銀の大地、終末の最前線に現れたのは。
かつて銀色に塗り潰された金色。今宵、絶望を塗り替えるための希望。最悪に対する、天才たちの答え。
「よォ、随分な重役出勤だな、坂田銀時。
まさか他人の女と遊び呆けてたとは、この俺にすら再現出来ない持続力だ。さすがは金をも凌ぐ銀だ」
「魘魅の話聞いてっと、途中からお前の顔がチラついて鬱陶しかったぜ。話半分しか聞いてねーけど、お前とやってること大体一緒なのは分かった」
こちらの世界における坂田金時。
銀時の面影を宿したカラクリが、魘魅と肩を組んで呑気に銀時と世間話を始めやがったぞ…!?
「はっ、冗談も大概にしろ。下劣な作品を乗っ取る俺の計画と、星をぶち壊すハナクソの計画、どう考えてもドブはこいつだ」
「失敗すんだから一緒だろ」
「ぶち殺すぞ」
くだらないやり取りをしている間も、魘魅は抵抗を試みている。だが、「凄い、魘魅を封じてる」と立香が興奮気味に言ったように、魘魅の周辺に散る微弱な電撃が動きを封じていた。
こんな話は聞いてないぞ、源外のじいさん。
俺もやられたな、ちくしょう。
「で、やれんのか」
「蠱毒なんてハナクソ未満のウィルスが、人類の叡智を搭載した超高性能カラクリ様に勝てるとでも?」
かつての宿敵が笑うと、世界が少しだけ晴れた気がする。倒したボスとの共闘に難癖を付けるのは心のない細菌だけ。様子のおかしい自分を解析できない最新機器が哭く。
「何故、だ……!
なぜ星の中枢に手を伸ばせている…!?」
答えは眼差しで。蔑み殺意に答えを込めて、一切合切の理論を教えてやらない。解析を防ぐために、自問自答して無駄な余生を過ごせと吐き捨てる。
「こっちは身内やられて怒髪天だ。
バックアップがあります、この星を洗脳しました、私の計画は達成目前ですぅ?
ソイツぁよぉ、俺がぜぇんぶ通った道だ。もうバカどもが破ったんだよ、2度目はくどい。
読者にも飽きられる前に、怒髪天で先輩の俺が、地獄の底まで送り届けてやるぜ」
「ま、まて────────」
坂田金時は、凡ゆる手を尽くし尽くされた。
星の中枢に接続するため、専用の回線を初代らと開発、搭載するためにどれだけ己を犠牲にしたか。
全ての苦行は、龍脈の源泉から異物を濾過し、元の世界を…江戸を…銀色の世界を取り戻すために。
「ナノマシンウィルスにはああああああ‼︎‼︎‼︎
ナノマシンウィルスで対抗だああああああ‼︎‼︎‼︎」
両腕が魘魅の身体を抑えつけ、魔眼へと張り付く。手のひらに搭載された射出口から飛び出した電極が、夥しい光を放ちながらコアに突き刺さった。
直後、雷撃が…
「あれって…」
「はい。金時さんの宝具です…!」
その衝撃は正史の坂田 金時から授かった武器、黄金喰いのカートリッジを使用した電磁波だ。
星の中枢に巣食った魘魅は、龍脈と一体化したと言っても過言ではない。星を侵すことに特化した最悪の宝具は、過去改変以外で取り除くことは不可能だ。
「アアア、アァァァァッ、ヅァァァア……!
なぜだなぜだなぜェ、ェェェエエッッ!?!」
ただ1つの例外、蠱毒を除いて。
「知らないか? 教えてやるよ。第五次聖杯戦争のことは知らないだろうからなァ!
テメェは既に銀時に敗れてんだ。サーヴァントとして現界したのは何もこの世界だけじゃないんだ」
「それの、どこがッ」
「察しが鈍いぜ、本当にナノマシンか!?
この電撃はなぁ! 第五次聖杯戦争で敗れたお前の霊気を解析して! 初代の陰陽術で魘魅だけを分解凝集浮上させる、天才たちのカウンターなんだよ!!!」
魘魅へと注がれる電撃が、コアを通して星の中枢へと流れ込んでいく。本来ならば流れる直前で龍脈に押し返されるソレは、魘魅の侵略を許してしまうほど弱っている。圧力の落ちた源泉で洗い流すことは出来ない。魘魅を守る盾は、ここには存在しないのだ。
裏の裏を突く会心の一手。
地球に蔓延るナノマシンウィルスに様々まで電撃が駆け巡る。反撃など想定していなかった彼らは、自らの敗北によってまんまと地上へと連れ去られてしまうのだ。
「やれ‼︎ 坂田銀時イイイイイイ‼︎‼︎」
滴滴と生命が胎動する。
嗚咽に苦しむアダムは、星の中枢からナノマシンウィルスの抽出を知らせるために照明を指差した。
「照明から赤いコアが!!」
「銀ちゃん!!!」
どろり、始祖の左眼から流出される赤い玉。
魘魅の咆哮に呼応してもがく悪色の月。
あれこそが絶対の真実。
星の裏側に隠れ、策略を張り巡らして、陰から人類を滅ぼそうとした天人の全容。全ての魘魅が抽出されて、この一瞬、世界に曝される最後の機会だ。
「この国に入って来たってのに、おもてなしは受けちゃいないだろ。たんと味わってくれ、揺籠まで丁重に案内する和の心の特上サービス付きだ」
真心込もる銀時の剥き出しの犬歯を見つけて、星砕き『洞爺湖』をアダムの魔眼に向けて構える。
最後の侍は愛するバカ共のため、身を粉にして戦ってくれた全ての英霊に感謝を込めて振りかぶり。
狼藉を働き続けた江戸の敵へと向けて、想いが紡ぐ軌跡をソラに描いた。
「
悪色の月に、銀の閃光が突き刺さる────!
