ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.28:責務の果てに

 しばし睨み合った後、最初に目をそむけたのはドゥーリットルであった。シャーリーに背を向け、溜息をつくように副司令官のアドルフィーネに声をかける。

 

「埒があきませんね……ガランド少将、作戦会議を再開します。これ以上、不毛な言い争いをしている時間はありません」

 

 

 だが、アドルフィーネはその場を動こうとしなかった。無言のまま、ドゥーリットルを見続けている。

 

 

「少将、まさか……」

 

 その意図するところを察し、ドゥーリットルは信じかねるように目を見開く。しかしアドルフィーネの態度は変わらない。

 

「イェーガー大尉の意見を支持する」

 

「ガランド少将!?」

 

 副司令官からの厳しい意見に、ドゥーリットルは歯を食いしばる。辺りを見渡すが、誰もが口に出さないまでも目で退却するよう訴えていた。

 

 全員の意見を代弁するように、アドルフィーネはさらに前へと進み出る。

 

「これ以上の継戦は死傷者を増やすだけだ。被害を最小限に抑えるには、退却がもっとも適切だと考える」

 

「……上官命令で却下する、と言ったらどうします?」 

 

 伝家の宝刀である「上官命令」をチラつかせるドゥーリットル。これを使うのは彼女にとっても切り札であり、出来れば避けたい。しかし使うとなれば躊躇うつもりは無かった。

 

 

 だが、今回はアドルフィーネの方が一枚上手だったようだ。

 

 

「私はウィッチであると同時に、栄えある帝政カールスラントの軍人だ。同盟関係を考えてこれまで何も言わなかったが、これ以上リべリオンの事情に振り回されて我が軍に被害が出るようなら、こちらにも考えがある」

 

 遠回しに、カールスラント軍の単独撤退をチラつかせるアドルフィーネ。勿論そんな事をすれば両国の同盟にヒビが入るのは確実だが、このままではリべリオンとの友好と引き換えに貴重なウィッチ隊を磨り潰されかねない。

 

「っ……!」

 

 ドゥーリットルが苦虫をかみつぶしたような顔になる。どのような対応をとるのがリべリオンの利益になるのか、頭の中で天秤にかけているのだろう。

 

 

「なぁ、ジェニー」

 

 

 シャーリーが、不意に声のトーンを落とした。

 

「外をよく見ろ」

 

 シャーリーはゆっくりと、指で窓の外を差し示す。黒煙を上げる戦場、焼け野原……その光景は、否応がなくひとつの現実を突きつける。ドゥーリットルが頑なに認めようとしなかった、たったひとつの真実を。

 

「もう限界だよ。軍隊としても、部隊としても既に連合軍は機能していない」

 

 

 すなわち、敗北―――。

 

 

「ッ……!」

 

 自分たちはネウロイに負けたのだ。連合軍は既に、敗北への階段を下りてしまった。全世界の期待と、人類の命運をかけた史上最強の作戦『インフィニット・ジャスティス』は完全な失敗に終わったのである。

 

 

(今回の連合軍は、人類の持てる最高戦力だった。各国の精鋭に、最新技術、圧倒的な物量……)

 

 

 それだけに、この現状を認めることが出来ない。否、これを認めてはならないのだ。

 

 

 ドゥーリットルはこれまで、一度だって他人からの期待を裏切った事はない。勉強も運動も成績は常に一番。親からも先生からも上官からも信頼される、完璧な優等生。

 

 そんな聡明な彼女が、作戦の失敗に気付かない訳がない。

 

 ただ、それが認められなかったのだ。作戦を成功させて、ネウロイに勝つことしか頭になかった。作戦を成功させ、本国の意向を汲み、世界中の人々の期待に応える――負けて退却することなど考えもしなかった。

 

 

 負け戦など、誰も望んでいないからだ。

 

 

 彼女は連合軍の最高司令官で、『無限の正義』作戦の責任者……いわば全人類の期待と希望を背に背負っている。ネウロイとの戦争を終わらせる使命が、彼女には課せられている。

 

 

 ――だからこそ、期待を裏切れない。

 

 

 負けを認めてしまえば、自分を信じて死んでいったウィッチや、苦しい生活に耐えている国民に申し訳が立たない。カールスラントの大地に瘴気を撒き散らした、禁断の兵器を使った事も全て無駄になる。

 

「それでも、私は……!」

 

 しかしドゥーリットルはその先を続ける事が出来なかった。シャーリーに肩を掴まれ、壁にぐっと押しつけられる。

 

「ッ……!?」

 

「ジェニー、もう一度だけ言うぞ」

 

 シャーリーは声のトーンを落として語りかけた。

 

「このままだと負ける。ただの負けじゃない――全滅になる」

 

 ドゥーリットルの指揮した連合軍は、間違いなく人類最大最強の軍隊だった。装備も練度も作戦も一切抜かりは無かった。

 

 

 だが、今回はネウロイの方が強かった。

 

 

 それが事実だ。真実は潔く認めるしかない。このまま戦い続ければ、間違いなく全員が死ぬだろう。

 

 

「――いい加減に現実を見ろ。目を背けるな」

 

 そう言ってシャーリーは、指で窓の外を指し示す。黒煙を上げる戦場に、撃ち落とされる戦闘機、焼け野原……。

 

 

「現実を見て、そして考えるんだ。何が最良の方法か。自分に何が出来るのか」

 

 

 ドゥーリットルが指令室に目を戻した時には、幕僚全員が切実な表情でドゥーリットルに訴えていた。口にこそ出さないが、何を言わんとしているかは嫌でも理解できた。

 

 

 敗北を認め、撤退を――。

 

 

 目の前にいる若いオペレーターは、結婚式を挙げたばかりの新婚だった。入口に立っているベテランの衛兵には、長年連れ添った妻と家族がいる。地図に手を置いている老齢の参謀は、来月に孫娘ができる予定だ。

 

 

 彼らに、家族と引き裂かれて死ぬ責任はない。彼らはただ、自分の命令に従っただけ。もし誰かが責任をとって死なねばならないというのなら、それは最高司令官である自分の務めだ。

 

 

「総員………退却してください。責任は、私がとります……」

 

 

 ドゥーリットルの一言で、その場の全員が動き始めた。

 

  




 コンコルド効果って戦争でもよく見ますよね。

「今さら作戦の中止なんて出来るか! 死んでいった兵士に顔向けできんだろ!」という理屈。これを国家規模でやるとどっちかが全面降伏するまで闘い続ける国家総力戦に。
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