病んだ主人公しか書けなくてすいません。
「やあよく来てくれたね。藤丸君」
朝からカルデアの管制室に呼び出された俺は、目の前のドクターロマンの軽薄な笑みに向かって、軽く会釈する。
「えーっと、予定してた第七特異点へのレイシフトのことなんだけど…」
俺の反応を見たドクターロマンは、少し顔を真剣な感じに改めてから話しはじめる。
「実は第七特異点より遥か昔に、新たな特異点を観測した。今まで観測されていなかった特異点で、かなりの危険が予想され…」
「場所と時代は」
くどくどと面倒だったので、思わず口を挟んでしまった。しかし、どんなことがあろうと、特異点の人理は修復しないといけないのだから、注意するだけ時間の無駄だと思う。
「あ、あーそうだね。場所と時代ね。」
ドクターロマンは気まずそうに笑った。
「えー場所はエジプトナイル川周辺。時代は紀元前31世紀だね。この時代は上下エジプトがはじめて統一されて、中央集権の体制をとり始めたとされる時代だ。」
そもそもその時代に特異点となりうる出来事があるのか。あるとしたらやはり今ロマンが言っていた、
「統一事業か」
「ああうん。その可能性は高いね。」
「その時代の王とかの名前は?」
「一応『ナルメル』という名前が残っているよ。ただ、そのナルメルも資料がほとんど無くて、よくわかってないのが現状だ。」
俺は顎に手を当てて思案に耽る。要は何が起こるか本格的にわからないということだ。どのような人物がいるかもわからないし、本当に王がいるのかすらも怪しい。
「準備してまた来ます。」
俺はロマンに背を向けて管制室を出た。背後からはロマンの溜め息が微かに聞こえてきていた。
》》》》》
「てことで、後で管制室に来て」
「了解した」
連れていく最後のサーヴァント、シュヴァリエ・デオンに声をかけると、俺は自分の最終準備に入った。複数の魔術礼装に加え、いくつかの日用品。そして肌身離さず持っている音楽プレイヤー。それらを纏めて鞄にいれて、マイルームを出る。管制室まではそれなりに距離があり、その間に色々考え事をすることができる。…誰にも会わなければ。
「藤丸さん!今回の特異点も頑張りましょうね!」
デミサーヴァントであるマシュ・キリエライトに会ってしまった。最初の頃こそ、先輩と呼んでくれていたのだが、いつの頃からか名字呼びになってしまっていた。まぁ俺が尊敬できるような人間かと訊かれたら別にそうでもないというのは自覚しているので、仕方ないと言えば仕方がない。
「ああ」
そこから管制室につくまで、マシュにたくさん話しかけられていた気がするが、不毛な会話には特に用は無いので、全て生返事で返していた。だから先輩と呼ばれなくなるのだろう。何かしらの有意義な結論に至る会話なら大歓迎だが、マシュとの日常会話にはそのような結論は存在しない。
長いエレベーターを降りて、管制室の前に到着する。
「ドクターおはようございます。今回の特異点は古代エジプトだと聞きました。」
「おはようマシュ。そうだね。今回はエジプトに行くことになる。だけど君達が知る砂だらけのエジプトじゃなくて、ナイル川の恵みによる、緑豊かな土地だ。」
それはそうだろう。大河の周辺だからといってそこが砂漠だったら文明など誕生しないだろう。
「ドクター、そういえばダ・ヴィンチちゃんは何処にいらっしゃるのですか?」
「ああレオナルドはあまりにも異常な特異点だってことで、解析にかかりっきりだ。」
「そうですか…少し寂しいですね…」
「フォウフォーウ!」
「そうでした。フォウさんがいましたね。」
マシュはそう言って、あまり好きになれない得たいの知れない動物を抱え上げると、頬擦りをした。俺はそれらのやり取りを少しウンザリした気持ちで見ながら、管制室の扉が開いた音を聞いた。
「サーヴァントも集まった。そろそろレイシフトをしないかドクター。」
「ん。それもそうだね。じゃあ行こうか。」
後ろをちらりと見て自らのサーヴァントを確認する。そこにはマシュを除き、5人のサーヴァントが立っていた。
シュヴァリエ・デオン、ヘクトール、アーラシュ、ビリー・ザ・キッド、アサシンのエミヤ、それぞれがそれぞれの表情で此方を見ている。俺に召喚された約50の英霊の内の殆どが、俺に失望して退去してしまった今、この5人の英霊は大切にしなければいけない。何故まだ着いてきてくれるのかはわからないが、立ち去っていかないだけでもかなり心強い。
「今回もよろしく」
「今更何さ」
デオンが笑う。
「おうおう、オジサンは適度に休ませてくれよな」
ヘクトールは面倒そうに笑う。
「任しとけ藤丸」
アーラシュが拳を突き出す。
「ま、今回も適当に使ってよ」
ビリーは口笛を吹く。
「…では早いとこ行こう」
エミヤがフードを被って促してくる。
俺は黙って頷き、マシュに目線を送ってコフィンに入る。少ししてレイシフト開始のアナウンスが聞こえてくる。
胸騒ぎがする。今回も酷く辛い戦いになりそうだと、心の何処かで何かが呼び掛けてくる。俺は恐れを呼び起こすその声を黙って無視する。誰も味方を死なせはしない。俺は拳を握りしめて、粒子化していった。