毎朝きっかり七時二十分に目を覚まし、一階のリビングで簡単な朝食を取り、歯磨きと着替えを済ませて五十分には家を出る。それが彼女、
西希は東京の小学校に通う五年生である。元々は大阪で暮らしていたのだが、親の仕事の都合で東京に引っ越して来たのが二年前。言葉遣いすら違う環境に最初は戸惑ったものであるが、今ではすっかり東京の空気が好きになっていた。
学校指定の制服に着替え、花柄の靴下を穿いて、いつもの通り風呂場近くの鏡で自分の姿を見る。ウェーブの掛かった黒色のミディアムヘアと花柄のカチューシャが印象的な、小柄な少女が映っていた。
身だしなみは問題ない。西希は満足そうに笑みを浮かべて、リビングへと戻った。
「お父さん、お母さん、ほな行って来る!」
真赤なランドセルを背負って家を飛び出した西希は、通い慣れた通学路を一気に駆け抜ける。途中、同じ通学路で通う友人数名と合流して輪の中に入った。
「おはよー皆、待った?」
「おはよう西希ちゃん、ちょうど今来たとこだよー。ねっ、みゆきちゃん!」
「ん、、まーな。だいたいリフティング三十回分ぐれーだったから、そんなに待っちゃいねぇよ」
西希の挨拶に、同じクラスの友人二人が簡単に応じる。
最初に答えたのは黒髪をお下げにした少女、
引っ込み思案な所もあるが優しい性格で、成績も良好。腰に付けたウェストバッグには絆創膏や消毒液など様々な医療品が詰め込まれていて、怪我人が出た際は簡単な手当を行ってくれる。
本人曰く医師である父親に憧れての行動という事で、真面目な性格もあってクラスでも彼女の評判は良い。「ホイミちゃん」と言う綽名もある程だが、西希はこの綽名を今一つ好きになれなかった為、普段は「知由ちゃん」と呼んでいた。
そしてもう一人は、サッカーボールを蹴って遊んでいる少女、
赤みのある茶髪と頭に巻いた青色のバンダナが特徴的な少女で、制服の上着は第二ボタンまで外して軽く
少女達は簡単に挨拶を済ませた後、学校に向かって再び歩き始める。それもいつも通りの日課であった。
「そう言や、今日だったか? 転校生が来るって話」
サッカーボールでリフティングをしながら、みゆきが話題を振る。西希は少しきょとんとした後、思い出したように手を叩いた。
「あー、前に
「だよな。先公の野郎、どんな子が来るかは当日までお楽しみだーとか勿体付けて教えてくれなかったからな。気になって仕方がなかったんだ、なあホイミ?」
「男の子か女の子かも教えてくれなかったもんね~。どんな子が来るんだろう、楽しみだね西希ちゃん」
「元転校生の
「そう言えば、西希ちゃんちょうど始業式の日に来たんだったっけ。一年生の子達より緊張してたの覚えてるよー」
「ああもう! そういう事は言わんでもええの!」
大袈裟に両腕を振り回して抗議すると、知由はくすくす笑いながら「ごめんごめん」と謝罪する。前髪に付けた赤十字のペアピンが、太陽の光を反射して眩しかった。
それから十分後。
学校に到着した西希達は、校門で生徒達を出迎えている教育指導の先生に軽く挨拶して自分達の教室へと向かう。転校生と言う特別イベントの為か、この時間にしては普段より生徒の数が多かった。
もっとも、肝心の転校生の姿はまだない。恐らく担任の先生と一緒に教室に来るのだろうと考え、西希は普段通り自分の机に向かった。
「よいしょっと…。空君おはよ、今日は珍しく早いんやね」
ランドセルを机に降ろしながら、西希は隣の席で居眠りしている少年、
「んー、むぅ…? ……あ、おはよぉ西希ちゃん。そろそろ給食の時間になったぁ?」
「何言うてんのっ。これから一時間目の授業が始まるところやんか」
「えぇー?」
南谷は気怠そうに教室の正面に掛けられた時計を見つめた後、ぷくーっと頬を膨らませて西希の方を振り返った。
「給食の時間じゃないのに、どうして僕を起こすのさぁー?」
「授業中に寝てたら怒られるからに決まってるでしょ! ていうか、時間的にさっき朝ごはん食べたとこやろ? もうお腹が空いたん?」
「朝ごはんは朝ごはん、給食は給食だよぉ。あと、晩ごはんは晩ごはんで違うかなぁー。よくわかんないけど」
おっとりとした口調で言った後、南谷はまた顔を伏せて眠りに入る。西希は「もう好きにして」と吐息して、ランドセルに入れた教科書と筆箱を机に詰め込み始めた。
すっかり慣れたいつも通りの日常。いつしか西希は転校生が来る事も忘れていたが、やがて授業開始のチャイムがなり、担任の先生が扉を開けて入って来た事で、教室内の空気はがらりと変わった。
教室に入って来たのは担任一人だけだったが、扉の向こう、廊下の方に女子の制服を着た
「えー、と言う訳で。授業を始める前に、この間ホームルームで話した転校生を紹介しようと思う」
教壇に手を掛けながら、担任は教室の外に居るその少女に中に入るよう合図を送る。さっきまで賑やかだった教室はいつしか静まり返り、その少女が入って来て担任の隣に立つ様をじっと見つめていた。
否。静まり返ったと言うよりは、絶句したと言う表現が正しいかも知れない。西希自身、その少女の姿を見た時は驚いて声が出なかったからだ。
背中に掛かる長さの
少女は見知らぬ生徒達の注目を浴びていても物怖じする様子は無く、満面の笑みを浮かべている。それも西希には印象的であった。
外国人だ――。と、誰かが囁く声がする。あるいはそれは西希自身の心の声だったのかも知れないが、少なくとも少女が日本人で無い事は確かであった。
「えー。今日からこのクラスの仲間になる、キャサリン=ライスランドさんだ。彼女は見ての通り……ああいや、名前からわかる通りアメリカ出身の女の子だ。日本語もある程度話せるそうだから、皆仲良くしてやってくれ」
そう言うと、担任はキャサリンと呼ばれた少女に何かを告げて教壇から離れる。恐らくは何か挨拶でもするように告げたのだろう、キャサリンは西希を含むクラスの生徒達を右から左へと見渡すと、咳ばらいを一つして口を開いた。
「ハーイ皆さん! キャサリン=ライスランドいいマス! アメリカのフレンドからはキャシーで呼ばれましたので、皆さんもキャシーで呼んでくだサイ! よろしくニーハオお願いしマスっ」
少し不自然さはあるものの、流暢な日本語だった。キャサリンが喋った事で、これまで静寂に包まれていた教室内が途端に騒がしくなる。無論、それがキャサリンに対する好奇心による騒ぎであった事は言うまでも無い。
「すっげー! 外人だ外人! アメリカだってさ!」
「アメリカってあれでしょ!? ヨーロッパの近くの!」
「すげー! ボンジュール! ボンジュール!」
口々に騒ぐその声は、ともすればキャサリンを圧倒しかねない勢いであったが、彼女は涼しげな表情で彼らの様子を眺めていた。
が、あまり騒ぎ過ぎるのも問題だ。案の定、担任が手を叩いて騒動を止めに入る。
「おーし、騒ぐのはそこまでだ。授業はとりあえず後回しにして、まずは皆ライスランドさんに挨拶しよう。こっちの前の席から順に簡単な自己紹介と……そうだな、何かライスランドさんに聞きたい事があるなら一つだけ質問するように」
「キャシーでOKデスよ、ティーチャー?」
日本人の発音に近い英語でキャサリンが告げると、担任は「お、オーケイ」とぎこちない返事をする。どうやらこの場で最もリラックスしているのはキャサリンらしいと西希は感じた。
ともあれ、こうした流れで自己紹介が始まった。一番手は窓際の一番前の席に座っていた知由で、彼女は後ろから見ただけでもわかる程に緊張しきっていた。
