Fate/SN GO【本編完結】   作:ひとりのリク

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七節 星の銀貨Ⅲ

 

ずっと待ち焦がれていた。

最も近くにいながら失踪の前兆に気づけず、五年間もの歳月を耐え忍んだ2人は瞳から涙を溢しながら。

 

許せない結末があった。

2つの終末によって世界から追いやられた侍の、必死の覚悟を無碍にした魔王を打破せんと決意した少年は、掲げた左手を下ろしながら銀髪のサーヴァントの帰還に拳を握り込む。

 

だから最後の侍は諦めなかった。

諦めようとしても最後には立ち上がる、誰に感化されたのか考えたくもないバカが待っている。死んでも負けられない意地だけで侍は戦えることを真祖に知らしめて、人類が続くことを訴えたかった。

 

ひたすらに長い道のりを駆けて。

春風に誘われるように現れた侍は。

 

「────変わんねーな、お前ら」

 

やたら白い世界を彷徨って。

地獄を磨き上げて舞い戻った。

 

坂田 銀時。

銀髪の天然パーマに死んだ魚のような目が特徴の、気力努力財力なしという少年少女に悪影響を与える大人の代表者に相応しい人物だ。周囲のキッチリとした大人からはジャンプの主人公にあるまじき行動を咎められる始末である。この男に分け隔てなく接してくれるのは重力くらいなものだろう。

 

「遅いぞ。大遅刻だ」

 

裏返りそうな喉を震わせながら、どうも調子の悪い目元を服の袖でゴシゴシと拭き取る。

同じ動作をする人間が3人。揃いも揃って敵前で無防備を晒すものだから、呆れて笑い始める始末だ。

 

「まったく、情けないぞ貴様ら。魔王を前に視界を閉ざすとは、命知らずにもほどがある。恥を知れ!」

「いや、エミヤ後ろ向いてるじゃん。

めっちゃ肩震えてるよ。大丈夫? ハンカチ使う?」

「────くっ!」

 

涙声のエミヤ(と思い込んでる)に立香がハンカチを差し出すと、顔を拭いて鼻もかむ。でろでろのハンカチを返すあたりを見ると、銀時の帰還で感情がいっぱいなんだと分かった。

 

坂田銀時の招集からものの数十秒で、4人が目元と鼻を真っ赤にした。

彼らから見た銀時は、周りに頼ろうとしない挙句に知らないところで死んだ(隔離された)大馬鹿野郎だ。

銀時の心情も事情も知ったことではない。

 

「呑気だなぁオメーら。……あっど〜も初めまして。ウチのバカどもが騒がしくてすいません、私こういうものですぅ、大変お世話になっておりますぅ」

「へっ!? あっご丁寧にどうも…。わぁ先輩、名刺です。私、初めて名刺を貰いました!!

実は名刺交換…大人なビジネスコミュニケーションに憧れてまして。こんなこともあろうかと、ほら盾に入れておいたんです。

私はこういうものです、どうぞっ!!」

 

先ほどまでの緊張感はどこへやら。

盾の内側から取り出したマシュお手製の名刺と交換などしている。立香は突っ込まずにはいられなかった。

 

「ねぇ呑気すぎないかな?

魔王めっちゃ睨んでる、眼圧で殺す勢いなんだけど。

……後ろは後ろで目が色々と語ってるよ!?」

 

先ほどから無言の4人と銀時を交互に見る。

最後にアダムを見るが、動く気配はない。取り敢えずそそくさとマシュの手を引いて、4人の視界から外れることにした。立香の判断の直後、銀時の後頭部は4本の右脚に蹴たぐられていた。

 

「「「死ねこの天パアアアアアアアアア‼︎」」」

「すくなッ!?」

 

ジャンプ作品のラスボス名を叫んで単行本発売の宣伝を行いながら、4人の激情型愛情に揉みくちゃにされる銀時。何度謝っても止まる気配はない。誤魔化すのが下手だった。

 

「それにしても長すぎるでしょ! 江戸の人間(ぼくら)どころか世界越えてアンタ探しに来ちゃってますよ!!

新しく万事屋に招いたくせに社長がいなくてどーするつもりだったんですか!!!」

「オマエ5年間どこほっつき歩いてたアル!?

