Fate/SN GO【本編完結】   作:ひとりのリク

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七節 星の頂点

座で修行に明け暮れている時、真祖との戦闘についてもアーチャーや源外と議論していた。

内容を要約すると、倒せる英霊は存在しないという最悪の結論が出た。考えるまでもなく、真祖は存在規模が地球そのまま。俺たちが地球に向かって攻撃しても、地球視点からは何も起きないのと同じ。

だから銀時の救出には説得しかなかった。失敗したら死ぬ。考えうる限りの抵抗を尽くしても、地球上の生命が真祖と戦いになる道理は存在しない。

 

「………たった1つの例外を引けたな」

 

アーチャーの嘆息に頷く。

地球上の生命では勝ち目は生まれない。説得に失敗して真祖の殺意が向けられたら、死を回避する方法は1つだけ。そう、規格外の天人の助力だ。

 

「けど、これキツいぞ……!?」

 

2つの世界の頂点が、周辺の建物に配慮もせず惜しみなく殺気を放つ。質量を伴わない重圧をその身に受ける傍観者2人は、江戸城が崩壊する錯覚に陥るほど、彼らの睨み合いを畏れた。

 

「この特異点で唯一の天人、鳳仙。ここじゃあ吉原の恩恵は受けられない。迂闊な遠出だね」

 

喋り始めは罵倒だった。

銀時を庇い、正鬼に楯突く者に敬意を崩さなかった正鬼が、鳳仙を前にして無遠慮に睨む。

出現していた吉原の小門は、正鬼のひと睨みで捻り潰された。それだけで、凍土の暖炉が破壊された焦燥感に似たものを抱く。要塞の如く風除けとなっていた鳳仙が、屏風一枚に見えるほどの焦り。

事前の情報と肌で体感したことで、その理由を2人は理解した。

 

銀の大地。

その特性は人類の保管だ。人理焼却のような人類存続の危機に対して、この世界が人類を存続させる方法として選んだのは適応。原因の排除では一時凌ぎにしかならない。あくまでも地球は人類が廻すものであり、真祖が介入することは最小限だという想いがそこにはあった。

 

必然と、天人は除外される。

事実、目の前の鳳仙からは事前情報よりも霊気の格が落ちている。そう、これでもだ。勢巌に勝るとも言われる鳳仙は、肌感でも分かる程度には出力が落とされていた。

この世界は天人にとって猛毒も同じなんだ。

 

「………丸裸ってことか!?」

「そうらしい」

 

アーチャーはそれ以上は言わなかった。

鳳仙の出方は未知数。戦闘経験豊富なコイツでも、戦闘民族の王に言及するのは憚れるようだ。

 

「じゃあね。さようなら」

 

真祖が別れを告げる。

此方の分析を現実にするため、のこのこと現れた怨敵に飛びかかった。

 

天人も例外なく叩き潰す掌が鳳仙の頭上から振り下ろされる。掌とは生易しい言い方だ。痩肉(やせじし)の青白い身体、身長50センチ差からは想像もつくまい、あれは星そのもの。殺意を持った地球が下す死刑宣告。

地上で逃れられる生命は1人たりともいない。

 

「なにを自惚れている。どう形を変えようとも、この星はソラから侵略される立場だ」

「……………ッ」

 

頭部に落ちてきた星を、掲げた右腕一本で受け止める。半年間やってみせた荒技で、然し宝具の後ろ盾を失ったこの状況で耐えてみせる異常事態。

 

(吉原の中なら兎も角、銀の大地真っ只中の城でどうして耐えるのかな)

 

地力だけで正鬼は圧勝する筈だった。

正鬼は察するべき事態を見落としていた。傍観者の士郎たちが意識のある、有り得ざる状態を。

 

「……城を侵食してきてるんだ」

「この国の法が貴様に通じぬように、貴様の楔もこの夜王には通じない。簡単な話だろう」

 

