衝撃告白。
志村新八のあだ名『人間を掛けたメガネ』は実は父親の病い『鉄患い』の伏線だった!? 今更気づいたところでもう遅い。鉄患いが欲しかった仁鉄にバレてしまったので利用されてしまいます。
「どういう意味だ。人の息子を物呼ばわりして」
仁鉄の言い放った言葉に青筋を立てる剣。
自分の息子をメガネと罵倒した事に怒り燃え上がっているのは明白だ。
「しらばっくれるな。薄々は思っていたんだ、君の子供が鉄患いを引き継いでいない訳がないと。
新八君に触れて理解した、記憶を覗いて確信した。
仲間から『人間を掛けたメガネ』とか『メガネが本体』とまで言われる姿こそ、まさに鉄患いだ‼︎」
立香とマシュは新八が弄られポジションということを知らず、どの辺りが鉄患いなのかちっとも分からない。いや、知っていてもピンとは来ないのが普通だ。
では、普通ではない者ならばどうだろう。
例えば、この世界に馴染んでいて新八に精通した者…後ろで棒立ちの2人とか。
立香、恐る恐る尋ねる。
「あの、神楽さん」
「」
ダメだ、まるで屍のようだ。
「あの、土方さん?」
「」
ダメだ、白目を剥いている。
(まさか、新八を乗っ取りに選んだのって)
(原作の弄りネタが原因だったアアアアアア!?)
察しが良すぎたせいで、仁鉄の勘違いを即座に理解してしまった哀れな2人、神楽と土方。
2人の機微を見た剣は、瞳孔を開いて閉じず、首を後ろに捻って白状しとけと圧力を放っていた。
(最悪。あいつ新八のあだ名を鉄患いと勘違いしてる。そこにはなんの価値もないの、ただのメガネでしかないの。いやもう人間を掛けたメガネとか言ってる場合じゃないわ)
(見ろ志村剣の俺らを見る目を。完全にいじめっ子を蔑む目だ、同級生に息子虐められた父親の反応してるよ。お前早く謝れよ)
(何言ってるの。私は適切な距離でボケとツッコミをし合っていただけよ。アンタこそ謝んなさいよ、警察なのに一般市民を弄りましたって。ほら早く)
立香とマシュは冷や汗を流し始めた。
無言で互いを小突き合う神楽と土方は、どう見ても仁鉄が勘違いを引き起こす原因を担っている。
仁鉄に向けられる怒りの矛先が少しずつ、この世界の住人に向かおうとしていた。どうすれば収まるか、仲を保たなければ仁鉄にやられる。
「人の息子を物扱いたぁ良い度胸してんな?」
ひと言だ。
ここで次の言葉を間違えた時、最強の味方は最凶の敵になり得る。
弁明の時間だ。
カルデアは見守ることにした。
新八を助けたい想いに賭けるしかない。
心の中で祈り、喉を鳴らす。そして。
「確かに、俺たちは新八のことを揶揄ってきた。
そいつはな、拳と拳で語り合った仲だからこそ許される友情なんだよ」
「倅が………拳で殴り合える仲間を…!?」
トッシーの時の話を持ち出すことで漢と漢の友情を証明し、惨劇を回避した。
(上手いこと逃げた)
(状況を利用しましたね)
一方の神楽はというと…。
「えぇそうね。メガネだのシスコンなんて呼んだ時期もあった。けどね、最後には菅○将暉になるところを見届けた。あいつが○栗旬にツッコんでたのは誰もよりも私が知ってるわ」
「なんだってェ…! 倅が菅○将暉に…? そりゃお前ェ、俺の倅が菅○将暉ってことじゃねェか!」
実写版銀魂、ほぼ本人という切り札を投入することでタイガー道場の門を開かずに済んだ。
(言い逃れの天才だ)
(新八さんが不憫です…)
喜びに天を仰ぐ剣を見て、新八が交友関係に難があったことを察する。だが言うまい、父親が嬉し泣きをしているのだ。
剣とのやり取りを見飽きた仁鉄は、乱雑に咳払いをして意識を引きつける。
「君たちには感謝するよ。
メガネ掛け機としての本能が合わさり、
刀匠としての技量を120%引き出すに至った」
言っていることは間抜けだ。普段の彼らの馬鹿し合いに感謝し、それなのに真面目に死徒として完成したと宣っている。身から出た錆びを宝石と勘違いし、偶然にも身体の相性が合致してしまった。
仁鉄と新八を引き剥がすのは困難を極める。ここまで新八の陰は少しも見えていないのだから。
「それは、人類災星計画に必要なのか」
「あぁ、そうだ。正鬼も異世界の魔術師と合流して説明している頃だ、君たちにも教えておこう」
「士郎…!」
