ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~ 作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン
ドゥーリットルのスピーチを聞きながら、ミーナはひとり複雑な気分で仲間たちを眺めていた。
彼女を含めた、佐官クラスは既に作戦の全貌を昨日の時点で知らされている。全体スピーチでドゥーリットルが伝えきれなかった、作戦の詳細や懸念事項も含めてだ。
(本当に、威勢のいい部分だけ抜き出して盛り上げてるわね……)
その上で、ミーナは改めてドゥーリットルのスピーチをそう評価した。
(たしかに数だけ聞けば勇ましいけど、内実は文字通り烏合の衆……民族や宗教、派兵目的すらバラバラの寄せ集めでしかない……)
軍事上の鉄則のひとつが、単一の指揮系統の存在だ。しかし後方支援も含めて30か国以上が参加する今回作戦では、各国の政治的な思惑や文化・習慣の違いからなかなか統一できないでいた。
「なお、指揮系統については総司令部の下に各国の軍が別箇に司令部を置き、それぞれの担当範囲内で指揮を担当します」
そこでドゥーリットルが考えた案は、戦前に逆戻りするかのような国籍ごとの部隊編成だった。プロジェクター上に戦闘序列が映し出されると、部隊ごとにマイル単位で担当範囲が細かく決められているのが見える。
これに伴って統合航空団に所属していたウィッチは原隊復帰となり、戦略レベルの行動は本国政府の指示を仰ぐ事も決定された。
「ただし本作戦は長期かつ広範囲にわたるため、段階と地域ごとに戦区を設けて作戦指導の調整を別箇に行います」
作戦の第一段階から順に『A(バルト)戦区』、『B(ベルギカ)戦区』、『C(ヴェネツィア)戦区』、『D(ヘルヴェティア)戦区』、『E(ガリア)戦区』。
「そして戦区司令官は、それぞれの戦区において最大兵力を派兵した国の人物が務めます。そのため、順に以下の通りとなります」
A戦区:ジェーン・S・サッチ中佐(リべリオン合衆国)
B戦区:ロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ少佐(ブリタニア連邦)
C戦区:フェデリカ・N・ドッリオ少佐(ヴェネツィア公国)
D戦区:ジーナ・プレディ中佐(リベリオン合衆国)
E戦区:ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐(帝政カールスラント)
聴衆の一部からブーイングが飛んだ。特にガリア人部隊からは、なぜ自分たちの祖国を守る戦いなのにリベリオンやカールスラントの指揮下に入らなければならないのか、という声が多く聞かれた。他の小国も、「兵力順に発言力を与える」という大国のルールに少なからず反発を覚えたようだった。
「皆さんの不満は分かります」
ドゥーリットルは言葉をつづけた。それまでの柔らかい表情を引き締め、真面目に話を聞いているというポーズを演出する。
「限られた時間と資源の中で我々も最大限の努力を重ねましたが、やはり現場にしか分からない事情や見落としている点も多数あるかとおもいます。だからこそ、不満があれば隠さず伝えてください。共に、この連合軍をより良いチームにしていきましょう」
不満を鎮める時に大事なのは、とにかく相手を持ち上げて「貴方の意見を尊重する」という姿勢を伝える事だ。
ひとまず反対意見を受け入れ、敵意を和らげ冷静にさせる。その上で実際に矢面には別の人間を立たせるのだ――実際、“不満があれば隠さず伝えてください”という現場の不満の矛先は直属の上司であるミーナら中間管理職に向く。ドゥーリットルら上層部ではない。
(この司令官、相当なタヌキね……)
こういった政治家じみた手口はミーナの好むところではないが、多くの将兵たちに対しては有効ではあったようだ。相手が自分の非を認めたことと、それに対する一応の解決策を提示されたことで不平の声は減っていた。
「かつて――」
ドゥーリットルは声を張り上げ、ウィッチひとりひとりと目を合わせていった。
「私たちは敵同士でした。肌の色や宗教、文化や習慣の違いによる対立は日常茶飯事で、全ての人類が手を結ぶなど夢物語に過ぎない、と。昔は誰もがそう思っていました」
プロジェクター上に、古い時代の戦争の映像や写真が映し出される。中には凄惨なものもあったが、ショッキングな刺激ほど人間の注意を引くものはない。
「しかし人類共通の敵、ネウロイを目の当たりにして私たちは気づいたのです――人類同士で争っている場合ではない、と」
ネウロイに襲われる避難民の映像が流れ、ミーナはドゥーリットルの巧みなプレゼンに舌を巻く。彼女は共通の悲惨な経験を思い出させることで、「今は味方同士で争っている時ではない」という雰囲気を一瞬のうちに作り上げた。
「ネウロイが出現した当初は、何処を見ても混乱の一言に尽きます。我々はネウロイの不安にさいなまれ、いつ人類が滅亡するのかと怯えるばかりでした――そう、事態の深刻さに気付いた我々が団結するまでは」
今度は各国のウィッチたちの姿が映し出され、一緒になってネウロイを倒したり民間人を救助する映像がアップされた。丁寧に全ての参加国の有名なウィッチを映して愛国心と自尊心を満足させつつ、団結の重要性をアピールしていく。気づけば、再び全員がドゥーリットルの演説に聞き入っていた。
「人類滅亡の瀬戸際に立ち、互いの衝突を乗り越えて力を合わせたからこそ、ようやくわたし達は勝利への希望を掴み始めているのです。私たちの後方にいる一般市民のためにも、人類勝利の希望を絶やしてはなりません」
そこでドゥーリットルは声の調子をわずかに変える。ネウロイという脅威によって不安を煽り、その上で団結という解決策を提示して、勝利という希望へと全員の気持ちを繋げていく。
「約束します――私達は、決して貴女方の期待を裏切らないと。もし不満があるのなら陰口や文句を言うのではなく、どうしたら不満の原因を取り除けるのか上司と相談してください。共に悩み、共に考え、共に課題を解決していきましょう。そのための連合軍司令部と、チームなのですから」
「チーム」というフレーズを殊更強調し、ドゥーリットルは切実な表情と強い言葉で訴えかける。
「この作戦が成功すれば、単にラインラントが解放されるだけではありません。人類が手を合わせれば失った国土をネウロイから取り戻せるのだと、全ての国家と国民が確信できるのです」
彼女は効果を狙ってそこで口をつぐみ、全員の注目が集まるのを待って続けた。
「ネウロイに勝利し、失った人類の土地を取り戻し、そして再び街を再建する――私達は必ず、この目標を達成します」
「以上です」とドゥーリットルが演説を終えた瞬間、割れるような拍手喝采が部屋中に響き渡った。
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「大した演説だったな」
マルセイユがそっと囁く。意外と皮肉屋なところもあるカールスラントのエースは、演説のからくりに気づいていた。
“団結”“勝利”“人類”と耳当たりのよいスローガンばかりが並べられ、リスクや難易度については何も言及されていない。
さらにあの演説で、ドゥーリットルは責任を巧妙に作戦から逸らし、続いて司令部から逸らした。今後、不満が出たらそれに対処するのは各部隊の指揮官になるだろう。つまり、ミーナたちだ。
「ええ、まったくだわ」
ミーナは拍手を続ける周囲に目を配りながら低い声で応じ、それから真っ直ぐ彼女を見た。
「流石は連合軍総司令官を務めるだけあって、一筋縄じゃいかないようね。今度の司令官は」
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