Fate/SN GO【本編完結】   作:ひとりのリク

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七節 初代の回顧

 

初代結野 晴明。

徳川光々に十界の四聖声聞として召喚されて、今代の晴明を補助する傍らで正鬼を起こす準備に務めた。

圧倒的な魔力量と陰陽術操作で、死にかけた江戸に龍脈を生き返らせた彼…初代は、来たる日の魔術王との戦闘で完封、退去したと思われていた。

 

晴明の必死の龍脈保護を補助する際に、痩せ細った龍脈を初代の霊気を以って補強していた。

魔術王に敗北後、掻き集めれば一割程度にも満たない初代の断片が集結。五芒星が刻まれた扇子として、ギリギリ霊気を形成、黄泉帰りを果たした彼はいま、吉原にいた。

 

「令呪三画を使い果たし、築かせたのがこの粗末な吉原か。出来の割りには他が整っている。

夜王の城を後回しにした胆力は買ってやろう。世辞の句を読む暇はくれてやるが、どうだ?」

「いやぁ面目ないよね。太陽のない世界だと今の私ってば現界難しくて。無難で申し訳ない!」

 

時は魔術王との戦いから飛んで、銀の大地へ移行した世界へ。奇跡的な偶然が重なり、穴だらけの座への干渉に成功した初代は、夜王鳳仙の英霊召喚を果たしていた。

そして目下、本人が怒気混じりに連ねた言葉通りの経緯により、銀の大地の外側に創られた不恰好な吉原に対する責任追求を受けているのである。

不恰好、先ずは令呪による強制。鳳仙が自ら造り上げる兎の住処こそが吉原であり、誰ぞに命令されて建てては災害時のプレハブ小屋と扱いは変わらない。

次に明かり。活気だ。手元には酒に飯、吉原を彩る地球の華やかな食文化が無いに等しい。食糧は少なからずあるが、サーヴァントである鳳仙が消費しては難を逃れた彼女たちが生きていくことは難しい。

最後に女。花魁だ。ここには1人の元花魁しかいない。自らをもてなす遊女は白詛に虐まれ、或いは真祖の手によって保管されてしまった。

そう、此処には鳳仙の渇きを潤すものが圧倒的に足りない。夜兎の血によって抑えている鳳仙の狂化が爆発しかねない状況だ。これは間もなく現れる正鬼との戦いによって最悪の事態は避けられた。

……尚、後日に伍丸弐號が訪れて、大量のメイドと交流、陰陽術が合わさることで鳳仙にご主人様気分を叩きつけ、吉原を冥土喫茶に魔改造したことで一悶着起きるのだが、触れずにおこう。

 

「……なんだあれは。

この夜王に巫山戯たものを浴びせおって」

 

極め付けは、銀の大地を照らす一輪の花。

空に燦々と君臨する、ここからでは目視出来ない太陽を睨んで、忌々しく吐き捨てた。

その慧眼に初代は驚き、相手の拘りに納得する。

 

「気づくかー。流石だ。

あれは“夜を総べる王”、正鬼の左眼だよ。銀の大地にある自然の光源はあの眼だけ。太陽から取り込んだ光を当てて、空想具現の中を全て見ている。

あぁ、音は聞き取れないし、此処みたいに外部の光を遮断すれば見られないから安心して」

「そうでは………まあいい。何方にしろ不愉快だ」

 

口を閉じた鳳仙は扇子を見下した。含みのあるすれ違いを起こしたのは分かっていたが、追及は逆効果。

仲を深めてから再確認すると脳裏に付箋を貼る。

 

「あまり機嫌を損ねる気はないんだけど、早めに聞いておくね。英霊は聖杯に願いを叶えてもらうために現界する。それが正史の既定路線、聖杯戦争における君ら英霊の権利だ。

そこら辺のルールは既に入ってる? あぁ良かった、喚んだ以上は私にも責任がある。扇子だけど!」

「聖杯に懸ける願いなど無い。召喚される理由なんぞワシにあるものか。貴様、よもや対価も無しに夜王を扱き使おうなどとは言うまいな」

 