「えと、あの……ひ、比留川 知由ですっ。みんなからはホイミちゃんって呼ばれてますっ。質問は……えっと、あの…。い、いつも絆創膏や包帯を持ち歩いているので、怪我をした時は声を掛けて下さいっ!」
早口気味に言い切る知由に、周囲からドッと爆笑が起こる。西希もまた知由らしい自己紹介に笑いを堪えずにはいられなかった。
ただ一人、知由の事を知らないキャサリンだけは不思議そうに首を傾げていたが、それなりに楽しそうだった。
「おーし、んじゃ次はオレの番か」
自己紹介を終えた知由が恥ずかしそうに席に座ると、彼女の後ろの席に座るみゆきが楽し気に笑いながら立ち上がる。
「オレは銀座 みゆき! 好きなものはスポーツと運動会! 嫌いなものは勉強と音楽! あと朝礼の時とかでジッとしてんのも苦手だ! 英語はわかんねーし日本語も難しい言葉はわかんねーが、おめーが日本語できんなら問題ねぇな! 仲良くしようぜ、よろしくな!」
恐らくはこのクラスで一番であろう元気さと声の大きさで、はきはきと自己紹介する。…が、自分の事ばかりでキャサリンへの質問の事は完全に忘れているようだった。
「み、みゆきちゃんっ。質問っ、質問っ」
慌てて知由が囁くと、みゆきは「んぁ?」と頓狂な声を漏らした後、思い出したように手を叩いた。
「そうそう、何か聞くんだったっけな。えーとな……そうだ、おめースポーツはやんのか! アメリカ人ってのはとにかく全員バスケが上手くてサッカーも得意なんだよな! また昼休みに勝負しよーぜ!」
「オ、オゥ…? よくわかりまセンが、スポーツは好きデスよー? 自分でやるよりテレビで観る方が楽しいですケド」
困惑した表情を浮かべながらも、キャサリンは頷く。みゆきは満足したように鼻を鳴らしながら、自分の席に座った。
その後も、自己紹介と質問は続いた。クラスメイトの殆どは海外の人間相手に緊張してか定型文のような事しか言わなかったが、キャサリンは一つ一つ真面目に受け答えし、頷いて見せた。
中には「銃を撃った事はあるのか」「今のアメリカ情勢に何か思うところはあるか」と言った込み入った質問もあったが、その時は担任がさり気なくフォローを入れて彼女が困らないようにする。
…そうこうするうち、いよいよ西希の番が回って来た。
「えっと…。じゃあ次、うちやね」
おずおずと立ち上がると、キャサリンの青い瞳が真直ぐに西希へと向けられる。初対面、それも海外の人間に見られているというのは想像以上にプレッシャーで、いつしか彼女の心臓の鼓動は高鳴り始めていた。
「し……出席番号8番、小阪 西希。元々は大阪に住んでて、二年前にこの学校に転校して来ました」
「オー! では、私とは転校生フレンドになる訳デスねー?」
「そ、そそ、そうなるんかな…?」
まさか話しかけられるとは思っていなかったので言葉に詰まってしまう。これではどちらが転校生なのか、わかったものではなかった。
「えーと。それで、質問やけど…」
こほんと咳ばらいして自分を落ち着かせながら、西希は真直ぐにキャサリンを見つめ、問いかける。それは西希が最も興味のある事だった。
「ライスランドさんは、遊戯王を……デュエルモンスターズっていうカードゲームを、知ってますか?」
声に出した瞬間、教室内が静かになった――ような気がした。
デュエルモンスターズ。長い歴史を持ちながら今なお人気が衰える事の無い、言わずと知れた長寿カードゲーム。この教室の誰もが知っているであろう名前だった。
この日本にどれだけこのカードゲームの愛好家がいるのかは定かではないが、西希もまたこのカードゲームを愛する者の一人だった。そしてこのカードゲームは、日本のみならず海外にも広く知られている。
もし、キャサリンもデュエルモンスターズを愛する一人だったなら、それをきっかけに仲良くなれるかも知れない。…そう考えての質問だった。
「イエス! 私もデュエルやりマスよー! デュエルモンスターズ大好きデスっ!」
にんまりと笑ったキャサリンが、サムズアップして答える。
「実は今もランドセルにデッキ入れて持ってるデスよー! また後で一緒にデュエルしましょう! 約束デスっ!」
「あっ……う、うん。約束な…」
まさかここまで積極的な答えが返って来るとは思っていなかった西希は、何処か浮ついた様子で返事をする。
考えてみれば、こんなクラスの面々が注目する中でこんな質問をするのは恥ずかしい事だったかも知れない。それでも、キャサリンがデュエルモンスターズを愛する一人とわかったのは、西希にとって嬉しい事だった。
仲良くなれる気がする。根拠のない自信を胸に秘めつつ、西希は席に着く。彼女の後ろの席の女子生徒が、立ち上がる音がした。
――――――
―――――
――――
転校生が来たと言っても、普段の生活が特別変わる訳では無い。自己紹介を終えた後は担任がキャサリン用の机と椅子を用意して、そのまま授業が開始された。
担任にとってもアメリカ人の生徒を受け持つのは初めてだったのだろう。日本語はちゃんと通じているか、ノートはちゃんと取れているかと、何かとキャサリンを気にかけている様子だった。
肝心のキャサリンはと言うと驚くほど落ち着いていて、授業の進行にも問題なくついて行っている事が西希の席からも見て取れた。一見すると天然な性格に思えるが、わざわざ日本人に聞き取りやすい発音で英語を話した辺り、かなり頭が切れるようだ。もっとも子供である西希にはそんな彼女の気遣いに気付ける訳も無く、心配そうに彼女の方を見つめていたのだが…。
やがて午前の授業が終わり、給食の時間。この頃になると皆キャサリンをクラスの一員として認めたようで、給食のデザートをお裾分けしたり、話題を振ったり等して打ち解けていた。
何しろ転校初日なのだ、皆が彼女に興味津々なのは無理も無い。ただ、彼らの様子を見る限り、先程の約束――…デュエルしようという約束を果たすのは難しそうに思えた。
(今日はもう諦めて、明日また話しよかな…)
そんな事を考えながら給食を食べ終えると、ふと背後に人の気配がする。振り返ると、そこには当のキャサリンが笑みを浮かべて立っていた。
「ハーイ西希! 約束通りデュエルしに来ましたよー!」
右腕をパタパタと振りながら、キャサリンは楽しげに笑う。彼女の左手には見慣れたカードの束があり、彼女が最初に交わした約束を覚えていた事を示していた。
だが、西希が驚いたのはそこでは無かった。
「えっ…。ライスランドさん、うちの名前覚えててくれたん?」
「キャシーでいいデスよ西希! イエス! クラスメイトの名前、もうだいたい覚えまシタ! 印象に残った人は最初の自己紹介の時に覚えてマス! 西希もその一人デース!」
えへんと胸を張りながら、キャサリンは言う。それを聞いて、西希は驚きを隠せなかった。
このクラスの生徒は凡そ四十人。その全ての顔と名前を短時間で覚えたと言うのか。ましてやキャサリンにとっては自分達は海外の人間、海外の名前である筈なのに。
「ほー、そりゃ凄ぇな。アメリカ人は馬鹿か天才かのどっちかだっつーのは本当なんだな」
「みっ、みゆきちゃん! オブラート、オブラートっ!」
悪意は無いのであろうみゆきの呟きに、慌てて知由がフォローを入れる。キャサリンはそんなやりとりに困惑の表情を浮かべながら、西希の机に自らのデッキを置いた。
「さ、レッツ・デュエル。やりましょう、西希」
「あ…、うんっ。やろかライスランドさん……ううん、キャシー!」
言われるままに、西希もランドセルから自分のデッキを取り出し、机の上に乗せる。
とは言え、デュエルするとなれば彼女の机だけでは些かスペースが小さい。西希は隣に座る空に事情を説明して席を譲ってもらうと、自分の机と彼の机を