聞き捨てならない事態を知ってしまった。
口振りから殺されてはいない。早々に合流して、正鬼の説得に行きたい気持ちで胸がいっぱいになる。
「この世界の人類を死徒に堕とすことにした。新しい世界で生きる為に、人類は進化を迫られているぞ」
「────────え」
立香、マシュ、土方に神楽、そして剣までもが。
死徒仁鉄によって明かされた計画に、思わず脳が思考停止を余儀なくされる。
冒頭から破滅している計画を笑い飛ばせる者は1人もいない。否定するには、説得の材料が無さすぎた。
▼
天蓋には鬼灯のように淡い光、広げた手に触れるのは濁流よりも暗い壁、ここは江戸城のなか。
侵入者に無関心な廊下を歩く2人の異世界人。小説を読み進めるように大胆に、行き先は読めていない次項のように不鮮明だ。
「は? なに言ってんだお前」
宇宙に取り残された廃材のように彷徨うなか、アーチャーの推測に対してそう言い返した。
「やめろ、その目を向けるな。自分の考えがバカバカしくなるだろ」
「だってそうじゃんか。“人間の一切合切を死徒化”なんて破滅もいいところだ」
人類災星計画の最終目標、人類の強化の方法について。アーチャーは裏ルートで入手した正鬼の最終目標を、人類総死徒化だと言い放ったのだ。
「自分の食糧が尽きるじゃないか、ここまで人間社会を確立させた正鬼が許すはずない」
「俺には辛辣なのヤメロ腹立つ。予想だ予想。仁鉄に対する嫌悪感が無いから言ったんだ」
「?」
「死徒は人間を食べる。食物連鎖なら人間のうえに立つ存在だ。本来なら我々は本能で彼らを恐れ、何かしらの防衛手段を取る。だが仁鉄を見てもそんな感情は湧かない」
「なんだよそれ。人間が熊や虎と遭遇しちまった、みたいな話か? まぁ存在規模は自然災害としちゃ納得したが、そこまで怯えはないな」
殺し殺される立場は聖杯戦争で経験している。
だが、それは抗うがための防衛手段であり、俺自身の望みでもあった。アーチャーの言う怯えは、狩られる側の立場。これも理解出来ると思ったが、俺がランサーに狙われた時とは意味が違った。本当に、ただの餌として意識を向けられたことは確かにない。生命を啜られる恐怖心なんて、北陸の山奥にでも行かなきゃ味わえないだろう。
「いや待て、仁鉄の握ってた刀。あれ振りかぶってた時は喉元に牙を立てられるような恐怖があったぞ」
「あぁ、私が身の危険を感じたのもそこだ」
背筋に緊張が走る。錆びた刀を思い出しただけで身震いするこの感覚は、戦場では生まれないもの。
あの刀の切っ尖が向けられるだけで、こっちの細胞が沸騰してしまいそうだった。
「…あれが人間を死徒化させるっていうのか」
「少なくとも、人間らしさは剥奪されると見るべきだ。捕食に類する、人間の恐怖心に根付いた方法で」
あの刀が一瞬だけ見せた場の支配は、人間の根幹を脅かすものだと合点がいく。
剣製はあの刀を読み込めなかった。死徒産のものと思っていたが、それなら似蔵たち紅桜を読み込めるから辻褄が合わない。あれは仁鉄の身体の一部分と見るのが妥当なんだ。
「アイアスで防げ…ないよな」
「恐らくは。だが対抗手段が幾つかある。問題は概念攻撃か、物理攻撃か。当人に聞くのが早いが──」
すっと視界を撫でられる。
自室の豆電球が明滅する光景を思い出した。
電球が切れたのかと虚空を見つめること数秒、明滅の原因がなにかを理解した。
地球上最大の存在規模が現れたことによる、環境の歪みなのだと。
「やあ、お初だ」
唐突に訪れた頂点との邂逅だというのに、騒ぎ立てることは出来なかった。扇状の瞳が揺蕩い、こちらの心を波打ち際に立たせて観察してきたせいだ。
「────────」
声は出せなかった。目蓋は落ちない。瞳を通してこちらの全てを見通そうとされる気分になる。
いや、実際そうなんだ。頭の中に少しだけ違和感がある。これは覗かれている。記憶を確認されている。まるで異国を訪れるときに行われる入国審査のように。
『坂田 銀時は、我々の″世界″から拒絶されています』
『世界を滅ぼした原因の発端として、世界の外側を彷徨う亡霊と化しています』
『貴方に、世界の意思を変えてほしい』
たまとの蔵でのやり取りが脳裏を過ぎる。
正鬼に1番問いたいことが飛び出した。
腹立たしくて黙っていられるか…。
