ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.19:崩壊する戦場

                                    

 

 突如あらわれたネウロイの巣に、現場は大混乱に陥った。

 

 急いで予備の部隊を出動させるも、数が足りない。

 

 

「前線の部隊を呼び戻せ!」

 

 

「――駄目です!ジャミングで通信が繋がりません!」

 

「ネウロイの巣が地面からとは……!」

 

 誰にも予想しえない事態であった。

 

 偵察は充分に行ったはず。報告では巣は遥か前方のひとつだけ。他の場所にあった巣が動いたという報告も届いていない。手抜きや抜かりは一切なかった。

 

 ――それでも、ネウロイは人類の努力をあざ笑うかのように状況をいとも容易くひっくり返す。

 

 まさに威風堂々、文字通り地面を切り裂いて大空へと乗り出していく。並外れた火力を存分に見せつけつつ、わずかな司令部付きの護衛を蹴散らしつつ、ネウロイは連合軍司令部に向けて傲然と前進を続けた。

 

 “巣”の威容に鼓舞されたように、次々と地面から吐き出される中小のネウロイもまた、狂喜した猟犬が主人の後を追うように突進を開始する。

 

 

 戦場は無秩序へと移行し、連合軍の勢いは完全に止まりつつあった。

 

 巧緻で理にかなった戦法が、無分別な暴力の前に粉砕されていくありさまを万人が目撃した。ドゥーリットルに薫陶をうけたプロの参謀たちでさえ、どうする事も出来ない。隊列は乱れ、通信回線は混雑して情報が整理もされないまま飛び交っていく。

 

 

 なんだ、この戦況は。なんだ、この配置は。

 

(こんなの、反則じゃないですか……!)

 

 茫然とするドゥーリットル。

 

 

 この状態はどんなシミュレーションでも想定していなかった。どうして、こうなったのだ。

 

 なぜ今になって、戦力配置図が根本から塗り替えられようとしているのか。まるでちゃぶ台返しだ。

 

 

(どうして……)

 

 

 ――完璧なシミュレーションを繰り返した。完璧な作戦と準備をした。

 

 にもかかわらず、目の前にいる人類の総力を結集した大部隊は、なすすべもなく瓦解しようとしている。

 

 

「ありえない……最新装備が、リベリオンの精鋭部隊が……」

 

 彼女の計画は破綻した。彼女の軍隊は崩壊した。

 

「ドゥーリットル司令官、命令を! このままでは全滅です!」

 

 部下の悲鳴にも、ドゥーリットルは曖昧に頷くことしかできない。

 

「被害報告を……」

 

「分かりません! 回線がパンク状態で、ノイズが酷く何も聞き取れません!」

 

 司令室は再び大混乱に見舞われていた。すでに“巣”は有視界にあり、秒速数キロで接近してきている。その凄まじいまでの存在感は、見る者すべてに多大なプレッシャーを与えた。

 

「前線の状況が分からなければ、指示など出せるはずがない!」

 

 各部隊から悲鳴じみた被害報告が次々に届けられる中、流石のドゥーリットルも今度ばかりは動揺を隠せない。部隊と作戦を再編しようにも、あまりに情報が錯綜しすぎている。この時、すでに各地の部隊は統制を失った烏合の衆と化していた。

 

「ッ………!」

 

 こんなとき、いつもならデータと損耗率から、確率論に従って機械的に処理していた。最小限の被害でリスクをマネジメントしつつ、素早く再編成とバックアップ・プランを同時稼働させて、次への余力を残していた。

 

 ――だが、それは情報あっての話。そもそも何が起こっているか分からない状況では、計算も計画も立てられない。いかにエリートいえども、目を塞がれ耳を閉じられた状態では赤子と変わらない。

 

 

 **

 

 

 元より、リベリオン軍の真の強みは物量ではなく、その情報力にある。綿密な情報収集と膨大なデータに裏付けされた、一流の情報。それを徹底的に細部まで分析した後、導き出された最適解をトップダウンで効率良く処理する―――裏を返すと、情報抜きでは目隠しされた巨人と同じなのだ。

 

 

 加えて、本作戦が多国籍の統合作戦である事もドゥーリットルに制限を加えていた。各国の利害が複雑に絡み合った本作戦の失敗は、外交問題に発展しかねない。純粋に人類の為だけを思うのではなく、母国の国益にも配慮するのが、将官たるドゥーリットルの務めだった。

 

(私は……どこかで間違えたの!?)

 

 

 **

 

 

「――中将、秘匿回線で通信が入っております」

 

 不意に割り込んできたオペレーターの声に、ドゥーリットルの表情が強張る。こんな状況で秘匿通信を回してくるような相手など、ひとつしか考えられない。

 

 ドゥーリットルはすぅと大きく深呼吸した後、覚悟を決めたように受話器をとった。

 

 

『―――――――』

 

 電話の相手は、予想通りの相手だった。冷静そのものの口調で、ドゥーリットルに指示を下す。

 

「はい。たしかに現状では計画の存続そのものが危ぶまれています。ですが既に……」

 

 抗議するような口調のドゥーリットルだったが、受話器の向こうの相手は更に強い口調で言葉を返す。ドゥーリットルは不安で蒼ざめたまま、いたたまれないように唇を噛む。

 

「そんな!? それでは話が違いますっ……!」

 

 ドゥーリットルは必死に抗議するも、段々と表情が不安げになり、直後に衝撃を受けたような顔になる。しばらく無言の沈黙を置き、ドゥーリットルは唇を噛んだ。

 

 

「……了解、しました。では、後のことはお願いします……」

 

 ドゥーリットルは口をつぐんだまま、一方的に回線を切断された電話を見つめた。屈辱感の中で、震える拳を握りしめる。

 

 

(やはりアレを使うしか、道はもう……)

                                      




 つい休日はちょっとサボってしまった……。
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