互いにデッキをシャッフルし、デュエル開始の準備を整える。給食を食べ終えた他の生徒が「なんだなんだ」と集まって来たが、あまり気にならなかった。
「勝負はマスタールール3の一本勝負、先攻はコイントスで勝った方! それでええね?」
「イエス、異論は無いデス!」
「よーし、なら…」
緊張と期待。両方を胸に抱きながら、西希は一度ゆっくりと息を吐く。そして――、
『デュエル!』
二人の声が一つに重なり、デュエルが始まった。
「OK、先攻は私デスねー?」
キャサリンはデッキから五枚の手札をドローし、笑みを浮かべながら確認する。
海外の
「行きマスよー西希! 手札からフィールド魔法、トゥーン・キングダムを発動しマース!」
「なっ…。そのカードは…!」
キャサリンが発動したそのカードを見て、西希は思わず声を上げる。テキストは英語で書かれていたため読めなかったが、それがどんなカードであるかは良く知っていた。
《トゥーン・キングダム》。デッキの上から三枚のカードを裏側で除外する事を条件に発動される、《トゥーン・ワールド》の進化形。フィールド上に存在する限り《トゥーン・ワールド》として扱い、場のトゥーンモンスターに簡単な効果耐性と破壊耐性を付加する効果を持つ極めて優秀なカードだ。
だが、優秀なカードと言えどこのカード単体では何ら意味をなさない。このカードの強みを活かす為には場にトゥーンモンスターを召喚する必要がある。逆に言えば、《キングダム》を発動したこの時点で、キャサリンのデッキが何であるか予測できた。
「さらに手札から、
手札から召喚したカードを即座に墓地へ送ると、キャサリンはデッキを扇状に広げてカードを確認する。
《キングダム》を投入したデッキから繰り出される《レッドアイズ》モンスター。西希はキャサリンがカードを提示するよりも早く、どのモンスターが出てくるのか把握できた。
「私が特殊召喚するのは、レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンのカードデース!」
やはり――と心で応じ、西希はキャサリンが出したそのカードを確認する。
彼女が召喚したのはトゥーン化された《真紅眼の黒竜》。召喚ターンに攻撃できないデメリットはあるものの、《トゥーン・ワールド》が存在する場合は直接攻撃を行う事ができ、かつ手札のトゥーン・モンスター一体を特殊召喚する効果を持つ。
ここに至り、西希のみならずデュエルを観戦していた全員が確信する。キャサリンのデッキは【トゥーン】。原作でデュエルモンスターズの生みの親であるペガサスが使用した、コミックをモチーフにしたデッキであると。
「そして早速、レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンの効果を発動デース! 私の手札から、トゥーン・ブラック・マジシャンを特殊召喚しマス!」
次いで繰り出されたのは、トゥーン化された黒魔術師。《レッドアイズ》より僅かに高い攻撃力と、デッキから新たなトゥーンカードをサーチ、または特殊召喚する使い勝手の良い効果を有する上級モンスターだ。
「これで私の場には二体のトゥーンが並びまシタ。攻撃力は上級モンスターとしてはやや低めデスが、キングダムが存在する限りトゥーンは直接攻撃が可能デース。そしてキングダムが存在する限り、トゥーン達は無敵デス! 戦闘で破壊されても効果によって破壊されても――、」
そこで一度言葉を切り、キャサリンはデュエルを観戦しているクラスメイト達を軽く見渡して、パンと手を叩いた。
「それでは皆サン、ご一緒にぃ――…トゥーンだから平気デース!」
原作における有名な台詞が出た事で、どっと吹き出す声がする。しかし実際に彼女と戦っている西希だけは、とても笑える心境に無かった。
トゥーン達をあらゆる破壊から守る《キングダム》と、二体並んだ上級トゥーン。それらは単純ながら鉄壁の防御と恐るべき火力を有し、西希を威圧している。一ターン目の行動としては、あまりに容赦のない布陣と言えた。
(レッドアイズとブラマジはトゥーン特有の自壊効果を持ってへんから、キングダムを除去しても一緒に破壊される事は無い……と言って、何とかせえへんと今度はトゥーン特有の直接攻撃が待ってる、か…)
冷静に状況を分析しながら、西希は早くも自分が窮地に立たされている事を悟る。更にキャサリンはターンを続けた。
「最後に私は二枚のカードをセットしてー、ターン終了デース!」
彼女は残った手札を全て場に出し、ターンを終了させる。
恐らくは《キングダム》を守る為のカードだろう。トゥーンモンスターはもちろん、この二枚も警戒する必要がありそうだった。
「トゥーン・キングダム」 フィールド魔法
効果:(1):このカードの発動時の効果処理として、自分のデッキの上からカード3枚を裏側表示で除外する。
(2):このカードのカード名は、フィールドゾーンに存在する限り「トゥーン・ワールド」として扱う。
(3):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分フィールドのトゥーンモンスターは相手の効果の対象にならない。
(4):自分フィールドのトゥーンモンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに破壊されるモンスター1体につき1枚、自分のデッキの上からカードを裏側表示で除外できる。
「
闇属性 ドラゴン族 ☆1
攻撃力0 守備力0
効果:「伝説の黒石」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードをリリースして発動できる。デッキからレベル7以下の「レッドアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。
(2):このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地のレベル7以下の「レッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに戻し、墓地のこのカードを手札に加える。
「レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン」 モンスター
闇属性 ドラゴン族 ☆7 トゥーン
攻撃力2400 守備力2000
効果:(1):このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚したターンには攻撃できない。
(2):自分フィールドに「トゥーン・ワールド」が存在し、相手フィールドにトゥーンモンスターが存在しない場合、このカードは直接攻撃できる。
(3):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。手札から「レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン」以外のトゥーンモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。
「トゥーン・ブラック・マジシャン」 モンスター
闇属性 魔法使い族 ☆7 トゥーン
攻撃力2500 守備力2100