片目を瞑り、答えを求める。

鳳仙が求めるものを提示しなければ即座の反逆。準備なくして、更には空想具現化が解けたとしても手遅れに違いない要求とも知らずに。扇子はパタパタと羽ばたいて、自慢げに言い放つ。

 

「細やかな宴を準備するよ。太陽を仰ぎながら片手に徳利。昼間から良い御身分! どうかな、ね?」

 

どんぴしゃり。

初代は予め日輪を保護していた。この事態を想定していたからだ。

ちょいと陰陽術を使い、吉原に招き入れていた日輪の所在を明かせば、鳳仙は両目を閉じて思案。手回しの良さと性根の腐り具合を笑うと、次に目蓋を開ければ扇子の後ろに視線を向ける。

 

「────あやつ次第だ」

 

空に浮かぶ偽りの太陽を見る時の不快感をそのままぶつける鳳仙の視線の先に、その英霊は自己主張の激しい身なりで、会話に入り込む隙を伺いながら立っていた。

 

「彼か! 彼は今回の立役者で命の恩人。名は…」

ニコラ・テスラである!」

 

彼こそはニコラ・テスラ。

カルデアのサーヴァントにして、たまの介入よって“正規の座標にレイシフトした”唯一の人物である。

 

レイシフトしたのは魔術王が真祖正鬼と対峙しているとき。初代たちが散った場所に召喚された彼は、断片となった初代に知恵と力を共有し、鳳仙を召喚、令呪によるバックアップで吉原を建造したという慌ただしい関係性だ。

 

「挨拶が遅れて申し訳ない。私は正史の英霊、交流を編み出し世界に光を満たした電気最強の男!

そう、ニコラ・テスラとは私のことだ!!」

「……………………」

 

煩い。五月蝿い。

鳳仙が抱いた、ニコラへの評価だ。

 

「聞くに貴殿は異世界の、別の惑星の住人だとか! それも王ときた。どうだろう、故郷の電力事情は。

あぁっと!英霊だから帰省出来ないだとか、そういう心配は不要だ。この天才、この特異点を解決次第すぐにターミナルを復旧して宇宙船を飛ばすとも!

おぉっと!渋い顔、眉間の皺で睨まなくとも分かっている。正史の英霊が現代に及ぼす影響も心配無用だ。私が開発した電力変換機がある!

これならば、この世界のか細い龍脈から本来霧散するはずのエネルギーだけを選抜して────」

「いやはははは!ごめんねぇ騒がしくて。異世界転生だ〜、とか? 直流根絶やしにする!とか、随分と張り切っちゃってて。声量は日に日に抑えめになってるから、もう少しだけ勘弁してもらえると…」

「1つ聞こう」

 

出会って数時間の仲を「日に日に」と呼んだジョークを華麗に流し、

 

「貴様であれば太陽のない世界を作れるか」

「無論である」

 

どう答えようと角が立つ問いかけに、ニコラは間髪入れず答えた。

驕った答えだ。烙陽に光を届けようなどと巫山戯たことを言うものだから、消してやる理由が聞き出せればよかった。正史とはいえ所詮はこの程度、と呆れて目蓋が閉じる……よりも先に「しかし!」とニコラが叫んだ。

 

「どれほど太陽が苦手であろうとも、共存したいと願えば手に届くとも。暴力で明かりが灯るなら、貴殿は太陽を求めはしなかった」

 

ニコラは鳳仙の出身のことを知っているに過ぎない、初代の協力者だ。初代が入れ知恵をするでもなく、鳳仙の願いに添った言葉を放つ。大して衝撃を受ける内容ではないが、虐げるには頬が緩んでしまって仕方なくなる。

 

「ニコラ、だったな。席に着け、事情くらいは聞いてやる」

「ほほう!交流電流に興味を示してくれたか!」

「………それは追々だ」

 

殺伐とした緊張は解けた。

鳳仙の協力を取り付けられたことに安堵し、初代は扇子の要を開閉し房を振りながら、

 