ようやく思い至ったことに鳳仙は嗤う。

絶望の大地を揺らす微かな希望。

違和感が確信に変わり、正鬼は距離を取った。

足元に伝わる微弱な振動は、2人の殺意が引き起こす怪奇現象だけではなかった。

 

直後、城内の景観が隆起する。

河川の上で揺れる舟のように、壮観な城が浮き沈み。地震の揺れではなく、噴き上がる水を抑える時の蓋のよう。城の一部分の隆起現象がそこかしこで始まった。

 

「成る程。吉原と空想具現化、2つの世界が衝突している最中か」

「吉原って、鳳仙の宝具の!?」

 

鳳仙……英霊の座に登録された数限りある天人……は、ある方法によって空想具現化の中でも活動ができる。宝具『夜王』の発動によって空想具現化からの影響を殆ど受けずにいると聞いた。

 

「宝具1つで変わるもんなのか!?」

「固有結界だ。鳳仙のやつ、江戸城の下に吉原を展開したまま外に出て来ている」

「な、なんだって……。いや待て、本人が外に出れるって、それ固有結界じゃないだろ!」

「私に分かることは、空想具現化に侵食出来る……規格外の固有結界ということくらいだ」

 

唖然とする。俺たちの固有結界ではここでの詠唱すら許されない。やろうものなら神罰が下るように魔術回路が焼け焦げて、世界から追放されるだろう。

考えてみれば当たり前のことだった。鳳仙はこの半年間、絶えず『夜王』を発動、維持している。一日ならまだしも、半年間も固有結界を維持するのは不可能としか言えない。どれだけのコストが必要なんだ。

 

「ずっと痒いんだ。下水路を音を立てて走り回る天人の生活音。源流にいるのは誰かな」

「ははははっ。漸く喋り出したかと思えば、自身の無知さをひけらかすだけと。哀れ、愚かだぞ真祖」

 

真祖による世界の独り占めに対抗する、夜兎の王による独立地下都市の不法な開発。

この戦いは一方的なものにはならない。

正鬼の空想具現化と鳳仙の宝具展開。

吸血鬼と英霊、正反対の生物による規格外の概念の押し問答合戦へと発展している。

一挙手一投足、物理と概念の何方かが下回った時点で均衡が破れ、敗者が決定する。

 

「不愉快。砂場の城のように崩してあげる」

「この夜王が(ねぐら)に踏み入った時点で勝敗は決している。大人しくここを明け渡せ。でなければ去ね」

 

頂点が踏み込む。

頂点が地を蹴る。

 

真祖は迫り上がる吉原を沈めるために、江戸城に一層の奮起と一切の陥落を命じた。

夜王は目前の最強を仕留めるために、夜兎の血が待ちなど有り得ないと口角を上げて。

 

繰り出すのは右拳。先ほどの返礼の意を込めた夜王の言葉を、真祖は左腕を伸ばし、手のひらで受ける。

大きさを比べれば鏡餅の餅と橙。物理的に考えて橙が勝てる要素は無いのだが、鏡餅の最上には皺の1つも現れない。何事もなく頂点に飾られていた。

続くコンビネーション…左拳の上下の打撃、右手で払われて難なく終わり。

前脚蹴り、足払い、上段蹴り、どれも両手でポンと触れるだけで静止させられた。

まるで赤子がじゃれついて父親をぺちぺちと叩くような、生命の規模の差がそこにはある。

 

「おい、見てるだけでも手応え無しだぞ!?」

「………………」

 

これを半年間続けていた?

さっき正鬼の振り下ろしを止めた時は確かに力関係は拮抗していたぞ。

いいや、違うはずだ。鳳仙も自慢の四肢が通じないことに驚いている。

 

「環境が違うだけで斯様にも変わるか。

手応えが無いな。衝撃を吸収しているようにも見えない。どんなカラクリだ。ん?」

 

鳳仙の問いかけに無関心の正鬼は、銀の大地による恩恵の内容など話すはずもなく。煩わしい虫を扱う時にやる、鳳仙にはどう見たって効く筈がない棒立ちから振り払う構えを取った。

 

「ぬっ────」

 

