アニメ2話後半の話になります。
毎度のごとく、アニメのネタバレを含むことにご注意ください。
俺が盛大にリバースし、梨子ちゃんが無事に『海の音』を聞けた翌日。
梨子ちゃんは作曲係を正式に受けてくれたらしい。
とはいえ、スクールアイドルをやるというわけではないようだ。
そんな報告を、千歌ちゃん、曜ちゃん、梨子ちゃんで持ってきてくれた。
「作曲、受けてくれたんだね」
「ええ。今ならピアノ、少しは弾けそうだから」
「そうかい。それはよかった」
「でもね、まだ問題があるの」
「問題?メンバーかい?」
「それも問題だけどね…それ以上に」
「私、作曲するときはあらかじめある詞をもとにするの…だから」
「なるほど。歌詞…かい」
歌の次は詞。
そりゃそうだ。
「まあそこは、3人で協力してやるしかないんじゃないかい?」
「ええまあ。それで、3人で集まれる場所に行こうってなったんだけど」
「それならここがいいでしょ?もしくは私のうち」
「その心は?」
「ご飯出てくるし、最悪バス逃しても送ってくれるし!」
「お帰りはあちらだよ」
「ひどい!」
うちで作詞をするのは構わない。
頼りにされるというのは悪くないのだし。
でも千歌ちゃんのは、頼りにするというよりは当てにされている気がする。
「ハルくん…私からも、ダメ?」
「えと…ごめんなさい、私からも」
梨子ちゃんは言わずもがなだが、曜ちゃんもわりと常識人だ。
長年千歌ちゃんに付き合っているだけある。
だからこそ、常識人2人のお願いというのは断りづらい。
「はあ…。やるなら奥の和室でね。あと、あまり騒ぎすぎないように」
「「やったー!」」
そのまま2人は奥へ行ってしまった。
しまった。
何時までやるのかくらいは聞くべきだったな。
「ふふ。なんだかんだ言って、優しいのね」
「俺はもともと優しいんだよ。あ、何時までいるかは決めてるかい?」
「いえ、特には。できるまではいると思うわ」
「…ちなみに、作詞って普通はどれくらい時間がかかるんだい?」
「人によってだいぶ違うけど…3時間くらいは見積もった方がいいと思う」
「はあ…わかった。頑張ってくれ」
晩ご飯、今日は4人分作るかな。
材料あったっけか。
※
ハルさんに許可をもらったので、3人で詞を考える。
チカちゃんはどうやら、恋をテーマにした詞を作りたいらしい。
しかし、大分難航していた。
「やっぱり、恋の歌は難しいんじゃない?」
「いや!μ'sのスノハレみたいな曲作りたいもん!」
「そうは言っても…チカちゃん、恋愛経験は?」
「うえっ!?いや…あるにはあるけど…」
ああそうだった。
「ハルさんでしょ?」
「えええ!ち、ちがっ、いや、ちがくないけど!」
「見てれば誰だってわかるわよ。…例外を除いて」
「あー…ハルくん鈍感だもんねー。…私のアピールも、全く気づいてくれないし」
「曜ちゃんも好きなの?」
「え?あー…あはは」
曜ちゃんもだったとは初耳だった。
とはいえ、思い返せば確かにその通りと思えることは多々あった気がする。
「梨子ちゃんは!?」
「そうだねー。1人だけ内緒はずるいよねー」
「え?私?」
私は…
これまでずっとピアノ一筋でやってきたから。
恋愛なんて一度も…。
『制服、ここのじゃないようだけど…どこの高校だったかな』
『君みたいな美少女を放っておけないよ』
『変われるさ、梨子ちゃんなら』
「…ハル、さん」
つい、口をついた言葉だった。
何も考えずに、言ってしまった。
しまった、と思ったけど。
こういうとき、恋する乙女は鋭いもので。
「「ハルくん!?」」
「な、なな、なんですと…!」
「ま、まさかの、ライバル出現…!」
「い、いや、違うの!そういう意味じゃなくて!ほら私、ずっとピアノ一筋だったから、そもそもまともな交流ある男の人ってハルさんくらいだなーって!」
「「私たちと同じじゃん!」」
「だからそうじゃなくてー!」
「おーい、ちょっとやかましいよ。もう少しボリュームを下げてだね」
「「「うわああああー!!!」」」
「…たった今ボリュームを下げろと言っただろう…」
そう、多分違うはず。
まだあって日も浅いのに。
恋なんて、してるはずないよ。