「正鬼…‼︎」
「弾くんだ。清いね」
ぐっと視界が戻ってきた。
直ぐ目の前にまで銀時が迫っている。いつ手が届いてもおかしくは無いところまで来た。
頭ん中覗かれて狼狽えていられないんだよ。
「随分と見計らったことで。姿を見せたということは、最後の準備が整ったということかな」
「………………」
平然として相変わらず憎らしい口調を叩きつける。その度胸は賞賛ものだよ、本当に。
ただ、正鬼の反応は渋かった。立ち止まり、アーチャーを睨みつけて、会話することを拒否した。
「ケリをつける前に洗いざらい吐いてもらうぞ」
「勿論!坂田銀時のマスターには遠路遥々来てくれたおもてなしをするよ。だけど、君はダメ」
俺には朗らかな笑みで対応し、横に立つアーチャーには汚物を見下すような眼差しを向ける。
正鬼は右手を振り翳し、その爪を立てた。
中空に血管のような筋が浮かび上がり、アーチャーへと伸びていく。難なく避けられる速さだ、問題ない。
「っ!!!」
アーチャーへと振り向いた瞬間、真横に飛んでいた。明らかに見えない何かに縛られて動けずにいる。刀を投影し、中空のソレを迎え打つ。無数のソレを全て落とすのは無理だと被弾を覚悟した直後、中空を歪めるソレの勢いは直前で弱まった。
「えっ?」
そうして容易く斬り落とした血管のようなものは、空気を凝固した棘だと判明した。
正鬼のやつ、手を抜いた。どうしてか、俺は生かしておきたい理由があるらしい。
「俺が良くてアーチャーがダメなんておかしいだろう。どういう了見だ」
「この眼を阻害している。真っ黒」
「眼?………魔眼か」
正解だと頷いた。
吸血鬼は人を魅了する眼を持つらしいが、正鬼もそういう類いのものを持っているのか。
あぁ、多分さっきの頭の中を覗くアレか。
…源外のハナクソ、真祖を欺けるレベルなの?
「…………これでいいか」
「────────君は」
認識阻害用のハナクソを外したアーチャーは、一瞬だけ本来の姿を取り戻し、すぐさま元のガングロキザ顔に戻る。正鬼は敵意を仕舞う。誤解は解けたらしい。正体を偽ったままに対する追及は無理やり遮った。
「ここは江戸城の見る影もないな」
「地球の生活スペースだからね。世界を見守っている。子供達を設計したのもここだった」
穏やかに揺らぐ焔が点在するここは、精神状態が乱れることはない。外界から隔絶されながら、永劫を生きる環境が整い、きっと星の触覚として地上を見守ってきたのだろう。
床や壁から微かに正鬼の匂いがしている。
「君は人類始祖と名乗っていたな」
「人間の進化は色々と言われているよね。神様が創造した、海の贈りもの、宇宙から落ちてきたなんて話もある。その真相は、人間の産みの親は真祖だ!」
真顔で、抑揚の高い声音で、この世界の人間誕生秘話を喋っている。見たまんまを思わず感想にしてしまうのは、真新しい生き物に驚いてだろうか。それとも…。
「会っていきなり人間の起源について語られても、驚いたけど俺たちは世界が違うし……」
「君の疑問に答えるために、真祖の立ち位置をハッキリさせておこうと思った。
地球には坂田銀時を締め出す権限があり、行使した結果、君たちを巻き込んだ。迷惑を掛けた分は答えるよ、聞きたいことはある?」
それとも、言葉の奥に潜んでいる確固たる決意に…変えられない未来を想像して立ち止まってしまいそうだからか。イリヤくらいの身長、あどけなさを残した容姿に気圧されて、その名を聞いて生唾を飲んだ。
たまの言う通り、正鬼はしっかりと銀時を認知し、意図的に召喚を拒んでいる。
何が原因かをハッキリと確かめなければ。
「………」「…………」
アーチャーと視線を交わした。
いきなり銀時の処遇を問い詰めることはしない。事前にそこは確認していた。会話の機会を手にしたときに下手に結論を急かせば、正鬼の動向が掴めなくなる。
「なぜ死徒を欲した。人類災星計画に必要なのか?」
最初の内容はアーチャーに任せた。
死徒。真祖と決して混ざらない関係性から切り崩していく。
「皆んなを死徒にするからだよ」
「───────────────────────────え─────────は??」
皆んな………この世界の人間だ。
皆んなを、死徒にする。
全人類を、死徒に?