これを鳳仙は飛び上がって躱した。

でなければ間違いなく死んでいた。

城を縦一直線に割くさまは、物理的な守りが意味を成さないことを意味する。エクスカリバーが放たれた跡でさえ、城内部の損害は大広間に留まっていたというのに。

 

俺たちの居る周囲1メートルは無傷だ。目の前にまだ建っている吉原の門は無関係だろう。正鬼の振り払いが意図的にここを避けたように見えた。

俺たちは動けない。正鬼に意図的に見逃されている。2人の戦いに突っ込むのは無謀だ、蟻と人間ほどの力量差があるのだから。

 

飛び上がり、着地点は正鬼のもと。正鬼が腕を振るよりも早く、夜王の右足がかかと落としを繰り出して。

 

「江戸城と同調しているな」

 

添えられた手から返る手応えのなさに、鳳仙は正鬼の防衛手段を把握した。

 

「肌の微かな揺れが城の振動と同じだ。手応えがないのは貴様の出力と比例しているせいか。小癪め」

 

比例。

その単語で士郎たちも凡その特性を理解した。

正鬼は防御力を江戸城依存にしたまま、この場にいる全員の能力値を自らの魔力(ステータス)低下と道連れにしている。

 

何故そうするのか。

 

例えば、大人2人を準備しよう。

片やバットを持ってスウィングできる非力な者。

もう片やバットのスウィング並みの衝撃を肉体で再現できる屈強な者。

彼らが戦い、万が一にも非力な者のバットが屈強な者に当たれば、非力な者は屈強な者を倒せる。急所に当たれば命も奪えるだろう。

技術云々の話ではない。万が一の可能性が存在している時点で真祖が頂点たるとは言えない。逆転を防ぐために、万が一が起きない段階まで全員の出力を下げる。

 

正鬼の寝室が引き起こす現象…“鬼あそび”だ。

 

「まだ生きてるのに、よく言うよ」

 

正鬼の寝室は、主人の万が一の敗北を許さない。本来ならば正鬼への殺傷行為すら不可(できない)

 

(だから疑問だ。この寝室を知らないと対策できない。そんな英霊はもう居ないのに)

 

鳳仙による吉原の侵略ありきの状況だ。正鬼が悪態を吐いた理由だ。

 

「なんとかならない………?」

「何もあるものか。鳳仙が丸腰で正鬼にダメージを入れることは不可能だ。

城丸々に響く一撃でさえ、ここでは赤子が親の指を握り締める程度の感触に早変わりだ」

「馬ッッッッ鹿か!!?」

 

両者の差は縮まらず、然し鳳仙がその身で与えられる威力は無に等しくなる。

絶望的な状況だと理解した目の前で、正鬼のデタラメな暴力が鳳仙降り注いでいく。

 

「あぁくそっ……避けるしかないって感じか?

不味いぞ、最強の助っ人が無力化された。なんとかしないと、何かないかアーチャー!?」

「────鳳仙のやつ、なぜ傘を」

「あ」

 

焦って隣の俺に問いかけるも、意識はこちらに向かない。だが、アーチャーの独り言で思い出した。

なぜ気づかなかったのか。座で聞いた話によれば、鳳仙は身の丈もある傘を携えるという。

 

「そ、そういえば鳳仙の…いや、夜兎族は傘が武器だったか。半年間戦ってるうちに大傘が壊れたとか」

「無くは無いが、別の理由があると見た。なら後は、此方の問題だが」

 

手元に視線を落とし、未来の俺はひと息。

短い詠唱を終えると、手元には大傘が一本。

 

「えっ、魔術使えるのか!?」

「見ての通り何ら支障はない。恐らくは吉原がこの空間の効果を和らげている。

真祖に近づくほど寝室の効果が上がると見た」

 

投影魔術の質は落ちちゃいない。アーチャーの推測は正しいだろう。そして、アーチャーの狙いも理解した。

まだ武器の効果が下がるかを確認していない。肉弾戦が通用しなくなるのなら、対城宝具並みの威力を持つ宝具をぶつけるんだ。

 

