ストライク・ザ・ブラッド―真祖の守護者― 作:光と闇
雪菜は悪夢にうなされていた。原因は、レイの口から告げられた〝彼女〟というキーワードによるものだった。
†
「………?ここは?」
雪菜は何もない真っ暗な―――虚無の空間にいた。
雪菜は、なんでわたしはこんなところに?と疑問に思いながらも、果てしなく続く漆黒の空間を歩き始めた。
………あれからどれくらい歩いたのだろうか。時間の感覚などなく、雪菜はただひたすらこの終わりが見えない闇の中、前に歩みを進めていく。
すると、不意に雪菜の目の前に闇を貫く一筋の光が射した。雪菜はその光を追い求めるかのように、我を忘れて駆け出していた。
「………っ!」
だが、雪菜は幾ら走ってもその光の下へは辿り着くことができなかった。
次第に疲れていき、遂に走れなくなった雪菜は、その場で立ち止まり、遠ざかっていく光を呆然と眺めた。
すると、そんな彼女の肩をポンと誰かが後ろから優しく叩いてきて、
―――雪菜。
「………え!?」
その懐かしい声に雪菜は驚愕の表情を見せた。そして、その表情のまま振り返ると其処には―――〝彼女〟が優しげな表情で立っていた。
「………!!〝――〟様ッ!?」
雪菜が〝彼女〟の名前を呼ぶと、〝彼女〟はニコリと微笑み雪菜の頭を優しく撫でてきた。
雪菜は〝彼女〟の優しく、温かな手に撫でられて、とても嬉しそうな笑みを浮かべ瞳を細めた。
………会えた。もう二度と会えないと思っていた、〝――〟様にまた会えた………!あの時、伝えられなかった言葉を、お礼を言おう。それから、〝彼女〟と色々な話をして―――
雪菜はそんなことを考えながら、まず〝彼女〟に触れようとした。が、
「………え?」
雪菜の手は〝彼女〟に触れることができず、空を切る。
―――ッ!?どうして!?〝――〟様はわたしに触れられるのに、わたしは〝――〟様に触れられないの!?
理解できない、というような表情で〝彼女〟を見つめる雪菜。しかし、雪菜は気づいてしまった。〝彼女〟の身体が消えかかっているということに。
「〝――〟様!?そんな―――!嫌っ!消えないでください………ッ!」
雪菜は必死に手を伸ばして、身体が消えかかっている〝彼女〟を強く抱き締めようとする。このまま〝彼女〟が消えてしまわぬように。が、その行為は虚しく雪菜の身体は〝彼女〟をすり抜けて、前に倒れてしまった。
―――そんな、〝――〟様ッ!!お願いですから、わたしの前から、消えないで………!
〝彼女〟が光の粒子へと変化していくなか、雪菜は必死に、『消えないで!』と強く願った。
そんな雪菜の想いに気づいたように、〝彼女〟は優しく笑って告げた。
―――大丈夫よ、雪菜。きっとまた、直ぐに会えるから。
「………え?」
〝彼女〟の意味深な言葉に、雪菜はきょとんとした表情で見上げた。すると突如、光が闇を照らし出したかと思ったら、〝彼女〟の頭上に神々しい黄金を全身に纏った少女が舞い降りてきた。
その少女の背には、純白の美しい翼があり、頭上には光の輪が浮かんでいる。
―――!?彼女はまさか………〝神の御使い〟………本物の天使!?
雪菜が驚いている間に、その天使の少女は〝彼女〟の下へと舞い降りると、〝彼女〟の手を取り、翼を羽ばたかせて天へと導いていく。
「―――ッ!?や、やめてください!〝――〟様を、連れていかないで………!」
雪菜は懇願し、天使の少女が天に連れていこうとする〝彼女〟へと手を伸ばす。が、天使の少女に引かれて天へと昇っていく〝彼女〟には、雪菜の手は届かない。
届かない………けど、雪菜の必死な想いが伝わったのか、天使の少女はふと上空に留まると、雪菜を見下ろしてきた。
「―――――ぇ?」
雪菜は、一瞬時が止まったかのように身体が動かなくなった。
雪菜の見た天使の少女。その容姿を見て、雪菜の血の気が引いていく。
黄金の輝きを纏った少女の髪は
その天使の少女の正体は紛れもなく雪菜の知っている………
「どうして………どうして、あなたが………!?」
「……………」
しかし、雪菜の質問に白い天使の少女は答えない。代わりに、声にならない言葉を、唇が紡いだ。
―――ごめんなさい、と。
白い天使の少女は、何処か悲し気な表情で雪菜にそれだけを伝えると、〝彼女〟と共に天へと昇っていってしまった。
そして、光を失ったこの空間を、再び闇が黒に染めていく。その純黒の空間にただ一人、取り残された雪菜は涙を流しながらポツリと呟いた。
「……………どうしてなんですか………
雪菜の悪夢は其処で終わりを告げて、新しい朝を迎えたのだった。
レイが『―――』した〝彼女〟を天に導く―――というシーンですが、雪菜視点だと、レイが〝彼女〟を連れ去ろうとしているんですよね。だから雪菜がレイの行為に、どうして?と思ってしまっているわけです。