効果:(1):このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚したターンには攻撃できない。
(2):自分フィールドに「トゥーン・ワールド」が存在し、相手フィールドにトゥーンモンスターが存在しない場合、このカードは直接攻撃できる。
(3):1ターンに1度、手札から「トゥーン」カード1枚を捨て、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●デッキから「トゥーン・ブラック・マジシャン」以外のトゥーンモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。
●デッキから「トゥーン」魔法・罠カード1枚を手札に加える。
「うちのターンやね、ドロー!」
ともあれ、デュエルの火蓋は切って落とされた。西希は自らを鼓舞するように声を大にし、ターンを開始する。
悲願であった新モンスターとサポートカードを得た現在、【トゥーン】は決して侮れない性能を持っている。特に火力に関しては恐ろしいものがあり、少しでも相手にペースを許してしまえば簡単にライフを削り切られてしまうだろう。
それを避ける為には、勝利する為には。こちらも火力で挑むしかない。トゥーンが無敵だと言うのなら、それすら凌駕する程のパワーで踏み潰してやるだけの事だ。
そう判断し、西希が手札に手を掛けた時。キャサリンは二枚の伏せカードのうち一つを翻した。
「レッドアイズを対象に永続罠カード、
「うっ…!」
追い打ちを掛けるように発動されたのは、本来はドラゴン族のサポートカードである永続罠。
これにより西希は攻撃力の低いモンスターの特殊召喚すら封じられた。対象となった《レッドアイズ》を除去すれば拘束は解けるが、その《レッドアイズ》が《キングダム》で守られているのが厄介だ。
何処までも徹底された布陣。思わず西希は唇を噛むが、すぐに突破口を思い付き、にやりと口元に笑みを浮かべる。
「キャシー、うちにその戦術は効かへんよ。手札から、ハイパーハンマーヘッドを召喚っ!」
「オゥ…!?」
西希が場に出したのは、戦闘を行った相手を持ち主の手札に戻す効果を持った恐竜族モンスター。イラストにはその名の通りハンマーの形状をした筋骨隆々の恐竜が描かれており、下級モンスターとは思えぬ程のインパクトを放っている。
攻撃力こそ《レッドアイズ》には遠く及ばないものの、どんな強力なモンスター相手にもバウンスを狙える効果はシンプルながら強力で、状況次第では思わぬ活躍を見せる事が多い。そして、今も。
「うちのバトルフェイズ! ハイパーハンマーヘッドで、レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンに攻撃! ハイパーハンマーヘッドは破壊されるけど、レッドアイズには手札に戻ってもらうで!」
「ムムム…。ハンマーヘッドの効果は対象を取らない効果デスから、キングダムでは防げない……そしてレッドアイズが手札に戻ると言う事は――、」
「対象を失った竜の束縛も破壊されるって事やねっ」
ダメージこそ負ったものの、《レッドアイズ》はキャサリンの手札に戻り、目の上のたん瘤になるかと思われた《竜の束縛》も即座に墓地へ送られる。
キャサリンの場にはまだ《ブラック・マジシャン》が残っているが、今は《レッドアイズ》を除去できただけで上出来だ。西希は心の内でガッツポーズを取ると、次はどう行動すべきかと手札に視線を落とす。
《竜の束縛》を取り除いたとは言え、キャサリンの場に《キングダム》が健在である以上、トゥーンの脅威は去ってはいない。次のターン確実に攻撃が飛んでくる事も含め、どうにかしなければならなかった。
…いや。実の所、どうにかする事はできるのだ。西希の手札には相手の魔法・罠カードを破壊する効果を持つ《サイクロン》が握られており、これを発動すれば――キャサリンが妨害しないとは限らないが――《キングダム》を破壊する事は可能なのだ。
しかし、西希は動かない。手元の《サイクロン》と場の《キングダム》を交互に睨みながら、次いでキャサリンの手札に目を向ける。
(トゥーン・ブラック・マジシャンは手札のトゥーンカードを捨ててデッキから新しいトゥーンカードを引っ張ってくる効果…。仮にこのサイクロンでキングダムを破壊できたとしても、手札に戻ったレッドアイズをコストに二枚目のキングダムをサーチされるのは確実やね。なら、ここはいっそ…)
考えた末、西希は手札から二枚のカードを場にセットし、ターンを終了する。その中には《サイクロン》のカードも含まれており、彼女がこのターンでの使用は不利になると判断した事を示していた。
「竜の束縛」 永続罠
効果:自分フィールドの攻撃力・守備力が2500以下のドラゴン族モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、お互いに対象のモンスターの元々の攻撃力以下のモンスターを特殊召喚できない。
(2):対象のモンスターがフィールドから離れた時にこのカードは破壊される。
「ハイパーハンマーヘッド」 モンスター
地属性 恐竜族 ☆4
攻撃力1500 守備力1200
効果:このモンスターとの戦闘で破壊されなかった相手モンスターは、ダメージステップ終了時に持ち主の手札に戻る。
「サイクロン」 速攻魔法
効果:(1):フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。
【西希】
LP:8000→7100
「今のハイパーハンマーヘッドの攻撃はとてもナイスだったデスよ西希! デスが、私のトゥーンは永遠に不滅デース!」
言いながら、キャサリンは新たなカードをドローする。
この時点で彼女の手札は二枚。そのうち一枚は先程手札に戻った《レッドアイズ》だが……キャサリンはそれを躊躇なく墓地へ送った。
「手札のレッドアイズを捨てて、ブラック・マジシャンの効果発動デス! デッキからトゥーンのもくじを手札に加えマスよー!」
「ぐっ…」
厄介なカードを、と内心毒づきながら、西希はキャサリンが提示したカードを睨む。
《トゥーンのもくじ》はその名の通りトゥーン専用のサポートカードで、「トゥーン」と名のついたカードをデッキからサーチする効果を持つ。言わば《ブラック・マジシャン》の効果の魔法カード版だ。
これが彼女の手札にある限り、彼女はいつでも《キングダム》や状況に適したカードを手札に呼び込む事ができる。敢えてサーチカードをサーチしたのは、西希のデッキがわからない為に慎重を期したという事だろう。あるいは《ハイパーハンマーヘッド》の件が呼び水となってキャサリンの警戒を招いたのかも知れないが、それを論じる意味はあるまい。
「そしてさらに、伝説の黒石のもう一つの効果を発動しマスよー! 墓地に送られたレッドアイズ・トゥーン・ドラゴンをデッキに戻して、黒石を手札に戻しマス!」
手札コストとして捨てられた《レッドアイズ》が彼女のデッキに戻り、《伝説の黒石》が再度彼女の手札に加えられる。
これで彼女は《伝説の黒石》の効果を用いて《レッドアイズ》を特殊召喚する事が可能になった。二つの効果を同一ターンに使用する事はできないのでこのターンは問題ないが、いつでも上級モンスターを特殊召喚できる状態である意味は大きい。
気が付けば、キャサリンの手札は三枚。彼女は楽しそうな笑みを浮かべ、さらに一枚のカードを展開した。