「鳳仙、こいつを────」

「それしきのこと、打ち破れぬ弱者とでも?」

 

鳳仙は、アーチャーの投影した大傘を拒絶する。

これには思考が停止しそうだ。

 

「チッ。何がしたいんだ…」

 

アーチャーが悪態を吐く間も、正鬼は軽快な足取りで追い立てながら鉄槌を落としていく。

 

(投影したものは寝室でも形を保てるんだ。魔術王対策に練り上げたつもりだったけど、まだ改良の余地あり)

 

正鬼がアーチャーを生かしているのは、アーチャーの内情を見て投影魔術の質が衛宮士郎よりも上だと知ったからだ。正史に渡る前に、数少ない例外を解析するため。

寝室内での魔術が如何なる状況でも不発に終わらせる。吉原に攻め込まれる程度で魔術を使われなどあってはならなかった。

 

(君もだよ、天人。地球の手の内が知られた程度で動き回られるなら、魔術王に敵うはずもない)

 

新たなる課題を見つけた。

人類災星計画が完了次第、魔術に対する更なる理解と対策へ移らなければならない。それを今は頭の隅に追いやり、強制弱体化(おにあそび)を緩和して生き延びている忌々しい天人へと意識を強めた。

吉原とは一変した、死の薫る戦場に血を激らせている鳳仙へと。

 

「は、ははは。────!」

 

老木のような歳で猟犬よりも速く駆けて、雪崩れの真っ只中とも言える殺意を一足で置き去りにする。

吉原という宝具で保たれていた半年間の均衡は、今や言うまでもなく正鬼に傾いている。

背後に迫る正鬼の攻撃は、握り拳から放たれる拳闘のような単調な殴りを圧縮、放出したもの。吉原で飽きるほど見てきた攻撃は、その威力、効果が大きく上方修正されていた。天人に対する治癒困難な傷の付与、魔術回路の強制ショート、宝具の効果剥奪エトセトラ。肌感で読み取れる情報だけでも負傷は即敗北に繋がる。

生前は呪いだの宝具などとは無縁。

己が身1つが宇宙最強であれば敗北の2文字は追い縋ることも出来なかった。

 

「────は! ────ハハハっ…!!」

 

今を楽しんでいる。

夜王鳳仙ともあろう者が、右拳の一打、左小指の突き刺しさえ無様を晒す。殺意は全盛期、破壊力は泡のよう。戦艦と生身よりも遥かに力の差があり、生命を相手に真っ向から敵わないと思うことは記憶にも記録にもなかった。

夜兎族と地球人以上の力差がここに存在した。

 

この半年間、毎夜の戦いは海坊主との戦いにも劣らないほどに玉座が傷付いた。戦果と言えよう、英霊の身であることが惜しいくらいだ。ここに贋作物など入る余地はない。素手で来たのは訳あって、そして敢えて、更には真祖の本領を最大限に警戒するからこそ。必ずや最強となった真祖を斃すための準備を整えたいからだ。

 

「星のように果てしなくとも」

 

地球を守るための延長線で鳳仙を排除しにかかっていた正鬼とは違い、鳳仙は半年間、(ひたぶる)に真祖との戦いに身を費やした。

毎夜、夜明けとともに切り上げる正鬼を前に決着を先延ばしにされた戦闘民族の王は、この事態(じゃくたいか)を想定していた。

絶対の破壊力を失ったのなら、何をもって真祖に攻撃を通すか。その答えは───

 

「夜王の前には無意味と知れ」

 

前後左右を飛び交う、鳳仙を殺さんと放たれる拳撃に目を回していると、思わず鳳仙の敗北を思い浮かべていた。なにせ拳撃は跳躍している。平均5回、大広間を跳ね回って逃げ道を狭めていく。

正鬼の計算尽くした攻撃だ。この城だからこそ乱数も変数も必要ない……と正鬼は油断した。

吉原の競り上がる勢いを、鳳仙は拳撃の着地点に狙って発現させられることを読めなかったのだ。

 

