Fate/SN GO【本編完結】   作:ひとりのリク

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七節 烙陽

 

 

朽ちかけた空。

上を向く者なき国。

いつまでも乾かない大地。

獣よりも血を求める戦の星。

見渡す限りの荒野に蔓延する血風。

 

「歓迎しよう、地球の頂点。ここが我が故郷だ」

 

ここは烙陽。

戦場に巣食う羅刹を産む星の1つ。

鳳仙の宝具『夜王』の二段階目の世界だ。

 

「趣味が悪いね。大地が流血を待ち望んでるよ」

 

正鬼が地面を眺めながら感想を漏らす。この世界は平穏など望んではいない。ここに立つ者は戦う意志がある者のみ。放り込まれたのなら拳を握り、戦うのなら命を賭すことを背負わなければならない。

死を欲する星において、仮に不死の生命がいたとしても、その生命には命が与えられる。正鬼が言い放った非難は、守りが無力であると決めつける星の方針に対するものだ。これが烙陽の掟なのだ。

 

「空想具現化を押し退けたというのか!?」

 

それでも驚嘆を隠せないのはアーチャー。

説明は少し前にマシュから聞いた通り。

『干渉が自然規模に制限された空想具現化とは違い、固有結界は術者の心象を無理やり世界に上塗りするもの』だから、『正鬼に近づいて固有結界を展開した日には、多分だけど命はない…』のだ。

 

固有結界は明確に空想具現化の下にある。ひっくり返す隙間すらない、完全なる上位だ。それをひっくり返すのは例外などで片付けていい事態ではない。

そうでなくとも、世界の修正力によって固有結界を維持することは数時間も出来たものではないのだ。

 

世界に抗い続ける荒技を、漸く理解したと正鬼。

 

「そうか、外に放り出したんだね」

「……どういう意味だ?」

「鳳仙は銀の大地の外で召喚されたんだ。そこなら固有結界も展開できる。地下と思っていた吉原は空想具現化の外なんだよ」

「はっ!はははは、今更気づいたか。半年も歳月を懸けてしまえば真祖の塒もこの通り。

天人の固有結界であれば空想具現に綻びを生み、一点から中に入り込むことも出来るわけだ」

 

正鬼の解説は言いたいことは分かる。

それでもアーチャーと2人して言葉を失った。

 

空想具現化の排斥から逃れるするために、鳳仙は『夜王』を銀の大地の外側(地下)に展開していた。

 

そして徐々に範囲を広げていき、半年間の歳月を掛けて銀の大地を覆ったのだ。

説明するのは簡単だ。頭で理解もできる。だが、これ程の奇跡を起こしている事実が飲み込めない。視界に映る世界…烙陽はとてもではないが固有結界という規模と言えないものだ。固有結界はあくまでも地球の上に、ほんの数キロメートル、ほんの数分だけ展開出来る、魔術師の心象風景を世界に押し付けるもの。

 

「ここ、星が……本当に惑星が変わってるぞ…!」

 

固有結界をもつ者として理解してしまった。

地球そのものから移動している。ここだけが…!

どうなってんだ、宇宙の法則────────!?

 

「天人の召喚は銀の大地じゃ出来ないようにしていたからね、漸く合点がいった。

別の惑星を顕現させる魔力量さえあれば、銀の大地の召喚拒絶と強制退去にも抗える」

 

それが銀の大地の“真下”に棲み着いた、銀の大地から淘汰される筈の英霊が存在できる理由。

古巣に見定められた王の特権である。天人とは、一代で真祖の特権に泥を塗る天敵なのだ。

 

「地球の内側が震えている。

烙陽の世界観を押し付けられてるんだね」

 

『夜王』には2つの世界がある。

1つは吉原。人類が知る鳳仙である。

様々な効果が発動し、()()()()()では鳳仙が死ぬことはない。

 

もう1つこそが此処、烙陽だ。

血に溺れている歴史、生命を貪る文明、誰もが死ぬ世界、奇跡を排斥した星。

烙陽の在り方が示す通り、前述したように、戦わねば誰もが殺される。死ぬこと、殺すこと、両方が義務付けられたのが烙陽の掟なのだ。

これを出しておいて倒せない相手がいれば、賞賛の言葉を投げる以外に尽くすことはないだろう。

 

