インフィニット・ストラトス~職場体験の事情~   作:あるまⅡ

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「今日はもう遅いね、よし泊まろう」

 みっちゃん先生が布団を持ってきた直後、現時刻を知った束さんの発言は教室に静寂と喧騒を同時に巻き起こした。

「いきなり何を言ってるんですか、束さん!」

「いや、だって遅いじゃん? 束さんもう疲れちゃったよ、運転したくないー」

 運転? そうだ、曲がりなりにもこの人の運転でここに来たことを失念していた。成程、この人の意向によって全てが決まるというのか、最初からこの人の計算の中、さすがは篠ノ之束。天災という言葉は嘘ではないのか……いや天才か。それにしてもどうやって免許を取ったのか疑問だ。この人なら実技の最初から溝落ちカーブくらいなら決め講習所を追い出されていてもおかしくはないだろう。……別に技術とかそういうんではなくただ単純に馬鹿さ加減からして。さらに馬鹿を追求するならば『溝がない? 無いなら掘るまでよ!』とかも言ってそうだ。

「成程、泊まりか……」

 そう、俺が思考を無駄に巡らせているとラウラの呟きが耳に入った。

「どうした、ラウラ? そんな難しい顔して」

 ラウラは右手を顎にあてるようにして何かを考えていた。

「いや……な」

 若干言葉に詰まるように次の言葉を発する。

「泊まる場合の部屋割りは、どうなるのかと思ってな」

 瞬間、場に緊張が走った……ような気がした。

「た、束さん! そういう時は無理しなくていいですよ。疲れているなら休む。それが人間です。真実です。ですから泊まりましょう。一夏なら任せてください」

 ラウラの発言の後、シャルが怒涛の勢いで束さんに詰め寄る。人間の反射を超えているんじゃないか? という錯覚さえ覚える。

「びっくりした、すごくびっくりした。金髪ちゃん落ち着こう、ホントに落ち着こう。大丈夫、私は逃げない。ここにいる」

 束さんも完全に虚をつかれたという様子で発言がしどろもどろになっている。追記でいうのならば周りもである。

「そうですね、深呼吸させてもらいます」

 そう言うとスーハー、スーハーと息を大きく吸う。

「では、言わせてもらいます。ボクは一夏と同じ部屋でいいんですよね?」

「ごめん、お姉さん、君の言っていることが何一つ理解できないよ」

 シャルは混乱していた。束さんも理解が追いつかない程に。

「シャルロット、いきなり何を言い出しているんだ? もう一回落ち着こう。それと一夏は私の嫁なので部屋は私と一緒だ」

 ラウラもラウラで混乱していた。

「まあ、落ち着こうよ二人共。大丈夫、部屋は皆一緒」

 束さんは落ち着くように二人に言いきかすと爆弾発言する。

「いやいや、束さん? それはまずいですよ!」

 俺は必死になり反対する。それも当然だ、こんなに美少女だらけの部屋で一緒に寝るなんて自殺行為にも等しい。確実に理性との戦争が勃発する。使う兵力は睡眠時間だ。シャレにならない。

しかも誤解を生む何らかの行動一つで理性の前に命が飛びかける。これはただの拷問だ。

「まずいって大丈夫だよ」

 束さんは必死な俺とは対象的に涼しい顔で言う。

「だってこの子達と一緒なんだよ? そんないっくんの日常生活みたいにはならないよ」

 俺の日常生活という部分にだけは引っかかりを覚えたが、確かにこの子達と同じ部屋というのなら安心だ。それならばISを出しての命のやりとりもないだろうし、危険な物(銃や剣)を出されることもない。

「そうですね……なら大丈夫なのかもしれません」

 渋々了承する。

「よし、解決! 喜べ、子供達よ! 今日はお兄さんとお姉さん達と朝まで遊べるぞ!」

 束さんがそう言うと、子供達は喜々として声を上げる。

「やたー、一夏先生と一緒だ! わー」

 オリヴィアはこちらが嬉しくなってくるように好意を向けて喜んでくれている。その証拠とでもいうのにぎゅーと抱きついてくる。

「ありがとうね。えーと、オリヴィア」

「うん!」

 なんだろうか、この感覚は? 最初に抱きつかれた時は戸惑っていたのであまり感じなかったのだが今なら解る。子供可愛い。親の気持ちが解りかけてくる。

「一夏先生ー、オリヴィアばっかりでずるいー」

 そう聞こえる方に目を向ければそこにはアンネの姿があった。

「どうしたのアンネ?」

「二人共凄く仲いいんだもん、なんか飛び込みにくい」

 アンネはそう言うと後ろに手を組み、石でも蹴るように足を前へ出している。ついでに口も尖らせている。拗ねている動作だ。

「おいで」

 俺はそういうと手を差し出す。

「でもぉ」

 アンネは多少渋るような顔をする。

「俺は……アンネとも仲良くしたいな」

「一夏先生ー!」

 アンネは叫ぶようにいうとオリヴィアと同じように俺に抱きついてきた。これはいけない。やはり子供、可愛すぎる。

「なあ、シャル」

 俺はシャルに意見の同意を求めるように言う。

「子供、可愛すぎる……天職かもしれない」

 真面目にそう思ってしまった。最初ここに来たときは、どうなるのかと思った。地雷原かとも思った。しかしここに気がつく布石だったというのならばそれも良かった。ここは良い。我、聖地を見つけた也。

