ストライク・ザ・ブラッド―真祖の守護者― 作:光と闇
ネタバレ上等な方だけお進みください。
古城は夢を見た。それは余りにも現実味のある―――古城がかつて経験したことのあるような夢。
「おまえの………勝ちだ………」
黒髪の少女は満足げにそう呟き、眠るように目を閉じた。
脱力した黒髪少女の身体を支えて、金髪の少女が古城を見た。その少女の唇は黒髪少女の血で濡れている。
「〝――〟か」
青白く輝く金髪の少女の瞳を睨んで古城が訊くと、驚いたように目を瞬かせ、少女は首を振った。
「や、約束を果たそう………」
少しだけ誇らしげにそう呟いて、金髪少女は黒髪少女を地面に横たえる。
「〝――〟と融合したんだな………『―――――』」
「……………」
古城の問いかけに、金髪少女は沈黙で答えた。
そうか、と古城はクロスボウを下ろして、彼女の方へ一歩踏み出す。
金髪少女は無言で後ずさり、自分の足元を見た。其処には―――血塗れの白髪の少女が倒れ伏していた。
「『―――』は無事………?」
金髪少女は瀕死の白髪少女を心配そうに見下ろす。古城は、さあな、と首を振り目を伏せる。
古城達は、この白髪少女とはついさっきまで闘っていた。そして死闘の末、彼女を倒すことに成功した。
―――いや。本当は彼女は倒されることを望んでいたのかもしれない。そう思えたのは、彼女が古城を殺せなかったからだ。
〝――〟に絶対に逆らえないはずの彼女が、古城にトドメを刺そうとした瞬間、涙を流し殺すのを躊躇ったのだ。
その僅かに出来た隙に、『―――――』が氷の槍で彼女の胸を貫き、彼女を倒した。………そして今に至る。
「……『―――』………っ」
金髪少女は、白髪少女を刺してしまったことを酷く後悔していた。幾ら古城を助ける為とはいえ、白髪少女もまた、自分達の仲間だった。それなのにこんな形でしか彼女を止めることが出来なくて堪らなく悲しいのだ。
そんな金髪少女に古城は歩み寄って、彼女の頭に手を乗せて優しく撫でる。
「大丈夫だ、『―――――』。『―――』がおまえを恨んだりはしないよ。あいつだって、これ以上仲間を傷つけたくなかったはずだ。だから止めてくれたことに感謝してると思う」
「………古城」
古城の言葉に、金髪少女はほんのりと頬を赤らめて頷く。もしそうなら、彼女が許してくれるのなら、これで心置き無く眠りに就ける。
そう思い、金髪少女は古城から離れようとした。が、古城はさせまいと彼女の手首を掴み、
「………また眠りにつくつもりなんだろ」
「………っ!」
金髪少女が驚いて唇を噛む。古城は、やはりな、と予感が的中して表情を曇らせる。
だが、直ぐに古城は優しい笑みを浮かべて告げた。
「つき合ってやるよ。おまえから目を離すのは、不安だからな」
「………古城?」
「次に目が覚めたとき、俺がいないと困るだろ。服のボタンを留めるときどうするんだよ」
冗談めかして笑いかける古城。そんな彼を金髪少女は泣き出しそうな表情で見上げた。
そして金髪少女は古城の手元に視線を落とし、不意に柔らかく笑う。真っ直ぐに古城を見返した彼女は、覚悟を決めて口を開いた。
「………我は、汝の望みを叶えた………次は………次は、古城の番………」
「え?」
金髪少女の不可解な言葉に、古城は不意に恐怖した。
そんな古城の右腕が、意思に反してゆっくりと持ち上がる。その手には真祖殺しの聖槍―――第四真祖を滅ぼし得る銀色の杭が装填済みのクロスボウが握られており、それが金髪少女の心臓へと向けられる。
「『―――――』!?」
金髪少女の輝く瞳を見て、古城は何が起きているのか理解する。自分は彼女の―――第四真祖の血の従者。その主人たる彼女が古城の操り〝自分を撃て〟と命令している。