「まだデスよ西希! 手札からベリー・マジシャン・ガールを召喚して、効果発動! デッキからトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを手札に加えマース!」
キャサリンの行動は続く。彼女は再度デッキを広げ、その中から一枚のカードを選び、自信満々に提示した。
「確認はOKデスねー? ベリー・マジシャン・ガールをリリースして、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを特殊召喚デス!」
効果を使い終えた《ベリー・マジシャン・ガール》を墓地へ送り、たった今手札に呼び込んだばかりのカードがキャサリンの場に召喚される。攻撃力は2000ポイントとやや低めだが、厄介なトゥーンが更に増えた形だった。
《ブラック・マジシャン》と《ブラック・マジシャン・ガール》。トゥーン化した魔術師師弟が場に並んだ事で、周囲から感嘆の声が上がる。西希とて、この二枚のカードが並んだ光景には表情を崩さざるを得なかった。
が――、そこに。
「バトルです! まずはブラック・マジシャン・ガールで、西希に直接攻撃しマスよー!」
そこに、容赦のない攻撃宣言が飛んでくる。
《キングダム》と伏せカードで備えているからか、キャサリンの声に躊躇いは無い。西希の伏せカードを物ともせずに攻め入って来た。
しかし、西希は伏せカードを発動させる事も無く、彼女の攻撃をすんなりと通した。当然彼女のライフは多大なダメージを受け、5100ポイントにまで低下する。
「攻撃を通すデスか? なら、続けてブラック・マジシャンで攻撃デス!」
続けて《ブラック・マジシャン》の攻撃が宣言されるが、西希はこれもあっさりと通した。ライフは2600ポイントにまで低下し、早くも追い込まれた形となるが――…ここに来て、キャサリンの顔から笑みが消えた。
「ムム、ム…。伏せカードを使わないデスか。怖いデスねぇ……メインフェイズ2に魔法カード、トゥーンのもくじを発動しマス!」
守る姿勢を見せない西希の様子に嫌なものを感じたのだろう。彼女は温存するかと思われた《もくじ》を発動し、再びデッキを扇状に広げた。
「……OK、ありまシタ。私がサーチするのはトゥーンのかばん! このまま場にセットして、ターンエンドです!」
彼女が手札に加えたのは、場にトゥーンが存在する事で発動する通常罠カード。相手が場に出したモンスターをデッキに戻す効果があり、発動条件こそあるものの《奈落の落とし穴》と違って対象範囲は存在しないため、比較的扱いやすいカードである。
これを場に出したという事は、西希が何かしらのモンスターを召喚して反撃するつもりであると彼女は読んだのだろう。仮に思惑が外れたとしても、この状況で持て余すようなカードでは無い。キャサリンの判断は間違ってはいなかった。
ただ一つ誤算があるとすれば、西希の場に《トゥーンのかばん》を破壊できる《サイクロン》が伏せられている点であるが……ここでも西希は動かない。じっとキャサリンの場を見つめながら、続く自分のターンを開始した。
「トゥーンのもくじ」 通常魔法
効果:(1):デッキから「トゥーン」カード1枚を手札に加える。
「ベリー・マジシャン・ガール」 モンスター
地属性 魔法使い族 ☆1
攻撃力400 守備力400
効果:(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「マジシャン・ガール」モンスター1体を手札に加える。
(2):1ターンに1度、このカードが相手の効果の対象になった時、または相手モンスターの攻撃対象になった時に発動できる。
このカードの表示形式を変更し、デッキから「ベリー・マジシャン・ガール」以外の「マジシャン・ガール」モンスター1体を特殊召喚する。
「トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール」 モンスター
闇属性 魔法使い族 ☆6 トゥーン
攻撃力2000 守備力1700
効果:このカードは通常召喚できない。
自分フィールドに「トゥーン・ワールド」が存在し、自分フィールドのモンスター1体をリリースした場合に特殊召喚できる。
(1):このカードの攻撃力は、お互いの墓地の「ブラック・マジシャン」「マジシャン・オブ・ブラックカオス」の数×300アップする。
(2):相手フィールドにトゥーンモンスターが存在しない場合、このカードは直接攻撃できる。存在する場合、トゥーンモンスターを攻撃対象にしなければならない。
(3):フィールドの「トゥーン・ワールド」が破壊された時にこのカードは破壊される。
「トゥーンのかばん」 通常罠
効果:(1):自分フィールドにトゥーンモンスターが存在し、相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動できる。
そのモンスターを持ち主のデッキに戻す。
【西希】
LP:7100→5100→2600
「よーし、うちのターン!」
ライフこそ大きく削られたものの、西希の声は未だ死んでいない。彼女は新たにカードをドローすると、警戒を露わにするキャサリンに真向から向き合った。
「いくでキャシー! リバースカード、サイクロンを発動や! 厄介なトゥーン・キングダムを破壊する!」
ここで漸く《サイクロン》を発動し、《キングダム》を狙う。キャサリンは一瞬躊躇したような仕草を見せた後、一ターン目から伏せていたカードを発動させた。
「…カウンター罠、魔宮の賄賂を発動しマス! サイクロンの効果を無効にし、キングダムの破壊をガードです!」
当然と言えば当然だが、キャサリンが伏せていたのは《キングダム》を守る為の防御カード。
その効果により《サイクロン》の効果は無効化されるが、代わりに西希は一枚ドローする事ができる為、彼女に大きな損害は無い。《キングダム》が場に留まり続ける事を除いて。
「魔宮の賄賂か…。んー、これが宣告とかやったら、このターンでうちの勝ちやったんやけど……上手くいかへんもんやね」
「ワッツ?」
にやりと笑みを浮かべる西希の言葉に、キャサリンは首を傾げる。彼女の疑問に答える代わりに、西希は手札から一枚のカードを発動させる。
「ライフを1000ポイント払って魔法カード、
呼び出されたのは、効果を持たない融合モンスター。攻撃力も下級モンスタークラスでこれと言って特徴の無いモンスターであるが、《簡易融合》で手軽に特殊召喚できる事がこのカードの長所だ。
シンクロ召喚に用いても良し、エクシーズ召喚に用いて良し。単純にリリース要員にしたり、恐竜族である事を利用するのもいいだろう。地味なモンスターながら、使い方は様々あった。
「さ、どうするキャシー。トゥーンのかばんでプラグティカルを戻してもええんよ?」
「ンーム…。ノー、ここは温存しマス。続けてくだサイ、西希」
キャサリンが首を横に振り、ターンの続行を促す。西希は手札から更に一枚のカードを出す事でそれに応じた。
「プラグティカルをリリースして魔法カード、大進化薬を発動! このカードが場にある限り、うちは三ターンの間恐竜族の上級モンスターをリリース無しで召喚できるんや!」
そして――。西希はにやりと笑みを浮かべると、手札から更に一枚のカードを選び、机の上に叩き付けた。
「いくで重量級! 手札からレベル8の恐竜族モンスター、
起死回生すべく西希が繰り出したのは、恐竜族の代名詞と言っても過言では無い完成されたモンスター。西希が最も愛用するカード、《究極恐獣》のカードだった。