「うっしゃ」

 

と、無い右拳でガッツポーズをしていた。

 

 

 

 

 

───

 

 

──

 

 

 

 

 

 

そうして協力関係を結んだ初代は、この世界の荒廃するまでの過程から十界を呼んだ経緯、正鬼が空想具現化を展開したこと、暴走する正鬼の目的である人類災星計画の共有を行い、これからの方針を打ち出した。

 

「大まかにやることは2つ。

1つ、正鬼の暴走を止めること。

2つ、正鬼に未来を示すこと」

「具体的に話せ」

「暴走は見たままだ。生き残った人々を保管して回っている現状だよ」

「はっきりと、敢えて分かっていることを言おう。あれに勝てるサーヴァントは居ない!」

 

現在、吉原の大広間には初代の千里眼を応用した地上の景色が映し出されている。

言葉にすることも恐ろしい虐殺だ。江戸の民は正鬼の手にかかり、殺害と同時に何処かへと消滅している。召喚された英霊は正鬼に近づくことも出来ず、謎の攻撃によって退却されていた。

なかには耐えている英霊もいるが、頼りであろう防御系の宝具の限界とともに同じ末路となった。

謎の攻撃を掻い潜り、対城、対人、様々な宝具が正鬼を襲う。だが、肌に触れた瞬間に泡のような柔らかさへと変換されて、一撃必殺のソレらが当たることは終ぞない。

以上の現実を見てのニコラの発言は、鳳仙でさえ否定しなかった。

 

「だろうねぇ。魔術王が勝てたのが信じられない。寝起きは流石にまずったかな、それはあとで考えよう。

ご覧の通り、正鬼は今、相手を一瞥しただけで後方100メートルまで吹き飛ばせる出鱈目な魔力を出力してしまう。数回防ぐだけなら宝具でどうにかなるけど、あとは続かない。

眼圧だけでこれだ。指を振るったり、殺意を向けたらどうなるか想像もしたくないね」

「眼圧だと?」

「正鬼の魔眼だ」

 

そう言った初代は扇子を閉じて上を指す。銀の大地を照らす偽りの太陽を。

 

「空想具現の全てを見渡せる『夜を総べる王(ひだりめ)』、つまり偽りの太陽。

これを通して、『人類を読み解く魔眼(みぎめ)』を連動させて遠方の敵を倒している。

これには私ですら手も足も出せない」

「失礼! 人類を読み解くとは? 魔眼についてはカルデアで話を聞いている。見た者を石化する『石化の魔眼』、人の死を視る『直死の魔眼』は簡潔で分かりやすい。

比べて正鬼の『人類を読み解く魔眼』は種を指定していて対象が余りにも広すぎる。想像しようにも多岐に渡ってね、聞いた方が早いと思ったわけだ」

「分かりやすい命名だね。名前が纏まってないのは申し訳なくなるな、魔術に分類されるわけじゃないから名付けにルールとかなくて。

うん、返答はニコラ博士の想像通りなんだけど、言ってしまえば地球人を分解するんだ」

「分解? 物騒だな」

「読み解く。読むの部分は思考、過去、身体情報と、まあ本当にその人の全てだ。剣術や陰陽術、テスラ博士が得意とする交流の技術も、その本人がどれだけ理解しているかを識れる。

()くは(ほど)く。その人を好き勝手に綻ばせるのさ。ほら、ド忘れって言葉があるでしょ。あれを意図的に引き起こして、力が出ないとか、技を忘れた、呼吸どうするの? 果てには財布の紐さえも! 正鬼はその場で最適の場所を解いて戦える。

要は弱体化だ。人類、全てに通じる」

「……正史の人間も関係なく?」

「ないね。無差別だ。正鬼が寝室から出てきた以上、正鬼を倒せないように私たちには下方修正が入る。

これがこの星の掟、正鬼が頂点の理由さ」

 

真祖正鬼の話を聞いたニコラは一考する。

不可解なことがある。魔術王が現れたとき、光々ら十界は誰1人として下方修正が入ったようには思えない。

星の掟とやらは、人理焼却を回避しようという試みとは矛盾する。

 

