ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.27:彼女の使命

                    

「なるほど……」

 

 ミーナから事情を聴いた坂本美緒は、知らずと自分の右手が柄に延ばされているのに気付いた。放っておけば、今にも司令部に斬りかからんばかりだ。

 

「まったく……優等生も拗らせれば害にしかならんな」

 

 言い方は悪いが、今のドゥーリットルは無能な働き者でしかない。周りが止めろと言っても聞く耳をもたない。ならば――。

 

「固くなった頭を殴って柔らかくしてやる」

 

 坂本は袖をまくり、口元に獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「さ、坂本さん……?」

 

「宮藤、雁淵、ちょっと来い。大事な話がある」

 

 なんですか、と寄ってくる彼女らの耳に、美緒は口を近づけて囁いた。

 

 

「――今からちょっと、シャーリーの奴を助けに行くぞ」

 

「え? シャーリーさん、何か事件でも起こしたんですか?」

 

 首をかしげる芳佳に、坂本は笑いながら「少し違う」と訂正する。

 

 

「これから起こすんだ。――とびっきりの大事件をな」

 

 

 

 **

 

 

 空母ホーネットのCICでは、重苦しい空気が漂っていた。

 

 ネウロイの出現を受けてすぐ予備部隊を投入して防衛線の構築を命じたドゥーリットルだったが、事態は想像以上に悪化していた。

 

「結論から述べると、遅滞防御は完全に失敗です。ネウロイの進軍速度は落ちておらず、我が軍は事実上の潰走状態に陥っています」

 

「つまり、このままでは防衛線の構築は間に合わないと……」

 

 思わず天を仰ぐドゥーリットル。

 

 防衛ラインの構築には、どう少なく見積もっても1日はかかる。そこで後退する部隊には出来る限り時間を稼ぐよう遅滞防御を命じているのだが、相次ぐ状況変化で混乱した現場司令部は完全にパンク状態に陥っていた。

 

 

 結果、ヨコの連携が全く取れないまま、各部隊はバラバラに戦っていたずらに兵力を消耗させていた。

 

 勝手に退却する部隊もあれば、独断専行で突出する部隊もいる。戦線はすでに崩壊し、半日も経たずこちらに到達する見込みだ。

 

 

 

              

「―――――ジェニーっ!!」

 

 

 そのとき不意に、遠くから声が聞こえた。窓の外からだ。

 

 思わず声のした方をみると、高速で突っ込んでくる物体が見える。

 

 

「ジェニー・ドゥーリットルぅううッ!」

 

 

 大声で叫びながらミサイルよろしく突撃してきたのは、極限まで加速したウサギ耳のウィッチ。シャーロット・イェーガー大尉だ。

 

「シャーリー……!?」

 

 かつての部下の顔を見て、ドゥーリットルの顔に驚きが浮かぶ。

 

「何してるんですか!? 今すぐ持ち場に……」

 

 

 

 

 

「歯ぁ食いしばれぇぇえええええっっっ!!!」

 

 

 

 

 

 幕僚たちが止める間もなく、CICに鼻の骨がひしゃげる嫌な音が響いた。 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 鼻血を流しながら地面に倒れ込んだ上官を、肩で息をしながらシャーリーは見下ろした。

 

 

(やっちまった………)

 

 

 ドゥーリットルの眼鏡にはヒビが入り、丁寧に手入れされていた赤みがかった金髪は激しく乱れている。中将をここまでぶちのめした中尉は後にも先にも現れないだろう。

 

 そして警備厳重な司令部に辿り着くため、坂本少佐らと一緒に何人もの衛兵をぶちのめしている。今でも彼女たちが力ずくで説得しているはずだ。

 

(ここまで来るともう殆ど反乱だな、こりゃ……)

 

 

 だが、それでも自分は言わねばならない。

 

 

 かつての恩人が道を踏み外そうとするのを、黙って見過ごす訳にはいかなかった。

 

 

「ジェニファー!」

 

 

 呼び捨てで叫ぶ。唖然とする周囲には目もくれず、ブルーの瞳はドゥーリットルのみを見据えている。

 

「今すぐ作戦を中止してくれ! このままじゃ全滅だ!」

 

「中止……?」

 

「そうだ! この戦いは負けた! 総退却、撤退命令を出してくれ!」

 

 失った装備は数か月で埋め合わせが出来るだろう。リベリオンにはそれだけの国力がある。

 

 しかしベテラン将兵たちは、一度失われれば数年は回復できない。それが損失率を上げて、やがて戦力はジリ貧になる。

 

 

「………いえ」

 

 

 だが、ドゥーリットルにも立場というものがある。

 

 軍人にとって上官の命令は絶対であり、階級が上がれば上がるほど軍紀に縛られていく。

 

「退却は許可出来ません。持ち場に戻ってください」

 

「ジェニー、お前……っ!?」

 

「これは本国からの命令です! 独断で動けば軍法会議にかけますよ!?」 

 

 

 『インフィニット・ジャスティス』作戦は全人類の命運を賭けた一大反攻だ。成功すればリべリオンの威信と発言力は大いに高まるに違いない。

 

 戦後の主導権を握るためにも、装備やドクトリンなどあらゆる面で自分たちの優位性を見せつける必要性がある……。

 

 『コンバット・ボックス』も、『インディペンデント』も、すべてはリべリオンの国力を見せつけるため。だからこそ、司令官であるドゥーリットルには“リべリオンの勝利”が求められていた。“連合軍の勝利”ではない。

 

 

「本国なんか知るか! 本国にいるお偉いさんに、今の惨状を一字一句伝えられるのかよ!? アタシたちは国のメンツを守るために命を懸けてるんじゃない!」

 

「……私はリべリオンの軍人です。法と民主主義は破れません」

 

 どちらにも正義があった。

 

 軍隊が会社であるとすれば、ウィッチは社員で政府と国民は株主だ。ドゥーリットルは管理職として部下であるウィッチたちの命に責任を負う立場であるが、同時に株主たる本国の意向を汲んで彼らを満足させなければならない。

 

 シャーリーとて、それが完全に間違いだとは思わない。ウィッチたちの給料は税金で賄われているのだし、現場の意見が全て正しいなどと言うつもりもない……だが、今回はさすがに限界であった。

             




 シャーリー 怒りの殴り込み
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