更に吉原と烙陽の展開について書き記す。

吉原の展開条件は簡単だ。地下であることと、展開に必要な魔力を確保していること。

烙陽は吉原の展開後、夜王の知名度が召喚された土地の過半数を超えること。土地の知名度を獲得するという、本来なら達成条件は難しいものを解決したのは他でもない正鬼だ。

廃れた江戸に知名度を判別できるものはない。地球、引いては歴史を観測し続ける星の触覚、正鬼に認知されてしまえば、どれほど星が終わっていようとも条件は達成できる。

 

そこれまで正鬼は鳳仙を大した脅威に捉えていなかった。嫌いな天人であって、名前は区別をつけるもので、最後の人間を守っているだけの存在だった。

『太陽を仰ぎ見るワシと、終焉に怯える真祖。

強いのがどちらかなど、この星の童でも理解しよう』

半年間、正鬼に刷り込んできた夜王鳳仙という天人を見上げた時、漸く脅威だと意識した。

 

「自ら認めたのだ。2度も天人に屈するのだと恐れた。一度でも折れ目のついた戦績は一生思い返すぞ」

 

自らの失態で敗色濃厚になったことを、鳳仙は経験則から痛烈な現実を叩きつける。

見間違いだろうか、顔色の変わらない正鬼が表情を曇らせた気がした。

 

と、ここで士郎に疑問が過ぎる。

遠坂並みの魔術師を100人集めても実現困難な魔力を求められる荒技を、平然と行ってこれた鳳仙のマスターは誰なのか、と。

心当たりは1人いる。慎二と桜に巣食う闇を祓い、空想と正史を繋げる架け橋に一役買った陰陽師なら、或いは。

 

「っ……! ぐ…………」

 

予想する時間もなく、正鬼の容態が急変する。

 

胸を抑えて顔を歪める。

1秒前の無表情が嘘のようだ。鳳仙に投げ飛ばされた時の苦悶や、烙陽に連れ去られた時とも違う、真祖らしからぬ崩壊。不動の星に隙が生じた。そこを見逃す鳳仙ではなかった。

 

「────ようやく拳が届いたな」

 

それは2日ぶり、吉原で半年間続いた攻防と同じ…いや、それを上回る手応えで。鳳仙の右拳を受け止めた正鬼の左掌が、私はいま剥き出しの裸体ですと告げていた。

当然だ、ここは地球から切り離された。烙陽から星のバックアップを受けられる筈もない。鬼あそびも無しに、正鬼は自力で立ち向かうしか手立てがないのだ。

 

「…効くかは別問題だ!」

 

言い放つや右拳を振り上げる。踏みしめた地面に亀裂が走り、拳の軌道上には旋風が巻き起こる。

どう落とされようとも、バックアップ無しの真祖の基本スペックでさえ最強。風圧だけで1里は衝撃が駆け抜ける一撃に、鳳仙は左脚上段蹴りで反撃を決める。

 

「ぇ────?」

 

まだ、正鬼は自分自身の容態を把握していなかった。

傷が付かない身ではあったし、付いたとしても1秒で修復する。いつしか鈍っていた痛覚、傷を負うとも痛覚遮断が自動発動する仕組みの祖躰。だから、痛みを感じるのは何百年ぶりのこと。

 

「───あッ! オ…ッオオオ!!!」

 

鳳仙の蹴り直撃によって、全身の神経系が叩き起こされる。最悪なことに、正鬼の体重は見た目に反して1トンに迫る。

様々な機能を搭載したが為の体重が仇となり、鳳仙の蹴りで吹き飛ばされずに近接戦を強制された。

 

「太陽に焼かれるでもなし、大袈裟な」

「っ鳳仙…‼︎」

 

握り拳の手応え、踏み込む大地の呼応、どれも薄い。綿のように軽い。肉体改造が間に合わず、虚しい左拳が空振りだ。

伸びきった肘を肩で引き寄せて、超重量の正鬼の自重を利用して地面に叩きつける。

 

「────ッッ〜〜〜〜〜〜!?」

「っ…肘を砕いたな」

 