「察するに、正鬼を呼ぶための準備とは、魔眼を発動させない、或いは対象を除外するためのものか」

「その通り。星に登録された人類を魔眼の対象外にするために張った結界なんだけどね。

あの戦いで魔術王に粉々に壊された」

「だからこそ、鬼の魔眼に捕まらない天人の英霊が必要だったと」

「うん。それも銀の大地が展開される前に、とびきり最強という肩書きが付いた天人だ。

該当するのは鳳仙くらいでさ。運頼りだったけど、一発で当てられてよかった。もうやりたくないよ」

「聞きたいことは他にあるだろう」

 

奇跡を成したことを笑い飛ばす初代に、鳳仙は退屈げに催促した。

面倒な様子見はよせ、と。

 

「魘魅って知ってるかい?」

「────星崩しか」

 

よほど有名なのだろう。

鳳仙は興味ありげに眉を上げる。

天人の正体を直ぐに言い当てる鳳仙を見て、ニコラは口を挟まずに聞きに徹した。

 

「些細はかくかくしかじか」

 

ここで省いた会話は、平行世界の存在、第五次聖杯戦争のこと、たまが時間旅行を駆使して結野晴明、巳厘野道満がたまの補助をしていることである。

 

「たま殿のお陰で星崩しを知れた……んだがね」

「そうか。あの侍め、まんまと嵌められたな」

 

最悪の結末を言い当てる。

己を倒し、地下に太陽を取り戻した侍の最期を笑うことはない。宇宙の嫌われ者に殺されたともなれば、堅くて緩い鳳仙の頬も、への字だ。

 

「星崩しのコアは死体をも動かすと聞く。星の触覚たる真祖ならば天敵となろう」

「お察しの通り、魘魅が黒幕と見ている。魔術王とは別だよ。正鬼の暴走の裏に魘魅がいる。

そうでないと正鬼の暴走の説明がつかない」

「? 地球人を保管して回ることがか?

空想具現の目的通りだろう。あれが意図しない行動だと言うのか」

「空想具現化はあくまでも人理焼却を回避するための手段に使った。本来なら災星計画まで行くことはない。これを実行する時は、人類史滅亡に瀕するか、正鬼が死ぬときだ。

空想具現化の展開によって前者は外れるだろう。正鬼が死ぬのは有り得ない、なにせ内側が綺麗すぎる」

「真祖は魘魅にどこまで蝕まれているだろうな」

 

鳳仙の呟きに答えは出ない。

だが、初代は明確な線引きを知っていた。

 

「正鬼の体内に寄生することは出来ない。真祖のなかは泳げるほどの環境じゃない、侵入した時点で霧散するさ。正鬼が弱っているのは地球のほうが蝕まれたことと、人類の数が減ったことに起因する。

正鬼は自我もあるが、地球の意思を優先するように作られている。その地球が魘魅の手に堕ちれば……」

「究極体を作ったものの、己は盤石ではなかったと。星崩しに不覚を取るとは、やはり地球だな」

「暫定で寄生先は坂田銀時の死体だ。だが複数のコアがあるとも言っていた。

…思うに、魘魅は正鬼の魔眼を共有している」

「根拠は?」

「寛永の大飢饉とは雰囲気が違う。経験則だ」

 

地球を乗っ取り正鬼の魔眼を通せば、複数のコアとやらで寄生した者から情報を入手出来る。それが生者であれば、銀時が手遅れになるまで気づかなかったように、本人も、周りも悟ることなど出来るものか。

 

「吉原に避難してきた者には要注意。正鬼の暴走から逃れられる超幸運の持ち主はそうそう居ない。あの魔眼がある限り、正鬼はひと息で跳んでくる。

サーヴァントに保護されたからといって気を許さないように。魔眼が埋め込まれていて、私たちが見抜けなかったら一巻の終わりだ」

 

