、鳳仙との戦闘でもかすり傷を負うだけだった仁鉄を斬っている。実の息子の身体の筈なのに、躊躇いなく刀身を通すその背中は、必死な形相は、父親としての矜持を切り裂かれながらの対峙だと分かった。

息を呑む。皆んなが、父親の覚悟を目の当たりにして、熾烈な攻勢に身震いする。

 

一刻も早く仁鉄と新八を切り離したい、そう考える遠巻き2人を吐き捨てるように、混ざり合う火花が部外者の介入を拒絶した。眩く、戦い辛いと思う程度でしかなかったそれは、一分と経たずに環境へと影響を及ぼした。

 

「熱っ…!!?」

「ちょっとあれ、何度の熱よ!」

 

火花が散れば熱が生まれる。当然の理りを悠に越えて、剣の心逸る剣戟と、仁鉄の心踊る研磨が熱量となって室温をぐんと上げていく。ただの真剣勝負では起きない異常事態は、相手を死徒だということを思い知るきっかけに過ぎない。

誰もが仁鉄の眼差しを真剣勝負に没頭するものと勘違いしていた。荒々しい剣戟は独自の剣術に見えるが、それは達人のものとは別種の頂きにあるせいだ。

 

「────‼︎」

 

舞い散る火花のように刀を振るかと思えば、軌道を変えて突如動き出す子供の如く四方に亀裂が走る。剣でさえ動作くらいは見せるところを、仁鉄は奇怪な業を使って刃を振るわずに攻め立てていた。

それがあってギリギリ軽傷で済んでいる。力量差を埋めるのは死徒としての力だ。

 

(熱い……さっきも切り傷は入れたが、こんな熱は出なかった。鍛治工房が原因か?)

 

人間の活動限界近くまで上昇した温度を浴びる剣は、攻めの姿勢を止めなかった。止められなかった。気を抜けば熱中症で気絶し、肉体はグツグツのシチューと果てる。

 

「優勢なのに、嫌な予感しかしない」

 

錆びた刀が放った火花を鍛着し、仁鉄の動きにキレが増していく。仁鉄の振り撒く刃が只事ではないことを察知した。

 

「────! 2人とも、私の後ろへ!!」

 

マシュが叫ぶ。

呼ばれた2人は踵を返し、明らかな危険地帯から一時撤退するマシュの判断を肯定した。

 

「何か気づいた?」

「この異常な温度上昇、もしかしたら死徒の超抜能力かもしれません」

「超抜能力??」

「長年、人から血を吸い上げることで覚醒する死徒の能力です。

何百年という時間をかけて、想像もつかない人数の血を吸うことで手に入れる力です。仁鉄にはその資格が圧倒的に足りないと考えていたのですが……」

 

技の練度で遅れをとる仁鉄に傷が付く。同時に火花が散る。剣と違うのは容姿の変化がないこと。死徒は何百年と生きる化け物だ、早々に老いはない。それ故の超抜能力であれば…。

 

『付いた傷の深さだけ老いる。ガキから成人手前まで成長したのは、変身でも進化でもない……病が進行した証拠だ』

 

剣による鉄患いの症状を思い出す。

 

「そうか、鉄患い!」

 

鉄患いは治癒と引き換えに歳を重ねる病い。それを再現したという仁鉄が傷つき歳を重ねていけば、超抜能力に目覚めてもおかしくはない。

 

「仁鉄を傷つけるのは不味い!?」

「それなら切腹でもすりゃいい話だ。わざわざ剣と斬り合ってんのは何か裏があるだろうな」

 

死徒への知識が足りず、剣な意図を探るのは難しい。そこに、神楽が1つの疑惑を投げる。

 

「……待ちなさい、あいつ血を吸ってない」

「はい。そこが不可解なんです」

 

