ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.10:陣地構築

                      

 上陸作戦開始後10時間、キール上空を巡回していた宮藤芳佳は言葉を失った。眼前に広がる光景に、完全に圧倒されている。

 

「わぁ………!」

 

 ぽかんと口を大きく開け、驚愕のあまり固まっている。隣には502JFWから出向してきた雁淵ひかりもいるが、ほぼ同じ格好をしているので傍目にはすごく間抜けな光景に見える。

 

「すごく広いですッ!」

 

 

 彼女たちの後ろにいる、雁縁孝美と坂本美緒もまた、あまりの変わりように言葉を失っていた。

 

「占領からたったの4日しか経ってないのに、もう基地がこんなに……!」

 

「なんというか……これは呆れるしかないな」

 

 リベリオン軍は上陸成功後、すぐにキール郊外を要塞化。キールの周囲2キロメートルあまりを無人とし、砲兵射撃で漸減するための突撃破砕区域としていた。

 

 扶桑のウィッチたちが立っているのはキール郊外に扇状に築かれた、5キロの縦の深を持つ要塞陣地。陣地というと数列にわたる塹壕戦をイメージするが、この要塞陣地帯の構成は複数の丘陵を要塞化した陣地の繋がりである。

 

 

 それぞれの小規模陣地は上空から見ると、底辺を敵に向けた三角形の連なりで、この三角形は火力の鎖によって繋がれていた。

 

 火力発揮は基本的に陣地前面に集中されるように設計されており、主要防衛ラインから800メートル付近に砲兵の火力制圧地帯を設定し、500メートル付近を対戦車砲、迫撃砲、重機関銃などによってもっとも濃密な火力網を構成できるようにしてあった。

 

 その一方で、所々にはキルゾーンと呼ばれる撃破地帯も形成されている。これは陣地に敢えて弱点――火力の弱い場所――を作り、そこに誘い込まれた敵は逆襲せずとも撃破できるようになっている。

 

 加えて陣地火力の3割は後方にも指向できるように定められていたため、ネウロイは陣地前方を突破しても三角形の間隙で火力によって磨り潰されてしまう。

 

 

「リベリオンの連中、我々がネウロイと戦っている間に居眠りしていた訳ではなさそうだ」

 

 

 セリフこそ皮肉っぽいが、美緒は素直に感心していた。

 

 リベリオンはネウロイに地上侵攻された経験をもたないが、それに慢心せず情報収集と対策をしっかりと行っていたらしい。世界中から集められたネウロイのデータをもとに、周到な陣地構築と大量の火砲、そして強力な予備部隊がなければ防御戦闘は成立しないと承知していた。

 

 陣地正面には歩兵や迫撃砲、対戦車砲、対空砲などが置かれる一方で、後方には自走砲および対空戦車、駆逐戦車などが地面に車体を隠した状態で偽装・布陣している。

 

 それぞれの陣地はコンクリートや土嚢で可能な限り補強され、塹壕やトンネルなどの連絡線で接続されていた。

 

 これによって互いに火力支援が行えるようになり、たとえ1つの陣地がつぶれても他の陣地は変わらず火力を発揮できる。

 

 つまり、全ての陣地が潰されない限りネウロイは砲火にさらされる。地上ネウロイに対しては各陣地の隙間に誘い込むことで、そこに濃密な十字砲火を浴びせることも可能だ。

 

 

 

 陣地構築は今でも続いており、扶桑ウィッチたちの周囲でも大勢の歩兵がシャベルで塹壕を掘っている。

 

「大きい……!」

 

 感嘆の声をあげる妹のひかりに、姉の孝美が解説を加える。

 

「これでも縦深を浅くした方なのよ。一般的な縦深防御だと、この3倍ぐらいはあるんじゃないかしら」

 

 本来、縦深防御では錬度の低い部隊を前線における固定防衛戦力として配置し、錬度の高い部隊を機動予備として後方に配置することで、敵の侵入を許しても包囲されにくくしている点が特徴だ。

 

 しかしアイアン・スカイ作戦では敢えて縦深を浅くすることで、主防衛陣地の兵力と火力密度を高めている。さらに陣地規模の縮小することで工期を短縮でき、協調行動の苦手な連合軍でも容易に連携がとれるように計算されていた。

 

 

 そして火力の骨幹は、対空防御に置かれている。航空ネウロイさえ撃破すれば、残りの地上型は絨毯爆撃で一掃できるからだ。

 

 したがって大砲・機銃・機関砲の主たる目標は飛行するネウロイである。とはいえ機動力が低く目立つこれらの対空兵器は防御力に難があるため、見つかれば射程外からレーザーで撃破されてしまう。

 

 その弱点を補うため、リベリオン軍ではニセ陣地の構築やダミー兵器の政策も重要視された。ニセ陣地は本物と同数作るとされ、自軍の位置を欺瞞するという目的以上に、敵のレーザーを吸収するという目的もあった。

 

 

 **

 

(『アイアン・スカイ』作戦の第一段階成功を受け、明々後日には第二段階へと移行するというのが上層部の考えだ。ゆえに保有するすべての戦力を要塞陣地帯に集中させ、反撃してくるであろうネウロイを十字砲火によって殲滅する……)

 

 陣前減滅――つまりは水際防御で、火力を第一線に集中させ陣前で撃破する防御戦術だ。

 

(まるで博打だな。これは……)

 

 美緒の胸に懸念が渦巻く――全ての火力を第一線に集中させるということは、一度でも突破されれば全部隊が無防備な背後をさらけ出すことになる。

 

 

 だが、司令部の方針が間違っているとも思えなかった。時間が限られている以上、広大な面積を必要とする縦深防御のための陣地を構築しているヒマはない。

 

 小型ネウロイによる多少の浸透には目を瞑っても、脅威度の高い大型ネウロイを撃破するために火力を集中すべしという理屈にも合理性がある。

 

(縦深防御では、陣地同士の連携が重要になる。バラバラな連合軍でそれをやっても、かえって混乱が大きくなるだけか……)

 

 奇襲にて敵の機先を制することを重視する扶桑軍人の目から見れば、リベリオン軍の防御戦術はあまりに受動的で物量に頼っているように見える。しかし戦機を看破した逆襲ほど、将兵の錬度を要求されるものはない。

 

 およそ常備軍など存在しないに等しかったリベリオン軍では、いわば兵も将も素人同然。だからこそリベリオン軍幹部は陣地防衛部隊の最小単位を中隊とし、独自で防御戦闘が完結できるようにした。錬度の低い指揮官は大人数を掌握することが困難だからだ。

 

 その一方でリベリオン軍は小隊レベルにまで無線機が配備されており、上級指揮官は司令室に居ながらリアルタイムで戦場全体の戦況を把握できるようになっていた。豊富な物量と高い工業力、最新テクノロジーというリべリオンの強みで、実戦経験の少なさという短所を補うという事なのだろう。

 

(とはいえ、ネウロイ戦では何が起こるか分からんからな。我々ウィッチ隊は予備兵力として温存されることになっているが、時間の許す限り全員みっちり訓練させておこう)

 

 とりあえずはお手並み拝見――自分たちとは真逆の戦い方を粛々と進めていくリベリオン軍に対して、坂本美緒は期待半分・疑い半分といった眼差しでその実力を見極めることにした。

 

 




 陣地づくりを舐めたらいけません。ちゃんと作っておけばネウロイから隠れる事もできます。OVAでそう学びました。
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