この星はどこまでも強者の背中を押す。同時に、余所者へは容赦のない仕打ちを施す。

等しく生身となって生死を付与されるこの世界で、それでも肉体強度で遥か上を行く正鬼に一方的な展開を広げる。

こればかりは生命の常であり、真祖がよく知る自然界でもあった。弱肉強食は真祖が強いた第一の規則だ。

 

「ほれ、痛覚だ。たんと食え」

「ヅっぁあヅぃァァァァッ!!」

 

折れた肘に鳳仙の蹴り下ろしが炸裂、堪らず激痛を外へと吐き出した。その勢いのままに右脚を大地へと踏み鳴らす。地球ほどではなくとも、1トンから放たれる衝撃が大地を揺らした。体勢が崩れた鳳仙へと右足を軸に回転して左脚裏蹴り、物理法則を覆す脚力で反則的な左脚前蹴りを2連発。

地上で見ることのない変則蹴りを、鳳仙は壊れかけの左腕を振り上げて全てを捌ききってみせる。

 

「!?」

 

痛覚に振り回されながら、鳳仙の左腕を凝視した。

使えるかも怪しい形状へと変わり果て、回復した様子はない。それでも当然のように使い熟し、平時と変わりなく拳を叩きつけてくる。痛覚を遮断しているようでもない、肌を見れば痛覚から噴き出る汗が大量だ。

 

「………な、ぜッ」

「お互い、吉原では100の力を振り回すばかりだったな。攻めの暴力に受けの暴力、ほとほと退屈な時間を耐えたと自分を褒めてやりたいくらいだ」

 

どこまで行っても肉体言語に拘る戦闘スタイル同士、戦闘経験の差が如実に現れる。

左前腕が使い物にならず、背筋にも少なくない損傷がある。左側の守りを支えているのは、左肘の尖った防御だ。質量ならば夜王を遥かに凌ぐ正鬼は、鋭利でいて決して芯を触らせてくれない技術に翻弄される。

 

頂きに登り詰めるなら、小技が生死を分つ。

夜兎の王となるための知恵であり、銀の大地では出す必要のなかったもの。使える場所を使える時に。これがある限り、烙陽で鳳仙に触れることは、真祖としての権能を削られた正鬼に破ることは難しい。

 

だが、違う。聞きたいことはそうではない。

天人がそうまでして人類の横に立っている理由を吐けと言いたい。最後の人類が理由だというなら、なぜ後ろの異世界人の被害をも考慮して戦っている、と。

疑問の意図とは違う解答に恨めしい視線を向けると、やっと合点いったと鳳仙は笑った。

 

「あぁ、そんなことか。貴様に気を散らされては満足いかん。この夜王だけを見て殺しにくればいい」

「────? ………………………??」

 

その発言に、場の時間が停止する。

 

治癒しない肘の痛みも忘れて、いっとき鳳仙の言葉を解読する。

 

鳳仙が、誰かを庇う発言。

仲間意識がないと思っていた。事実だと正鬼は思う。では意図は? 仲間意識を知らないが故の行動か? 限りなく近い答えだろう。

 

最後の人類を巡る半年間の戦いで、周囲の子らから情報収集は逐一行ってきた。子に声をかけようにも第一声が分からず、物陰から会話の切っ掛けを探るばかりの祖父。子に会話を振られれば気難しい顔で偏屈な言葉を放つ、時代遅れの頑固爺い。

扱いに困り果てていたことを地球は見抜いてる。同時に、畏怖の象徴であったことも。

その鬱憤を纏めて地球にぶつけてくる、理不尽の塊のような天人のくせに。

 

「地球は……天人の遊び場、だろうに…!」

「今更だな。サーヴァントともなれば変わるものだ。死に際に、闇をも照らす太陽を浴びたのだから」

 

───それは嘘偽りのない、太陽を浴びた破顔。

 

人類を見下す天人の、過去を破る答え。

 

たった1人だけを愛しむ言葉なのに、正鬼は何も言葉を返せない。

 

彼は心の底から、日輪を保管しようとしていた事に怒り、最後の人類の意志を守るために戦っていた。

 

それが人類の総意だとも分かったうえで……。

 

「…………!」

 

再び胸の内側に激痛が走る。

そうだ、この痛みも半年間あったものだ。

なぜ忘れていた。地球はどうして原因を知ろうとしなかった。……いや、できなかった?

