fate/SN GO   作:ひとりのリク

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Epilogue






ならば、我が正義は銀色に染まり

意識の覚醒とともに上半身をゆっくりと起こす。

明けてきた外の光を感じながら、身体をじわりとほぐしていく。ちょっぴり寒いうちは、こうして慣らし運転をしないと調子が出なかったりする。

目尻を擦りながら慎ましくあくびをして、枕元の時計に目を向ける。六時半。まだ眠っていたい時間だけど、シロウの家では寝坊もいいところだ。

 

「シロウはやっぱりいない…。さては土蔵ね」

 

わたわたとパジャマから着替えて、居間に寄らず土蔵へと直行する。なぜって?それは、日本人が一番風呂に拘りをもつように、その日一度きりの贅沢を味わうため…!

土蔵で眠る王子様を起こそうと走るのだが───。

 

「先輩、おはようございます。もう朝ですよ?ご飯、あとはよそうだけですから。居間に来ないと、藤村先生におかず取られちゃいます!」

「あぁ、悪い桜。またここで夜を明かしちまったか、いかんいかん。すぐに行くから」

 

また先を越された。

マキリ サクラは、毎朝ここに来て土蔵で眠るシロウを起こす。こんなところで眠るシロウもシロウだ。けど、毎朝近くない距離を歩いてくるサクラもいい加減な身体だ。

 

「あー、ちょっとサクラ〜!またシロウを勝手に起こしたの!?抜け駆け禁止って何度言えば分かるのよ!」

「抜け駆けじゃありません。いつも夜遅くまで起きているイリヤちゃんが悪いんですよ?」

「だってシロウとお話しするのは楽しいんだもの。しょうがないじゃない」

「そうですね、それは認めます。だからって、疲れて土蔵で眠っちゃうくらい話すなんてズルいですよ」

「いいんだ桜、俺が好きでイリヤと話をしているんだ………ん?あれ。桜、いまなんて言っ──」

「あ、いけない。居間には料理を見張る人がいないから、藤村先生に食べられてしまいます。急がないと、ほらイリヤちゃんも」

「ちょ、っと私もろとも!?」

 

シロウの疑問をサクラは最後まで言わせない。会話を断って、私を居間に道連れにするところはしっかりしている。

 

そして居間。

 

「あ、おはよーイリヤちゃん。ははん、さては桜ちゃんにまた負けたな〜?」

「…案の定ね、それでも大人なのかしらタイガ」

 

食卓に並ぶ料理の数々を、ガブガブと食べ進んでいる野性寄りの人間、タイガがいた。

 

「いやははは、面目ないでござるぅ。拙者、これから朝の会議があるゆえ、これにてさらば!」

「藤村先生、お弁当はどうされますか?」

「あ、ごめん桜ちゃん。士郎に持ってくるように伝えておいてくれる!?」

「はい、了解です。お昼はピリッと辛い肉団子がメインになります」

「ありがと、楽しみにしてる!いつもありがとね!それじゃ私は行ってくるのだ!」

 

時代劇風タイガは言うや居間から嵐のごとく立ち去っていた。

ここの住人は朝からハイテンションだ。セラは余裕でついて行くばかりか、メイドとして仕事をこなしている。当たり前ではあるのだが、普段よりも早く起き始めてから彼女のすごさを知る。

 

「藤ねぇも忙しいんだな。セラや桜に言わずに、俺を起こしてくれれば朝飯作るのに」

「好きでやってると分かってるから、フレンドリーに接してくれる証拠だと思いますよ?」

「…ま、そこを気にしても仕方ないか。それよりもセラはどうしたんだ?珍しく寝てる?」

「セラさんなら、藤村先生のお家に回覧板を回しに行かれましたよ」

「あちゃ、それは悪いことをしちまった。昨日の帰りに藤ねぇに渡すの忘れてたんだった」

「そのまま用事があるとのことなので、私たちは食べましょう」

 

いただきます、の合唱。

サクラは待っていたとばかりに、さりげなく煮物や肉団子を皿に乗せている。適度に皿の量を減らさず増やさずに食べているから、そう多くの量を食べていない風を演じているみたいだ。

それを、笑顔で会話をしながら何気なくシロウの意識を皿から逸らしているのだから怖い。邪魔をしようにも、サクラはこっちの皿にも取り分けている。いや、どさくさに紛れて自分の皿にも入れている。なにか執念のようなものを感じ、ハッキリと口で指摘はできなかった。

 

…シロウは気づいているけど、サクラの行動に疑問を持っていないだけだとおもうけど。

 

朝食も終わろうかというなか、シロウの話題に私の耳がたつ。

 