攻撃力は3000ポイントと最上級モンスターとしては十分過ぎる程の高い数値を持ち、守備力も下級モンスターを難なくあしらえる程度には高め。その効果はバトルフェイズ開始時に全体攻撃を行うという攻撃的なもので、かつて「青眼の白龍を超えたのでは」と騒がれた性能は、登場から十年経った今も全く衰えてはいない。
イラストに描かれた外見も完成された美しさを誇り、見る者を魅了する。あらゆる意味で恐竜族らしさが際立つカードであった。
「この子の効果は知ってるわなぁ、キャシー。トゥーン・キングダムがある限りトゥーンを破壊する事はできひんけど、戦闘ダメージの方はきっちり受けてもらうで!」
「ノー! そうはさせまセンよ西希! 罠カード、トゥーンのかばんを発動! 召喚された究極恐獣をデッキに戻してもらいマス!」
慌てた様子のキャサリンが先程伏せたカードを発動させる。させじと、西希も伏せカードを翻した。
「永続罠カード、王宮のお触れを発動! かばんの効果を無効にするで!」
「ムム…!」
西希が発動した罠カードにより、《究極恐獣》はデッキに戻る事無く場に君臨し続ける。
このまま攻撃を行うだけでもキャサリンに少なからずダメージを与える事が可能であるが――…西希は更に一枚のカードを手に取り、場に叩き付けた。
「装備魔法カード、巨大化を究極恐獣に装備! うちのライフがキャシーより下である限り、究極恐獣の攻撃力を倍にするで!」
「攻撃力3000の倍……攻撃力、6000デスか…!」
「バトルや! 究極恐獣で、ブラマジガール、ブラマジの順に攻撃や!」
神をも凌ぐ攻撃力を手にした《究極恐獣》が、キャサリンの場を蹂躙する。
西希の言葉通りトゥーン達は破壊こそされないものの、戦闘そのものを防いでいる訳では無い。攻撃力6000と言う火力は容赦なくキャサリンのライフを削り、一瞬にして500ポイントにまで低下させた。
「オゥ、シット! …ムム、デッキの上から二枚のカードを除外して、トゥーン達の破壊を防ぎマス。やりマスね西希、こんな風にサンドバックにされるの、トゥーンの悲しい弱点の一つデス…!」
「ふふ、
心底悔しそうに頭を抱えるキャサリンに、西希は笑って答える。嫌味や皮肉で言ったのではない。こうも綺麗にダメージを与えると、無性に気持ちが良くて嬉しかった。
とは言え。キャサリンのライフが西希を下回った事で、《究極恐獣》の攻撃力は1500ポイントにまで低下する。与えたダメージに比べれば些細なものだが、僅かに残ったキャサリンのライフを《究極恐獣》で削り切る事は難しそうであった。
「うちはこれでターンエンド! さ、次はキャシーの番やで!」
「魔宮の賄賂」 カウンター罠
効果:(1):相手が魔法・罠カードを発動した時に発動できる。
その発動を無効にし破壊する。相手はデッキから1枚ドローする。
「
効果:「簡易融合」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):1000LPを払って発動できる。レベル5以下の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊される。
「プラグティカル」 融合モンスター
地属性 恐竜族 ☆5
攻撃力1900 守備力1500
テキスト:「トラコドン」+「フレイム・ヴァイパー」
「大進化薬」 通常魔法
効果:自分フィールド上に存在する恐竜族モンスター1体をリリースして発動する。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、レベル5以上の恐竜族モンスターをリリースなしで召喚する事ができる。
「
地属性 恐竜族 ☆8
攻撃力3000 守備力2200
効果:自分のバトルフェイズ開始時にこのカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、このカードから攻撃を行い、相手フィールド上に存在する全てのモンスターに1回ずつ続けて攻撃しなければならない。
「王宮のお触れ」 永続罠
効果:(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、このカード以外のフィールドの全ての罠カードの効果は無効化される。
「巨大化」 装備魔法
効果:(1):自分のLPが相手より少ない場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる。
自分のLPが相手より多い場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の半分になる。
【究極恐獣】
攻撃力:3000→6000→1500
【西希】
LP:2600→1600
【キャサリン】
LP:8000→4000→500
「OK、私のターンです!」
続いてキャサリンのターン。追い込まれて尚彼女の目には諦めの色は無く、ドローしたカードを確認すると、落ち着いた様子で西希の場を確認した。
(
心の内で冷静に状況を分析しながら、しかし、キャサリンの自信は崩れない。
大きくライフを削がれたとは言え、西希のライフも残り僅かだ。二体のトゥーンのうちどちらかの直接攻撃が通れば、それでデュエルは勝利に終わる。西希の場にもう伏せカードは無い事を含め、状況はまだまだ彼女に有利だった。
が、ただ一つ。気掛かりなのは、西希の手札が一枚残っている事と、彼女の顔に笑みが浮かんでいる事だ。このまま素直に負けるつもりは無いという事だろう、キャサリンはこちらも嬉しそうに唇を吊り上げ、彼女の黒い瞳を見つめ返した。
「受けて立ちマスよ西希! まずはトゥーン・ブラック・マジシャンで、究極恐獣に攻撃デス!」
決断したキャサリンは、西希へのトドメよりも先に《究極恐獣》の撃破を狙う。西希の表情からまだ何か手を打ってくると感じた彼女は、決着を急がず慎重に相手の戦力を削ぐ事にしたようだ。
高い攻撃力を誇る《究極恐獣》も《巨大化》によって攻撃力が縮小されては《ブラック・マジシャン》の敵では無く、成す術無く破壊される。
これで西希の反撃の要、《究極恐獣》は撃破した。もはや彼女の場にモンスターは無い、間髪おかずキャサリンは動いた。
「トドメです! トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールで、直接攻撃しマスよ!」
もう一体のトゥーンに指令を発し、僅かに残されたライフを削り取りに入る。西希は「させへん!」と声高に応じ、最後の手札を場に叩き出した。
「手札のバトルフェーダーの効果発動や! このカードを特殊召喚して、バトルフェイズを終了させる!」
「ッ――!」
やはりか。何処か予期していたキャサリンは、不利な状況にも関わらず口元を吊り上げる。
だが、問題は無い。彼女は「チッチッ」と口を鳴らして指を振り、次の手を打った。
「まだデスよ西希! メインフェイズ2に手札から伝説の黒石を召喚して効果発動! デッキからレッドアイズ・トゥーン・ドラゴンを特殊召喚しマース!」
手札に戻した《黒石》を経由し、トゥーン化した《レッドアイズ》が再度場に呼び出される。それを見て、今度は西希が険しい顔をした。
「レベル7のブラック・マジシャンとレッドアイズで、エクシーズ召喚デス! 私のエクストラデッキからランク7、幻獣機ドラゴサックを特殊召喚しマス!」
