ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.22:真実

                        

 演説を終えて将校用の談話室に戻ったドゥーリットルを待っていたのは、第8空軍・爆撃軍団の司令官キャサリン・E・ルメイ少将だった。

 

「お疲れ様です。見事な演説でした」

 

 動きやすいショートヘアに、日光を浴びて小麦色に日焼けした肌。そして引き締まった体格からスポーツマンといった風貌のルメイは、見た目そのまま有能だがそれ以上にアグレッシブな指揮官であった。

 

「最高のタイミングでの投下でした。あの『インディペンデント』が、多くの将兵を救った事は誰もが認めざるを得ない。これで実戦投入に文句を言う者は誰もいません」

 

 ストイックな性格のルメイは、新型爆弾の積極的な推進者であった。

 

「あの爆弾は戦争を一変させるでしょう。もちろん、我々に有利な方に」

 

 

「……本当にそう思いますか」

 

 対して、ドゥーリットルの反応はどこか鈍い。楽観的な体育会系のルメイと違って、どちらかといえば学者肌のドゥーリットルは悲観的に事態をとらえていた。

 

(あの新型爆弾はまだ、完全ではありません。ブラックボックスも多い……)

 

 だからこそ、あれほどの威力を持ちながらドゥーリットルは最後まで使用をためらった。位置づけはあくまで『コンバット・ボックス』が失敗した時の保険であり、オカルトじみた大量破壊兵器より従来型の「鉄と血」の戦争を志向した。

 

 

「しかし『インディペンデント』の開発には中将も賛成していたのでは?」

 

「計画そのものには賛成しましたが、現時点での使用は時期尚早です。例の“瘴気”の問題もまだ解決されていません」

 

 カバンから『インディペンデント』についての資料ファイルを取り出すドゥーリットル。「最高機密」と印が押された表紙には、『人造ネウロイ結晶体を使用した新型爆弾の副作用について』と書かれたタイトルが記載されていた。

 

(禁断の技術、ネウロイを使った大量破壊兵器……)

 

 そう、『インディペンデント』には人智を超えた力――ネウロイの技術が使われていたのである。

 

 ◇

 

 そもそもネウロイを使った兵器開発計画というのは以前から存在した。しかしウォーロックの失敗などもあって、今ではほとんどの国で下火になっている。

 

 主な理由は制御の困難さで、もっとも成功した扶桑の魔導ダイナモですら10分以上動かせば暴走するという欠陥兵器だ。

 

 だが、それについて意見を求められたドゥーリットルの意見は違った。

 

 

「なぜ、暴走させてはいけないのですか?」

 

 

 逆転の発想である。どうせ暴走するのなら、それを前提とした運用法を考えればいい。合理精神を信条とする彼女らしい割り切った考えであったが、何とはなしに言った言葉がリべリオンの兵器開発を大きく変えた。

 

 

 ――敢えてネウロイのコアを暴走させ、放出される膨大なエネルギーを利用できないものか。

 

 

 リべリオン政府の動きは素早かった。すぐに世界中から有能な科学者と技術者を集め、ウォーロックや魔導ダイナモの研究データを調べさせた。

 

 

 その結果、研究チームはネウロイの特徴が徐々に判明してきた。

 

 

 ネウロイが結晶体状のサンゴのような生物であること。細胞分裂にように、コアの一部を分裂させても元のコアは再生すること。分裂した残りがネウロイの「体」となること。

 

 中でも重要な発見が、レーザー放出のメカニズムの解明であった。

 

 コアから特定の波長で信号を出されると、それを受けた「体」が崩壊し(後に自己再生するが)、その際に膨大なエネルギーが放出される。

 それこそがネウロイ・レーザーの正体であり、臨界点に達するとネウロイ特有の赤い光を放つことも判明した。

 

 この事実を知ったリべリオン兵器開発局は、ウィッチの魔法を使って疑似的なコアの信号を作り出せないかと考えた。

 