あの偽物銀ちゃん何よ!あんな気色悪い病気どこで貰ってきたヨ!

つーかなんで何も言わずに消えたネ!?!」

「あだだだ!待った!待てって!! イヴってやつと白い世界でドンパチやってたの!! 理由が理由だからしゃーなかったんだってマジごめん!!」

「女と遊んでただとオオオオオ!?!

5年も勃○するとかどんな同人誌アルか! 銀ちゃんのチン○の皮びろびろになってるネ!」

「チ○コどころか頭も鼻下もびろびろだよ。

遅刻の理由が淫行とか恥ずかしくてジ○ンプ主人公名乗れないよ!! 二次創作の恥晒し!!」

「そろそろ勘弁してやってくれ。どーせこの戦いが終わったら飽きるほど説教するんだから、なっ珍さん」

「誰が珍さんだ! ンな猥褻物みてえな名前名乗る主人公がいてたまるか!

ちくしょう、いつの間にか士郎も銀魂のノリに馴染みやがって。

つかお前ら、5年経っても何も変わんないどころかツッコミのワードセンス退化してねえか?」

「「誰のせいだと……!」」

 

ひと通り落ち着いたところで、4人は脚を上げた。

ボロボロの姿で起き上がる銀時と、やっと向き合う準備が整ったから。

 

「でも、僕たちは」

「分かってたアル」

「銀さんが戻ってくるって」

「銀ちゃんは諦めないって」

 

5年振りの再会に新八と神楽は笑顔で出迎える。涙声で出迎えるのは気恥ずかしくって上塗りしたいのだ。

 

「俺の呼びかけに応えてくれた。それで充分だ」

「言っただろう、また会おうと。俺はさきの戦いでソレを果たしたつもりはない。

ここで世界を救って何もかもに終止符を打ったあと、腰を下ろしてアンタと語らうつもりだ」

 

もう2人は半年ぶりの再会に安堵混じりの微笑で応えた。後ろ2人に比べれば騒ぐほどでもないと強がっているが、本人たちは隠し通しているつもりでいる。

頬を覆う笑みを見て、銀時は答えが貼り付けてあることを指摘してしまいたくて笑うのだった。

もう拗れたくはないので黙っていたが。それに、そろそろお相手の方も待ちぼうけが限界だと知っていた。

 

「なんで。何があろうとも坂田 銀時は地球の空気すら吸えない。なのに…どうして」

 

そんな分かりきったことを、アダムは頭を抱えて問うてきた。自らが門を開き、イヴが後押しした選択に疑問を溢したのは何故か。アダムの疑問ではなく、恐らくは何処かに潜む魘魅の驚愕に他ならないからだ。

 

「証明ならもう済んでいると思っていたが」

「そりゃあ、ねえ」

 

だから全員で敢えて宣言する。

この手に勝利を、江戸の未来を、過去の清算を終えたと、これが答えだと。

 

「坂田 銀時だから」

 

誇張は一切ない。

その宣言を聞いて、頭を抑えて苦悶を漏らしていたアダムの顔に光が宿り、心なしか江戸城の雰囲気がいち段だけ落ち着いた気がした。彼の名前に闇が怯えたからか、魔王が銀髪の侍の全てを見てきたせいなのかは定かではない。

ただ、進めば救われることを信じて。眼差しを背けることだけはしないと、日差しに耐えながらアダムは背筋を伸ばして聞き届ける。

 

「もう見えないフリは出来ないし、させない。もう少しの辛抱だアダム、自転が止まっちまうくらいキツいのぶち込んで中身ぜんぶ吐き出させてやる。

最終決戦といこうじゃねえの。人類滅ぼすか、テメェが星から引き剥がされるか」

 

星は微動だに動き始めた。

答えは出揃った。

銀時が此処にいる時点で、遠くに避難()いた彼女が未来図を描いたも同然だ。

 

「…坂田 銀時。君が繋いできた世界を見せてみろ。

未来を担うに能わなければ、貴様が背負った業ごと吾が死徒の仲に堕としてくれる」

 