一段と速度を落とし、留めであった拳撃の挟撃に道を譲る。微かな城の揺れが拳撃を狂わせた。跳ね返ってきた拳撃たちは衝突事故を起こし、その衝撃波を利用して鳳仙は包囲網を突破する。

 

「なんて無茶苦茶な…」

 

地球規模の相手に、その差を埋めているのは場外の小競り合い。ここから一気に捲り返さんと猛る。

正面にまで登り詰めた鳳仙は、正鬼にとっては大きな的でしかない。必然と繰り出されるのは右拳。魔術王が放った極光を退ける、地上最高峰の拳撃である。

 

誰かが息を呑む。

避ける以外は死と同じ。紙一重の回避でさえ衝撃波で消し飛ぶものを、鳳仙は真正面で構えた。

正鬼の右拳を側面から受け流す。鳳仙ならば砲弾すら軌道を変えることも可能な技術は、その過程で無傷ではいられない。

 

「ッ″〜〜〜〜ヅアアッ‼︎‼︎」

 

左腕にねじ切られる衝撃痕が走り、潰されながらの技術行使。星が降り注ぐ勢いを身体に流し込みつつ、真祖の懐に入り込んだ。

咆哮一声、正鬼に減り込ませた左手五指と自慢の腰使いを奮い、地球の頂点を大地へと叩きつける。

 

「せ、背負い投げ!?」

 

岩肌の如く逞しい腕から、道理に則った技が繰り出された。

 

持ち上げる怪力は非ず。

此れを補うものこそ技術である。

 

その対価は小さくも大きい。

 

「見ろ。効いている」

 

ほんの僅かの時間、正鬼は意識が落ちた。

半年間、一向に行方知れずだった勝敗が2人の背後に影を見せる。

 

左前腕、受け流した身体、そして地球を背負った背中に無数の、血管のように張り巡る傷を負った天人。

一撃で意識を吹き飛ばされた、久方ぶりの経験に思わず飛び上がり後退する真祖。

果たして、何方が沈んでいるだろうか。

 

「………………っ? ───ッ!?」

「前言撤回は不要だぞ。貴様の死を同義としよう」

 

ぽたり、真祖の寝室が主人の流血を受け止める。

騒ぎ立てはしなかった。無機物らしく落ちてきたソレを見つめる姿は、無関心を貫けるのは肝が座りすぎていると言えよう。或いは当然の反応だ。主人を迎えてきた空間は誰よりも主人を理解していた。寝室らしく主人の睡眠を見守り続け、主人の体調を逐一把握しているのだから。

家主に敗北など御座いません、と信じて疑わない。

 

「無論、降伏などは以ての外だ。

自ら背負った業火ごと、いま一度眠れ」

 

寝室の反応に満足したのは鳳仙だけだった。

この特異点、銀の大地で彼だけが孤高を貫いている。立香たちはおろか、日輪や伍丸にさえ持ち得る情報を開けず、魔王正鬼と対峙し続けてきた。戦闘民族の頂点が、半年間戦ってきた相手の調子を見間違えるはずがない。

 

「これ、は………地球の力を……」

「肉体に流し込んで叩き返したまでのこと。

ふん、魔眼では殺せぬと踏んだが過ちだ」

 

その身を(つい)やすカウンター(せおいなげ)は、真祖特製の江戸城と真祖の拳撃による板挟みで正鬼の内側に大きなダメージを与えた。

正鬼の視線は一点に向けられる。右拳を受け流す際に捩れ壊れた鳳仙の左腕。戦闘の継続とは程遠い状態だ、こんな手段を取るのは自身が知る鳳仙とは似つかない。

 

「君らしく、ないね……?」

「この星の頂点とはいえ、仕留めるのにこれしきは要ると思ったまでだ。真祖に苦戦していては侍の1人にも勝てぬからな」

「────ねぇ、誰と比べてるの」

「ここまでヤツに優位に立ってきたのだろう。この夜王を下した男だ、言われずとも分かる。

呆れ果てるわ。今まで出会ったどんな生き物よりも生き汚く、そして強かな侍め。

この星に…この町にワシが2度も負けてたまるか」

 