地下吉原は入り口を開放し、生存者と人理の英霊を受け入れている。ただ、大っぴらに宣伝しているわけでもないため、数は絶望的なのだが。それでも一桁はいて、気を張る必要があるときた。

鳳仙以外が彼らの前に姿を見せることは避けなければならないのだ。

 

危険性を聞き終えて挙手したのはニコラ。

 

「星崩しの脅威については痛いほど理解した。まだまだ考察の余地がある。だが、肝心なことを忘れていないか。…そう、暴走した正鬼の制止について」

 

初代は無双する正鬼相手に止めると言った。

ここまででも勝ち目が見えず気が滅入りそうなのだ、口直しに希望を求めても良いだろう。

 

「方法は幾つかある。

単純かつ簡単なのは眠りに着いてもらうこと。生理現象とは違って、この星に未来があると分かってくれたら、正鬼は寝室に戻って人類にあとを託してくれる。

次、地球との信号を遮断する。これは難しいね、地球から弾き出さないといけない。特殊な条件でも阻害出来るけど。

最後、魘魅の討伐だ。江戸城の中に隠れているはずの魘魅を叩ければ、多少なりと落ち着いてくれる。

あとは人理焼却が残るけど、こればっかりはカルデアに任せるしかない。人類最後のマスターが人理修復出来ると思わせられれば眠ってくれるよ」

 

言い終わって、どれも簡単に言うが難易度は測定不能。江戸城に潜入という巫山戯た条件付き、まさか正鬼を倒せるはずもなく。ニコラが渋い顔をする横で、鳳仙はため息を1つ。

無言で、初代に訴える。

ワシに言いたいことがあるだろう、と。

 

「……烙陽出身、夜兎族の鳳仙。

君にはこの世界に太陽を取り戻してもら───」

 

扇子に過剰な暴力が降り注ぐ。

大傘が大広間を揺らし、扇子は塵と化した!

 

「あ、危ない! 主人に攻撃は反則だよ!」

「自殺しろと言われて黙っているとでも」

 

嘘だ、天から風を押し出して、海を泳ぐホタテ貝のように回避していた。

 

鳳仙の自滅宝具を頼りにした作戦は、当然許可など降りない。

勿体ぶったうえに、3つの方法の2つ目に包むあたりも気に食わなかった。

初代は鳳仙にがっしりと握られながら、次の案をペラペラと喋り出した。

 

「真祖は太陽に弱い。魔眼は太陽の下では封じられるんだ。ああっ待ってエエエエエ!傘降ろして??

ほら此処なら暫くは負けないし? 真祖とはいえ君の宝具の中じゃかなり弱体化するからさ!!

あっ待て握らないで潰れる潰れるぅぅぅ…!

勘違いしているけどね!? 君が太陽だと認めるほどの太陽を開発するだけ! 太陽を閉じ込めた君だから作れるものがあると思いででででで」

 

自滅宝具を令呪で解放させる魂胆だったことを察した鳳仙は、初代を暫く手元に置いて虐めた。

懲りた初代は予備案に方針を切り替えて、ニコラと共に、この後に迎えた伍丸弐號、坂田金時を加えた万全の体制で擬似太陽の開発に取り組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────頓挫だね」

「擬似太陽を開発していた区画が根こそぎ抉られた。同時に、ニコラ博士も退去した………」

 

あれから二ヶ月が経ち、照明が沈むたびに正鬼が襲撃するようになった。吉原による大幅な弱体化によって、鳳仙であれば辛うじて戦いになる状態が続き、吉原での攻防にも慣れてきた頃に事態は悪化した。吉原では魔眼を使えない正鬼が、何かに囚われたように狂った瞬間、一瞥して吉原の一部分を焼き払ったのだ。

そこは開発室とした部屋。他の博士たちを庇い、ニコラと開発室が消滅した。

 

「本当に運がないな、私は」

「……………………」

 

茫然と揺蕩う扇子。

今夜の襲撃を凌いだ跡地を、誰かに見られる危険も忘れて見つめている。ニコラに庇われて命を拾った伍丸弐號の目には、目の前の扇子が今にも破けそうなほど草臥れて見えた。精神的なショックで暫く立ち直れそうにはない。

 

初代に慰めの言葉を掛けて懐に仕舞う。せめて人目を避けて黄昏れてもらおうと配慮しつつ、砕け散った瓦礫を見つめて疑問を抱いた。

 

(運がない? 偶然、擬似太陽を潰した?