その後、ハルさんが作ってくれたカレーライスをいただき、私たちは作詞の続きに取り掛かっていた。
テーマが恋と知ったハルさんは、とても驚いていた。
『千歌ちゃんたちが恋…そうか、千歌ちゃんたちには縁がないものだと思っていたけど、誰か好きな人でもいるのかい?』
『ああ…うん、一応ね』
『私も…一応』
『そうかそうか。今度、どういう男か教えて欲しいね』
『『鈍感でセクハラ発言する最低野郎』』
『…とんでもないのを好きになったね、君たち』
そんな会話をしていた。
さすがに、チカちゃんと曜ちゃんがかわいそうだった。
『で、でもそれじゃあその男をテーマに詞を書くのは難しそうだね。うーん…そうだな、千歌ちゃん』
『…ん?なに?』
『なんでそんな冷たい目線をしているのかはこの際後回しにしよう。スクールアイドルに対して、ドキドキする気持ちとかはないかい?』
『スクールアイドルに対して?』
『そう。それで詞は書けないかい?』
それを聞いて、チカちゃんはハッとした表情をしていた。
『書ける!書けるよ!』
そして、今に至るのだ。
チカちゃんは人が変わったように、すごい勢いで詞を書いている。
海で語ってくれた、チカちゃんが思うスクールアイドル。
本当に、心の底からスクールアイドルが好きんだろう。
その気持ちを、溢れんばかりに紙に書き連ねている。
「千歌ちゃん、すごい勢いだね」
「ええ。これなら大丈夫そう」
曜ちゃんとも、そんな会話をする。
ふとコップを見たら、3人とも飲み物が空になっていることに気づく。
「私、お茶取ってくるね」
「あ、手伝おっか?」
「んん。大丈夫。チカちゃん、手伝ってあげて」
ハルさんから教えてもらったように、冷蔵庫からお茶を取り出す。
一応お客さんにも出せるようにと、良い葉を使っているらしい。
「おや、休憩かな?」
お茶をコップに注いでいると、ハルさんがやってきた。
手には、空のコップが握られている。
「まだお茶はあるかい?」
「ええ、まだ足りると思うわ」
お茶を汲みながら、少しだけハルさんと話をする。
「作詞、順調かい?」
「ええ。チカちゃん、すごいわ。スクールアイドル、本当に大好きなのね」
「ああ。そうだね。梨子ちゃん、パソコンかスマホは持っているかい?」
「え?そりゃ、持ってるけど」
「そうかい。じゃあこれ、よかったら家ででも聞いてみると良い」
そういってハルさんが渡してくれたのは、一枚のメモ。
書かれているのは、歌詞?
メモ帳の一番上には、『ユメノトビラ』と書かれていた。
「これは?」
「千歌ちゃんが、俺に最初に持ってきてくれたμ'sの歌だよ。そうやって、わざわざ歌詞を書いてくれたんだ」
「歌詞を?どうして?」
「さあね。それは俺にも全くわからないけど。あの子なりに、スクールアイドルの魅力を伝えようとしたのかもしれない」
そういって微笑むハルさんの表情は、とても優しかった。
『ユメノトビラ』
夢の、扉。
「基本的には、俺はこういうことはあまり言わないんだけどね。それでも、ここは言わせてもらうよ」
表情を引き締め、ハルさんは言った。
「スクールアイドル、やってみないかい?今の君には、きっとプラスになるはずだよ」
※
「ハルくんハルくーん!!」
『バッタアーン!』
ものすごい音とともに入ってきた千歌ちゃん。
お客の来店を知らせるベルが、もうこれでもかってくらい暴れる。
扉が壊れたらどうするんだい。
「どうしたんだい、騒々しいね?」
「梨子ちゃんが!梨子ちゃんがー!」
「うん、梨子ちゃんが?」
「スクールアイドル、やってくれるって!」
お!
ほうほう。
「そうかいそうかい。それはよかったじゃないか」
「うん!」
俺が言った時には、保留にしていた梨子ちゃん。
きっと、昨日の夜何かあったんだろう。
多分、心を動かしたのは…
「千歌ちゃん、膝にあざができてるじゃないか。一体何をしたんだい」
「え?うわー!」
「鉄棒の上に正座でもしてたのかい?」
「違うよ!手すりの上に乗ってただけ!」
「いや、ほんとに何してるのさ」
心を動かしたのは。
きっと。
スクールアイドルだ。
ご視聴ありがとうございます。
梨子ちゃんが正式に、Aqoursのメンバーになりました。
何かありましたら、お願いします。