ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~ 作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン
一週間後――。
このところ、ウィッチたちの関心はたったひとつの事に注がれている。ネウロイを一瞬にして消し去ったあの「光」は何なのか――様々な噂が飛び交い、憶測が次々に現れては消えていく。
その正体について上層部は何も語らなかったが、このまま隠し続ける為というより、敢えて焦れさせているようであった。その意味するところは、いずれ劇的な情報開示がされる事に他ならない。
「すごい……」
リムジンを降りた宮藤芳佳は、思わず声を漏らした。解放されたとはいえ、ガリアはまだまだ復興途中だ。そこに突如として近世の宮殿を彷彿させる、巨大な屋敷が出来上がっていたのだ。噴水のある庭はサッカー場が丸ごと入るぐらいの大きさで、立ち並ぶ木々はどれも手入れが行き届いている。
「わぁ……私もいつか、こんな大きい家に住みたいなぁ」
一緒にいた雁淵ひかりも、目を細めて感嘆している。
「――どうぞ、こちらに」
エントランスに向かうと、受付嬢が道を案内してくれる。手渡された資料の通りに進み、建物の中に入る。重厚な木製のドアを抜けると、すぐに吹き抜けのホールになっていた。床には大理石が敷き詰められ、まるでダンスホールのようだった。
中は大勢の人間で溢れており、思い思いに噂話に花を咲かせている。その内容は全て、先の戦闘で使われた「光」に関するものだった。
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リネットらがホールでひと時の休暇を楽しんでいる頃、ミーナは与えられた個室の窓から、庭の様子を見つめていた。
「失礼――ちょっとお邪魔するよ」
ドアをノックして現れたのは、久しく見る事のなかったシャーリーの姿だった。
「よう、ミーナ。だいぶお疲れのようじゃないか」
「そういう貴女も、少し痩せたんじゃない?」
ぎこちない笑顔を浮かべて、ミーナはコーヒーを淹れる。この数日の間に多くのことがあり過ぎて、正直どんな顔をすればいいのか分からなかった。
お互いに黙り込んだところで、ミーナが腕時計を確認する。あと10分で、セレモニーが始まる。
「――行きましょうか」
ミーナたちが会場についた直後、それまでざわついていた空気が水を打ったように静まり返っていく。何かの合図があったわけではない。会場全体を静寂に包み、注目させる異様な空気が流れたのだ。
――いよいよ発表が始まる。
人々の視線が、一斉に階段の上にある扉に向けられた。誰もが息をのんで見守っていると、大きな扉が音もなく開いた。中から現れたのは、軍装に身を包んだ連合軍総司令官ジェニファー・ドゥーリットル。
白のYシャツに紺色のネクタイと軍用ジャケット、同系色のシックなタイトスカートにストッキングを着用し、ややヒール高めの軍用ブーツという出で立ちだ。
全体的に落ち着いた色合いのミリタリーファッションでまとめ、高い鼻筋の端正な顔に眼鏡もあいまって、いかにもクールで真面目なキャリアウーマンといった印象を与える。
実際、本人もそれを狙っているのだろう。実績はもちろんのこと「有能な司令官」そのものの風貌が、イメージ戦略として自身の評価を更に後押しするというメリットを彼女は良く理解していた。
「ご来場の紳士淑女の皆様。本日はご多忙の中、このように集まっていただき、誠にありがとうございます――」
ドゥーリットルはゆったりとした調子で、一人一人に聞かせるように声を響かせる。知性を感じさせる、穏やかで落ち着いた声。好奇心で興奮気味だった会場が徐々にクールダウンしていく様子を感じながら、ドゥーリットルは言葉を続けた。
「先の攻勢作戦では想定外の事態が重なり、我々は危機に陥りました」
多くの被害が出た。全滅しかけた部隊もある。
「恐るべき敵・ネウロイは、絶えず私たちの生活を脅かし、人類を滅ぼそうとあらゆる残酷な手を使ってきます」
ですが、とドゥーリットルは腕を振り上げる。
「それは失敗するでしょう。どんな行為も我々の進路を変え、決意をくじくことはできないのです。今や我々は裸の軍隊ではありません。なぜなら過去の偉大な兵士たちが、命を賭して我々に対抗手段を与えてくれたからです。十分な戦力と敵を凌駕する技術力を、我々は準備しています」
続いて照明が落とされ、ある一点に光が集中する。その先にあるモノこそ――。
「これこそが、リべリオンの開発した新型爆弾――『インディペンデント』です!」
インディペンデント……『独立』の名を持つ新兵器の登場に、「おお!」と感嘆の声が漏れる。
かつてブリタニアの植民地だったリべリオンには、自ら武器をとって独立した歴史がある。その自助努力の伝統は現代にも受け継がれ、再び人類はリべリオン主導でネウロイから独立しようとしている。
それは芳佳らウィッチたちにも他人ごとではない。自分たちもまた、あの爆弾に救われたのだ。
「あれが、あの時わたし達を助けてくれた……」
大量のケーブルと計器が巻きつけられた、巨大で滑らかな鉄の球体――どこか未来的なフォルムを感じさせるそれは、まさに人類の英知の結晶とでも呼ぶべき成果だ。
合理精神の極致ともいえる、シンプルな形状はモダンな芸術性すら感じられる。その姿に惹かれつつも、芳佳の心にはどこかモヤモヤした感情が生まれていた。
(綺麗だけど……なんだろう、ちょっと怖い……)
芳佳の不安をよそに、ドゥーリットルは余裕の笑顔すら浮かべてプレゼンを続ける。その表情がどこか仮面じみている事に気付いたのは、シャーリーなど一部のウィッチだけだ。
「間に合うかどうかギリギリのタイミングでしたが、科学者たちの不断の努力と技術者たちの献身によって何とか実戦投入することが出来ました」
照明が反射し、ドゥーリットルの眼鏡が鈍く光る。
「今や量産体制も整い、来たる最後の大攻勢――『アイアン・ストーム』作戦ではこの『インディペンデント』を搭載した爆撃機が先陣を切る予定となっております」
一発だけでも巣を丸ごと吹き飛ばす威力があるのに、それが量産体制にある……今後この兵器がさらに改良されて普及すれば、人類の勝利は間違いないだろう。
「アイアン・ストーム」作戦はその第一歩、勝利への布石となるのだ。
「もうすぐ、私たちは両手を大きく広げて偉大なる戦闘部隊の帰国を迎えるでしょう。それは欧州解放のためだけの勝利ではなく、人類すべてのための勝利――」
ドゥーリットルは胸に手を当て、宣誓する。
「すなわち地球の勝利であり、知恵の勝利であり、正義の勝利なのです!」
力強く勇ましく。拳を天に向けて突き出すドゥーリットル。次の瞬間、一斉に周囲から歓声が上がった。戸惑いを見せる者もいたが、盛り上がった空気がそれを許さない。
「「「人類に、勝利を!!」」」
いつの間にか待機していた楽団が、会場を盛り上げるための演奏を始める。窓の外では花火が打ちあがり、夜空に大輪を咲かせる。まるで劇場のような演出の効果もあってか、熱気に包まれた会場は既に勝利したかのような賑わいをみせた。
演説は地球外生命体と戦う時のアメリカ軍の基本。
インディペンデンス・デイとかカッコイイと思います。