「ねえ、一夏ってもしかしてロリコン?」

 ロリコン? それは俗に言う幼女性愛者というやつだろうか。それはない。この気持ちはまさしくプア。

「多分これは違う。父性というやつだと思う。そんな気持ちで見れる奴がいたとしたら俺は全身全霊をもって雪片で対峙する」

「そっかー、真面目に言われるとなんか怒る気もなくなっちゃうな」

 シャルはそういうと呆れるように手をランゲージする。……何故、呆れるのか。

「まあ……いっくんもロリコンへの第一歩を踏み出したところでご飯の準備をしようね」

 束さんはいきなり話に割り、そんなことをいう。

「そうですね、束さん。ご飯食べて今の一夏を忘れましょう」

 この時の二人の息は驚く程ぴったしだった。何がそうさせたのか。この疑問は生涯解けることはないだろう。

「じゃあ、お弁当買ってきたから、皆で食堂に行こう」

 今まで、傍観していたみっちゃん先生は話がまとまるな颯爽と弁当を掲げ皆を誘導する。

「あれ、みっちゃん? いつのまにお弁当買ってきてくれたの?」

 道中、束さんが素直に質問をする。確かにこれは疑問である。いつのまに買ってきてくれたのか……恐らく皆も同じ意見だろう。

「ああ、束が泊まるって言い出した辺りからかな」

「さすが、みっちゃん! やるねー」

 束さんはグッと親指を立てて笑顔をみっちゃん先生に送る。

「まあ、このくらい出来ないとこの娘とは付き合っていけないからね」

 すごすぎる。さすがは束さんと長いこと付き合ってきたお方だ。人間のレベルが違う。

「着いたよ」

 そうみっちゃん先生が言うとそこは教室の隣の何もない壁だった。

「みっちゃん先生? ここ壁ですよね」

「そうだね、壁。今はね」

 そうみっちゃん先生は言い、束さんに目配せをする。そうすると、束さんは『ほいさー!』と言う締まらない声と共に何もない壁に手を触れる。

 次の瞬間、壁は幾つものサイコロ状に別れ、集まり、今度は一つの手のひら大のブロックになる。そのブロックを束さんは手に取るとみっちゃん先生に変わり皆を誘導する。そして誘導し、皆が部屋に入ったことを確認すると、今度はブロックを空いた入口にかざすと再びその空間は壁になった。

「ささ、ここが食堂だよー」

 そう通された空間はどこにでもあるありふれた食堂そのものだった。しかし……

「食堂なのはいいですけど、何ですか今のギミックは!」

 俺は驚き、当然とも言える反応をする。

「面白いでしょー! コンセプトは持ち運べるドア! 誰も想像できない、うん、やっぱ私は天才だ」

 束さんは壁がひとつに収まったとも言えるブロックを俺に見せながらそう言う。確かに想像は出来ない。常人ならまず作ろうとも思わないだろう。確かに凄いには凄い。しかし俺はそんなことよりも言いたい事があった。

「でも、意味がないですよね」

「……え?」

 束さんはきょとんと小首をかしげる。

「だから意味なくないですか、そんなもの? めんどくさいだけで」

「めんどくさくないよっ」

「いや、確かに誰も想像できないところに隠れられる、ということは良いんですが、食堂にやる意味はないですし、そもそもそのブロックを無くしたらどうするんですか?」

「え、それは……考えてもいなかった」

「さすがすぎます」

 俺は一言そう洩らす。

「まあ、その辺はまた直しとくとして、私はお茶を入れるね。出しちゃうよー、飛び切りの茶葉を!」

 束さんは話をごまかすかのように、厨房に消える。

「なんなんですか、あの人は」

 一言、呟く。

「まあ、あの娘はほぼ思いつきて行動するから、仕方がないんだ」

 みっちゃん先生が悟るように言う。

「そうですね」

 俺は納得し、頷く。

「といいますか、束さんってお茶とかって入れられるんですか?」

 そしてふと、気になったことを聞く。

「無理なんじゃないかな……少なくとも入れているところは見たことがないな」

 予想通りであった。

「じゃあ、私は束の様子を見てくるから、皆はそこのテーブルに座ってて」

 そういうとみっちゃん先生はテーブルにお弁当を置くと束さんを追い、厨房に消えていった。

「さて、弁当並べて俺たちは待ってようぜ」

 特にすることもなさそうだったので二人を待とうと椅子に座る。すると……

「じゃあ、私はここー」

 と、アンネが俺の右隣に座る。

「あー!、ず、ずるい!」

 今度はオリヴィアが左に座る。

 困ったなー、と全く困ってない笑みを俺は浮かべる。しかしその笑みとは対照的にシャルとラウラの目は拗ねるように俺を見ていた。

「わかってはいるけど、やっぱり嫉妬しちゃう」

「まったくだ」

「二人共どうしたんだ? ずっと立って」

 何故、二人共その場から動かないのか疑問に思い、声をかける。

『……鈍感』

 二人から同時に鈍感と呟かれる。

「?」

 二人の言葉に疑問を持ったところで、二人が厨房から帰ってくる。

「皆、お茶ですよー。しかも玉露!」

「ちょっと待たせてしまったかな? いやー束が……」

 みっちゃん先生は何かに気付いたのか言葉を途中で切る。

 そして新たに言葉を発する。

「まさか、また修羅場?」 

「違いますよ!」

 俺は修羅場を否定する。そう何度も修羅場になっていたらたまらない。

「みっちゃん、修羅場であってるよー」

 アンネがイタズラっぽくそう言う。

「ア、アンネちゃん!?」

 オリヴィアが驚きの声をあげる。

「うむ、修羅場か……」

「だから、違いますって」

 もうこうなってしまっては……と、半ば諦めるように否定する。

「さあ、ご飯食べましょう! 皆さん、ねえ!」

 間違いを正すことは諦めるしかない。

 ならば、話を変えることにしようと俺は強引に話の切り替えを計る。

 先程の束さんが話をごまかした理由が少し解った気がした。

 

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