それでもアダムは止まれない。止まらない自分を不思議に思いつつ、身を委ねることにした。

確信はないが、人類は負けないと思ったから。

この身を止めるのは、彼らに任せよう。

その気持ちが、うちに潜む闇を押し退ける。

 

坂田銀時が紡いだ絆が、闇を引き剥がしていく。

 

「向こうもああ言ってることだし、客を待たせちゃ江戸っ子の名が泣いちまう。

トリに相応しい華麗な勝利で終わろうじゃねえか」

 

信じてきた未来を取り戻すために、銀髪の侍の横に並び立つのは彼のために集まった勇者が6人。

いつか駆けた戦場で、劇場の続きを始めるために。

 

「もちろん!!!!!!!」

 

宇宙一バカな侍の号令に、それぞれを代表する主人公たちが勝ち取るための決戦の火蓋を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空想具現化した江戸を燦々と照りつける太陽。

夜王鳳仙の宝具である擬似太陽は、範囲内の全てのものに太陽を遮ることを許さない。地に墜ちた鳳仙を見送るために、新たな時代を迎えるために。天井は崩落し、傘は風に攫われて、これを修復しようとも焼け爛れるのみである。

未来が切り拓かれる、という広義な効果を持つ宝具は鳳仙の霊気の消滅をトリガーに解放されるのだ。

 

あの鳳仙がこんな条件の宝具を易々と受け入れる筈もなく、令呪を切ろうものならマスターの命が先に潰えるだろう。

当然の結論だ、こんなにふざけた宝具はない。地球人のためにあるような宝具だ。一番求めているのはこの宝具の持ち主だというのに。

 

「────、────────」

 

死に際に宝具を解放したのは気まぐれか。

きっとそうだ。術者の甘言に傾いてしまった。

2度と訪れないはずの願いを手に入れるために。

 

「───ッ、──────、──────」

 

ずちゃり、ずりゃずりゃ、偶にばちゃっ。

身体の大半が焦げた偉丈夫が、血液が染み込んだ草履を這いずらせながら進む。

荒い息を整えようとするたび、咽せ返る出血の臭いに脳を殴られる。これが無ければ意識が閉じていた。

 

捲れた皮膚からの出血が落ち着きつつある。

焦げた皮膚は火傷特有の悪臭を放つ。偉丈夫が這いずり進む吉原では、ものの数秒で番犬に締め出されるに違いない。閑散とした此処では無理な話だったか。

寂れた町に帰ってきた地下の主人は、地上の激しい揺れを気にも留めずに役立たずの足を前に押し進める。

 

「───、…………、──、っ、ぁ」

 

黒く焦げた身体に宿る執念が、無意識のうちに辿り着いた場所。吉原の最奥、遊郭の主人が鎮座するために造られた広間の前に、車椅子に乗った遊女が1人。

ここに来て半年間、一度もしなかった化粧を終えて、嘗て吉原に咲く華としての姿となっていた。これから訪れる客をもてなす花魁として、羨望の眼差しを集める太陽が一輪、ここに咲く。

 

偉丈夫の致命的な火傷を見て駆け寄るでもなく、騒ぎ立てることもなく、畳に正座する姿勢と変わらないまま歩み寄るのを待っていた。夜王を迎える者にとっては当然の心構えだったが、震えを堪える両拳は隠しきれていない。見える心に思わず笑ったが、焦げた口元に神経が伝達することはなかった。

 

「酌、を………」

「──ちょうど1人、しがない花魁が空いたところさ。今日はアンタで最後。気の済むまで付き合うよ」

 

手元の拭いをそっと差し出す。

黙って手に取り、草履を脱いで、拭けるだけの血を染み込ませる。

 

主人は気づかない。

太陽を掬い上げる時、魔王が荒らした吉原に。

雨風を凌ぐことも難しい居城で、己の宝具に焼かれていることも分からずに、花魁が開けた襖の向こうを目指す。

 

恭しい所作に招かれて、一日千秋の想いに掻き立てられながら、長く続いた警戒心が漸く解ける。

座布団に腰を下ろし、明け暮れた戦いの日々を置いて、肩の力を抜いた。もう夜王の縛りが無くなった常世では、お酌の準備を終えた花魁の他にも騒々しいものが幾つか。血の臭いに混じって、数々の過去が降り注いでいた。