「………………………バカな」
耳を疑う返事だった。
アーチャーも唖然としている。
平然と言い放った姿に恐怖すら感じる。
なんの意味があるって言うんだ?
「人間が易々と死徒になる訳がない。英霊と死徒は相反する存在だ、英霊を成立させるために世界の摂理は仕上がっている筈だろう」
「ここは空想、そもそも英霊も死徒も混ざる余地は無かったの。………人理焼却に襲われるまでは」
その瞳の奥に、仄暗い意志を見た。
真人間には理解出来ない理論がそこにある。
「魔術王が世界の垣根を越えて、白詛に蝕まれた地球に人理焼却を押し付けたとき、幸いにも正史の世界の情報に接続出来た。
共通点は多かった。名前が付いてなかっただけで、空想具現化や死徒に類似する情報を保有していた。
地球の寝室がまさに空想具現化だね」
「………死徒に類似するものがあっただと?」
「うん。子供達は絶滅に瀕した時、退化して知性を放棄する代わりに環境に適応する。そういう保護回路を魂に組み込んでいる。
前に進み続ける人類は、それを放棄して退がることで種の保存に集中するの」
「────────死徒は下なのか」
「過去は時間に紐付いている。人間に成るなら、膨大な時間が解決してくれるんだ」
この世界では死徒を人間の下に設定していた。そうすれば正鬼が動けなくなろうとも、人間自ら退化するだけで、簡単に人間を…歴史を保護出来る。
なぜ死徒に? 聞くまでもない。人間より身体的に強く、人の心を欠けた存在は長持ちするからだ。
バカバカしい。だが、笑い飛ばせない。
タチが悪いことに、この世界の頂点が本気なのだ。
「正史によって空想の死徒は補強された。仁鉄の超抜能力を応用して、子供達を人理焼却式に耐えうる死徒にすることにした」
「仁鉄は新参も良いところだろ!?
超抜能力なんか身につく筈がない!」
「彼の超抜能力は執念深い欲望……妄執だ。
剣聖を求める妄執が補強されて、地球が紅桜から復元した時に超抜能力が完成した。
剣聖に必要なものは見た通りさ。傷を負っても完治する。代償に歳を取り、その年月分だけ耐性を獲得する。変な能力だよね」
「紅桜に魂を鍛ち込んだことで人間の仁鉄は死に、妖刀紅桜となって生きながらえていたんだろう。
復元は傷を癒すという意味なら、超抜能力に目覚めるほどの年数は稼げまい。余程痛めつけたか」
「妖刀になっちゃうくらいの妄執で超抜能力を手に入れたんだよ。生前は体質という形で発現して、死徒という概念を取り入れたことで超抜能力に繰り上がった。だから順番が逆になってるんだ」
妄執だけで死徒になる。
悪寒が背筋を駆け抜けた。
仁鉄の死徒化に恐れたわけじゃない。
納得してしまった自分に対する感情だ。
それだけで死徒化するのを納得してしまったのは、銀時がこの世界を正したいと、仲間を助けたい一心で召喚に横入りした事と同じだからだ。
人は願いの強さが逸脱するだけで、人智を越える神秘に手を掛けられる。死徒化は、そういうこともあり得るから納得してしまった。ただ、歴史をも灰燼に帰す規模への反抗ともなれば疑問を投げなければならない。
「そもそも、人理焼却に耐えるなんて可能なのか。地上の一切合切を一瞬で焼き払ったんだろ」
「アレにも不燃物があるのさ。人類史に反する存在には熱が通りにくい。地球が燃えなかったのが証拠だからね、死徒化が最も有効なんだ」
「やはり、真夜中の炎は人理焼却の炎か」
「仁鉄の破片を何度も炎に焚べて、耐性を付けてもらった。そうやって半年をかけて、耐性付与と並行して一本の刀、“
仁鉄が持ってたでしょ、と言って片付ける正鬼。
江戸を敢えて燃やし、江戸全域を鍛治工房にして準備を進めてきたって…!?
