ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

20 / 34
Vol.20:閃光

                 

 塹壕で、サーニャは空を見つめていた。新たに天より舞い降りた絶望――ネウロイの巣。今まで必死にひた隠しにしてきた「死」が、現実感を伴って出現している。

 

 全く皮肉なことに、自分たちの無力さと死の現実感を前にやっと人類は団結できたのではないかと思えた。あらゆる人種、あらゆる国家の人々が固唾をのんで、心を一つにして天を仰ぎ見ている。

 

 

 配置を終えた高射砲がそこら中で、必死に対空砲火を放っている。無数の砲弾が空中で炸裂し、断続的に爆発音が轟く。

 

 今やリベリオンも扶桑もカールスラントもブリタニアも関係なく、誰もが自分に出来る最善の仕事を探している。一心不乱に弾の装填をする者、叫びながら対空機銃を乱射する者、中には手を組んで祈りを捧げる者もいた。

 

 それは戦場だけの光景でない。ヨーロッパ中の家や酒場にオフィス、空港や病院で、同じものを見守る人々の魂が共鳴した。男と女は固く手を取り合い、老人は孫を抱きしめた。

 

 しかし時は止まらない。一秒、また一秒と。

 

 滅亡へのカウントダウンが刻まれていく。

 

 

(エイラ……最後にもう一度、会いたかった)

 

 

 サーニャは、我慢していた涙が溢れるのを感じた。

 

 それを我慢しようとは思わない。こんな時ぐらい、感情をあらわにしても文句を付ける人はいないだろう。もうすぐ、全てが無に帰すのだから――。

 

 そして雷に打たれたような静寂の中………「その時」が来た。

 

 

 

 ―――――閃光――――――

 

 

 

 ヨーロッパの空に、小さな光の点が現れた。誰一人見たことのない、白く清らかな光――。

 

 そして、それは始まった。

 

 始まりの炎はそれを基点として膨れ上がり、目も眩む閃光が闇を射る。白光の筋はいくつもの輝く槍となって、天空を大気ごと貫いた。膨れ上がるにつれて明るさを増したそれは、ネウロイの巣さえも飲み込んでいく。

 

 眼がくらむ――強烈な光にさらされたサーニャは、息を飲んだ後に目を庇い、初めて経験する瞬間に本能的な恐怖を感じた。

 

 光が怒涛となって拡散し、稲妻のように甲高い悲鳴が聞こえてくる。神の力を前に敗北してゆく悪魔のように、断末魔の悲鳴を上げているネウロイたちの音だ。

 

 光芒は濃密さを増して、ネウロイの巣をどんどん抉りとっていた。光は闇すらも浄化せんとヨーロッパの夜空を照らし、昼と夜が逆転する。

 

 まるで神話の再現のように非現実的な光景――いにしえの天地創造の瞬間が、まさに目の前で起こっているのだ。

 

 

 ――それは奇蹟であり、まさしく神の力であった。

 

 

 人類の英知は、ついに神の領域に達したのだと。全ての人間がそう感じただろう。

 

 現に眼前で、彼らはそれを目撃しているのだから。自らの力で天を作り、大地を変えた。光を放って昼と夜を逆転させた。

 

 

 続いて深く鈍い衝撃――地震を思わせる衝撃波が、遅れて上空から轟いた。それは人智を超えた神の怒りのようで、ヨーロッパの大地は文字通り震え上がった。

 

 兵士たちは息を奪われ、足をふらつかせて後退る。轟音が轟き、熱風が押し寄せる。爆風が大地を駆け巡り、塵が頭上に巻き上がる中、彼らは身を寄せ合った。

 

 

 全てが光で白く染まるのではないか……そう思えるほど閃光が極限まで達した時、それは意外なほどあっけなく消えていった。

 

 まばゆい輝きを放っていた光の筋が、ゆっくりと粒子レベルまで分解されていく。そして最後の光が消えた時、人類は目撃した。

 

 

 

 ――新たに誕生したネウロイの巣が、跡形もなく消えている事に。

 

 

 

 **

 

 

 ――少し、時を遡る。

 

 最新型の高高度爆撃機・B-29は1万メートル以上の高空を飛んでいた。投弾ポイントまでもう少し――このままいけば敵の迎撃を受ける事無く作戦は成功する。

 

 最後の山を越え、投下ポイントを眼下にとらえる。新型爆弾が投下され、徐々に高度を落としていく。そして。

 

 

 

 ――――閃光――――

 

 

 目も眩むほどの輝きが、欧州の空を包み込んだ。その一撃は、ただの一瞬で新たに誕生した“巣”を焼き尽くす。

 

 

 やや遅れてからの衝撃波、地響きと破壊音。続いて巻き起こる火球の熱と爆風により、欧州上空に巨大なキノコ雲が生成されていく。

 

 

 その日、カールスラントの象徴ともいえる田園風景は、その姿を大きく変えた。

 

 爆風で山体が削られ、内部より赤熱した溶岩と火山性のガスがこぼれ出す。それは蒸発した岩石蒸気と混じり合い、キノコ雲をさらに成長させていった。

 

 

 ◇

 

 

「「「………」」」」

 

 

 これほどの奇跡が、未だかつてあっただろうか。

 

 居並ぶ一人一人が言葉を発することもままならず、閃光を目撃した時の姿勢で立ち尽くしている。言葉を発する者も、動く者もいない。誰もが、ほとばしる様々な感情に打ち震えている。

 

 恐怖。驚き。感動。何より今しがた目撃した、恐ろしい力への畏怖。それを手にしてしまったことへの、誇りと恐怖。

 

 

 

 

 そして何より、―――――人類の勝利に。

 

 

 

「「「おおおォォォォォオッ!!」」」

 

 

 万感の思いで、大きな歓声が上がる。あの一撃は、紛れもなく人類がネウロイに一矢報いた瞬間だった。

 

 誰もかれもが、その光景を目にして感激せざるを得ない。たったの一撃で、あの強固な巣が吹き飛び、周囲にいたネウロイもまとめて薙ぎ払ってしまったのだ。

 

 

 ―――これが、人類の底力。

 

 

 その神のごとき力を目にした兵士たちの感動と喜びは計り知れない。常にネウロイの脅威にさらされ、死と隣り合わせてで生きてきた人々でも今の光景をみれば、ドゥーリットルの言っていた「人類の勝利」を確信したに違いない。

    




ご感想などあればよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。