 やがて試行錯誤の末、完全なコントロールは無理だが、暴走させて結晶体を崩壊させることで膨大なエネルギーの放出――すなわち大爆発を人為的に引き起す事に成功したのだ。

 

 

 

 そこから先はとんとん拍子に研究が進んでいった。

 

 爆弾の「爆薬」となるネウロイ結晶体の精製には、確保したコアの欠片に金属を取り込ませて複製するという方法を使った。

 

 ネウロイには鉱物を同質化させるメカニズムと傾向があり、戦場では戦車や戦艦がとりこまれてネウロイ化するという事態が何度も発生している。

 

 

 これを逆手にとってウィッチの魔術制御のもと、人工的にネウロイ化させた爆弾を生成する。そこにウィッチの魔力を充填した、魔導起爆装置を取り付けるのだ。

 

 起爆装置が作動すると魔力によって、ネウロイがレーザーを放つ際にコアが発する信号が疑似的に再現される。

 

 やがて人造ネウロイ結晶体は膨大なエネルギーの塊となり、非常に不安定な状態へと変化していく。そこに追加の魔力が加わると――。

 

 結晶体は自己再生をはるかに上回る速度で崩壊、臨界点に達した瞬間に数キロメートルにも及ぶ大爆発を引き起こす。

 

 

 ――それがネウロイ爆弾、大量破壊兵器『インディペンデント』の正体だった。

 

 

 これが最後までバックアップ・プランに留まっていたのは、まだまだ解明されない点が多すぎて危険と判断されていたからだ。

 

 いわばブラックボックスの塊であるため、博打的な要素を嫌ったドゥーリットルは最後まで実戦投入を躊躇っていた。

 

 

 そればかりではない。もうひとつ、大っぴらには公表できない別の理由もある。

 

 

(人工的に作られたネウロイ結晶体は崩壊の際、大量の「瘴気」を撒き散らす……)

 

 

 ネウロイ制圧下の地域で、生物に有害な「瘴気」が発生する事は広く知られている。

 

 今回の調査でその原因が、どうやらネウロイ結晶体の崩壊時、つまりレーザーなどのエネルギーを放出する際に発生するという事も判明した。

 

 

(敵であるネウロイなら仕方ないにしても、味方のはずの我々がそれを利用していると知られたら……)

 

 

 せいぜい戦術兵器レベルの他国と違い、リべリオンのネウロイ爆弾は戦略級兵器だ。ウォーロックや魔導ダイナモとは比べ物にならないレベルの汚染が発生する。カールスラントなど大陸諸国は激怒するだろう。

 

 ネバダ砂漠で行われた実験によれば、『インディペンデント』の爆心地付近では10年にわたって瘴気に汚染されて動植物が生存不能になるという結果が報告されている。ネウロイから土地を奪還するために、その土地をネウロイの瘴気で汚染して人が住めない環境へと変えてしまうという、完全なる矛盾。

 

 

(しばらくの間は“欧州にいたネウロイの瘴気による汚染”という事で誤魔化せますが、いずれは……)

 

 どれだけ防諜を強化しようとも、秘密と言うのはいつか知られてしまうもの。そうなれば次は、人類同士で争う事になるのかもしれない。

 

(勿論、我がリべリオン合衆国が負ける事など無いでしょう。ですが、勝つまでに多くの国民に犠牲が出るでしょうね……)

 

 リべリオンの技術的優位も、いつまで持つか分からないのだ。世界中であの兵器を撃ち合うような事態になれば、たとえ勝っても瘴気に覆われた不毛の大地しか残らない。

 

 

 それでも――。

 

 

「過ぎたことを悔やんでも仕方ないですね。既に賽は投げられています」

 

 その結果がどうなるかは神のみぞ知る。しかし決断を下した責任者として、今は動かねばならない。立ち止まる事は許されないのだ。

               




 ネウロイ爆弾の仕組みは、完全に作者の妄想です。一応、核兵器をモデルにはしてますが理屈的におかしい部分はご容赦ください。

 イメージ的にはほとんど核兵器と一緒です。
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