「まだ人理焼却に抗えない、可燃性の情報だ。戦い、上質な傷を負うと不純物が取り除かれていく。
そうして錆びを取り、大地に納刀された時、仁鉄の仕事は終わり。あとは残りの子供達を回収すれば準備が整うんだ」
「人類災星計画の?」
「そうだよ。刀を銀の大地に保管して、子供達に情報を注ぎ込む。少し時間はかかるけど、正史の死徒のように多大な時間は要らず、過酷な適正に振るい落とされることもない」
正鬼の目論見が本当なら、仁鉄と戦うのはまずい。立香たちは多分、仁鉄と戦ってしまっている。せめて、同じ話を聞き出せていることを願うしかなかった。
「この世界を焼却し、白詛を完全消毒すれば、恐れるものは無くなるんだ」
「……!」
「人理焼却は白詛を焼き払ってくれたけど、保管した子供達は違う。現実から切り離されて時間も止まる。白詛を保有したままでも保護回路が起動しない。
残された手段は、地球が克服すること。
そのために坂田銀時を隔離して、白詛に身体を馴染ませてきた」
喉が詰まった。
ようやく本題が出てきたと思ったら、問いただしたくもないセリフを吐きやがる。
馴染ませる。
……それは、どうやって。
それは、何処で…。
「────────」
懐に仕舞っている十手が震えた。
つまりは……あの白世界の何処かで…‼︎
「銀時に何をした。いや、何をしている…!!」
「殺し続けて、彼の血肉を少しずつ取り込んでいる。接種し過ぎたら焼却して調整しながら、徐々に耐性がついてきたよ」
淡々と述べた鬼の所業に、内側の撃鉄に指が掛かる。
間違ってるのは分かってる。地力が違う。地球を半分に破るような攻撃手段が必要だ。持っていたとしても、自然災害に耐えられるだけの肉体強度が求められる。
構わない。先に当てさえすればいい。
「────ッ」
撃鉄に掛けた手を掴んだのは、目元を伏せたアーチャー。抜け駆けを許してはくれなかった。
「………人類災星計画の発端は」
「白詛を焼き払えると知ってから練った。
空想具現化は子供達を守る一時凌ぎに過ぎなかったけど、魔術王の襲撃から事態は好転していった。
カルデア。異世界の子供たちには遠路遥々訪ねてきてくれて悪いけど、まだ特異点を手放すわけにはいかない。カルデアが未来を取り戻したとして。この世界が白詛によって滅びゆく運命は変わらないからね」
つまるところ、正鬼はカルデアを正史と繋げるためのラインとして利用しただけ。
この世界の運営としては正しいのだろう。魔術王が発端で巻き込まれただけの被害者だ。加害した側の窮地に手を差し出す余裕がないのは白詛のせい。
正鬼も必死なんだ。地球を救いたい気持ちはカルデアと同じ。向いている方向は同じなのに、着地点がバラけている。
「この戦いの犠牲者は坂田 銀時、ただ1人。
彼の血肉を…魘魅の遺伝子情報を人類に与える。そうして白詛に耐性を得て、人理焼却式を死徒化で適応すれば、新人類の生誕さ」
それが、地球の運営者…人類始祖の役目だと厳かに言い切った。
人理焼却への耐性を死徒仁鉄が請け合い、死徒化と白詛への耐性を真祖正鬼が与える。
「さぁ、選んで。この襖の向こうに彼はいる。
坂田銀時に手を差し伸べてこの世界を見放すか。
たった1人の犠牲で全世界を存続させるのかを」
腕を振り上げた直後、正鬼の背後に廃れた襖が現れた。
衛宮士郎にとって最低最悪の選択肢を叩きつけた正鬼は、神に祈っているように見えて。
「なんで俺に…」
誰が魔王なのか。
正義の味方でいられるのか。
どちらも救いに来た青年は、目蓋を落とした。