私はそうは思わない。あの一撃は狙っていたように見えた)

 

様子のおかしい正鬼。

瞬間最大出力を強引に叩き出した魔眼。

擬似太陽の開発室を破壊して早々に撤退するまでの流れ。

完成間近だったことを考えると、狙っていたと言えるタイミングなのだ。

 

(あとから避難してきたのは神楽に坂田金時、そして戦力になるからと回収した真選組。

あとは土方歳三に………私か)

 

黙々とした口元、足音は思考を代弁して忙しなく鳴り、気づけば吉原の最奥、鳳仙の許可した者しか通れない大広間に到着した。

近くの座布団に扇子を乗せて、今では癖になった手帳の日記欄を開く。落ち着くためのルーティンであり、メモリに保存したメモとは別の方法で整理した中身を眺める。

 

ぐるりと思考が巡る。

正鬼の暴走と、誰が紐付けられるのか。

決めつけに等しい凍てついた思慮は、彼らが築き上げた絆を勘定には入れない。

 

(────────バカな。まさか、いるのか。いいや、ヤツは敵なのか…!?)

 

だから、見つけた。不可解な避難を。

ニコラ博士から聞いた、カルデアに送られたという銀時の記憶との相違に。

 

(正鬼に付着していた白詛から、城の中に銀時がいると……銀時の死体を動かす魘魅こそ正鬼暴走の原因だと思っていた。

一度だけ見た。記した当初は銀時が裏切ったと疑いもした。それが魔眼を利用した幻だとしたら?

銀時の肉体を乗っ取った魘魅という前例を、我々の目を欺くために逆手に取ったとしたら。

いや、そうでなくては説明がつかない。生きて此処に避難しているヤツだからこそ思いつける…!)

 

手帳に皺が生まれる。

誰にも余裕が生まれない状況だ、何人もの英霊に救われて辿り着いた吉原だった、一気に情報を取り込んで擬似太陽の開発に着手した、全ての情報の精査は…行ってこなかった。

 

やられた。

敵に出し抜かれたことに気づいた。

ともすれば防げた暴走だったのだ。

 

天井を仰いで、ひと呼吸。

芙蓉の顔を思い出して、気持ちを切り替えた。

 

「気づいたことがある。いや、確信に近い。だからこそ事前に確認しておきたい。初代────」

 

此処にいるのは初代と鳳仙のみ。

他は現場の復旧中だ。今のうちに話を纏めて、即座に対策を打つために事の全容に迫る情報を問いかけた。

放心中の扇子を叩き起こし、聞き届けられるまで音声を振動に変換して流し込む。強引な目覚ましに飛び起きた初代は要を開いて畳を叩く。

 

「言われるまで気づかなかった。

は〜っ、少しだけ甘く見ていたかな」

 

項垂れて伍丸の振動バイブに曝されるより、立ち直ったほうがマシだと初代は背筋を伸ばす。扇子だが。

ぴょんぴょん跳ねて、五芒星を飛ばしながら次なる一手を開始した。

 

「伍丸、ここからは急務だ。ニコラ博士の小型魔力炉を使って予備機の作成に取り掛かろう。

衛宮士郎が持つ令呪が最後の希望になる」

「初期案には無かったな」

「正鬼が坂田銀時を入界断絶しているからね。

ただ、正鬼が日に日に弱っていることを考慮すれば、こじ開けられるかもしれない。予定通り、カルデアのレイシフトは四ヶ月先にする。

あぁ、それが終わったら────」

 

立香たちが来るまでの半年間、こうして正鬼の襲撃と内部の敵を探ることを繰り返してきた。

初代や伍丸たちの奮闘の一部始終である、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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