 

「────────────」

 

大して役に立たない護符の数々、烙陽への手土産用小型発電機、カラクリメイド用の布切れ、中身が空っぽの拘りオイル缶、少々の沢庵樽。

辺りを見回せば、夜王の城に上がり込む不躾な英霊たちが安酒を酌み交わし、せっかくの憩いに水を差してくる。……追い払う気力はなかった。

 

「さぁ、どうぞ。……随分と美味しいそうに飲むんだね。このお酒は今じゃ何処にも売ってない安酒さ。酒蔵が軒並み潰れちまってさ、天下に出回ってたこいつが逸品に早替わりだ。

っと、徳利は小さすぎたかね、ごめんよ。ほら支えるから、ゆっくりとお飲み。

アンタ、昔っから味にはうるさかったのに。このお酒の飲み方を分かってきたんじゃない?

…………そうかい。大仕事を終えたら地位なんて関係なく、敵とさえ飲み交わす。江戸流の宴さ」

 

彼女の言葉に数十分前の…吉原に着く前の記憶が蘇る。

 

『ん? あぁ令呪ね、実は予備で龍脈に隠してた分があったんだよ。一画は士郎君に、残りは君を引き戻すために切った。ありがとう鳳仙、最大限の感謝を伝えるよ』

 

初代は約束を果たした。

本来なら退去しないところを、アダムに放った鏃を座に繋げて、自らの霊気を代替として鳳仙を退去直前の状態で引き摺り戻したのだ。

地上に放り出された鳳仙は起き上がることも(まま)ならなかった。いんちき陰陽師に悪態を吐いたところに現れたのは、かつて殺そうとして、召喚時には行方知らずだった太陽の子で。

残り少ない親子の時間を割いて、宿敵だった偉丈夫の身体を抱き起こし、いつの間にか消えていた。

 

「聖杯など…望まずとも。願いは、かなった」

 

ここまでお膳立てられれば、異郷の人間性を蔑むことも憚れる。無用と吐き捨てる心遣いが、今は酒の場にはなくてはならないものとなった。ロクデナシ達の歌が肌に心地良いのだから。

 

「日向ぼっこ、さけを呑む。あとは、良い──」

「………本当に、男ってのは」

 

最後の最後になるまで棘の欠けない男に呆れながら、安酒を注ぐ手は止まらない。1人の相手をしている筈なのに、何人もの徳利を満たしている気がして周りを見渡す。

そうして花魁は合点がいった。辺りに散乱した忘れ物たちが、最後の戦いを見守るように、大仕事を終えた頑固者を労うように散乱している。酷い有様だと思ったここは、花見をする桜の下と何も変わらない、吉原に集った英霊たちの憩いの場だったから。

 

「馬鹿ばっかりなんだから」

 

頑張り過ぎの多くの働き者へ、最後の花魁…日輪は涙と笑み混じりに呟いた。

 

そうして何度か徳利を満たして、手の止まった彼を見る。揺れる大地を見上げていた。

何かを感じ取ったのだ。戦いの流れの変化だとか、縦張の降りる時に向ける終幕を惜しむかのような眼差しに、この物語の行く末を知る。

 

「あら、気になるの?」

「……………」

「照れちゃって。そういうところは治らないか。

大丈夫よ。銀さんが戻ってきたんだから」

 

最後のバカ騒ぎを引き起こす歌舞伎侍を天井越しに見ながら、物語が大団円に向かっていることを告げる。江戸の侍たちを知る最高の花魁が言うのだ、早とちりなどではない。崩れかけた吉原の天辺で、偉丈夫…鳳仙は、らしくなく安堵の息を漏らした。

 

「夜王に光を浴びせる、忌々しい侍だ。

あぁ、最期まで、本当に……。

だが、この場に免じて許そう。

渇きが癒えた、それだけで充分だ………」

 

焦げた頬をやっとこさ吊り上げて、漸く日輪と視線を交わして、長く続いたもどかしい時間が過ぎる。

吉原を貸し切っての宴会は、これにてお開き。

 

「ゆっくりと、おやすみ」

 

この半年間、戦いに明け暮れた戦士が眠るまで、最後の花魁はお酌を捧げ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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