二体のトゥーンを踏み台に現れる、黒いカード枠のモンスター。「幻獣機」と言うトゥーンとはまた別のカテゴリに所属するカードだが、使用デッキを選ばない高い汎用性を持つ。
「エクシーズ素材となったレッドアイズを墓地に送って、ドラゴサックの効果を発動デス! 私の場に二体のトークンを特殊召喚、さらにこのトークン一つをリリースして、西希の場の大進化薬を破壊しマスよ!」
「うぐっ…。進化薬を狙われたかぁ…」
その汎用性を遺憾なく発揮し、キャサリンはトークンを並べつつ、脅威となり得る《大進化薬》をも排除する。
これで西希の場に残ったのは《バトルフェーダー》と《王宮のお触れ》のみ。このターンでの決着こそ阻まれたものの、更に西希を追い込んだ形だった。
「ターンエンド! 西希のターンです!」
「バトルフェーダー」 モンスター
闇属性 悪魔族 ☆1
攻撃力0 守備力0
効果:(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その後バトルフェイズを終了する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
「幻獣機ドラゴサック」 エクシーズ
風属性 機械族 ランク7
攻撃力2600 守備力2200
効果:レベル7モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
自分フィールド上に「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)2体を特殊召喚する。自分フィールド上にトークンが存在する限り、このカードは戦闘及びカードの効果では破壊されない。
また、1ターンに1度、自分フィールド上の「幻獣機」と名のついたモンスター1体をリリースして発動できる。フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
【西希】
LP:1600→600
「うちのターン!」
辛くも攻撃を凌いだとは言え、西希の置かれた状況は厳しい。
《究極恐獣》が撃破されたのは仕方ないとして、《大進化薬》を破壊されたのは明らかに痛手だ。仮にここで二枚目の《究極恐獣》を引いてこれたとしても、召喚できなければ意味が無い。
一方で、キャサリンの場にはトゥーンも《キングダム》も健在。もはや後が無い状況だった。
だが。そんな窮地に追い込まれても、西希はまだ挫けない。ドローしたカードを確認すると、グッとガッツポーズをしてそのカードを発動した。
「魔法カード、化石調査を発動や! うちのデッキからレベル6以下の恐竜を一枚手札に加えるで!」
ここに来て彼女が引いたのは、恐竜族専用のサーチカード。発動成功を確認すると彼女はデッキを扇状に広げ、その中から一枚のカードを選んでキャサリンに提示する。
「うちが選ぶのはこの子、幻創のミセラサウルス! 手札に加えて、さっそく効果を発動するで!」
「ミセラ、サウルス…?」
「せや! これでこのメインフェイズ中、うちの恐竜は相手の効果を受けへんよ! そして墓地で発動する効果も発動――、」
「ス、ストップです西希! そのカード、私知りまセン!」
驚いた表情を浮かべたキャサリンが、慌てて西希に「待った」を掛ける。一気に勝負を決めようとした矢先、突然ターン進行を中断させられた西希は、目を丸くしてキャサリンの顔を見返した。
「え…? このカード知らへんの?」
「イエス、イエス、見た事ないカードです。なので、テキストを教えてくれまセンか? 日本のカードテキスト、まだ完璧には読めないデスよ」
「ん、ええよ。…えーと、ミセラサウルスには二つの効果があって、一つはお互いのメインフェイズに発動する手札誘発効果。このカードを捨てる事で、そのメインフェイズ中は自分の恐竜族モンスターは相手が発動した効果を一切受けへんの」
デュエルの熱が引いていくのを感じつつ、西希はなるべくわかりやすいように《ミセラサウルス》の効果を説明する。キャサリンは真面目な表情で頷きながら、相槌を打っていた。
「で、二つ目の効果は墓地で発動する起動効果。このカードを含む自分の墓地の恐竜族モンスターを好きな数除外して、除外した数と同じレベルの恐竜族モンスターをデッキから特殊召喚できるんよ」
「ふむふむ…。特殊召喚したモンスターにデメリットはあるデスか?」
「んーとね、エンドフェイズに破壊されるリスクがあるくらいやね。あと、この特殊召喚する効果は1ターンに1回しか使われへんよ」
「OK、理解デス。私恐竜デッキは使わないので良くわかりまセンが、なかなか便利そうなカードですネ。これ一枚で恐竜モンスターを除去から守れマスし、リクルート効果の方も、ディノインフィニティとコンボすれば恐ろしい事に……」
言いかけて、キャサリンは気付く。
「Oh……。ひょっとして?」
キャサリンの問い掛けに西希はにかっと笑って応じ、扇状に広げたデッキから一枚のカードを選択する。それはキャサリンが予測した通り、《ミセラサウルス》の効果と相性が良いカードであった。
「墓地のミセラサウルスと恐竜三体を除外して、ディノインフィニティを特殊召喚! ディノちゃんの攻撃力は除外された恐竜族モンスター一体につき1000ポイント上昇するから、今の攻撃力は4000ポイントや!」
繰り出された一枚は、攻撃力意外に取り柄は無いものの容易に高攻撃力を叩きだす事ができる恐竜族の隠し玉。その数値は西希の言葉通り4000ポイントと高く、《ミセラサウルス》の効果がこれ以上ないほど噛み合った結果と言える。
そして今、キャサリンの場には《ディノインフィニティ》の攻撃を止められるカードは無い。噛み合った歯車は激流を生み、決河の勢いとなって西希に味方したのだ。
「これでラストや! ディノインフィニティで、ブラマジガールに攻撃ッ!」
勢いのままに下された攻撃命令が、攻撃表示であった《ブラック・マジシャン・ガール》を狙う。攻撃は――、通った。
二体のモンスターの攻撃力差2000ポイントのダメージが、僅かに残っていたキャサリンのライフを0にする。それは同時に、このデュエルの決着を意味していた。
「――よっしゃ! うちの勝ちや、キャシー!」
「っ~~! オーマイガ! オーマイガァ~!」
勝者となった西希は立ち上がってガッツポーズし、敗れたキャサリンは心底悔しそうに頭を抱える。それでも二人とも楽しそうに見えるのは、僅差での決着だったからだろう。
ともあれ、決着はついた。二人は暫く勝負の余韻に浸った後、互いに健闘を称え合う。昼休み終了のチャイムが鳴ったのは、直後の事であった。
「幻創のミセラサウルス」 モンスター
炎属性 恐竜族 ☆4
攻撃力1800 守備力1000
効果:「幻創のミセラサウルス」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分・相手のメインフェイズにこのカードを手札から墓地へ送って発動できる。そのメインフェイズの間、自分フィールドの恐竜族モンスターは相手が発動した効果を受けない。
(2):自分の墓地からこのカードを含む恐竜族モンスターを任意の数だけ除外して発動できる。除外したモンスターの数と同じレベルの恐竜族モンスター1体をデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。
「ディノインフィニティ」 モンスター
地属性 恐竜族 ☆4
攻撃力? 守備力0
効果:(1):このカードの元々の攻撃力は、除外されている自分の恐竜族モンスターの数×1000になる。