 

意識が覚め始める。

烙陽に来たから、星のバックアップが無くなって弱体化したのに、今のほうが思考が冴えている。

地球から切り離されているのに、なぜ。

何か、大切なことを見落としている気が───

 

「そこまでだ、鳳仙」

 

意識が混濁した正鬼へと、鳳仙はトドメの右拳を振り下ろし、あり得ないことに一言によって止めた。

嘘のような現実が続く。鳳仙の対応もそれに当たるが、両者の間に割って入った衛宮士郎とアーチャーもそうだ。坂田銀時を殺し続ける張本人なのに、なぜ。疑問が止まらない。

 

「なんのつもりだ」

「戦いに一区切りついたように見える。ここで一度立ち止まって、マスターの指示を思い出してもらおうと思ってね。どうだ?」

 

腹立たしい口調でアーチャーが説く。

引き下がらない右拳を前に、鳳仙の背景を読み取った発言。機嫌が良くなければ殺されていたことを計算づくの、今際の際を行く宥め。

 

「綺麗事を吐き尽くそうと、そこの化け物は止まらん。己が巣を守るため、星を喰らい戦う救いようのない人喰いだ。

それでも夜王の前に立ちはだかるか」

 

箸を持つことも許さない殺意を向けられながら。

戦いが始まった時は小動物のように縮こまっていた男は、あっけらかんと。

 

「そうか? 確かに殺気は相変わらずだけど、憑き物が取れかけた顔に見えるぞ」

 

真祖の状態を言い当てたのだ。

 

「ここで畳み掛けたら振り出しに戻りそうな気がするんだ。

多分、場所が此処だからだ。ありがとう」

「……………………拳は下ろさん。

日輪が望んだ国を取り戻してみせろ。出来ないのなら貴様らごと真祖を吹き飛ばす」

 

剣のような眼差しを向けて感謝を述べる。

そうして正鬼に向き直り、

 

「この戦いの犠牲者は坂田 銀時、ただ1人。アンタはそう言ったけど、この国を守ってくれた人たちのことを忘れてる」

「……………」

「これ以上、犠牲を増やす必要はどこにもない。

銀時が魘魅との戦いにケリを着ける。出来るんだ」

 

読み取れない。何故、なぜ、な……ぜ………?

 

魔眼は正常、もう1人の士郎は読み解けない。

 

「誰も1人で片付けろなんて言わないし、アンタ1人に背負わせる気もないぞ。

銀時と揉めてるのも、お互い意固地になった延長だろ? それとも、銀時たちの打った手じゃダメか?」

 

打つ手は言うまでもなく、たまの過去改変による銀時の死。そして魘魅の討伐だ。

士郎の言葉によって内側のセーフティが1つ解除された。源外による正鬼の魔眼対策、魔眼妨害のジャミングだ。魔王として銀時を排除する以上、銀時が打ち出した魘魅対策を見せてしまえば自棄になりかねない。正鬼のやり方は遠回りであり、確実でもあるが、銀時の手段が成功すれば全てが丸く治るのだ。

故に、説得の材料として最適な場面でのみ情報開示を行うことにした。会話が成立する今なら、と。

 

士郎の思考を読んだ正鬼は、天人にまで代弁させるほどの銀時に対する人望、そして計画の全容を知って判断が大きく傾いていた。

 

「ぁ………ぅ……………!」

 

然し、再びの苦悶。人類に傾いた天秤を妨害するように、悶え苦しむのは、ある単語を拾って。

 

(えんみ、だれ。えっ? なぜ天人の名前だって分かるの。えんみ…………魘魅……!)

 

血に塗られた記憶の瘡蓋(かさぶた)が剥がれ始める。

止めればいいものを、どうしても見なければならないと使命感…よりも優先する何かがあるから。禁忌に等しい、奈落の底に手を伸ばして。

 

怨敵宿敵を滅さんと、凡ゆる攻撃手段を構えた次の瞬間。烙陽の外殻を突き破り、青い光線が正鬼の心臓を貫いた。

 

 

 

 

 

───

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

それは、地球から正鬼に宛てた光線。

地球の保護回路の起動指令。正鬼が人類の魂に仕組んだ絶滅回避のソレは、元を辿れば地球が真祖に仕組んだもの。星の触角が死する時、或いは地球圏から行方を眩ました時に作動し、最適な行動へと移行する。

