ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.7:洋上にて

                             

「せっかく一緒になれたのに、また別れるなんて嫌だよぉ」

 

 揺れる船の上で、一人の少女がぼやいていた。

 

「ぐすっ……シャーリーの胸が恋しいよぉ」

 

 数分前から、フランチェスカ・ルッキーニ少尉はそんな調子でぐずっている。

 

 

 

「……あれは重症だな」

 

 

 離れたところから、双眼鏡でそれを呆れたように見つめるバルクホルン。隣には苦笑するミーナとエーリカの姿もある。

 

「まぁ国別に分けると、どうしてもこうなっちゃうよね~」

 

 呑気にそう呟くエーリカの視線の先には、何隻ものヴェネツィア駆逐艦の姿があった。かくいう彼女たちが乗船しているのもまた、ヴェネツィア船籍の巡洋艦である。

 

「現状、欧州に戦力と呼べるだけの海軍を保有しているのはブリタニアとヴェネツィア、それにリベリオンの3つだからな。上にしてみれば、海軍のない私たちはともかく、あいつらを原隊から引き離す理由はないだろう」

 

 上層部の考えを理解しつつも、バルクホルンの表情はどこか優れない。

 

(統合作戦に政治的な火種は付き物だ。その弊害を最小限に抑えるための国籍別部隊編成というのも、一応は理に適っている……)

 

 リべリオン式の編成では、平時の管理部門である軍政と戦時の作戦部門である軍令は明確に区別されている。作戦行動に入ると全ての部隊はそれぞれの任務を与えられた『タスク・フォース(任務部隊)』となり、常設の『コンバット・コマンド(戦闘団司令部)』が前線の状況に合わせて部隊を編成・配置するという形式をとっていた。

 

 柔軟に部隊を組み替える事で運用・作戦行動の自由度を最大限まで高められる一方、部隊としての一体感や信頼感が育ちにくく、団結・結束力には期待できない。その場その場で異なった相手と組んでビジネスライクに仕事をこなす、いかにもアメリカンでドライなやり方である。

 

 

 対して501統合戦闘団の場合、カールスラント軍で臨時に編成されていた『カンプグルッペ(戦闘団)』という、固定的な指揮系統を持つ諸兵科連合部隊をモデルとしている。

 

 本来は臨時部隊であったが、実際には特定の部隊が長期間同じカンプグルッペを構成することが多く、部隊としての団結心を育てることで、隊員同士の強い信頼感や緊密な連携によって高い戦力を発揮することが出来た。

 再起不能の部隊が廃止されたり、補充部隊が編入されたりすることもあるが、基本的には同じ部隊構成で戦う。

 

 

 問題点は固定的な編成のために運用・作戦上の柔軟性に欠ける事と、1つの部隊として成長するまで非常に時間がかかる事だ。大規模な常備軍の伝統を持つ欧州諸国と、戦時にのみ徴兵で軍を組織するリべリオンの違いが表れているといえよう。

 

 501JFWをはじめとする統合戦闘団にもこうした伝統は引き継がれ、隊員は他国の戦術について理解を持ち、日頃から互いに意思の疎通を深めるよう奨励されている。

 これによって隊員たちは単に一緒に行動するということではなく、それぞれの得意分野を有機的に結び付けた作戦を行えるようになるのだ。

 

 たとえばカールスラントのウィッチは直線機動を用いたヒットアンドアウェイ戦法を多用し、ブリタニアのウィッチは曲線機動によるドッグファイトを重視している。

 

 

 ウィッチは単なる戦闘ロボットではない――そうした考えの下、501JFWでは個人が連携する同僚の思惑や能力を熟知していたため、有機的な力を柔軟に発揮することができた。

 

 

 もっとも、そういった現場レベルでのスキルアップは書類上で図れるものではない。今回の作戦には実戦経験の少ないリベリオンならではの割り切りの良さと弱点の両方が混在している……バルクホルンにはそう思えてならなかった。

 

 

 **

 

 

 シャーロット・E・イェーガー中尉は空母・ヨークタウンにある食堂で、ドゥーリットルと一緒に食事をとっていた。

 

 片や肉厚のステーキと泡がこぼれそうなぐらい並々と大ジョッキに注がれたビール、もう片や色とりどりのソースが添えられたロブスターと上品なグラスに注がれたスパーリングワイン……問題児と優等生という2人の正反対な性格をあらわすかのような対照ぶりだ。

 

 

「久しぶりですね、シャーロット・E・イェーガー中尉」

 

 リベリオン合衆国第8航空軍第357戦闘飛行群第363戦闘飛行隊――それがシャーリーの原隊だ。そのためドゥーリットルはかつての上官にあたる。

 

 

「今は大尉だよ、ジェニー少佐」

 

「ではイェーガー大尉、私のことは中将と呼ぶように。今は将軍なのです」

 

 えっへん、と茶目っ気たっぷりに胸を張るドゥーリットル中将。シャーリーほどではないが、まぁまぁ胸はある。制服を着崩しがちなシャーリーと違ってネクタイまできっちりと締めている低露出仕様だが、敢えてタイトなものにしているせいで今にもボタンがはちきれそうだ。