【ディノインフィニティ】
攻撃力:?→4000
【キャサリン】
LP:500→0
――――――
―――――
――――
「ふー、今日はなんか疲れたなぁ…」
放課後。一日の授業を終えた西希は、校舎入り口の下駄箱で上履きを脱いでいた。
朝は知由やみゆきと一緒に登校していた彼女だが、今は二人の姿は無い。みゆきは日が暮れるまで校庭で男子とサッカーをして遊ぶのが日課であるし、知由は知由で友達とお喋りしている為、帰りは一人である事が殆どだった。
もちろん、帰る方向が同じ生徒もチラホラ居るので一人で帰るとしても危険は無い。ただ、家までの距離を話相手も無しに歩くのが少し寂しく感じるだけだ。
と、そこへ。
「ハーイ西希、一緒に帰りまショウ!」
新品のランドセルを背負ったキャサリンが、パタパタと走って来て声を掛けてきた。
聞けば、彼女はまだこの辺りの道や建物等を完全に記憶している訳では無いらしく、なるべく一人で帰るのは避けたかったらしい。そこでクラスの人間に自分の家の住所を伝えたところ、それなら西希の家が近いから一緒に帰ってはどうか……と返って来たそうだ。
実際に住所を聞いてみると、確かに西希の家と近い。途中までは一緒に歩いて帰れそうではあった。
「うちは別にええけど…。道がわからへんのやったら、先生に着いて来てもろた方がええんちゃうの?」
「ノンノン、ティーチャーは仕事で忙しいデスっ。それにティーチャーと帰るより西希と帰った方が楽しそうデスし」
「そ、そお?」
にこっと笑うキャサリンに、西希は照れくさそうに髪を掻いた。
どの道断る理由も無かったので、西希は二つ返事で彼女の提案を受け入れた。互いに靴を履き替えた後、グラウンドの端を回り込むように歩いて、校門から外に出る。西希にとっては通い慣れた道であるがキャサリンには新鮮な風景の連続だったようで、周囲の建物や交差点を興味深そうに眺めていた。
「…そうや。なあキャシー、一つ聞いていい?」
「オゥ? なんデスか西希?」
「さっきキャサリンが使ったデッキ、トゥーンやろ? やっぱりアメリカではトゥーンが人気なん?」
何気なく抱いた疑問をぶつけてみると、キャサリンはにやりと笑みを浮かべて、「チッチッ」と指を振った。
「別にそこまで人気ある訳じゃないデスよ? 実を言うとデスね……本当は私、トゥーンじゃなくて
「えっ…? じゃあ、なんでそっち使わんかったん?」
「アメリカ人の私がトゥーンデッキを使ったら、日本の方は喜んでくれると思ったデスよ。トゥーンは漫画ではアメリカ人のペガサスが使用したデッキですカラね。実際、盛り上がったでショウ?」
思い掛けないキャサリンの告白に、西希は絶句する。
てっきり好みで使っているとばかり思っていた【トゥーン】が、実際は日本人受けを狙ったものだったと言うのだ。西希が反応に困るのも無理は無い。しかし言われてみれば、キャサリンが【トゥーン】を使った事で場が盛り上がったのも事実だった。
「はぁー…。色々考えてたんやねぇ」
「デスよー。ところで、西希の方こそどうして恐竜デッキを使ってるデスか? 日本の方、六武衆や忍者デッキか霊使いデッキを使うイメージがあったのデスけれど」
「うち? …んー、火力で攻める戦術が好きなのと……単純に恐竜が好きやからかな」
そう言うと、キャサリンは「そうなんデスか?」と小首を傾げる。西希は目を細めながら、「うん」と小さく返した。
「だって
「ほうほう」
「ちなみにうちはパッキーが一番好きかなー。わざわざ頭突きで攻撃するとこが超可愛えんよ~」
「パ、パッキィ…?」
「パキケファロサウルスっ。二足歩行できるタイプの恐竜で、そこそこ脚が速かったらしい恐竜やで。見た目もまさに恐竜って感じでええんよ。パッキー可愛えよパッキー」
「オ、オゥ…?」
まさかここまで熱意ある答えが来るとは思わなかったのだろう。キャサリンは困惑した表情を浮かべて、ふわふわとした表情で語る西希の顔を見返した。
「
「えっ? ニッポノサウルスがなんやって?」
「…イ、イエ。日本の方と言ったデス」
気が付けば、最初の頃とは打って変わって、キャサリンの方が西希の勢いに呑まれつつある。
仲良くなれる気がする。恐竜について熱く語り始めた西希の横顔を眺めながら、キャサリンはそう思った。
――――――
―――――
――――
かくして、小阪 西希のクラスにはキャサリン=ライスランドと言う新しい仲間が加わった。
人種の違いもあってクラスに馴染むには少し時間を要したが、数日もすれば彼女はすっかり日本の学校に溶け込み、他の生徒とも自然に付き合えるようになっていた。
「グッモーニングみゆき、知由! …おや? 今日は西希は一緒じゃないのデスか?」
「よーキャサリン。西希の奴なら忘れ物したっつって一回家に帰ってったぜ。ま、あいつの事だから遅刻はしねーと思うけどな」
「西希ちゃん、足早いもんね~。…あ、おはよーキャシーちゃん」
数日後の朝。下駄箱近くで出会ったキャサリン、みゆき、知由の三人は、談笑しながら教室へと向かう。
昨日見たテレビの事、好きな芸情人の事。話題は何て事はないものであったが、仲の良い相手とただ喋っているだけでも楽しいものだ。ましてや女子が三人ともなれば、会話も弾もうというものだった。
やがて三人は教室に着き、それぞれ授業開始の準備をする。その際も、会話は止まらなかった。
「ふわぁぁ……うー、
「オゥ、どうしたデスかみゆき? 夜更かししてアニメでも見たデスか?」
「いや、別にそうじゃねーんだけどな。やっぱほら、
「イエス、確かに。そう言えば私も
「だろー?」
二人して瞼を指で擦っていると、教室の扉が勢いよく開く。そこには息を切らせた西希が、目を輝かせながら立っていた。
「ぜぇ、ぜぇ……
「してねーよそんな話」
一瞬で一蹴される西希を見て、キャサリンと知由は思わず吹き出してしまう。西希は「なんでやなんでや!」と両腕をぶんぶん回して抗議した後、すぐに三人の輪の中に入った。
「おはよキャシー! 知由ちゃんとみゆきちゃんはさっきぶり!」
「ハロー西希。忘れ物は取って来れマシたか?」
「もち! うちの足はドロミケイオミムスより速いから、あっと言う間や!」
「ドロミ…? ドラえもんの妹デシたっけ?」
噛み合わない二人の会話に、今度はみゆきと知由が揃って吹き出す。
何処も特別では無い、平凡な日常。それはこれからも続いていくし、彼女達の掛け替えのない財産になっていくのだろう。
教室の窓から差し込む太陽の光が、彼女達の日常を暖かく照らしていた。
たまには違う遊戯王小説も書いてみようと思い立ち、新小説を投下してみました。
こちらは一話完結物スタイルで、これと言ってストーリーも無ければ目的のようなものもありません。また更新も気紛れ更新になるかと思いますが、その分、変わった話や奇妙な話になるかと思います。
この物語には決闘盤が無いので、テーブルデュエルのみとなります。これはテーブルデュエルだからこそ出来る話を書こうという思いからの判断であり、断じて、決して、モンスター描写を省いて楽しようという魂胆がある訳ではございません。
それにしても今回のデュエル、《サウザンド・アイズ・サクリファイス》が出たり、《トゥーン・マスク》で《究極恐獣》がトゥーン化したりする展開を書きたかったのですが、想定以上に二人のデュエルが早く終わったのでやりたかった事があまり出来ず不完全燃焼気味です。(´・ω・`)
そんな訳で、今後もご愛読頂ければ幸いです。第二話は闇のゲームにテーマを置いた話になる予定ですー。