Aqoursと沼津市の布屋さん   作:春夏秋冬2017

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はじめましてこんにちは
アニメ8話の前半になります。
先にそちらのご視聴をお願いします。


東京ライブ前日と布屋さん

『まだ起きてますか?』

 

そんなメッセージを俺のSNSが受信したのは今から3分ほど前のこと。

大してやることもないのでそろそろ寝ようかと考えていたところに、それはやってきた。

 

差出人は、梨子ちゃんだ。

 

『暇だから寝ようかと思ってたところだよ』

 

とりあえずそう返信する。

 

『少しだけ、時間ありませんか?』

 

そう返ってきた。

 

『いくらでもあるよ』

 

送ってから数秒後、携帯に着信。

梨子ちゃんからだ。

 

「はい、もしもし。淡屋です」

『ふふ。これ、私用の携帯だったんじゃないの?』

「どんなときでも商人の自覚をしていることが、売上向上の秘訣なんだ」

『成果は出ているのかしら?』

「成果が出るにはまだかかるらしいよ」

『それは残念だわ』

 

言いながら、笑っていることがわかる。

まさか皮肉を言うためだけに電話したわけではあるまい。

 

「なんか用だったかい?」

『いえ。特に用はないのだけど…なんか眠れなくて』

「そうかい。まあ明日が本番だからね。気持ちはわかるさ」

『ごめんなさい。寝るつもりだったんでしょ?』

「美少女との電話の方が睡眠より大事なんだ。問題ないね」

『…ふふ。ありがとう』

「そうは言っても、明日は体力を使うだろう。夜更かしも程々にね。寝れなくとも、横になっているだけで体力は回復できるから」

『うん。ご心配ありがとう』

 

わりといつも通りの梨子ちゃん。

まだ寝るつもりは無さそうだし、少しだけお話でもしようじゃないか。

 

「久しぶりの東京、どうだい?」

『うーん…特には変わってないかな』

「そうかい。みんな、はしゃいでいただろう?振り回されなかったかい?」

『そうね。でも、私もちょっと…』

「ん?なんて?」

『ああ、ちがうの。なんでもないわ』

「…?まあいいか」

 

そこで一つ、聞きたいことを思いつく。

聞いていいものか少し考えたが、とりあえずは聞いてみる。

 

「音乃木坂は、行ってきたかい?」

『…いいえ、行かなかったわ』

「そうか。てっきり、千歌ちゃんあたりは行きたいって言うと思ったけどね」

『ええ。言ってたわ。でも、私は留守番してるって言ったら、行かないことになっちゃった』

「…そうかい」

『悪いことしたわ』

「みんなはそんなこと思ってないさ。君がそんなに考えることじゃない」

 

むしろ、我慢して梨子ちゃんがついて行ったり、梨子ちゃんに一人留守番をさせる方が、千歌ちゃんとしては嫌だろう。

そういう気遣いは、あのメンバーはよくできるんだ。

 

『…私、中学の時はね、ピアノの全国大会出たことがあるの』

「それはすごいな」

『だからね、高校入る時は、結構期待されてたの』

「当然だね」

『でも結局、大会では上手くいかなくて』

「…ああ」

『期待に、応えられなかった』

 

それは、どんな気持ちなんだろうか。

普通の生活をしてきた俺には、きっと想像もできないプレッシャーなのだろう。

そういう世界を、この子は歩いてきたんだ。

 

「すごいね」

『…え?』

 

思わず出たような言葉だった。

 

「俺が君と同じ歳だったときは、いかにスカートの中を覗くかしか考えてなかったんだ」

『それはそれで問題じゃない?』

「なのに君は、すでに周りの人の期待に応えようとしている。すごいことさ」

『でも、応えられなかったわ』

「いいんだ、それは」

『…即答するのね』

「周囲の期待に100%応えられたら、そりゃあすごいけどね。そんな人間、どうせこの世にはほぼいないのさ」

 

梨子ちゃんから、反応はない。

でも、ちゃんと聞いてくれてることはわかる。

 

「だから、今は…ピアノが弾けるようになるまでは、期待のことなんて忘れてしまうといい。案外、そうしてたらまた弾けるようになるさ」

『そんなものなの?』

「ああ。そんなものさ。大人が言うんだ、信用できるだろう?」

『スカートの中を覗くことに、青春を費やした大人の言うことよね?』

「一つのことに全力を注いだんだ。立派なことだろう」

『ものは言いようね』

「言い方次第で印象を変える。大人の基本技能さ」

『ますます信用できなくなちゃうわよ?』

「おっと、それは困るね」

『ふふ。…ねえ』

「なんだい?」

 

『ありがとう』

 

不意打ちの言葉だった。

何かお礼を言われることをした覚えも全くなかったので尚更だ。

 

『ハルさん、照れてるでしょ』

「…ああ。一本取られたよ」

『ふふ』

 

まさか照れていることまで察知されるとは。

最近は梨子ちゃんにからかわれることも多くなったもんだ。

 

『そろそろ寝るわ。明日、お迎えよろしくね』

「ああ、頑張ってくれ」

『ええ。それじゃ』

 

まあ。

 

からかわれるだけで彼女が笑顔を見せてくれるというのなら

それも悪くはないだろう。

 

 

 

 

そろそろ、千歌ちゃんたちのライブが始まる頃か。

時計を見て、ふと思う。

 

彼女たちなら大丈夫だ。

そう思ってはいるのだが。

 

「時間の流れって、こんなに遅かったかな」

 

そんな言葉が、つい口をついてしまう。

 

2年前、俺のよく知るスクールアイドルたちも、東京でライブを行った。

そのときは…無事成功とは言えない結果だった。

 

その記憶が、今でも脳裏に焼き付いている。

あのときの、彼女たちの表情は今でも忘れられないのだ。

 

「…果南ちゃんあたりに、女々しい、なんて言われそうだ」

 

仕方ないので、気分を変えるためにお茶を汲む。

今日は、とてものどが渇く。

 

 

 

彼女たちの結果が届いたのは、それから結構経ってからだった。

その間、お客さんが来なかったのは幸か不幸か。

 

彼女たちは、ちゃんと歌えて、踊れたらしい。

それも、これまでで一番のクオリティだったそうだ。

 

きっちり、ベストを尽くした。

そういうメッセージが、アプリに届いていた。

 

そして。

その結果が、写真で送られていた。

 

得票数と、順位。

0票で、30組中30位。

 

それが、今の彼女たちの、ベストの結果だということ。

それが、現実だった。

 

 




ご視聴ありがとうございました。
ほとんど梨子ちゃんと話すだけでした。
8話、好きなんですが、やはり心が痛みます。
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