 

「おうおう、さすが優等生は隙が無いな。いろんな意味で」

 

「ふふん、もっと褒めてもいいんですよ」

 

 

 上司と部下という関係でありながら軽口を叩きあう仲だが、こう見えてもシャーリーにとっては頭が上がらない存在だ。かつてストライカーの無断改造でクビになりかけた自分を庇って501JFWに出向させたのが、当時の上官だったドゥーリットルだからだ。

 

 

「501JFWでの活躍はいろいろと聞いていますよ。やはり貴女には、あちらの空気の方があってたみたいですね。喜ばしい事です」

 

 かもしれない、とシャーリーは思う。同じ軍といえども、501JFとリベリオン空軍では何から何まで正反対なのだ。

 

 

 出身地も言語もバラバラな移民国家であるリベリオンでは、基本的に「集団」より「個人」を重視する傾向がある。

 

 

 “個”の社会、多様性をベースに成り立っているリベリオンでは、各人の能力や立場は違っているのが当たり前であり、与えられる任務も責任も画一的なものではない。そのため各人は自分の得意分野を伸ばすことに専念し、軍隊においても職務・責任範囲と権限を厳格に定められた上で、担当分野のスペシャリストとして働くことを期待される。

 

 そのためリベリオン軍のマネジメントは全て「管理業務という専門分野」に特化した高級将校が行う事となり、組織としては徹底的なトップダウン型となる。トップは一切の現場勤務から解放され、迅速に意思決定することが求められる。

 

 裏を返せばマニュアル主義と縦割り主義が徹底しており、一部のエリート以外の自由裁量権は小さい。事前の情報共有や根回しなどはほとんどなく、いきなり命令が飛んできて兵士はそれを粛々と執行するだけというのがリベリオン流トップダウンだ。

 

 

 対して501JFWでの人材戦略は大陸系国家のそれで、「個人」より「集団」を重視してチームワークで力を発揮させようとする。人材育成も特定領域の専門家よりは、その組織でのジェネラリストを育成するというものだ。

 

 全員で情報を共有し、各人の特徴を理解しながら長い時間をかけて合意形成をとるという民主的なプロセスを経る。リべリオン式マネジメントが「拙速」重視とするなら、こちらは「巧緻」重視というべきか。

 

 こうした組織構造は、民族や言語の同質性が高いカールスラントや扶桑には都合が良い。あるいは501JFWのように比較的少数のチームを固定的に長期間組む場合にも有効だ。リべリオンに比べて現場の自由裁量権も大きく、決められたことでも「現場の独断専行」と結果が伴えば融通が利くこともある。

 

 

 もっともこうしたリべリオンにない強みは弱みの裏返しで、権限・責任・命令の何もかもが曖昧かつ不明確な点は慣れない内は苦労する。更に合意形成という過程を重視するあまり、非合理的な決断が下されることも少なくない。合意形成と協調行動が大前提となっているため、なるべく同質な人間を集めて時間をかけて団結心を育む必要もある。

 

(そう考えると、やっぱウチの中佐すごかったんだな……)

 

 今更ながら、正反対の文化を持つウィッチたちをまとめ上げたミーナの手腕に舌を巻く。

 

 個人主義のリべリオン・ブリタニア・ロマーニャと、集団主義のカールスラント・扶桑・オラーシャ、その中間のスオムス・ブリタニア・ガリア――巧みにそれぞれの上手い部分をミックスして、個性を残しつつも一つのチームとして機能させている。彼女が指揮官でなければ、501JFWがああも大戦果を挙げる事は出来なかっただろう。 

 

 

 ――だが、それも今日までだ。目の前にいるドゥーリットルが、穏やかだが有無を言わせぬ視線で暗にそう告げてくる。底の見えない深青の瞳を見返していると、こっちが逆に引きずり込まれそうだ。

 

 

「とはいえ、今は貴方も『リべリオン第7航空団』の所属です。この作戦が終わるまでは私の命令に従ってもらいますよ、イェーガー大尉」

 

 気さくなようでいて、敢えて『大尉』と階級の違いを意識させるドゥーリットル。微妙に毒気のある性格も変わってないな、とシャーリーはコーヒーを飲みながらひとりごちる。

 

「分かってるって」

 

 念を押すドゥーリットルに、シャーリーはひらひらと手を振って返す。およそ将官に対する態度ではないが、ドゥーリットルの方も「ならいいです」とあまり気にする様子はない。命令は絶対だが、命令範囲の外では自然体でいいという考えなのだろう。

 

 

「……本当に、戻ってきたんだな」

 

 どこか懐かしい、ドライな関係。シャーリーはいやがおうにもそれを再認識させられていた。

 

 

         




 文化の違いって、組織構造から部隊編成、しいてはドクトリンまで影響与えるので結構大事。なのである国の軍隊では正しい行動でも、別の国ではアウトな事も。

 たとえば独断専行なんてのは、イスラエルなんかだと評価されるけど、第2次世界大戦のフランス軍とかだと評価されない
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