「桜、慎二のヤツは出かけっぱなしか?」

「はい…兄さんはまだ帰ってきません。遊び足りないって言って、もう六日も外泊なんです。毎晩、電話はしてくれるから、怒ろうにも…」

「分かった、あいつにはガツンと言っておくよ。

けど変だな。遊び足りないって言う割には、いつも学校には来てるんだよ、慎二のやつ」

「それは……うぅ、あまり否定もできません。中学校のときも、授業が退屈だからと途中で帰っちゃってました」

「悪く言ったつもりはないんだ。

慎二は最近、授業中は眠ってるから夜中は起きてなにかしてるんだとは思うけど」

 

そんな理由、簡単に分かると思うんだけど。

まぁ、今更焦っても仕方ないか。

 

「ごちそーさま。おいしかったわ、サクラ」

 

居間を離れようと立ち上がると、シロウが思い出したように声をあげる。

 

「あ、忘れてた二人とも。おはよう」

「うん、おはようシロウ」

「はい、おはようございます!」

 

挨拶を交わし、その足で土蔵へと向かう。

 

第五次聖杯戦争が終わって五日が経った。

シロウはシロウのままだ。初めて出会った日から変わらない、お人好しすぎて困ってしまうほどに順調な日を過ごしている。

 

(イリヤ)の身体に変わった変化は特にない。

 

聖杯戦争が終わった日の昼過ぎ、私は何ごともなかったかのように目が覚めた。そして、同時に私の身になにが起きたのか、情報が流れ込んできた。

 

セイバーは、私が小聖杯としての機能を持つ以前、産まれたときの純粋な人としての情報を掻き集めたようだ。

聖杯の孔を私の心臓から開けたのが幸いしたか、それともセイバーたちの力か。私の心臓は、小聖杯としての機能をまともに使えないほど綺麗になっている。

シロウの心臓にバーサーカーの霊気を吹き込んだのを参考にしたのだろう。セイバーは、小聖杯の根源である心臓を、一瞬で、人でいられるだけの情報で復元した心臓と入れ換えた。

 

これが、私がシロウたちに話した表向きのもの。

 

「さてと、そろそろ準備をしなくちゃね」

 

その日の夜、夢を見た。

いいえ、″彼″に夢を見せられた。

それは、成長予測ごとコピーした心臓の注意書きのようなもの。元あった小聖杯としての機能は、私の服に″礼装″として変換したこと。

 

そして、聖杯戦争はまだ続いているということ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、魔術師と英雄たちが織りなす、十日に満たない奇跡の物語(第五次聖杯戦争)は幕を閉じた。

 

後悔に追われ、現実に悩み、結果に反発した聖杯譚。

そして、ゆっくりと、各々の日常を取り戻していく。

辿った跡を見て、ふと微笑む人がいた。今日も平和な世界が目の前に広がっているのだから、これは当たり前のことになる。

 

幕引きの音がうるさくないとは限らない。整備の手違いで、時間の都合から、或いはお金がなく。人々は限られた人生で、幾多(いくつ)もの別れを記憶して、いつか忘れていくのだから。

 

 

「うっそだろ、本当にこんなヤツがいるのかよ…!

確かに人の肌じゃない。それに、頭のコレも被り物ってわりにはしっかり繋がってる。

冗談だろ、アイツ…ほんと、いつの時代から来たんだよ」

 

 

ただ、もしも。

 

 

「あぁくそ、こいつ結構重いじゃねーか。今から柳洞寺まで運ぶのかよ。僕一人で…あの地獄みたいな階段を登るのか…!?」

 

 

この先に、理不尽な誤りがあるとするなら。

まだ閉ざされた道を行くために、君を必要としていたら…?

 

 

───

 

──

 

 

 

ここは、知らない場所だ。

 

だけど、ここがどうして存在するのかを知っている。これまで何度も経験してきたから、嫌でも慣れてしまい落ち着いていた。

夢、あるいは情報。未来か、過去と繋がる世界。

 

『理由も知らずに呼ばれたわりには落ち着いてんな。もしかしなくても、こーいうのってよくあるのか?』

 

次々と流れていく記憶の背景をよそに、男性の声が気さくに話しかけてくる。声の聞こえた方に振り返って警戒の目を向けると、耳をほじる気の抜けたシーンに直面し、思わず答えてしまった。

 

『そう、ですね。厄介な事件に巻き込まれすぎて、突発的なことには耐性がついたんです。こうしてサーヴァントに連れて来られるのも、何度目か思い出さないといけないくらいには…はい』

 

少しも後ろに退こうとは思わない。

もし目の前であくびをしている男が日常茶飯事だと認識しているなら、背を向けたところで意味がなさすぎる。

だから、この疑いが勘違いに終わったときを考える。向こう側の印象としては、逃げずに睨めつけるくらいが良い印象になるのでは?

