ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.17:無敵の第8航空軍

                         

 リベリオン軍は各種の高射砲や対空機銃などを組み合わせて、強力な防空網を作り上げていた。

 

 ドゥーリットルがキール周辺に展開した対空部隊は、高・中空域を標的とする88mm高射砲、低空域をカバーする対空連装砲、中・低空域のネウロイを狙うボフォースおよび自走対空砲を組み合わせて濃密な火線を形成し、飛来したネウロイを高度に関わらず撃墜していった。

 

 

 この防空網では、射程の異なる各種の対空兵器がお互いの担当空域を組み合わせるように配備されており、これらの迎撃を避けて低空に逃れても、今度は自走式高射機関砲や、兵士が肩に担いで撃つ方式のフリーガーファウストに捕捉されるようになっていた。

 

 

 さらに高空から飛来する敵機には更に高高度を飛行可能な爆撃機による絨毯爆撃、中空に対してはレーダーと連動した長射程の対空砲火、低空の敵機には戦車やトラックの車体に小型レーダー照準の連装機関砲を載せた対空戦闘車両、これらによって航空ネウロイを火力で圧倒する……。

 

 

 なかでもカールスラント軍が開発しリベリオン軍がライセンス生産したヘンシェル Hs 293やヴァッサーファルなどの地対空ミサイルは特に強力で、文字通り重層的な傘となってリベリオン軍を守った。

 

 

 これこそが、ドゥーリットル中将が満を持して送り出した秘策――『コンバット・ボックス』だ。リべリオンはこの「コンバット・ボックス」によって、無敵だったはずの航空ネウロイをまるで射的の的のように次々に撃ち落してしまったのである。

 

 

 これは安全な後方国家の特徴である「十分な補給」が受けられる状況だからこそ可能な火力戦であり、物量戦であった。

 

 

 **

 

 

 だが、コンバット・ボックスの利点はそれだけではない。

 

 「通常兵器でネウロイ戦を代替可能」という状況は、それだけウィッチの負担が軽くなることを意味する。

 

 ウィッチの負担が減るという事は、それだけ未熟なウィッチが生き残れるという事でもある。

 これによって未熟なリベリオンのウィッチの被害を抑えつつ、長期的にはウィッチ全体の錬度を底上げする事ができた。

 

 

 加えて、政治的な事情もドゥーリットルらに味方した。

 

 「コンバット・ボックス」では大量の武器と弾薬・新兵器を必要とするため、それら兵器の受注の恩恵にあずかる財界はこぞっとドゥーリットルを支持した。

 ネウロイ戦で落ち込んでいた経済も特需によって復活するため、次の選挙に勝ちたい政治家たちからのバックアップも得られる。

 

 

 そして何より、旧来の兵器や運用をベースにしたことで、軍や兵士はポストを失わずに済む。一家の屋台骨である成人男性が職を失わずに済むということは、その背後にいる妻や子供たち、老いた両親の生活もまた安定することを意味する。

 

 ウィッチ主体のドクトリンに切り替えた欧州では旧来の軍種の統廃合や兵士のリストラが相次ぎ、一部の軍人に大きな不満が残る結果となっていたが、「コンバット・ボックス」ドクトリンの採用によってリべリオンでは両者が共存することが出来た。

 

 

 戦争で疲弊する欧州を後目に、戦争特需に沸くリベリオン合衆国は安定と繁栄を謳歌していた。リベリオンは世界で最も富める国としての立場を強化し、製造業は大量生産を行い、都市化および工業化の進展は大量の中間層を生み出し、社会は大量消費時代に入っていく。

 

 欧州からの難民と移民は兵士と労働力へと変わり、戦争に備えたインフラ建設や新技術への投資は大量生産方式と相まって中間層の生活水準を一挙に改善した。こうした“豊かな社会”は決して単なる偶然ではなかった。

 

 

 戦争とは、ただ「戦場の戦い」に勝てばいいというものではない。関係者の利害関係をまとめあげる「後方の戦い」にも勝たねばならないのだ。

 

 

 **

 

 

 ――人は皆、いつか死ぬ。

 

 

 それは名将であっても愚将であっても平等だ。人の命に限りがある以上、個人に頼った組織は個人の死とともに終焉を迎える。

 

 優秀なウィッチに頼り過ぎた国家は、頼みのウィッチの死とともに滅びる……優秀なウィッチを何人を輩出しつつも、カールスラントが欧州から追われた事実がそれを裏付けている。

 

 ドゥーリットルは愛国者として、祖国がカールスラントの二の舞になることは避けねばならない。ゆえに克服せねばならなかった。

 

 

 ―――何時でも何処でも誰でも勝利できる、そんなシステムを作り上げてみせる。

 

 

 だからこそ彼女は通常兵器によるネウロイ撃破にこだわった。ウィッチは主役かもしれないが、それに頼り切ったワンマンショーではいけない。ウィッチと歩兵、戦車、航空機、軍艦、大砲……ありとあらゆる兵器を活躍させ、どれか一つが欠けても戦える状態にする。

 

 

 この『無限の正義』作戦で、世界にそれを証明するのだ。

 

 

「優秀なウィッチに寄りかからなくとも、人類は鉄と歯車で戦えるんです……」

 

 

 ドゥーリットルは固く拳を握りながら、じっと古い写真を見つめる。もう8年以上前の、士官学校の同期たちの写真だ。

 

 

 空と戦場がウィッチのものとなった時、ドゥーリットルの周囲は失業した軍人で溢れかえった。

 

 

(そう、私たちのせいで……)

 

 

 

 ――空軍のエースでドッグファイトの名人だったイケメンの先輩は、空戦ウィッチの登場で偵察任務しか与えられていない。

 

 ――士官学校で狙撃が自慢だった可愛い後輩は、陸戦ウィッチの登場で補給トラックの運転手に配置替えとなった。

 

 ――貧しい家族への仕送りのために軍人になった生真面目な同期は、不要になった陸軍の人員整理で軍をクビにされた。

 

 そんな中、ウィッチであった自分だけが戦果を立てて出世していく……。

 

 

 ウィッチ偏重の歪な状況に不安を感じつつも、ドゥーリットルはウィッチとして武勲を立て続けた。

 

 思い返せば、自分は彼らに甘えていたのだ。かつての仲間たちは皆、いい人たちだった。自分が気負わないよう、気を使って笑顔で接してくれた。

 

 だから自分もそれに応えようと、さらなる武勲を立てた。時おり彼らが見せる哀しみと怒りに目をそむけながら……。

 

 

 気付けば、部隊の溝は修復不能なレベルまで深まっていた。ウィッチであるドゥーリットルは全てを一人で背負いこみ、歪な「たった一人の軍隊」と化していた。

 

 

 ――あんな思いはもう沢山だ。過剰なウィッチへの期待と偏重は、いずれ全員を不幸にする。軍隊とは組織であり、組織とシステムで勝たねばならないのだ。

              




 一見すると効率が悪いように見えても、リスクを分散する事は大事。優秀なベテランに頼り過ぎると、その人が辞めた時に仕事が回らなくなるのはよくあること。

 それは個人に限らず兵種でも同じで、昔のイスラエルなんかも「オール・タンク・ドクトリン」といって戦車偏重のドクトリンを使って対戦車ミサイルで大損害……なんてことがありました。
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