 

地球圏から行方を眩ました場合。

脱走であれば地球運営の権限の剥奪を。

外敵要因であれば、解決に必要な行動を。

 

理性の枷が外しやすい程に弱くなければ、この保護回路の電源は投入されない。

正鬼は電源のスイッチをオフに入れ続けることで吸血衝動に飲まれずにいられた。

ここが正史の真祖との違い。管理すれば吸血衝動など永劫無縁。同時に欠点でもあった。

スイッチに手をかける権利は正鬼と地球にある。より強い権限は言うまでもなく。

 

「あ、あぁ……!!」

 

見誤った。もう来ないと思ってしまった。

白詛に蝕まれた地球は、座を作ってから応答が無かったから、全権を渡されたと勘違いした…!

正鬼は、白詛に耐性が付いていた訳ではなく…

 

「───────────────────────────────────────ぁ」

 

骨折した骨の痛覚の感度とともに、感情も水底に沈んでいく。

青ざめた顔色はいっそう暗く、色を堕としている。

それが再び正鬼自身を曖昧にする。

 

「─────────────────────────────────────何のために」

 

戦っている理由を思い出すために自問自答。

言うまでもない、人類の存続のためだ。

この戦いで人類に負けるのなら本望だ。

そこには未来がある。この事態を収束出来るというのだ、道を譲るのもやぶさかではない。

人類なら………空想世界の、という前置きが必須。

倒せれば解決などと勘違いしている正史の2人の子どもは可愛い。天人に膝を折られて未来があるとでも?

 

……あると思った筈なのに、可笑しい。

 

『それは白詛に白旗を揚げたことになる。地球の呼吸は弱まって、子ども諸共この星は形骸化し、間も無く星の鼓動は止まる。

銀の大地に子供たちを保管した決意を忘れるな。今を蝕まれて、過去を燃やされて、未来を奪われたら、地球は孤独に逆戻りだ。それだけは────』

 

痛み、恐れはしない。

それは正鬼自身が善しとしたものだ。

 

敗北、敗走を嫌う?

正鬼は地球の頂点だが、王者ではない。これも違う。

 

全ては、そう。

独りを、避けるために。

 

『その腕に抱いた尊きものを再び握り潰すつもりか』

 

ちがう、ちがう…!

こどくは、いやなんだ…。

 

『孤独を恐れるならば、邪魔する者は喰らい尽くせ。鬼の背負いし業のままに……!』

 

底無しの闇を、少しでも埋めるために。

 

一線を越えて回避出来るのなら、躊躇うな…

 

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

───

 

 

 

 

 

「は、離れ────」

 

魔眼“銀”が“青”に切り替わった。

青は地球。燃え盛る星。焼却された歴史。

銀は真祖。ソラに塗り潰された哀しき色。

 

そして、血塗られた光線の指令は、排熱行動。

 

「其処に居たかッ…‼︎」

 

切り替わりにいち早く気づいたのは、自らの過ちに気づいた鳳仙だった。

過ちとは、正鬼を地球から離したこと。烙陽に引き摺り込まなければ、光線の発射に反応出来た。

 

嘆く暇はない。

視界はもう満たされていた。

烙陽を満たしたのは火の海だった。

 

「────は……はは」

 

焼却。焼却。また焼却。まだ焼却。

高まった内圧は抑えきれない。毎晩放出していた、毎晩冷却していたことが呆気なく意味を無くした。

 

流出。流出。また流出。まだ、まだ…。

正鬼の内側から噴出した火の海が、烙陽に記録的短時間晴天を齎し、地上を焼き尽くす。天蓋はなくとも大地は石窯の如く、怨敵を焼却するために利用してきた魔術王の焼却式が曇天の国を塵芥にした。

 

「初めから吾は此処にいる。見えないか? …見えないか、瞳どころか魂まで燃えているからね。

夜王には太陽より業火が似合う。そのまま果てて」

 

やがて、人影は消える。

こうして、魔王は再び降臨す。

江戸城に帰還した真祖は、哭いていた。

 

「最後の生存者。さあ、おいで我が子ども。

地球の……()()()()()()()のもとに」

 

大地を見据える。

伝承に聞くとも優る、血に飢えた暗い瞳で。

 

 

 

 

 

 

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