 

『そりゃ大変だな。…ん、ドッシリと腰を据えてるの見ると納得するぜ』

『こっちは納得できていません。ここがどこだかも分かりませんし、なによりも…あなたは誰ですか?』

 

銀髪の男に問う。

 

『俺はセイ……あ〜、もう真名隠す必要はねーんだった。俺は坂田 銀時ってんだ。他のマスターと契約中の、ちょいと訳ありなサーヴァントやってる』

『な、マスターと契約をしているんですか!?』

 

坂田 銀時と名乗った男のとある発言に、思わず反射的に問い返した。

 

『マスターの適正者は全員動けないはずじゃ…』

 

この世界に、サーヴァントのマスターをできる人間は一人しか残っていない。そう聞かされていただけに興奮する。

 

『あぁ、だから訳ありなんだよ。

おっと、時間がもうねぇわ。ちょいとオメーさんの面を借りたのは、こっちに来る前に予備知識をと思ってな。流石に生身ってのは無理だったんで、意識だけ連れてきた』

 

ただ、なにかが引っかかる。

 

『話が見えないんですけど。予備知識?』

『そ。じゃねーと、来たときに戸惑って話が進むのに時間が足りない。そのための銀さん塾を開講しまーす』

 

銀時のお世辞はありがたく思う。

目的を先に話さなかったり、メガネと白衣とキャンディを取り出したのは不思議だが。

その意味は察する。こうして襲わないところを見ると、つまり救難信号と思う。だから、まずはカルデアのことを教えよう。

 

『カルデアだと、過去の出来事って大体調べられるんですよ。例えば銀時さんが…………。

……………坂田 銀時……?』

 

待てよ…坂田 銀時、誰だそれは。

 

知らないどころか、そんな名前の人物が現実に存在していないことくらい分かっている。

 

『あなたは、どこの英霊なんですか』

『ま、そーゆうこと。俺もサーヴァントだが、坂田 銀時って聞いたことがないだろ。あぁ、金時とは別人だし兄弟でもないぜ』

 

同時に、背景に映る記録が、坂田 銀時という存在を証明している。

 

『俺らは、人類史が産んだ空想の物語ってとこさ。厨二病みてーな設定の、ゴリラが殴り描きした世界のな』

 

ここが不安定な場所だろうと、見て話した男は間違いなく、ここに存在しているのだ。

 

『オタクらが特異点って呼んでる異常が近いうちに見つかる。そのとき、自然消滅を待つのも手だ。俺もどうなるか分からねぇし、間違いなく来ないにこしたことはない。

ただ、もしも来るってときのために、ほんの少しだけでも知っておかなくちゃ門前払いをくらう。そのくらい危ない場所だ』

 

特異点…やっぱり、それ以外の話題はここに上がらない。

 

『ただ特異点がある。その最悪の事実だけで、カルデアは命を賭して戦わなきゃなんねーんだ。

例え、行く先が人類未踏の地だとしてもな。だから、せめて町の名産品くらいは知っとかねーとよ』

『ま、待ってください。メモ……メモでもしなきゃ覚えきれません』

『細けーことは後でカルデアに送っといてやる。ていうか、そのためにアンタの意識を攫ってきたようなもんだ』

『な、なんつう無茶なことを』

 

そう、カルデアではそれが当たり前。いつものことだった。

だから、たまにはこういうこともあるだろう。坂田 銀時なんていう、誰も知らない物語の人物が訪ねてくるなんてことが。

 

『ってことで、改めて。俺は坂田 銀時。万事屋を営む江戸の侍だ。

こんな形で聞くのも悪い気がすっけど、名前と返事を聞かせちゃくれねぇか』

 

 

世界が焼却され、人類は滅ぼうとしている。

生き残った人類は二桁。特異点修復の日々に消耗していく人類。半年以内で滅ぶことが確定した未来。

このふざけた景色を変えるため、いまも抗い続けている。

 

 

『僕は藤丸 立香。人類最後のマスターで、舞い込んできた出来事は基本なんでもバッチコイです。

だから、銀時さんの世界がどうなっていようと、特異点となれば見過ごせません』

 

こうして来た想いは、できるだけ繋ぎとめたいのだ。

だから、知らない世界だろうと未来を取り戻す。

 

坂田 銀時に連れられて、僕は新しい歴史に踏み込んだ。

 

 

 

 







▶︎人類史を救う→次話を待て。
▷聖杯戦争を続ける→fate/HA GO(別作品)を待て。


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