「ば……………の、………しろ、やしゃ」
封を解かれた黒幕は、アダムの身体からドバドバと雪崩れ落ちていく。
銀時に寄生し、半年間を謀略に割き、地球を滅ぼすために暗躍した時間が、別世界の自分の敗北によって台無しとなった。
「鬼の背負いし業が、潰えると……思うな………」
自分の末路を受け入れられない魘魅は、そう呟きながら抵抗を試みるも、あえなく消滅した。
▼
焼け野原のような城の片隅で、意識を失って寝転がるアダムと金時。駆け寄ろうと足を踏み出すと、踏ん張りが効かずに盛大にすっ転んだ。
「……やった、のか?」
空は、快晴。呪符は無い。コアは見当たらず。地上からは歓声が。早とちりかもしれない。周りは、皆んな無事。いや、たまが……もう手遅れか。こっちも、あっちも、2人のたまが犠牲に………。
「あ、アダム?」
幕の降りた舞台。
困惑の声が向けられたのは
「────ありがとう、我が子たち」
潤んだ瞳。殺意など容易に鎮火してしまう暖かい眼差しが、魘魅の消滅を宣言してくれる。
抱き合う立香とマシュ、思わず肩を組む俺とアーチャー。そして大泣きしながら銀時に飛びつく新八と神楽。数多の罵詈雑言を浴びながら、銀時は子供をあやすように笑っていた。
「お前にも飛び込む資格はあるぞ」
「ないよ。あの光景を見るために戦ったんだ。
…………羨ましくなんてない。なんだよ」
「私は行きたいが?」
「うるさい黙れ行ったら爆ざす」
「はざす!?」
意訳、俺は俺でもお前は俺じゃないからホクロ取って混ざりに行ったら壊れた幻想でぶち殺す。
許されない代役はある、羨ましいと思った時点でな!
「腕は大丈夫なのか」
「ダメだな。これ以上は戦えん」
「…これからどうするつもりだ?」
「あぁ。俺も、俺の世界を諦めたワケじゃない。やれることはやってみるつもりだ」
空想世界を巡る戦いは間もなく修復に移行する。
この世界とおさらばする前に、俺たちも挨拶くらいはしておかないと。そう思いながら空を見ると、擬似太陽が沈んでいくのを見つけた。魘魅の消滅によって、魔眼を使われる恐れもなくなり、役目を終えたことで休息に入ったらしい。
なんやかんや、この戦いのMVPは鳳仙だ。
彼がいなければ、今日まで江戸が存在しなかっただろう。いや、それで言えば伍丸博士も、源外のじいさんも、次々と召喚に応じてくれた英霊全員がそうか。
積もりに積もった戦績を振り返りながら、銀時たちのもとへ歩み寄る。
「たまさん…………」
ちょうど3人は、たまの元に行っていた。
項垂れる2人が、たまの身体にはもう魂が宿っていないことを意味していて。懸命に動いていた彼女のことを思い出すだけで、胸が張り裂けそうになる。
「! そうだよ、たまさんを誘き寄せたって誰がやったんだ。まさか正鬼に近寄るはずもないし…」
新八が先ほどの魘魅の言葉を思い出す。
『のこのこと誘い込まれた哀れな時間泥棒も、我が手で葬ってくれた』
あの言葉は、たまが銀の大地に訪れたタイミングを狙っての犯行という意味になる。襲撃ではなく、待ち伏せでもない。まるで、信頼する仲間のもとに駆けつけたところを仕留めたと、そう思わせる口ぶりで。
「──────────」
江戸城の向こうには夕暮れ。
地平線からは、夜が、再び。
『思い出せ、この戦いに潜む闇を。狡猾なナノマシンウィルスは、もう1つ残っている』
『この会話はケリがついたあと、奴さんに仕掛けられる位置で思い出すように設定する。
大丈夫だ、流山のやつも現地で誰かしらに仕組んでるから、ソイツで答え合わせといこうじゃねえか』
伍丸弐號の手帳が静かに開く。
平賀源外との会話を思い出す。
「────────!」
ある1人の人物の視線がたまに釘付けとなった瞬間、藤丸立香と衛宮士郎の脳内に予め仕込んであった情報の封が解かれた。
「………僕を信じて」
「……………
【次回予告】
最終決戦、裏切る者。
八節『完結篇』2025.1.17(金) 永遠なれ