吸血鬼であり、超抜能力に目覚めるにあたって、仁鉄は圧倒的に栄養が足りていない。

人間は正鬼が回収している。仁鉄がつまみ食いしているようには見えなかった。だから死徒として存命しているのが信じられない、とマシュは訴えている。

その答えについて、立香は思い当たる節があった。

 

「────火花」

「え?」

「火花だ。血の代わりを果たしてるのかも」

 

証拠はない。確信はある。

代用出来そうなものは、それしか見当たらない。

 

誰も、村田 仁鉄に対して。

人類代表として、嫌悪感が少ない。

死徒に対して抱く憎悪があることを、ここの誰も知らない。だが知らずに藤丸立香は、その原因が何処にあるのかをマシュの疑問から突き止めた。

 

「だとしたら斬り続けんのはマズい。おい死徒の寿命はどんくらいあるんだ?」

「血液さえ補充すれば寿命は尽きません。ですので、火花が血液の代わりになるのなら…」

 

それは不死身の怪物と言っていい存在になる。

新八の身体から追い出さない限り、あの永久機関に似た不死生が失われることはないだろう。いや、そうであることを今は祈るばかりだ。

 

「………ンなバケモンと戦ってるアイツ何者だよ」

「それはあと!剣に伝えるのが先よ!」

 

早く伝えるために視線を向けた時、眩い光りが視界を遮った。

熱されて赤白く光る身体は、大鎚を振り下ろされた卸金と言わんばかり。

 

「剣────ッ!!!!」

 

地に落下する飛来物が1つ。火だるまの何かが床に叩きつけられて、肉肉しい音を立てたことで人間であることを確認した。それが志村剣だと判明したのは、続けて落下してきた存在が死徒だったせいだ。

 

「さぁて、次の工程にいこう」

 

業火が勢いを増していく。

数分振りに対面した仁鉄は、床を溶かしかねない熱を放出しながら、剥がれた皮膚を持ち前の病いで治している。修復に剣ほどの速さがないのは、病いの重さによるところか。

 

観察する余裕はもうない。

やるしか無い。覚悟を決めた一向へと、死徒仁鉄が刀を振り上げた直後。

 

「斬っても良いところが1箇所あるわ……」

 

神楽が勝機を見出したと呟く。

無敵にしか見えない仁鉄のどこを叩くのか。仁鉄本人も興味深げに耳を傾けると、神楽が叫んだ。

 

「剣!! 眼鏡を斬って!!!」

「………!?」

 

戦闘の真っ只中で奇怪な指示。困惑する一同を他所に、業火を振り払った侍が、一段と貫禄を刻んだ肉体で飛び込んでいく。振り向きざまに刀身が交差し、剣の刃だけが敵を…メガネを捉えた。

 

「──────ご、のッ」

 

それは一瞬の出来事だった。

真っ二つに斬ったメガネが音を立てて割れた直後、メガネから火花が発生した。鉄患いの症状を見せたメガネは瞬く間に修復され、仁鉄が頭を抑えて苦悶の声を漏らす。

 

「おい仁鉄、それが倅となんの関係がある?」

「………鉄患いを宿しているからだ」

 

発言の意味を咀嚼して、首を傾げた。

剣だけではない。仁鉄以外にその発言を理解できなかった。反応を予想していた仁鉄は、胸を張って全員の疑問符に応える。

 

「鉄患い。鍛錬する刀のような病い。それは刀に限った話じゃない、無機物を代用していれば良い。

そう、即ち、メガネ掛け機だっ───────!」

 

ハツラツと、堂々と宣言した。

 

メガネ掛け機。

新八のあだ名の1つ。

 

何かとデバフがメガネに付与される新八は、メガネが本体だと揶揄われてきた。

銀魂お決まりのやり取りを彼は知らない。ゆえに魂レベルで勘違いしているのだ。

 

「いや、それ弄ってるだけだからアアアアアア!」

 

神楽、数年振りのツッコミが鍛治工房に響いた。

 

 

 

 

 







新人死徒、鉄患いを利用して二十七祖の域に近づく。




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