「やめろ………!やめろ、『―――――』!」
古城は必死に抵抗する。が身体が言うことを聞かない。血の呪縛に逆らえないのだ。
「兵器として造られた〝呪われた魂〟は、我とともに、ここで消える………だが………」
金髪少女が動けない古城の首筋へと牙を突き立てる。
「第四真祖の力のすべては汝に託そう。受け取れ」
「やめろ、『―――――』っ!」
古城の血をちらりと舐め取って、金髪少女は泣き笑いのような表情を浮かべ、そっと目を閉じる。古城の指が彼女の意思に導かれるまま引き金にかかる。
「古城………」
金髪少女の唇が、最後に言葉を紡ごうとした―――その刹那。
「―――そうはさせませんよ、『―――――』」
「………!?」
金髪少女はハッとして声の主に振り返る。すると其処には―――瀕死の白髪少女が立っていた。全身から銀水晶のように輝く魔力を放出しながら。
「『―――』!?」
「『―――』………!」
古城と金髪少女は驚愕の声と共に、白髪少女の名前を叫んだ。
そして古城は直ぐに気づいた。自分の身体が動かなくなっていることに。
白髪少女が、金髪少女の支配を上書きして古城の身体を制止させているのだ。
その白髪少女は柔らかく微笑み、ゆっくりと金髪少女の方へ歩み寄る。
「貴女が〝――〟と、私の『――』と共に死を選ぶことは、断固許しません」
「『―――』………っ。だが我が身に、〝呪われた魂〟を受け入れた以上、我には滅びの道しか非ず」
金髪少女は、他に方法がないと、こうするしかないと哀しげな表情で言う。
そんな彼女を見た白髪少女は、平気ですよ、と笑いかけ、
「私に任せてください。私が貴女を―――解放します」
「解、放………?」
「はい。『―――――』。貴女が〝――〟を背負うのは重すぎます。だから私が貴女を蝕む残酷な運命を―――断ち切ろう!」
「………!?」
「え!?」
金髪少女と古城は驚愕に瞳を見開く。白髪少女の背中から
その翼は六対十二枚。〝――〟が背に生やした三対六枚の倍だ。それを意味するのはたった一つ。
白髪少女は―――第四真祖の眷獣を十二体、即ち全ての眷獣を従える権限を有しているのだった。
「―――違いますよ、古城。私は『―――――』達とは違い、この身に眷獣は一体も宿していません」
「え?」
「私の中にあるのは『――』の、〝――〟の『――』のみ。そして私が扱えるのは―――第四真祖の眷獣の
白髪少女の言葉を聞いて、古城と金髪少女はハッと思い出す。
確かに自分達と戦った彼女は、眷獣を一切召喚しなかった。それは召喚しないのではなく、召喚出来ないからだったのだ。
眷獣を使役出来ず、傷も癒えない彼女は、もはや吸血鬼とは言わない。
〝――〟の『――』が与えられ、眷獣の能力のみを行使出来る特異な人形―――それが彼女の正体だった。
白髪少女は、古城と金髪少女を見つめ、微笑んだ。
「話はこれでお仕舞いです。では『―――――』、目を閉じて」
「う、承った………!」
金髪少女は頷き目を閉じた。身動きが取れない古城は、そんな彼女をただ見守る。
白髪少女は、金髪少女が目を閉じていることを確認すると、右腕を掲げて告げた。
「………
その刹那、白髪少女の全身を包む銀水晶の魔力の輝きは、虹のような輝きに変わる。
掲げていた右手の中に現れたのは―――光り輝く黄金の長剣。
それを見た古城は嫌な予感がして思わず叫んだ。
「ま、待てよ『―――』!その剣で、『―――――』を斬るつもりか!?」
だが白髪少女は、大丈夫、と古城に伝えると、金髪少女に光剣を振り下ろした。
「やめろ。やめろ、『―――』!『―――――』―――っ!!」
古城の悲痛の叫びも虚しく、白髪少女の持つ光剣が、金髪少女を斬り下ろした。
其処で古城の夢は途切れ、新しい朝を迎えた。