己の敗走晒しに続いて、旧敵(ぎんとき)に対する賞賛(さつい)

好敵手が聞けば大笑いするだろう。百華が聞けば肝が冷えて凍傷を起こしかねない。吉原の英雄なら、張り合うことなくハナクソでもほじるか。だが、そんな侍が真祖相手に粘っているなどと分かってしまえば、夜王が屈するわけにはいかない。これは己の格を決める戦いでもあるのだ。

 

「君の死と、同じ。あの侍の追放で子供たちを救えた。侵略者の排除が地球の義務だ…!」

「疫病神を薮ごと外に棄てたつもりか。

見立てが甘いな。貴様が突いた薮は魑魅魍魎、八十八夜の呪いも畏れぬ鬼の棲み家だ。

見たか、外を。鬼の棲み家だけを拠り所にする、現世の呪いのような輩がワラワラと集まっている。

……貴様にはつくづく呆れ果てるわ」

 

ここに憫笑を1つ。

尽きぬ夜王の闘志。

夜兎の血が滴っている。

 

「なぜ前を見ない。なぜ終焉ばかり気にする。

そんなザマで戦闘民族の王、夜王鳳仙を相手にできると本気で思っているのか。

太陽を仰ぎ見るワシと、終焉に怯える真祖。

強いのがどちらかなど、この星の童でも理解しよう」

 

罵倒、嘲笑、憐憫。

何度と吉原で浴びたものを、今はそよ風のように流すことが出来ない。終末を押し付けるばかりの宇宙に、言葉を返そうとも思わない。ただ、真祖に傷を入れた天人が2人目ともなれば、魘魅に対する怒りが傷口から鳳仙へと噴出するというもの。

 

「ッ……鳳、、仙、、、」

 

これまでは岩山の程度の認識だった天人に怒気が漏れる。鳳仙を敵と見做し、真祖の権限に手を伸ばした。

 

()()()()()()()したな?」

 

湧き上がる感情に駆られた衝動を、鳳仙は嗤う。

後手が悪手だと、貴様が招いた終末だと罵倒した直後の選択を、鳳仙は叩き潰す。

その方法は至極単純、ひと目で分かる。

 

「え、、、あ………どこだ」

「…………………やってくれたね」

 

変化は一瞬だった。

準備は果てしなかった。

世界を塗り替えるのに前触れは必要なかった。

 

そこに花々は無く、晴天は灰黒に沈んだ。

粗野な風が肌を横切れば、潤いは忽ち奪われる。

如何なる手段を問わず、人の生命を吸い取る世界。

夜王鳳仙が展開した、新たなる固有結界。

 

「江戸城でも、吉原でもないぞ!?」

「夜王が国は吉原だけではない。此処は夜兎族の古巣、戦闘民族の頂点たる星、烙陽だ」

 

奈落の底から這い上がる昏き星。

真祖の天敵が不敵な笑みで出迎えた。

 

 

 

 

 





正鬼の寝室の特性、“鬼あそび”は簡単に言うと、バット持っても人間はゴリラに勝てないよって話を実現するものです。
手持ちの武器が強くても、当てられない程度の性能差にしてしまう。月姫のアルクェイドとは真逆の、どこまでも皆んなの性能を引き下げられる真祖。
なお鳳仙の宝具『夜王』によって効果は激減した。

もう1つ。
正鬼はこれまでも鳳仙のことを「夜王」とか「夜王鳳仙」とか呼んだりはしていました。それはハッキリと認識していたわけではなく、視界の隅っこに映るコバエが鬱陶しいくらいの感覚でした。敵として見ていたわけではないのです。
今回の「夜王鳳仙」はコバエよりも強い憎悪が込められています。部屋に出没してしまったGを見て、叩き潰す物何処だ!ってなるアレくらい排除したいと思ったわけです。




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